人類史の汚点がヒーローを目指すようです   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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努力は裏切らない

「俺ヒーローやる!」

 

「俺もヒーロー!」

 

「私も!!」

 

 個性という物が発現して数世紀

 

 今や世界総人口の8割が何らかの特異体質を持っていた

 

「私もヒーローやりたいな···」

 

「那智はダメ!」

 

「那智はヴィランがお似合いだよ!」

 

「やーい、ヴィラン!」

 

 様々な個性が発現したことにより、個性を使った犯罪が増加し、それに対抗して物語でしかなかったヒーローという職業が脚光を浴びた

 

 ヒーローはヴィランを捕まえ、市民を守る

 

 多くの子供達も昔はプロスポーツ選手を目指した様に、プロヒーローを目指すようになった

 

 超人的なパワーだったり、火や氷を操ったり、動物の能力を使ったり···皆それぞれの特技を活かしてヒーローを目指す

 

 ただそれと同時にヒーローらしい個性とヴィランらしい個性というレッテル貼りが自然と行われてしまう

 

 土井那智(どい なち)もヒーローに憧れる少女であったのだが···

 

「お前の個性、人類の敵じゃん」

 

「やーい犯罪者!」

 

「ヒーロー太郎見参! 悪いヴィランを退治してやる!」

 

「痛い! 痛いよ! うぇぇぇぇん」

 

「「「アハハハ」」」

 

「見たかヴィラン! 正義は勝つ!」

 

 生まれてから4歳までに個性が発現する

 

 ヒーローらしい個性、人の役に立てる個性、色々な個性が存在する

 

 皆が遊んでいるところを見ながら那智は木の上に登って隠れる

 

「···私もヒーローしたいもん···したい」

 

 両目の逆卍の瞳に涙を溜めながら遊んでいる子供達を見る

 

 遊ぼうと近づけばまた攻撃される

 

 気が付かれたら攻撃される

 

 他の子に気が付かれないように家に帰る

 

「···ただいま」

 

 家に帰っても返事は無い

 

 今日は妹と両親は遊園地に行っていたハズだ

 

「···何で私だけ···」

 

 汚れた服を脱いで、お風呂場で洗う

 

「···何で···何で···」

 

 それは個性によるもの

 

 鏡を見る那智の体には鉄十字とハーケンクロイツが入れ墨の様に彫られていた

 

 いや、痣である

 

 蒙古斑と呼ばれるもので、生まれつき体にこの痣があったが、個性が発現してからは色が鮮明に付き、鉄十字は黒く、灰色に、ハーケンクロイツは血のように赤黒く鮮明になっていた

 

 個性···『ナチス』

 

 人類史の汚点、史上最悪の殺人集団、差別主義の塊···国民社会主義ドイツ労働者党、通称ナチスドイツ

 

 彼女は個性が発現した時から十字架を背負わされていた

 

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から疑惑で始まった

 

 那智は両親共に日本人で個性も電気を操ると石炭を排出するというエネルギー一家であり、裕福な家庭であった

 

 ただ日本人的な黒髪、黄色人種であり、那智が生まれた時に全員が? を浮かべた

 

 両親のどちらも似ていない金髪に白人を思わせる白い肌、真っ赤な瞳···これがもし母親が産んで直ぐに見ていなかったら自分の子供とは思えなかったであろう

 

 父親も最初託卵を疑ったほど親族の誰とも似ていなかった

 

 DNA鑑定で両親の子供と証明されたが、両親はどうしても愛情を注ぐ事ができなかった

 

 翌年生まれた妹は両親によく似た黒髪、黒目であった為に余計愛情が妹の方に向いてしまう

 

 個性が発現して更に顕著になる

 

 親族の誰とも似ていないし、巨悪である『ナチス』という個性

 

 片や妹はモーターという個性で発電も運動にも応用が効く素晴らしい個性だった

 

 何より両親の良いとこ取りをしたような個性である

 

「お姉ちゃんは何でそんな悪い個性なの? あ、そっか、お姉ちゃん生まれる前に悪い事をしていたから悪い個性になるんだよ」

 

 知らない

 

 私は悪い事なんかしていない

 

「那智、これでも食べてろ」

 

 私だけシリアルとかで温かいごはんを作ってもらった事は無い

 

「何でいつもボロボロで帰って来るの! 私達が虐待しているみたいじゃない」

 

 私は悪くない

 

 他の子に攻撃されるんだ

 

 あと私だけ何で他の子の古着しか着せてくれないの

 

 私だっていもうとみたいに新しい服が着たい

 

「我慢しなさい。お姉ちゃんでしょ」

 

 都合の悪い時はお姉ちゃんでしょ、我慢しなさい···

 

 私は一度もお母さんやお父さんに遊びにも外食にも連れて行ったうもらってないのに···

 

「うぐ、ひっぐ···」

 

 テレビを付けるとヒーローのニュースがやっていた

 

『私が来た!』

 

『私がなぜ戦えるかって! それは市民の皆さんが応援してくれるから! 私は皆さんが安心して暮らせる世の中を作りたい』

 

『プルス・ウルトラ! 更に向こうへ!』

 

「···オールマイト···私もヒーローになりたいよぉ」

 

 暗い部屋の中で小さな身体を震わせて私は泣き続けた

 

 

 

 

 

 

 ある日、家族が居ない時にテレビを見ていたらとあるヒーローがこう言った

 

『ヒーローになりたいなら誰よりも努力をしなければならない。努力して、努力して、努力した結果、皆に認められる力を手に入れられた。努力は裏切らない! だろ!』

 

 筋肉ヒーロー パワーマン

 

 ヒーローのランキングで決して上位のヒーローではない

 

 しかし、努力した結果、テレビでも注目されるヒーローとなった

 

「努力は裏切らない」

 

 その言葉を聞いてストンと体に電流が走るような感覚を覚えた

 

「努力をすれば認められる。努力をすれば振り向いてもらえる。努力は裏切らない」

 

 5歳の夏、那智は努力を始めた

 

 

 

 

 

「ヒーローたるもの、現場に着いて活動しなければいけない! 無尽蔵のスタミナ!!」

 

 那智は河川敷を裸足で走る

 

 靴がすり減れば怒られるからだ

 

 河川敷であれば遊んでいる様に見えるから裸足で走っても文句は言われない

 

「ヒーローたるもの力が強くなければならない! 無限のパワー!」

 

 那智は廃棄されたタイヤを押す

 

「タイヤは友達!」

 

 押して良し、引っ張って良し、投げて良し、持ち上げて良し

 

 身体を鍛えるのにうってつけである

 

「ヒーローたるもの知識を詰め込むべし! 知識が無ければ始まらない」

 

 そもそもなぜ自身が嫌われているのか、ナチスとは何かを知るために図書館で調べる

 

 ただ資料を読むために漢字がわからず、漢字を覚えるところから始める

 

「ヒーローたるもの個性を鍛えるべき! 個性が強ければ皆を守れる! 尊敬される!」

 

 ナチスという個性で何ができるのかを試していく

 

 雨の日も、雷の日も、嵐の日も、雪の日も、暑い日も、寒い日も、那智は努力を続けた

 

『筋肉ヒーロー パワー 違法薬物のドーピングを使用、努力ではなく薬の力で強化された仮初の力であったことが判明、公安委員会はヒーロー免許剥奪を視野に調査を続けており····』

 

 目標にした人が裏切っても

 

「ヴィランがタイヤで遊んでら! 壊してやろ」

 

 友達(タイヤ)を壊されても

 

 決して努力を辞める事をしなかった

 

 誰かに認められたい

 

 承認欲求が那智を動かし続けた

 

 

 

 

 

 

 

 小学校に上り、始めて両親からお下がりではない物を貰った

 

 ランドセル

 

 赤い奇麗なランドセル

 

 お母さんもお父さんも入学式に来てくれた

 

 今日だけは私が主役! 

 

 嬉しかった

 

 家に帰ったら今日くらいは一緒に食事ができると思った

 

 ···現実は違った

 

 家に帰ったら1000円が置かれていた

 

『今日からお金を渡すからそれで食事をなんとかしなさい』

 

「うっ···ひっぐ···なんで···」

 

 その日から本当に食事も用意されなくなったし、服も用意してくれなくなった

 

「な、泣かないもん! ヒーローたるものこんな苦難どんとこい! ···ひっぐ」

 

 ポロポロと涙をこぼしながら那智は1000円を握りしめて買い物に向う

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ最近買い物に来る小学生の嬢ちゃん···あの子大丈夫か?」

 

 商店街の会合で八百屋の親父がそう言った

 

「あぁ、那智ちゃんか、元気な子だよな」

 

「元気だけど少しボロい服で毎日買い物に来るのが気になるんだよな。確か小1だろ? うちのガキら高学年になっても遊びしかしてないのに、遊ばないで買い物ってどうなんだ?」

 

「那智ちゃんの家ってこの辺じゃないでしょ。前に家を聞いたら隣町だったぞ」

 

「隣町から来てるんか」

 

「何でも鍛えるために走ると丁度よいんだとか」

 

「へえ、立派な子だな」

 

「気になって少し聞いてみたんよ。お母さんやお父さんはって···お父さんもお母さんも仕事で忙しいから家事は私がやるのだってよ」

 

「かぁ! 凄く良い子じゃねえか」

 

「でもよ、その時に暗い顔したのが気になったんだよな」

 

「なんかあるんかね」

 

「あまり家庭の事情に突っ込めねぇけど困ったら相談しろよって言ってるから大丈夫だとは思うが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 プールの日、那智は学校指定の水着を着ていた

 

 ただ水着を着ても両肩に浮かび上がっている逆卍がタトゥーみたいで嫌だった

 

 水着を着てから肩の逆卍に気がついてその日は体調が悪いことにして休もうとした

 

「あら? 那智さん体調悪いの?」

 

「は、はい···少し体調が」

 

「じゃあ見学ね」

 

 その日は良かったが、それが2回、3回と続くと先生も許してはくれない

 

「那智さん、今日は熱もないので頑張りましょう」

 

「···はい」

 

 水着に着替えてクラスの皆のところに行くと

 

「うわ! タトゥー入れてる!」

 

「タトゥーだ!」

 

「違うよ和彫りっていうんだよ」

 

「那智さんそれは」

 

 先生が聞いてきたので個性でできた痣と答えるとそれ以上の追求はされなかったが、クラスからは浮いてしまう

 

 そのプールの痣の模様を調べた意地悪な子が出てきて、それが逆卍、ハーケンクロイツという模様だと調べられ

 

「那智の名前とハーケンクロイツってナチスじゃん! ナチスってすっごい悪い組織の名前なんだぜ」

 

「じゃあ那智って悪役ってこと?」

 

「那智の個性ナチスらしいぜ」

 

「うわ! ヴィランだ! ヴィラン予備軍だぜ」

 

 幼稚園の那智を知っている子も同調し、プール学習後から那智=ヴィラン予備軍と言われてしまうようになる

 

「やーいヴィラン!」

 

「やめてよ、私はヴィランじゃないよ···」

 

「でもお前の個性ヴィランじゃん! ナチスって悪者なんだぜ!」

 

「「そうだそうだ〜」」

 

「私はヴィランじゃない!」

 

 あまりにしつこいのでドンっと、言ってきた子を突き飛ばしてしまった

 

 その子は尻もちをついたが

 

「うわぁぁぁ! 那智が暴力を振るった!」

 

「ヴィランだ!」

 

「ヴィランが本性を現した!」

 

「え、あっ、ちょっと」

 

 先生が仲裁をしたが、その日から嫌がらせを受けるようになる

 

 例えば那智の嫌いな食べ物をやたらと給食でよそってきたり、那智との掃除当番を他の個性がサボったり、上履きを隠されたりなど

 

 体育では真っ先に狙われたり、集中攻撃をされたり、イジメを受け始めていった

 

「我慢、我慢」

 

 我慢すればするほどエスカレートするもので、教科書や筆箱を隠されたり、遂には給食費を奪われた時に那智はガチギレして個性全開で犯人と思われる子を締め上げたのだが、その子は無関係だった為に先生も那智を叱りつけ、イジメを受けていた事を必死に訴えても先に暴力を振るったと

 

「それじゃヴィランと同じですよ」

 

 と言われてしまう

 

 イジメられているのに更に反省文を書かされたが、私は悪くないと書いたが為に親を踏まえて現状を報告され

 

 母親から烈火の如く叱られてしまう

 

 それでも悪くないと意地を張ったが為に危険生徒として特別学級行きとなってしまった

 

 そのクラスは個性が上手く使えなく、暴走してしまったり、個性で他の生徒を害してしまう様な子のクラスだったが、その時の小学校では那智以外にそのクラスに入る子は居なかった

 

 ただそこで担当してくれた教頭先生は那智にとって恩師となる

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