「やぁムッツリーニくん、今日は流石に来れないんじゃないかと思ったよ」
「くっ……工藤さん、大島先生……!」
「…………」
最終段階手前、現れるは保健体育教師、保健体育特化のAクラス生徒。
「工藤さん……!僕らは君に手出しする気は無いんだ。ただ1人、それで良いんだ。だから、僕らをみのがし──」
「…………明久。先に行け」
「むっ!?無理だよ!いくら何でもこの2人相手にそんな!」
「…………作戦は、変わらない。2人くらいでは、数に数えない」
「でも!」
吉井が必死に止める。
だが彼の言葉はそれを否定する。
「…………行け。作戦は絶対だ」
静かながらも強い意志を示す声。
吉井もそれを受け、覚悟を決める。
「分かった。任せた。代わりに、鉄人たちを倒しておく」
走る吉井を、教師も生徒も素通りさせる。
その姿が消えるころ、階段から坂本雄二が駆けてくる。
「よし!ムッツリーニ!」
「…………雄二、明久は先に行った」
「あぁ、なら任せていいんだな?」
「…………無論」
「よし!じゃあ俺も通してもらうぜ大島先生!」
勢いそのままに教師の脇を抜ける坂本。
「ふん、たかが2人では、西村先生には敵うまい」
「さぁどうかね!」
すれ違いの会話もそれだけ。
視線は合わず、互いの敵のみを見つめていた。
「だが、これではつまらんな。土屋」
「…………どう言う意味だ」
「教師に勝てるなどと言うヌルい幻想を抱くとはな」
「…………幻想?」
「まーまー先生、ここはボクが1人でやっちゃうんで。ゆっくり見てて下さいよ」
「ふむ、そうか。なら待機はさせておくが、勝負は任せよう」
「ありがとうございます。さぁムッツリーニ君、決着つけようか!」
「…………勝負にさえ、なりはしない」
教師と女生徒は勝利を確信し、余裕まで見せている。
対する男子生徒はそれを前に一歩も引かない。
「そこまで大口を叩けるようになるとは。だがそれも、工藤を倒してから言うんだな」
「正直さ、現実的じゃないよね?先生含めて女子生徒を倒そうなんて」
「…………幻想も、現実も変える」
「うん?何?ま、何言っても意味無いよ。それじゃ、試験召喚獣、サモ──」
【止まれ】
そして、何の信念もない一手が打たれた。
♢♢♢
全て、とまではいかないね。
ボーイッシュと先生の2人だけ。
両手足と、口だけ。
それだけ動かせないよう固定する、だけ。
「…………ケッチャコ」
「「……!!」」
この喋り方ちょっと疲れるね。急に噛むから2人も驚いてるし。
普段テキトーに喋ってるから変に語尾伸ばしそうになる。
にしたって……私をカメラマンに変装、なんて無茶良く聞いたもんだ。どれだけ代表さんたちと戦いたかったんだろ、シオン。
「…………そのまま、終わるまで待機」
「……!」
「〜〜!」
「…………口、動かないから、鼻で息してて」
喋らせてもいいけど召喚されるとそれはそれで私の召喚獣でバレちゃうから完全封印。
あー……後でこの記憶、シオンに消してもらっとかないと面倒になるかな……
ま、私の役割はこれで終わり。どっちが勝ってもどうでもいい。
さぁ、向こうはどうなるかな。
♢♢♢
「さ、懲りずに来たみたいですよ、先生」
「全くだ。いい加減にしてほしいがな」
「私が2人やりましょうか」
「お前の希望も聞いてやりたいがな。昨日のこともある。最初から俺もやるぞ」
「まぁ……お任せしますよ」
廊下の奥から響く音、声。そして熱。
こちらは静かに2人、ただ立つだけ。
冷静に、そして確実に覗きを阻止し……更なる方向性を手に入れる。
相手の戦力は全男子。そして腕輪による分身、干渉。
問題無い。そのどれを持ってもオレは越えられない。
「来たか……」
「あぁ来たよ、シ……フタガミさん!てつ村先生!」
「お前だけか。昨日は人数に頼った上で止められたというのに」
「当然、僕だけじゃないですよ」
「間に合った!」
明久に代表が並ぶ。
2人ともほぼ無傷のようだが……秀吉やムッツリーニの姿は無い。
ムッツリーニは体育教師や工藤とやりあってるとして……他戦力はどうした?
昨日は初見で高橋学年主任と最強女子2名を攻略した。
なら今日は同様に突破可能なはず。霧島学年主席を使ってどうにかしたか?いや、それなら代表が来られるはずが無い。
「……」
「何を考えている?フタガミ」
「……コイツら2人だけってのはおかしい。おそらく全クラスを巻き込んだとなれば、ここに来られるのは余剰戦力の全てか、全滅だ。コイツらだけ来たのは意味が分からない」
「そうだな。それは俺も気になるが……今のうちにコイツらを叩けばその後にもう問題は無いということだ」
「……それはそう、だが」
何故来てしまった?
少しでも数が、点数が必要なはず。
戦況が悪くヤケになったか?
「とりあえず、だ。変身」
《エボルプライム!》
コイツらもオレ単独なら突破しうる。
もはやその可能性も大きく減少したが……
万全に、確実に止める事は外せない。
それに、こうしてれば他クラスに顔がバレない。
「……残念だ。お前らとは死闘になると思っていたのに。2人だけ来たのでは意味が無い。お前らだけではここは越えられん」
「そうか?昨日は惜しくも敗れたが、今日なら越えられそうだぞ?」
「あ……?何を言ってる。昨日は人数頼りで押せただけだ。今日はそれすら無い。どうする気だ」
「どうするも何も、この戦場で取れる作戦は1つしかないだろう」
「……正面突破。数と質の純粋な勝負だ」
「そうだ」
「お前も相当にバカになったのか?無理だって言ってるだろ」
コイツは何を言ってる?
2人だけでオレたちを倒せるつもりか?
点数でも喧嘩でも無理だ。勝機らしい勝機が無い。
「そろそろか……」
「何……?」
奥から響く怒号。
熱が来る。狂気に犯された熱。
「まさか……全滅させたと言うのか?あの布陣を?」
足音は少数じゃない。
昨日より遥かに多い。
女子陣が全滅?それは無いはずだ。学年主任を中心に高レベルの女子が階段付近を固めていた。
少数の漏れがあったとしてもここまでの人数が抜けられるはずが無い。
「当然全滅させた。ま、Aクラスあって、トリックあっての力だがな」
「……」
トリック……姉さんにさせた変装か。それがどうなる?その程度が何になる?
姉さんはムッツリーニに化けさせた。
それでどうなった?そんなことをした所で……姉さんの点数では代用にすらならない。
「ムッツリーニは更に女装してもらった」
「……!」
そういうことか。
それでここまで同時に……!
奴は……姉さんをムッツリーニに仕立て上げ、階段下の体育教師に当てる。
そして……姉さんが時間稼ぎしてる内に、代表のフィールドで女装したムッツリーニが暴れ、不意打ちで上位女子を屠る。
高橋女史は……どうしたんだ?あれほどの点数であれば、不意打ちを受けても返り討ちにできるほどだろうが……今は考えない。何にせよ突破されたらしい事は事実だ。
つまり……上階、いや、オレと西村教諭以外は全滅したと見ていい。
「いいだろう。だったら、いや、それでも、お前らを皆殺しにすれば終了だ」
右手をかざす。
召喚フィールド内には全ての召喚獣の武具……全ての戦力が投写される。
射出速度は350点の召喚獣を上回り、弾数無限となる。
走りくる召喚獣にそれぞれ切先が向く。
自分自身、味方、敵。その全てと敵対している状態だ。
何も変わらない。オレが上、他が下だ。
オレは能力の行使で当たり前に奴らを制す。
「お前らは……世界に勝てるか?」
向かってくるケモノに向けて全掃射。
実際のところ……この無限掃射はオレにもデメリットはある。
ささいな事だが……いや、今それは無視して良い。
取り敢えずはある程度、それもおおよその数を屠る事。
問いに回答は無い。
代わりにあるのは、途方も無い熱。
今も1人、また1人と串刺しにされ消えていく召喚獣。
だがそれでも、その後から続く。今までより数を増し、点数の高い召喚獣の群れ。
「続けぇぇぇぇ!1人でも到達しろ!」
「点数の無くなった奴は鉄人へ!ヤツの拘束も必須だ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」
代表は主にオレへの、明久は西村教諭への攻撃指示を担当している。
そして男子の士気は落ちない。いや、むしろ上限を超えて来てさえいる。
「貴様ら、いい加減に諦めんか!」
「ぅげっ……まだだぁ……!」
「ううぉぁぁぉぁぁぁぁぁあ!」
途方も無い人数を相手にとうとう普通に加減無く殴り飛ばし始めた西村教諭だが、それを受けて尚しがみ付く男子。
通常ノックアウトして問題無いダメージのはずだがそれでも動いている。
「マジか……」
「大マジ、ヤル気マンマンだぜぇ!」
「チッ……!コレを超えてくる奴も現れ始めたか……!」
誰だか知らんが上位クラスだろう、召喚獣とオレに正面から殴りかかってきてやがる。
オレに物理は現状効かない。召喚獣に意識を向けて対応する。
オレの点数はせいぜい数十。西村教諭が召喚できない以上、オレの負けは吉井の独壇場になる。
とはいえコイツらも気が触れている。
西村教諭に生身で挑む事もそうだが、見た目も明らかに頑強に見えるはずのプライムエボルに正面から躊躇いなく殴りかかって痛そうにさえしない。中身を知らないからだとは思うが、仮にも女の顔面をよく全力で殴れるな。
情熱さえあればいいとまで言った気もするが、コレは狂気だ。会話できる分更にタチが悪い。
『キサマら……生きて帰れると思うな!』
『おごぼぁっ…………!!!』
「っ……!まて西村教諭!抑えろ!本気で死ぬぞ!」
仕上がり続ける狂気に怯んだのか、怒号と共に生徒の1人が吹き飛んでいく。
今まで加減無く殴り飛ばしはしていたが戦闘不能で済む程度にしていた。
今回のは死ぬ。本気を超えた全力で殴ってやがる。少なくとも自然治癒では間に合わない。
「ちっ……聞こえてないか……!」
「ひゃっはぁぁぁぁ!よそ見してる間はねぇぞぉぉぉぉ!」
「お前らも大概にしろ!」
「ぐお……まだまだぁぁぁぁ!」
ついムカついてオレまで普通に殴ってしまった。
しまったのに軽く怯んだだけで戦闘意思は継続だ。ゾンビかよ。
意識が狂気であろうとも肉体は限界があるのか、段々と沈んでいく奴も増えてきたがそれでも……それでも多い。
見えた限りでの判断でもB、Aクラスもおそらく参戦しているだろう。
これまでと同様の対応では抜けられる。
今以上の何かが無ければ……
「く……オール……!」
ダメだ。
抜けられないどころか、西村教諭の目的達成はオレにとって容易だ。
全生徒制圧さえ難しくない。全てを無かった事にするなら、オレは今頃姉さんに代わって寝ているはずだ。
オレの行動を縛るのはオレ自身。
オレはこの闘争にオレ自身の進化を期待している。
オレはそれを新たな方向性と定義した。
この世が3次元であるなら、オレはその範囲を無限に拡大できるまでになった。
であるならば。次に映す世界は更に上。四次元でなければならない。
姉さんやソラは概念による現実改変……それぞれの中で通る理論を世界に強制する。この2人の前で人類初だの世界初だの、存在するしないは無意味だ。そこにあるなら、2人はそれさえ自分の能力の範囲に収めてしまう。
オレが使うフウシャの鏡には、ウタネが『シオンであったかもしれないと認識できる』という制限が付く。
『そこにあるだけ』が条件の2人と比べるなら、それはかなりランクを下げた範囲になる。
「おらおらぁ!突っ立ってるだけならいずれ倒れちまうぜぇ!」
「続け続け!撲殺しろ!」
「……以前なら、成長しなきゃ……ならない時点で切り捨てていた。オレが映すのはあくまで並行世界だが……たかが2つ……ルールの根本から破壊した……人生は誰にも決めさせない……」
「なんだ?急に訳分からんこと呟きやがって」
『お前ら油断するな!気を抜くとやられるぞ!』
前の世界では痛いところを突かれた。
そこに『オレ自身』の強さは無い。
どこまでいっても世界線を隔てた隣の力。このオレ自身じゃ、この状態で出来ることは何も無い。
「ははっ……」
力の無さに笑えてくる。
VNAには世界そのものと定義される何かがある。
先に挙げた2人は当然、愛と夢もそれに類する。
地球全土を紫電で埋めるなど容易いだろう。
全てを夢に誘うことも容易だろう。
オレは中立。常に相手と同等以上ではあるが、負荷を含め、能力の限界はたびたび見えていた。
他4人はオレと同じことをして疲労するだろうか?
……しないだろう。
理由は簡単。オレのやりたいことが複雑だから。
他の奴らは目的が単純だ。ゼロヒャク思考で全く問題無い。
オレだけだ。今も同様、敵味方の区別さえ曖昧。どちらかではなく、両方に、しかも中途半端に手を貸している。
この状況もそうだ。覗きに加担するなら西村教諭を抑えるだけでいい。覗きを阻止するなら試験召喚システムに拘る必要が無い。
だがそれでも……システムのランクアップも諦められない。
迷う思考のもたらす結果はプライムエボルでの棒立ち、武器の無限掃射。
召喚フィールドがある限り……その境界は越えられない。
西村教諭も生徒を吹き飛ばし余力を取り戻してきた。観察処分の召喚獣以外では突破されないだろう。
オレは……どうする?