バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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強化合宿 ⑫

「……どうした、そんなにニヤついて」

「……あぁすまない、西村教諭。別に覗きを楽しみにしているわけじゃないんだ」

「ならば何だ?お前は召喚戦争が楽しいか?」

「楽しいねぇ、楽しいさ。自分でさえ想定しない未来を超えるのは」

 

 奴らの要求は呑んだ。

 なら次はそれを踏まえた能力、技術、戦術をオレに返還する時だ。

 

「お前がそこまで闘争心溢れる奴だったとはな。大人しく無気力なものと思っていたが、ここ最近驚かされてばかりだ」

「……2年生になって生まれ変わったんだ。今後はより高みを目指すつもりだ」

「高みを、か。なら少しは勉強するべきだな、Aクラス並になれば上位と誇って良い」

「……ま、それはいずれ……さて、そろそろ騒ぎが大きくなってきましたね」

 

 最下層にも届く争いの音。

 男どものキショい雄叫び、女どもの耳障りなヒステリー。

 何故争いとなるとうるさくなるんだろうな。将棋の様に静かに競え。

 音で弾圧するのもアリはアリだがんなもんに意味無いしな。

 

「あぁ……ちなみにですが、今日はおそらくほぼ全ての男子が作戦に参加しますよ」

「なぜそう言える?これまでも上位の真面目な生徒は騒ぎを知っていても参加していない。聡明な彼らはこの行いがどのような結果になるか想定できる。参加するのはバカだけだ」

「そうだな。結果を想定してするしないを決める。それができないのはバカだ……が、知性にはその結果が大きなリターンであれば確率が低くとも望みをかける習性もある。奴らにとってそのリターンは女子風呂の覗き。それを得られるのなら、その結果までの理論が必ずとは言わずとも通りそうなら、リスクを負う。リスクをリターンが大きく超える場合など尚更だ」

「そんなものか?ここで捕まれば今後の人生はただ犯罪者として見られるだけだ。それに耐えられん者も多くいるだろう」

「まぁ、それもその通り。けど西村教諭も男だろう?考えてみろ、この先無い高校の合宿、同学年の男子全員が力を合わせ、教師含む女子生徒を薙ぎ倒し、成人してからではより重罪に問われる未成年者の浴場を眺める様を。そしてその空気は何が何でもという熱がある。例えそれが覗きでなくとも、その集団の仲間になり死力を尽くせば、どれだけの充実感、達成感が得られるだろう。例え失敗しても、その瞬間は至上の喜びを感じるだろう。その後も2度と味わえない思い出となるだろう」

「……まぁ、言わんとするところは分かる。そうだな、そんな状況ならバカどもは止めない。上位クラスの者も熱にあてられるということか」

「その通り。熱は伝播し、冷静な思考を溶かす。そして熱源は無限だ。セイブツには抗えない方向性がある。それはまぁまた別のものだが……人類の雄である以上、この空気には、必ず呑まれる」

 

 人類なら誰もが持つ性欲。

 自分と同じ肩書きを持つものが何十と同じ目的を掲げ、数を増やしつつ3日。

 その熱は対岸に居ても届くほどだったはずだ。その熱をどこか、心地良い温かさと情熱として感じていたはずだ。そしてその情熱の向かう先は自分も望む物。

 対岸だからと眺めていた者もいざ自分の前に橋が架かれば、走り出す者も少なくないはずだ。そしてそれを見て後を追う。

 情熱さえあれば良い。灼熱の後、長い豪雨に見舞われようと、そこで踊る狂気は至高となる。

 

「そしてそれはこちらも同じ。その熱を尽く吸い上げるつもりだ」

「お前、時々だが、形容し難いテンションになるな」

「0か100かしかないからな。もう50を偽る必要も無い」

 

 ♢♢♢

 

「明久ぁ!3階はひとまず制圧だ!次行くぞぉ!」

「応!残党は任せたよ皆!」

「「「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 3階に配置された4人の教師の内3人を仕留め、残りの長谷川先生と女子生徒はF、Eクラス男子により殲滅作戦へ移行した。

 覗き首脳陣たる坂本、吉井、木下、土屋は余剰戦力と共に戦場を移動する。

 

『……サモン!』『サモン』『サモン!』

「この声は!」

「あぁ、Dクラスじゃねぇ!」

「…………やはりCクラス」

 

 2階へ降りた先には継続参加のDクラス、そして新規参加のCクラスが召喚し、戦いを繰り広げていた。

 

「よく来てくれたCDクラス!協力に感謝する!」

『ったりめぇだぁ!』

『女子風呂覗かなくて何のための男でぇっ!』

『てめぇらこそしくじったらブッ殺すぞぉっ!』

「ああ──上はもうすぐ完全制圧だ!ここはお前らに任せる!先の道は開いておく!」

「僕らの背中は皆に預けるよっ!」

「「「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

 

 2階の戦況は現状五分と言ったところ。

 しかし男子生徒の熱は止まらない。熱源たる首脳陣さえその熱に呑まれ、かつて無い高揚感に視界が白熱する。

 その熱に身を任せ、階段をさらに駆け降りる。

 ──あと少し、もう少し、もっと、もっと。

 目標に近付くにすれ、喉から出る声は大きく、力強く、階段だと言うのに姿勢は前へ前へと焦りを見せる。

 

「よし雄二!このままABクラスの力を持って一階も突破するよ!」

「あぁ!今の俺たちは誰にも止められねぇ!」

「待つのじゃ!階下の様子がおかしいぞい!」

「「「……!!!」」」

 

 見れば戦況は男子の劣勢。優位に立っていた上階に比べ、教師女子の戦力も厚いが、何よりは男子の内訳である。

 

「Aクラスがおらんようじゃな……久保にはこの空気でも通じんかったか」

「く……」

『……雄二。浮気は許さない』

『明久君、ここまでです』

「翔子……!」

「姫路さん……!」

 

 ♢♢♢

 

「やーはは、流石にこれじゃあ無理じゃない?代表さん」

「お前は黙ってろ!」

「あ……失敬失敬」

 

 地下への階段前に陣取るムチ使いの先生と、学年ツートップ、その他Aクラス女子を前に現状の戦力では不可能だろうと誰の目にも明らか。

 シオンに変装させられた私は最低限しか喋るなとのお達しで、それを破ったら怒鳴られた。

 何がそこまで怒らせるんだろう……?

 

「仕方ねぇ!明久!ムッツリーニ!根本を除くBクラス上位3人を使ってジェットストリームアタックを仕掛ける!目標は高橋先生だ!召喚フィールドを無効化すれば翔子たちは相手じゃない!」

「了解!いくよムッツリーニ!」

「…………必殺は任せろ!」

 他の奴らは戦闘範囲をサポートしろ!時間稼ぎでいい!」

 

 阿吽の呼吸で階段中部から飛び降りる3人。手頃なところで点数の高い男子生徒の胸ぐらを掴み上げ、中央に陣取るムチ使いへ投擲する。

 ──投擲?

 

「「「何してんだてめぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「なっ、何のつもりですか!?」

 

 狂気に侵された3人の突発的行動に投げられた3人と先生は当然仰天。

 

「してんだじゃねぇ!攻撃しろ!ブッ殺すぞ!」

「失敗したら君たちのせいだからな!」

「「「ああクソ!やってやるよ!!!」」」

 

 信じられない暴言と共に3方向から放たれる攻撃と男子高校生の弾。

 

「なんのっ!」

 

 Bクラス上位といえど所詮は常識の範囲内。非常識にあるムチはそれぞれを確実に撃ち仕留めた。

 そしてそれこそ、代表さんたちの狙いでもあった。

 

「捉えたぜ!高橋先生ぇぇぇぇぇぇ!」

「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「くっ!?坂本くん!吉井くん!」

 

 高橋洋子──総合──4379点

 

「く──しかしっ!」

「甘い!根本バリア!」

「き──貴様坂本!折角の協力者を盾に使うだと!?」

「「そしてくらえ!第二の攻撃!」」

「またっ……!?」

「「はっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 昂り続ける熱。

 2人の顔は狂気に笑っている。

 

 高橋洋子──総合──1753点

 

「く……こんな手に……!」

「「ひゃぁぁぁぁぁっはぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「く……!」

 

 高橋洋子──総合──0点

 

「高橋先生!」

「……雄二!」

「甘いよ姫路さん!もう終わりだ!」

「わりぃな翔子ぉ!テメェらはここで足止めだ!」

 

 フィールドを張っていた教師が敗北した事で召喚フィールドが消失、男子生徒の突撃を阻止する手段は無くなった。

 バカを筆頭に階下へ雪崩れ込んでいく。そして代表さんと僅かな戦力だけが階段を塞ぐ。

 

「お前も行け!俺たちはここを死守する!」

「……!?」

 

 残る私にも行けとの指示。

 私とシオンは同じ場所に置かない約束……私にシオンを攻略させる目論見なら既にシオンに見抜かれてる。それは不可能だ。

 

「……ムッツリーニの助けを頼む」

「……んー、了解」

 

 小声でやり取りし、意図を把握。

 代表さんの予想配置ならこの先体育教師とセクハラ女子がシオンまでの関門になる。

 なるほどね……カメラマンを素通りさせろってことね。なんて無茶。

 

「ちゃーお」

 

 無茶を承知で階下へ。

 それがシオンの次になるなら、私もそれを呑む。

 さぁ……この合宿最大の勝負だ。

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