ペルソナ5 -gospel amen-   作:幻想フラクタル

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何事も下拵えから

 

「母さん、欲しいものがあるんだけどいい?」

 

「欲しいもの!? 勿論よ! 何が欲しいの? おもちゃ? それともゲーム機かしら?」

 

「ホルダータイプのルーズリーフと予備の用紙、あとボールペンも欲しいです」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

幸運にも与えられた自室。そこで机にペンとノートを準備した。

 

「……さてと、じゃあ始めますか」

 

この世界での母に紙と筆を所望した所、怪訝な顔をされたが用意してくれた。

まぁ5歳児が初めて欲しいものがあると口にしたものがこれとか困惑されても仕方がないと思う。

とはいえ、今玩具だのゲームだのは申し訳ないが必要ない。

 

「4/9、土曜日の午後、主人公が四軒茶屋のルブランへ。次の日曜日で秀尽学園に挨拶参り

 を……」

 

忘れてしまう前に、思い出せる限り、書き出していかなければならない。全てを。

 

「佐倉双葉は本来高校1年生とされる年齢であるが、高校へは進学しておらず、その原因は作中の

 2年前に起きたとされる廃人化事件が原因で……」

 

自身が持てる最大のアドバンテージ、最強の武器。それは「情報」、「未来の知識」。

これから自分は『怪盗団』と密接に関わる事になる。そうして世に蔓延る巨悪と戦い、偽りの統制

を敷かんとする悪神と戦い……最後はきっと『怪盗団』と戦う事になる。

怪盗団が丸喜先生の現実を選んでくれれば楽なのだが……恐らくそうなってはくれないだろう。

 

「……このパレスではまず5枚の紹介状を集める必要がある。これを所持しているのは5人のVIPで

 あり、其々のVIPとは戦闘に……」

 

ならば自ずと役割は決まってくる。獅子身中の虫となって知り得る情報の全てを横流しする事。

そして『怪盗団』の一員として悪神討伐まで最善を尽くし、全身全霊をもって戦い抜く事。

その上で可能であれば、『怪盗団』を説得し丸喜先生の現実を受け入れさせる事。

―――受け入れられなければ、『怪盗団』と、刃を交える事。

 

「えーと、〈酔いどれる多頭蛇(ヤマタノオロチ)〉は物理と氷結、疾風と呪怨属性に耐性が……あ違う氷結属性は吸

 収だった。確か特性は【後追いする冷血】だったかな、効果は……」

 

自信を持って言えるがこの世界は決してゲームなどではない。紛れもなく本物の現実だ。

フィクションなどでは断じてない。歴とした確立する一個の世界。

そんな現実世界に、セーブもコンテニューもリセットも当然ない。やり直しなど出来はしない。

情報の精度はそのまま生存率に直結する。役割を全うする為にも敗北は決して許されない。

 

「絶対に負けない……負けてなんてやらない……!」

 

こんな世界で、こんな腐りきった社会に反旗を翻す為にも。

才能に、富に、名声に、地位に、生まれに、縁に、絆に、そんなものに恵まれた奴らに。

そんな持てる人間なんかに―――。

 

「負けて、たまるか……!」

 

自身の持てる全てを費やし、ペンを走らせ続けた。

 

 

 

 

 

 

「……できた、完成だ」

 

最後の書き出しを終えノートを閉じる。やっと納得のいくものが出来た事による安堵感と疲労感で

脱力し椅子に深く腰掛ける。かなり姿勢が悪いが今だけは許してほしい。

 

「はぁ……これがパソコンとかだったらもっと速く終わっただろうけど……」

 

パソコンであれば誤字脱字の修正は勿論、そもそも記述する労力と時間をもっと短縮できた筈だ。

だが今の私は自分用のパソコンなど持っていないし、あったとしても使う事は絶対にあり得ない。

 

「パソコンに残して双葉にハッキングでもされたら……いやそもそも悪神が怖すぎる……」

 

そう、悪神と双葉の存在がある以上パソコンに情報は残せない。

『認知の異世界』に移動する為のツール、『イセカイナビ』。あのスマホアプリを制作したのは悪神だ。『赤いイセカイナビ』と『白いイセカイナビ』がある為、悪神がイゴールからアプリを奪って自分好みに改造した可能性もあるがそれも結局知識がなければ出来ない芸当だろう。

しかも奴は「正義の水掛け論は見てて面白い」とテレビ番組を見ているかのような発言もする。

更に奴の外見はメカメカしい機械そのものと言って良い風体だ。総合すると「悪神は電子機器の類に精通している可能性がある」のだ。怪盗団と関わっていく以上、私自身も監視対象になる。

奴にとっての駒はペご主と明智である為そっちにお熱だろうが……迂闊な事はあまりできない。

 

双葉の存在も脅威的だ。

佐倉双葉(さくら ふたば)』は掛け値なしの天才、彼女のプログラミングスキルは感嘆の一言に尽きる。

怪盗団が明智の策謀を確信できたのも双葉の尽力によるものだ。そうでなくともペご主のスマホにアプリを仕込んだりとやりたい放題してくる。彼女の頭脳に打ち勝つのはまずもって不可能。

もし……もしもペご主と同じように、遊びであれおふざけであれ電子端末にハッキングされ情報を抜かれるような事態になればその時点で全ての企みは露見し、私の悲願は無に帰す事になる。

 

そんな危険性を孕んでいる以上は、涙を飲んでアナログな手段に募る他ないという訳だ。

 

「おかげで完成に漕ぎ着けるまでに一週間以上掛かってしまった……そして……」

 

ノート後半にあるページを開き、そこに記述した文章を眺める。そこにあるのは……。

 

「『怪盗団』とどう接触し、どう関わり合い、どう騙し抜くかが描かれた計画書……とうとう作っ

 てしまったよ……」

 

『怪盗団』からの心象を良くする為、原作に沿いながら原作よりも事態を好転させるよう動く必要

がある。ナビアプリを頂戴したり、ペルソナに目覚める必要性があったりとあちこち楽観的で希望

的観測が含まれる上、所々良い案が思いつかず空欄のところもあるが……それでも概ね形にはなっ

た。これらは全て……『怪盗団』を裏切る為の作戦資料。

 

「はは……かつて愛した人物達を真っ向から裏切る……もうペルソナファンは名乗れないな……」

 

だけどこの決意に揺らぎはない。今更取りやめたりはしない。

だってこのまま流れに身を任せてしまえば、待っているのはどうしようもない絶望……破滅だ。

彼らは強い。例え絶望してもそこから必ず立ち上がり、あらゆる破滅を跳ね除けて見せるだろう。

でも私はそうなれない。なれなかったからこそ流れに逆らう事が出来ずに死んだのだ。

もうあんな屈辱的な人生は二度と歩みたくない。

なにより―――。

 

「私は決めたんだ……この社会を、人間を絶対に許さないって」

 

故に迷いはない。

「ペルソナファンである自分」ではなく、「一人の人間としての自分」を選ぶ。

ただそれだけの事。今更愛だの友情だの必要ない、そんなものでは救われないのだから。

 

「今日から私は、僕だ。僕は “村上 九十九” 。『怪盗団』の仲間、友人にして…… “裏切者” 」

 

そうして今日、()()()()()()()

さぁ、行こうか。『村上九十九(むらかみ つづら)』としての人生を歩もう。

 

 

 

 

 

 

「『そうしてついに我々は完成させる事が出来た。テレビやエアコン、電子レンジ等の電化製品に

 携帯電話から電話を掛けることで遠隔操作が行える発明品が。』っと」

 

6歳になり小学生となった僕は今、ネットに小説を投稿している。

ダメ元で冗談交じりに「パソコンが欲しい」と言ったら二つ返事で快諾してくれた。

正直甘やかしが過ぎると思ったが、それでも目的達成の為に非常に助かるのも事実なので、余計な事は口にせず素直に感謝した。

 

そんな訳で、与えられたノートパソコンにカタカタと打ち込んでいる訳だが……。

 

「(今の僕、すっごいヤバい事をしている……P5Sの “夏芽 安吾” と同じ……いや、もはや以下だ…

 …)」

 

夏芽安吾(なつめ あんご)』。

無印『ペルソナ5』の続編、『ペルソナ5S』にて登場する敵役の一人。

新進気鋭のラノベ作家として名を馳せ、デビュー作である『プリンスオブナイトメア』にて100万部を突破したベストセラー作家なのだが……勿論これには裏がある。

この作品、他者の作品から内容をそのまま流用し、ただ切き貼りして繋ぎ合わせただけのオリジナリティ皆無の作品だというのが双葉の見解により発覚する。所謂「盗作」をしているのだ。

人々の心を操ることで熱狂させ、作品に無我夢中にさせることで人気を保っていたというのが事の真相だった。

 

―――そう、「盗作」。僕は今、まさに「盗作」をしている。

 

「( “これ” の元となった作品が、この世界にも存在していたのかはわからない。少なくともこの時

 代に存在していない事は確認済み。それはそうだろう、仮に存在したとしてもそれはもっと先の

 時代だ、今じゃない)」

 

その内容は「タイムトラベル」。とある学生サークルが偶然にもタイムマシン機能を備えた発明品を生み出してしまった事で、大切な隣人達を巻き込み、世界の命運、未来を左右する運命へと誘われてゆく物語。

 

この作品の登場により、「世界線」や「タイムリープ」といった概念が広く知れ渡る事になった程の影響をもたらした不朽の名作だ。

 

そんな作品のシナリオを、オリジナル要素の追加や細かな設定の改変等をしながらそのほとんどを丸々流用している。前世界における知識を悪用した最悪の行為に他ならない。

 

「(必要な事だから仕方がないとはいえ本当に恥知らずだなこれ……こんなの祐介が知ったら激怒

 するだろうな……いや他の面々も同様か……)」

 

未来においてこの行いは『怪盗団』に告げる必要性がある。正直今から胃が痛いが今更取りやめる訳にはいかないので感情を圧し殺し執筆を続けた。

 

 

 

 

 

 

「き、君が、 “ヨルノ トバリ” 君……なのかね?」

 

「はい、僕が『Ouroboros:ARCH』の作者、 “ヨルノ トバリ” 本人です」

 

「な、なるほど。そうなのだね……」

 

1年が経ち7歳になった。僕は今、大手文庫レーベルである「黒川文庫」から公開しているネット小説の書籍化のお誘いを受けた為、両親と共に出版社に赴き面談に伺った所だ。

 

「(うーん、思ったより早かった。好都合だから別にいいけど)」

 

Ouroboros:ARCH(ウロボロス アーチ)」というのは僕がネットに公開している盗作小説のタイトル。「ヨルノ トバリ」はネット活動において僕が使用しているハンドルネーム、つまりは僕自身の事だ。

目の前にいる編集長は目を丸くしながら両隣にいる両親へ訪ねた。

 

「え~、ご子息がこういった活動をしていた事はご両親方はご存知で……?」

 

「い、いえ! まったく知りませんでした! パソコンに夢中になって何をしてるのかなとは思って

 いましたが……」

 

「お恥ずかしながら今回の件で初めて知りました……まさか書籍化のお話を頂く程とは……」

 

「(まぁ言ってなかったからね)」

 

両親は僕がしている事をあまり詮索してこない。恐らく僕が変な事はしないとわかっているというか、ズケズケと踏み込んだ結果拒絶される事を危惧したのだと思う。

もし聞かれていたら正直に答えるつもりではあったけれども。

 

「という事は、君は本当に一人でこの作品を?」

 

「はい、僕一人で執筆しておりました」

 

「誰かに手伝ってもらったりとかは」

 

「いえ、しておりません、周りにも話していませんでしたから」

 

「……君は本当に小学生かね?」

 

「はい、紛うことなき小学生です」

 

尤もそれは肉体年齢に限った話で精神年齢は中年期に差し掛かる。

そんな事をわざわざ言うつもりもないが。

 

編集長は驚きを隠しきれないままに今書いているネット小説の書籍化の話へと移した。

勿論断る理由はどこにもない為快く承諾する。未来の為に金を作る必要があるのだ。

「文章を扱う物書きとしての在る事」と「金がある事」を両立させなければならない。

 

そうして話はとんとん拍子に進み、書籍化の話は円満に纏まった。

両親と共に帰路に就こうとしたところを最後に聞きたいことがと編集長に呼び止められた。

 

「なんでしょう?」

 

「君は……女の子、なのかね?」

 

「違います、れっきとした男子です」

 

なんだその無駄な質問は。見ればわかる事でしょうに。

 

 

 

 

 

 

『ふっ……これぞ、ウロボロスの導き!』

 

『厨二乙』

 

「おー滑らかに動いている、自然な動きだね」

 

10歳となった僕は今、自室でアニメーション作品を鑑賞していた。

他でもない自作小説、「Ouroboros:ARCH」のアニメ化映像を。

 

「キャラクターデザインも僕が手掛けた通りだ、前世の経験が活きたよ」

 

シナリオもキャラクターも演出も全ては自分の思い通りだった。

書籍もグッズも売れ行きは好調で、「ヨルノ トバリ」は名実共にベストセラーとなった。

 

思わず胸を撫で下ろした。無事に軍資金が手に入った事で予定通り活動出来る。

「作家」としての肩書きも付随した事で自身の体裁も完璧だ。

 

けれど、そこに一切の喜びはなかった。

 

「……嬉しくないなぁ、これ」

 

喜べる筈もなかった。

どう言い繕うが、あり得ざる手段によって得た知識を悪用して生み出された作品。どこまでいっても盗作でしかない。そんなものをどうして誇れようか。

 

「仕方が無いんだ……必要な事なんだ……きちんと無かった事にする……だから……」

 

そんな言い訳を、自分に言い聞かせるよう口にしながら、心に蓋をする。

アニメ鑑賞を中断し、小説の執筆を続けた。

 

必ず来たる日の為に。より良き未来を手にする為に。

 

 

 

 

 

 

「『未来の事は誰にもわからない。だが、確定した未来など何もない以上、そこには無限の可能性

 が広がっている。だからこそ、自らが望んだ未来を手にする為にも、まずはここから……0から

 始めてみようと思う。―――もう二度と、後悔しないように』……終わり! 完結!」

 

最後にエンターキーを叩き執筆を完了させた。

小学6年生、12歳になって今ようやく完結にまで漕ぎ着ける事が出来た。

 

「完成だ……後はこれを担当に送信して、確認してもらい次第投稿するだけ……長かったな……」

 

長かったし、なにより辛かった。

人の褌で相撲を取る事がここまで神経をすり減らすとは思いもよらなかった。

こんな行いをよく『斑目一流斎』は長年続けられたものだと心底思う……。

 

尤も耐えられなかった故にあの()()()に縋る他なかったのだろうが。

 

「何はともあれ……小説は無事完結させて、僕も中学に進学する。結局この学校じゃ誰とも会え

 なかったな……」

 

そう、『ペルソナ5』の登場人物達はこれまで通ってきた小学校にはいなかった。

自身の年齢と『ペルソナ5』劇中本編の年代を重ねると、自分はペご主や竜司、杏達と同学年であった。

 

「ペご主は兎も角として、竜司と杏、鈴井 志帆は同じ中学校だったと設定資料集にもあったから

 そこに期待したいな。早々に出会って関係性を構築出来るのはかなり大きい」

 

『ペルソナ5』の最序盤でスポットライトが当たる3人と交友関係を結んでおけば物事がスムーズに進行できる為、可能なら今の内から出会っておきたい。……どこの中学校に進学したかはまるでわからないが。設定資料集にも特に記載されてなかった。

 

「3人がいなかったとしても、もしかしたら後輩として双葉が進学してくるかもしれないし、真や

 春や祐介がいるかもしれない。三島 由輝とかと出会ってもそこまで嬉しくないかなぁ……逆に

 明智と出会すのは御免被るね」

 

『ペルソナ5』のメインキャラクター達を、本当の意味で目の当たりに出来る。

その事実の前に思わず胸を弾ませ、彼此と思案しながら未来を待ち望んでしまう。

 

その未来の先でどうなるかなど、忘れたままに―――。

 

 

 

 

 

 

「えぇ……嘘でしょ? 誰もいないんですけど……」

 

無事に進学して中学1年生になった……のは良いものの、通いやすい中学校であればどこでも良いと適当に選んだのが仇となったのか、そこには誰もいなかった。

 

竜司も杏も鈴井 志帆も、真も春も祐介も、三島 由輝や東郷 一二三はおろか明智すらいなかった。

 

「(学校見学とか出来ればよかったんだけど……忙しくてそんな暇がなかった……)」

 

アニメ化第二期に関する話やゲーム化、グッズ展開、大量の色紙に自筆でサイン、小説が受賞した事に対するコメント発表など慌ただしくなった事で身動きが取れなくなっていた。

 

本末転倒とはこの事を言うのだろうと痛感する。

 

「あぁもう……こうなった以上は仕方がないし、大して出来ることもないから高校進学までの間、

 無難に過ごして大人しくするしかないかな」

 

 

 

 

 

 

「ペルッソナ……ペル、ソナ……!」

 

何てことない、ただのありふれた休日。

来たるべき日に向けて身体を鍛えるべく自室で鍛錬をしていた。

今はスクワットに励んでいる。

 

秀尽学園に進学さえ出来れば、最早『怪盗団』の一員になったと言っても過言ではないだろう。

だが『怪盗団』になる事は決してゴールではない。寧ろそこで漸くスタートラインに立てるのだ。

 

これから運命に立ち向かうべく激闘に身を投じようというのに、「筋肉痛で動けません」では話にならない。『認知世界』はイメージが物を言う世界だが身体はそのまま資本になる。

 

実際ペご主もトレーニングをする事でHP、SPを底上げしていたのだから間違いない。

 

「ペル、ソナ……ペルッ、ソナ……!」

 

掛け声が「ペルソナ」なのはイメージトレーニングを兼ねていたりする。

ペルソナを召喚するイメージを今の内から固めておきたい。

 

この世界における『ペルソナ能力』とは、理不尽や不条理に対する怒りの現れ、反逆の意志。

そんな怒りを、恐れる事なく立ち向かう覚悟と共に心から放出するイメージで……!

スクワットッ!

 

「ペルッソナ……ペル、ソナ……ペルソナッ!」

 

…………?

視界がゆらゆらと、まるで水面のように揺らいでいる気がする。

 

気のせいと断じて鍛錬を続けた。

 

 

 

 

「あら? さっきまで居たと思ったのに……いつの間に出掛けたのかしら」

 

 

 

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