「……」
以前と変わらないはずの教室。
以前と変わらないはずのクラスメイト。
以前と変わらないはずの授業レベル。
姉さんよろしく爆睡かまして廊下で立っててもいいんだが、空気感というのだろうか、クラスを包む雰囲気が、異様だ。
「……」
変わった点は無い。
強いて言うなら島田が浮かれてるくらいだ。
だのに、他の奴らも何か集中を欠いている。
「……」
何なんだ……マジで。
♢♢♢
「ね、ねぇシオン?」
「あ?」
昼休み。
登校再開日くらいは飯食ってる振りしておくべきだろうか思案している所に島田が寄ってくる。
「に、睨まないでよ……ね、ねぇ、良かったら、ね、お昼、一緒に食べない?」
「……」
手を胸の前で組み、目線を自由形させてるコイツは……誰だ?
オレ同様の別人格か?たしかドイツだとか言ってたしアル中も併発だろうな。オレの様に転生経験を持たないなら1周目のオレ達と同じか。
「そうだな、同じ字で違う読みができる様にしておくと戸籍上便利だぞ」
「な、何が……?」
しまった。姉さんバリの跳躍をしてしまったか。
転生に向けたアドバイスだったが、恐らく関係無いな。
「すまん、考え事していた。で、何だったか、飯?」
「うん、いいでしょ?付き合ってるんだし……」
「……おーい、代表ー」
「なんだ。面倒くさそうな話題で呼ぶんじゃない」
離れていつものメンツで弁当をつついていた代表を呼び寄せる。
こちらの様子も気になっていたのか、しぶしぶといった体で近付いてくる。
「朝のオレの発言なんだが、何か催眠術を誤って並行していたようだ。頭の病院はこの辺りにあるのか?」
「何聞いてんのよ!ウチは本心!催眠なんて冗談じゃないわ!」
「自分を正気であると自己証明する手段は無い」
「そんなに嫌なの?」
「……姉さんは女だぞ?」
無視してきた事実を突き付ける。
恐らくこの世界でも……先の覗きの件もあり、異性愛がスタンダードであるはず。
なのフェイがマジョリティで無いことくらい知っている。
「シオンは男なんでしょ。問題無いじゃない」
「……」
「シオン、正直言ってお前の負けだ。お前から宣言したことだ」
「……」
生前の様に振る舞うとは、難しくなったものだ。
代表と島田を前にオレの論理的逃走経路は絶たれてしまった。
「……はぁ、いいよ、分かった。確かにオレが勝手に巻き込んだ話だ」
匂わせというかそういう体では良いといったが実際そうするとは言って無かったと思うんだがな……
姉さん起きやしねぇし、どうしようもない。
一応弁当は用意してきてるし……それらしい動きはできるか。
「じゃあなんだ、飯食えばいいのか」
「お前な……付き合いたてなんだろ?少しはムードとか気にしたらどうだ」
「……ムード?何だ?飯食うだけで?」
雰囲気の事だよな。
それくらいなら分かる。試験前、戦闘前、日常でそれを要する場面があることも理解する。
だが、学舎でクラスメイトと食事することに何の意味が?
「いいから、お前は島田と屋上にでも行って──」
『お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!そんな輩ではなく、この美春とお食事しましょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
「みっ!美春!?」
突如湧いた島田に抱きつく奇人。
この髪型はリボン魔法少女……ではないな、オレンジだ。
「……何だコイツ」
『ちょっと美春!何でここにいるのよ!離れなさい!』
『酷いですお姉様!この前は私を思って叱ってくれたのに!』
「シオン、お前は知ってるだろ。この前合宿で名前出してたじゃないか」
「……?」
「ほら……例の」
「……あぁ、そういえばコイツだったか」
例の覗き犯。清水美春その人か。
1ヶ月も空くと忘れるもんだな。思い出せたからいいものの、完全に忘却してたら姉さんと同じだ……あ。
「そういう理由か」
「ん?」
「いや、姉さん……ウタネの話だ」
「そういえば見てないな。来てないのか?」
「いいや、来てはいる。来ると言ったのも姉さんだが……出てこない。理由に今思い至った。多分、お前らのこと忘れてる」
「は?」
そう言えばそうだ。どこぞの司書長の事も忘れる様なレベルだった。
最近は割と頻繁に人と話してたし短期間なことも多かったからな……
「あんまり言うべきじゃないが……学校に来る必要がある事は理解してるが、お前らの顔や名前、どう話してたかを忘れてんだよ。多分、代表、観察処分、みたいな単語は覚えてるだろうが……やれやれ」
「やれやれで済ますか?普通」
「オレ達はそもそも普通じゃない。代表だって、そんな事態をその程度で済まそうとしてるだろう」
「お前がほぼ同一人物で、お前とコミュニケーションが取れるんだから俺としてはそこまで問題じゃない。中身がどうだろうとお前はフタガミウタ──」
「まて代表!」
「っと……なんだ、カッターでも飛んできたか?」
「違う。今その名前を呼ぶな。オレが苗字呼ばれるのを嫌ってるのもある意味でそれが理由だ」
危なかった……確かに、不意に呼ばれる事はままある。
大抵は苗字か名前かどちらか。基本的にフルネームでも問題は無い。
だがシチュエーションが存在する。
「今姉さんはオレが感知できていない。つまり事実上、死んでるのと同じなんだ」
「はぁ?言ってる意味がわからん」
フタガミウタネ。
それ自体は姉さんを指すことがほとんど、というより他が基本無いんだが、一定条件下でそれは世界の即座終了を指す。
オレか姉さんが同一世界で片方しか存在しない時、その名を呼べば存在している体を上書きする形で双神詩音が顕現する。
急に何を言ってるのか分からねーと思うが、事実上そういうシステムになっている。
ヤツは世界の書き換え……姉さんの現実改変どころでは無い、全ての世界の過去と未来を書き換える。
普段は何故か寝ているが、起こせば最後、その世界は好き勝手書き換えられた後永久に消滅するだろう。
とこぞの特異点冬木はそうなったしな。
「……ま、気にするな。姉さんが起きれば何も問題は無い」
「まぁ、いいならいいが。それより、ガールフレンドを助けてこなくていいのか?」
「今女のオレに投げる言葉としては不自然だと思わないか?」
「お前自身が男だって言ったんだろ」
それはそう。
「……屋上行くか」
「今さら過ぎるが、いいだろ。今朝の件についても話しようぜ」
「ああ」
話を切りたかっただけなんだが、更に話が続きそうだ。
「明久、ムッツリーニ、秀吉。俺とシオンは屋上に移るが、お前らどうする?」
「僕は別にどっちでもいいよ。2人が行くなら着いて行こうかな」
「…………どちらでも構わない」
「儂もじゃ。じゃが、2人の話を聞いておこうかの」
「よし、決定だな」
さて……
「じゃ、先行っててくれ」
「どこか行くのか?」
「……アレ拾ってくよ」
「あぁ。そうしてやれ」
4人を送り出す。
中庭からは島田と清水の声が聞こえてくる。
そして……
「……お前は大丈夫か?」
「……!」
今朝からずっと気配を消していた姫路に声をかける。
オレが振り向いただけで体を大きくビクつかせ、相当に動揺している。
「な、ななななな……!」
「落ち着けよ。今朝の事はオレが洗脳して操作したことになってるし、吉井はショックで記憶を半分くらい失ってる」
「で、でぼぼぼぼばばばぼぼばびぼぼぼぼ……!!!」
何か弁明したそうではあるが顎が痙攣しているように言葉が出てこない。
顔も赤いしどうしたんだ?
「そういえばお前、合宿の時布団にくるまってたな。体調不良か?慣れない環境だった上戦闘もあったんだ、何かしら崩れてるんじゃないのか」
「おぼぼぼぼぼぼ……!」
「……少なくともワザとではない、致命な症状でもないな」
コイツは単に極端な緊張か何かでこうなってるだけ。
奇病の類では無いな。
「あぎ、あびびざぶんば……!」
「……目立つ。話にならんからその真意に関してだけ心を読む。いいか?」
「……ばび」
「……難儀な症状だ、お前も」
正当に許可を得て、その内を知る。
人は真実を知った時に変化する。
「まぁ……いいんじゃないか。動機も、行動も」
「……」
真っ赤になって黙ってしまった。
まぁ……いいんじゃないかね。
さて、島田を助けに行くか。
「チャオ」
教室を出て全ての視線が切れたところで跳ぶ。
走り回る島田の横に出て下から抱える……いわゆるお姫様抱っこってやつだ。
「きゃっ!?シオン!?」
「跳ぶぞ、口閉じとけ」
『なっ……いつのま……!』
確保したら即座に跳ぶ。
屋上手前の階段踊り場に降りて、島田も降ろす。
「ふぅ……お前も大変だな」
「あ……ありがと」
「……」
オレは以前、というか、今朝までコイツの立ち位置をオレより上、少々分の悪い取引相手の様なところで置いていた。
以前、複数前の転生時のように、非干渉を胸に置いておけばよかったと、オレはかなり後悔している。
「な、何よ。お礼言って悪い?」
「……いいや?」
「ね、ねぇ、こういう時って、ハグしたりしないの?」
「……は?」
「か、彼女をピンチから救って、人目の無いところにきたら……ね?ねぇ、だ、ダーリン?」
「……」
コレは何だ?拷問か?ショタロリコンがオレをからかってるのか?
だが、少しだけ、利用はしてみたくなった。
「……なぁ、『ヘイダーリン』って言ってみてくれないか?」
「な……なによ、急に態度変えられても怖いんだけど……」
「……それをお前がオレに言うのか……?」
「う……いいけど、録音とかしないでね……?」
「ああ。それはしない。聞いてみたくなっただけで残すほどの興味は無い」
「それはそれでムカつくわ。殴るわよ」
「おぉ!それだよそれ!そっちが良い!そっちならまだ考慮だ!」
「そっち……?」
聞いてみたくはなったが、それ以前に性格ならそっちが良いな!
「先駆者として言っておくが、元の人格に合わせる方がその身体として生きやすい。表に出す分にはムラが無い方が良いぞ。オレも学生時代、失敗したからな」
「な……ホントに何……?そっちこそ変じゃない……?」
「……?」
誰もいない場でオレのアドバイスに疑問符……?
そこまで徹底してるのか。まぁ、オレも確かに生前は誰一人としてオレの存在を知られないよう動いていたからな……うむ。確かにそれなら納得だ。
いや、オレの能力を認知して更にこの態度なら、既に主人格と連携が取れるまでになっているか。既にオレ達同様にシームレスに切り替え、記憶の共有まで出来ると見て良いか。
ははは、最高だな!それなら拒むことも無い。6、7人目として迎えてやる。ソラともこれでおさらば、Xオルタに正式譲渡だ。笑いが止まらねぇぜ!
「おほん……悪かったな。だが今後は好きに動けばいい、オレ達は支配しない。その全てが肯定される。永遠を望むものとして、どんな世界にしたい?何をしたい?今不足しているなら、オレが望むモノを与えよう。6番目、7番目にはなるが、3から5はそのうち紹介しよう。西村教諭をとも考えていたが、お前でも不足は無い」
「は……?」
前の世界では永遠足りうる存在はなかった……プライムを使っても、そうはならなかった。
だがコイツなら。オレを知り、それでいて日常に溶け込めるコイツなら、いずれは永遠に届く。中立のオレに近い軸を持って、永遠を定義できるだろう。
「ろ、6番……?1番じゃなくて?」
「あ……?1番は姉さんに決まってるだろ。順番の変動は無いぞ」
「キッ……!このケダモノ!」
途端に険しい表情へ変わり、鋭いビンタがオレの右頬を捉える……
♢♢♢
「いったた……あぇ?どこここ」
何か急に変わった……あー……切り替えされたのか。
「何?今何時?何の用?」
場所は階段……かなり屋上に近そう。
目の前の人間がシオンを殴り飛ばして、首ごとへし折る勢いで無理に切り替えた……だね。
「ウタネ……絶対許さないから!」
「ほ……?」
謎の捨て台詞を吐いて階段を駆け降りる人間。
えぇ……?なになに?シオン何したの?
「……え?」
返事無い。
私もちょっと深めに沈んでたから多分返事返してなかったけど……
「出てみようか、とりあえずね」
多分屋上だろうから、とりあえず出てみよう。
多分立ち入り禁止じゃなかったはず……多分。
「お、遅かったな。島田はどうした?」
「……?えーと……シマダって誰だっけ?」
既に屋上には人間4人が何か食べていた。
親しげに話しかけてくる様子からして多分知り合いか。
シマダって何……?
「お前……ウタネか。シオンはどうした」
「ん……」
何やら私達のことを知っている様子。
「ウタネさん、大丈夫?」
「あー、明久、無理だ。ウタネ、俺の名前言ってみろ」
「……」
「何言ってるのさ、偽者でもいるの?」
「違う。今朝シオンが言ってたんだ。ウタネはこの1ヶ月で俺たちのことを完全に忘れたってな」
「え!?」
「なんと……」
「…………衝撃の事実」
あぁ、そこまで話してるなら大丈夫か。
「あーうん、そうなんだよね。私とシオンの事は知ってるのよね?」
「ああ。で、シオンはどうした。また分かれたのか?」
「うーん……分裂の事も知ってるんだ。シオンはこの身体だけどさっき無理矢理切り返したからちょっと深めに沈んじゃった。少し時間かかるかも」
「無理矢理?」
「うん。誰か分かんないけど殴られて」
あー……誰かとか聞かれるのかな。
もう何にも覚えてないや。いつ言ったか分かんないけど
まぁいいや……帰ろっか……
「じゃ、私帰るから……」
進まなかった……話……