「さて……代表、いや……クラス全員か。とりあえず謝罪しておこう。そして姉さん……ウタネが昨日何したか教えてくれ」
翌日、HR後に教壇に立つ。
ひとまずは頭を下げておく。こんなカスどもとはいえ人は人、無礼を働いたなら謝罪だ。
「何も何だか……とりあえず実害があったのは俺たち4人と……島田、姫路だな」
「ふむ……見たところ外傷は無いな。姉さんがすまなかった。希望があればお前たちが望んでいた紐なしバンジーでもパラシュート無しスカイダイビングでもしてやろう。言ってみろ」
「何故その立場で偉そうなのじゃ……?」
「そもそも謝罪だってなら頭を下げるべきはウタネの方だろ。お前の出る幕じゃない」
「代表、それは正論だが、前提が間違っている」
「は?」
確かに、ウタネの無礼ならウタネが頭を下げるべき、というのは一見正しい。
「お前たちはオレがシオンだと知っている。それは非常時にオレが教えたから発生した変化でしかない。それまでの人生、オレはウタネとして生きてきたはずだし、ウタネはお前らと一言さえ交わしていないはずだ。なら、オレがウタネとして間違いない」
通常、オレがいる世界においても変わらないスタンス。
オレはウタネとして振る舞うはずだし、ウタネはオレがいる限り表に出ない。
そもそも指紋やDNAすら同一の人間、人格ごとコピペできるなら見分けられるわけがない。できたら何らかの能力持ち、オレ達基準で転生者だ。
「まぁ知らんが。それよりホラ、あっち、えれーことになってんぞ」
「あっち?」
代表が顎で教室の隅を指す。
該当者は島田。顔は外を向いているが視線はチラチラこちらを見ている。
……だけだが?
「……島田?何かあったのか?」
「……!」
「はぁ……お前、ほんとバカだな」
「なにが」
心当たりが無かったから適当に声をかけたが、急に立ち上がり向かってくる。
「このッ……!何かあったのか、じゃないでしょバカァ!」
「ぐっ……!?」
教卓を挟んで右ストレート。
生身とは言え同じくらいの体格で人を浮かせるパワーはどうなってんだ。
「ほっんと最低!今まで変なトコもあったけどこの1ヶ月でどうしたの!?信じらんない!」
「あぁ……?人の顔面殴り付けて何キレてんだ?」
「なっ……!もーいいわよ!知らない!」
島田はそれ以上暴力に訴えることなく走り去っていった。
何なんだ……全く心当たりが無い……
「すまん、代表。もしくは分かる奴、説明を頼む」
「はぁー……わかるやつ、手ぇ上げてみろ」
「「「…………(バッ)」」」
代表が指示すると、秀吉や姫路含む全員が挙手。
「コレが答えだ」
「……オレが全面的に悪そうなことは理解した。だが何だ?オレは何もしていない。言葉を話せるだけの知性はあるはずだ。説明しろ」
「てめぇ!俺が言えた事じゃねぇけどな!そう言う言動は今後必ず後悔を生む!お前ならできるだろ、記憶を精査しろ。答え合わせはしてやる。それまで帰れ!」
「「「そうだ!いっぺん死ね!」」」
「……ふぅー、そうした方が良いらしい。西村教諭には無断欠席だと伝えておいてくれ」
「あぁ、それは言われなくてもそのつもりだ」
「……流石にそれは無慈悲すぎるだろう」
ふむ……とりあえずはここで切り上げるか。
荷物を持って教室を出る。そして視線が切れた瞬間に家に跳ぶ……毎度のことだ。
それはそれとして分からん。オレが島田に何かしたか?
服もそのまま、ベッドに倒れ込む。
この1ヶ月、ということは……停学明けの昨日からだろう。
目立った事柄といえば朝の異端審問、その後の戯れ、島田の多重人格疑惑、オレに何故かキレた島田による姉さんとの強制切り替え。
……どれだ。全部か?
「なー姉さん、女の機嫌取りってどうしたらいいんだ?」
(……私に今更女を期待する?んー、金か女を用意する?)
「そりゃ男相手だろう」
(ほら……あの、前の世界にいた人間とか……そんな感じじゃない?)
「人間?誰のこと……あぁ、金星か。そーだな。そうかもしれん。はぁ……やはりプライムか」
(バーゲンセールだよね)
「アイツは別人格を持つと思うか?」
(知らなーい。私今でも顔さえ怪しいのに)
「だよな。アイツを永遠にするなら、何が……」
アイツはそもそも何なんだ。
オレに庇護的かと思えば恋人ヅラしてきたり、オレの事を知ってそうなそぶりどころか蒐集能力を知っている。
オレと違って普通だとも言っていたな。
クソ……何なんだ……目的は何だ……?
(ねー、気張りすぎじゃない?)
「あ?」
(前の世界からさ、なんか、必死すぎるかなって)
「……オレ達は自身の能力を、おおよそ完全な形で理解した。それをどう使うか、どこまで使うかを決める段階まで来ている。オレは人類をランクアップさせる」
(ふーん……)
「奴らが進化を望むなら、オレは手を貸す。代わりにその結果を貰う」
(なのはの頃とはかなり変わったね)
「……」
(あの頃はさ、闇の書の結末まで知ってて、私の干渉を無かったことにしようとしてた。ナンバーズの時だって、自分がした事を無かったように、正史の通りに動かそうとしてたでしょ。今はほら、分からない未来に足掻くというか、不要に能力を使おうとしてる。それは決めた範囲の外なんじゃない?)
過去の世界において、オレはある程度その世界の知識を持っていた。
そしてそれに適応するよう、オレ達は互いに能力の制限を設けていた。
世界の知識も元の世界で言うアニメや漫画の世界であること、主人公とさえる人物中心に物語が動くこと。
そして、オレの知らない内に姉さんが転生していて、なにやら勝手に物語は干渉しているらしいこと……を、オレ達を転生させているゴミカスクソカスショタロリコンに聞かされた。
ただ、姉さんを転生させたのもソイツだし、干渉するような転生させたのもソイツらしいと。そこでオレはその万能らしい神を殺しにかかった。
手も足も出なかったが……思い出したら腹が立ってきた。クソが。
「……前の世界、オレは死んだ」
跳ね上がり、ベッドに腰掛ける。
(そうだね?けどあれは聖杯の副作用というか……)
「それだけじゃない。セイバーに魂を喰わせて死んだ。バーサーカーには99回、100と殺された。死を前提とした能力運用だったとはいえ、オレだけだったら詰んでいた世界だった」
(私いたじゃん)
「あぁ。基本的にオレと姉さんは同一人物として転生する。今となっては互いが記憶にあるなら人格ごとコピペ可能でさえあるし、オレの能力なら体を分けるも自由。だが……死ぬなら終わりだ。オレ達は永遠を求めている。それだけが絶対の価値。死なずに負ければ誰かに利用される。不死身の末路は姉さんも知ってるだろ」
(……)
答えは無いが、肯定だろう。
超常存在は……神や天使であれば崇められるだけだろうが、人はそれが支配できるとなれば即座に捕獲、実験室へ送る。
あらゆる性質を解明するまで、全てを記録される。プライベートどころでは無い。解剖され、自分さえ知らない脳や内臓機能なんかまで全て数値化され記録される。
その結果人に還元できるものを発見したならそれを世紀の大発見だ、人類の進化だ功績だ、なんて言う、人類のための最小の犠牲として、最大の敬意という侮辱をもってオレ達を殺す。
いいや、殺すで済むなら御の字だ。全身解剖による実験を超え、その細胞さえ弄られるだろう。下手をすれば生きたまま、再生するからと四肢を削がれ高値で取り引きされる。ある種無限資源、永久機関でもある以上、生命活動は維持しつつ、自由意志も思考も薬品だか何だかで停止させられ、存在の全てを擦り切れるまで利用され続けるだろう。
それが現状思い付く最悪の未来。
だからオレ達は誰にも負けられない。永遠を生きる者にとって、起こりうるかも知れない遙か未来の事故は明日のトラブルと同義だ。
だがだからこそ、日々を努力して生きていける。かもしれないに全対応するべく、全ての問題に独力で対応するために、その全ての能力の向上に努めていける。
現在の生命は死ねば全ての問題から解放される。事実、回復不能な疫病や障害を遺伝子に残さない為に死はプログラムされ、健常の個体を残せるようにしていると聞く。
それは人類含む生命の停滞だ。世代交代を繰り返し種族全体での成長も良いが、同一個体による成長、種族全体の進化を試すフェーズに生命は近付いている。
「あぁ……変化してるのはオレもか」
(うん?)
「初めは自分の存在すらひた隠しにして生活を維持してたのに、転生を繰り返す度にオレは自分が前に出て、あまつさえ他人の日常すら道具にしているようになっていた」
(あーうん……そうね)
「オレは今後も人類の進化を望むだろう。そのためのヒントも得られつつある。全ての人類を同時には無理だ。まずはハービンジャー……救世主から繋がる何か……」
救世主と我が救世主はプライムの先を示した。結果オレはブラックホール、重力を支配するに至った。
それは現状、あらゆる物質の存在を脅かせる力だ。
だが、それが意味の無い相手だっている。
姉さんなんて正にそれだと言うくらい、現実改変に対して全く意味が無い。
ギルガメッシュには物量で勝利したが、ランサーの因果逆転は恐らく防げなかっただろう。
今回は因果操作や現実改変が絡まずブラックホールでは対応しきれない事態に追い込まれている。
……あ。
「違うそうじゃない。島田の機嫌取りだ……どうすっかなアレ。今までの経験で奴が喜んだこと……」
無いかもしれん。
覚えて無いな。酒渡せば飲んだくらいか。
「面倒だな。人殺しには自首しろと言うくらいの常識も持ち合わせてるのが面倒だ。直接脳に快楽物質でも放射してやろうか」
(人として使い物にならなくなりそう)
「まぁそうなればそうなった時だ。まったく……オレも随分と杜撰になったもんだ」
とりあえず明日代表に答え合わせしてもらうか……