──キーンコーンカーンコーン
始まりはいつでもこの旋律に乗って、一歩踏み込んでみないとな。
「よし野郎共!キッチリ死んでこい!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「お、おー……」
「姫路さん、コイツらに合わせてやる必要も無いと思うよ」
若者のパワーに押されてる私、ノリについてけなさそうなピンク……姫路さん。
生物学上同じ女だし、メンタルフォローしてあげようか。
「あ、フタガミさん、よろしくお願いしますっ」
「今日は貴女の指揮らしいから。よろしくね」
「は、はい……頑張りたすっ……」
「緊張しなくていいよ。ほとんど貴女の肉壁なんだから」
「そ、その方が余計に……」
世界の弱者を残機にして特に思う事も無いと思うんだども……
「フタガミ、お前は教室に残れ。先陣は姫路筆頭に明久、秀吉がフォローしてやってくれ。目標は相手を教室に押し込むことだ。達成は絶対、失敗は死と思え!Aクラスに比べればDもBも同じ事!出陣だ!」
代表さんの激が飛ぶ。
その直後クラスの大半が突撃して行く。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「はいっ!行ってきます!」
姫路さんもそれに続いて走っていく。
「で?代表さん。私に何の用?」
「いや、別に無い」
「は?」
「お前は明久の代わりだ。万が一となった時、単独で時間を稼いで貰う」
「……使い捨ての盾か」
「ま、そんなとこだ。だが、俺はお前の能力を買ってる」
「っ……?」
能力……?
Dクラス戦で使ったシオンの能力を見抜いて……いや、なんなら昨日の瞬間移動……?
「なーに焦ってんだ。報告によるとお前の回避能力は明久に近いレベルだってのは判明してる。観察処分者なんだ、驚きやしねぇよ。別に死ぬまでやれとは言ってない。誰しも補習が嫌なのは分かるからな」
「……補習?」
私も聞かない言葉だ……戦争に負けたら補習……死んだら……ああ、そういうこと。
「じゃあ尚更死ぬわけにもいかないね。無残に使い潰されるのはごめんだ」
勝負で点数を失ったら捕虜やそれに類する扱いとして補習が行われるのだろう。何科目、あるいは何時間か。
「そういう訳だ。ま、アイツらなら何とかするだろ。待ってりゃいい」
「ふーん」
姫路さんを込みでの作戦はある様子。
どうやらBクラス、と言わずAクラスの半分程度なら姫路さんの敵ではないらしい。
400点近い姫路さんに対し、平均でも大体200点、300に届くことはないそうだ。
それはそれで意外でもあった。
通常なら100点満点、配点を一問一点にしたとて、200点しか取れないものだろうか?解答速度の限界と言えばそれまで。私もシオンも、先の姫路さんの様な速度での解答は不可能だ。けれども病弱な彼女がそうできると言うのであれば、思考回路が追い付けば不可能ではないと言うことになる。
──コンコン
「なんだ?」
教室のノックに、代表さんが対応する。
「失礼。Bクラス代表の根本だ。おっと、勝負はやめてくれよ、お前らの点数じゃ俺には勝てないんだからな」
「……何の用だ?」
「そう警戒するなよ、悪童。こちらにも都合があってね。停戦協定を結ばないか?」
「停戦……?」
「ああ、我々はEクラスと違い習い事など時間の制限がある。なので……そうだな、四時だ。本日午後四時までに決着がつかなかった場合、戦況を保存して翌日に持ち越す。どうだ?君らも長時間放課後に拘束されるのは嫌だろう?」
「……」
「代表さん、ここでアイツ倒しちゃダメなの?」
おそらく相手はBクラス代表。
ここで即座に殺してしまった方が解決になる。
「それは難しいだろうな。戦力的にもそうだが、ヤツは教師に『代表同士の話し合いの機会を』と非戦意思を示しているはずだ。そんな所に宣戦すれば教師のヘイトは俺たちに向く」
「そっか……」
目先の餌に食らいついた私を冷静に宥める代表さん。
ならこの交渉を受けるかどうかだけど……
「よし。その提案、受けよう。どうすればいい」
「えっ、受けちゃうの」
「ああ。俺や明久ほどでは無いが戦争に積極的だが、自由時間を拘束されたくない奴もいる。通常時間で済むならそれはそれでいいだろ」
「ふん、底辺とはいえ代表となると少しはまともだな。じゃ、場所を変えよう。学年主任に話をつけてある……そうだな、残り人数も少ないようだし、俺たちの不意打ち警戒で全員だ。ついてこい」
答えも無く代表さんが立ち上がり、それに倣って残った生徒も立ち上がる。
「おい、そこの観察処分者。お前もだ、ついてこい。じゃなきゃ停戦は合意とは見なさない」
「フタガミ。仕方ない」
代表さんの呼びかけには逆らわない。それが鉄則。
「了解、代表さん……」
全員連れ出すなんて不自然なことにヤなカンを感じたけど……私まで行けば代表さんへの不意打ちにはほぼ確実に対応できる。
とりあえずは、それが最善か……
♢♢♢
「うわ。こりゃ酷い……」
「まさかこうくるとはのう……」
何やらしてるのを見てから教室に戻ると、空き巣に遭った部屋が見えた。
「地味じゃが、点数に影響の出る嫌がらせじゃの」
破壊されたちゃぶ台やへし折られたシャーペン、ちぎり取られた消しゴム。
床が畳である以上、まともにテストを受ける事は出来ない……
「はぁ……何?試召戦争って、ここまでする戦争なの?」
クラス間、ただの競い合いと思ってた。
ある程度、仕切りを作ったゲームだと思ってた。
敵の戦術を妨害するなら分かる。それは競い合いにおいて重要なファクターだ。
戦力の基礎を潰すってのは……私にとっては……ただの悪あがき。
♢♢♢
……だが、オレにしてみればそれは、重罪だ。
「まぁ、直接的な暴力でない以上、おそらくルールに違反はしない。気にするな、これらの補充は流石に学園側がするだろう。仮にも教育機関だ、それさえできない設備にはしない」
「……代表、これをしたのはBクラス。他に考えられるか?」
「いや、無いだろう。Bクラス代表の根本は卑怯で有名だ。まず間違い無い」
「……なら、やり返して問題無いな」
相手の妨害をしていいのは、される覚悟を持つヤツだけだ。
「待て。そんなヤツと同じ事をしてどうなる。停戦の条件は戦争行為の一切を禁ずるものだ。今動けば姫路の体力温存というメリットを失うだけだ」
「……ちっ、いいだろう、今日の所は抑えてやる。代わりに姫路を温存するという理由なら、姫路には大きな戦力となってもらう」
「当然だ。俺たちはおろかBクラス代表だって姫路に敵うものか」
「……いいだろう。なら破壊された物品は全てオレが持とう。文房具ならば鞄に無限に入れてあるし、机も明日の朝には用意する」
破壊されている分の文房具くらい、オレの能力をしてみれば造作も無く補充できる。
姫路瑞希に勝負を任せる以上、それはテストの点数に他ならない。
「……ほら。よく失くすんでな。無限に予備はある。勝つためだ、全て寄付する。代表、これで文句無いな?」
「あ、ああ。助かる、が……いいのか?全員分となると相当だぞ」
「……こんなもんタダ同然だ。ただし代表……オレの行動を妨害した以上、負けたら……殺す」
オレなら即座にBクラス代表を洗脳し即座に戦争に勝利する事ができる。
だがこの世界にある以上、オレは世界に中立でなければならない。そんな中でオレ達を指揮する立場の存在ならば……従うのもやむなし。
「……はぁ、そもそも……そのつもりだ」
「……?」
「おい、他の奴らは戦線に移れ。秀吉、明久もだ。護衛は元の護衛とフタガミだけでいい」
「雄二!?」
「明久。俺たちは勝つ。危ない橋じゃない。叩いて渡れる橋をゆっくり進める状態だ」
「……わかったよ、負けたら許さないから。行くよ、秀吉」
「うむ」
♢♢♢
「はぁ……やれやれ、あれだけ言って待機だとはな」
「フタガミ、お前、学年上がって悪態が出てきたな……」
「……お前、須川か。護衛にいたのか……別に悪態ってワケじゃない。状況に応じて動く面倒さを嘆いてただけだ」
オレは中立だからな。
どの陣営だろうが必要なら手を貸すが……動かなくて良いなら姉さんに代わるか。
「そうか?坂本の作戦はこれ以上無いくらいだと思うがな。姫路の戦力は何をおいても尊重するべきだ」
「……そーだな。まぁいいよ、どーせオレ達が勝つんだ、その過程にまで干渉はしない」
「そうか。そのやる気の無さの方が見慣れてる」
「……」
「お、おい?どうしたどうした?急に放心するな怖いだろ」
「ねぇ……『うんこ味のカレー』と『カレー味のうんこ』のどちらかを食べなきゃいけなくなったらどっち選ぶ?両方食べるもアリ」
この場合……味がカレーだからと『カレー味のうんこ』を選択する人間とは相容れない。
味がたとえ三ツ星レストランのものだろうがうんこ食べる選択をする思考回路には甚だ呆れるばかりだ。目先の味とかいう感覚の為だけに雑菌の塊を食するなんて。その選択をしたならばアルコールやタバコ、更にはネットやニートなどを肯定すると同義だ。生命は生存を目指すんでしょ?ならなんで死に近づくと分かることをする?
「うぉ!?急に訳わからんこと言い出したぞ!?おい坂本!フタガミが壊れた!」
「なんだ?」
「ねぇ代表さん。歩いて買い物行けない高齢者の為に運転免許の更新期限を延ばす意見に私情と偽善以外の正当性があると思う?」
「うぉ!?どうしたお前、慣れない試験に壊れたか!?」
「いや坂本、この学校で試験に慣れないのは致命傷だろ」
高齢者、基準の年齢は上下するが心身ともに劣化した人間を指す言葉だ。
そんなのが50キロで動く1トンに近い鉄の塊を操作するなど言語道断だろう。その気にならなくとも数人を致命に追いやることは容易い。器物損壊ならば更に容易だ。
ならば知性を持つ生命の結論はひとつ。免許剥奪だ。
その高齢者の生活など知った事ではない。車や家を売り払いスーパーの近くへ移住するなり現代日本には某密林をはじめとした配達サービスが存在する。それでも生活できないというのならそれが寿命だ。自分1人のために複数人を傷付ける可能性を生むな。原始時代か?愚かな。
「やれやれ……仕方ない。しばらく放っておけ。戦力的にはどうでもいい」
「あ、ああ……了解」
「障害者が普通の人だって叫ぶのを違法にする世界ってどこにあるのかな。普通だって思い込みたいだけなのに、謎の権利を主張するのは間違いじゃない?」
「……さて、須川、別の作戦も考えとくか……」
「あ、ああ……」
障害者が普通の人だっていうのなら障害者なんて言われやしないし、普通の人なら普通の権利を主張したりしない。普通じゃないんだから障害だってのに、そうまでして普通にしがみつきたいのか?
全盲が障害ならメガネやコンタクトレンズを使わないと生活できない人も障害だ。補聴器がいるならそれもだ。普通だってならそれらを使わずに生活してろ。それで生活できないなら普通じゃない。
「はぁ……十全に考えられる知性を持って生まれたはずなのに……なんで世界にはこんなにも感情で生きる知性体が存在するんだ……こんな世界、やっぱりどの世界にも意味なんて……」