『ゼンマイじかけの植物』
俺はそれを知らない。
…いや、知らないというのは違う気がする。
なんというか、ここにあったのはこんな彫刻と言うか置物と言うより…
植物の絵だったような気がする。
…だめだ、マジにうろ覚えだ。
まぁいいや。絵だとしても彫刻だとしても。先に進めりゃどうでもいい。
既にギミックが解かれているってんなら、壁にくっついたでかい唇でも探すとするか…?
いや待て。
…そう。
これは観光。
つまりじっくりと見る義務がある。
そうは思わんかね?
…誰に説いてんだ俺は。
とりあえずただ通り過ぎるのももったいないので適当な扉を開けてみる。
カラフルな服を着た黒人間たちの絵の中に、ずたずたにされた赤いインクまみれの、茶色い服の人の絵があった。
…そういやあったな。『嘘つきたちの部屋』だったか?
この茶色いやつはイヴに本当のことを言ってしまったがために、逆に嘘つき呼ばわりされた少し不憫な絵だ。
小さい頃は「嘘はダメ」なんて散々教えておきながら、ある程度大きくなると「嘘もつかないとダメ」とかいうクソ仕様に対応しないといけなくなるのは、俺も何回か味わった。
正直者はバカしか見ねぇのかねぇ。なんつって。
「で、ここの廊下には人形がぶら下がってる訳でっ……!?」
なにかにつまずいた。
…この体格に慣れてないせいでもろにすっ転んだ。
めちゃくちゃ痛い。泣きそう。てかちょっと泣いた。
マジで痛みは再現しなくてよかっただろうが…!
「~~~~っ!……なんだこれぇ…緑の…ぜんまい?」
でかい口をくぐったその先。
これまたギロチンのギミックも無くなった廊下を通る。
長くて、暗い廊下だ。
…こりゃ大人のギャリーでもビビり散らかすよな。
ホラーゲームとはいえ、9歳の少女がこんな誰も頼れない、変な化け物だらけの暗い道を歩いてきたのか。
これからは敬意をもって「イヴさん」と呼ぶことにしよう。
ドアを、開けた。
ガサガサガサガサガサガサ
ガタガタガタガタ
地面をはいずるような音と、それに続いて硬いものが地面を引きずる音。
…どうやら、ギミックは無くても、敵キャラは再現できているようだ。
『赤い服の女』が迫ってくる。
てけてけという妖怪を思い出す動きだが、額が地面を引きずる分、十分少女の脚力で逃げられるスピードになっている。
さて。
俺は気になった。
俺はゲームでのHPの役割を果たす薔薇を持っていない。
そしてこいつらは薔薇を狙って攻撃してくる。
つまり俺は薔薇を持ってないから狙われないんじゃないかと。
あるいは、HPが設定されていない俺を攻撃したら、何かしらバグるんじゃないかと。
さぁ、どうなる!?
長く伸び、床をはいずってガタガタになった爪が俺…イヴの体に襲い掛かる。
そして。
ざくりと皮膚を裂き、赤が散った。