ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
それは、圧倒的だった。
「ドゥ~ラドゥラドゥラドゥラ! 私が一番メンテねぇ!!」
そのウマ娘は、選抜レースをバ身差すら数えられないほどの大差で圧勝してのけた。
観客はおろか、一緒に走っていた子たちすら呆然としていた。
レースに完勝した当人だけが、腰に手を当てて大笑いしている。
「これが最強への……第一歩ドゥラ!!」
そのウマ娘の名は、ドゥラメンテ……ではなく。
エアプメンテ。それが彼女の名だった。
*****
「ええっ!? あんなにすごい勝ち方したのに結局トレーナー契約できなかったの!?」
「そうドゥラ……」
その日の夜。エアプメンテは同室のリバーライトと話していた。
彼女はレースに関しては一年先輩で、去年の選抜レースの時はその日のうちに担当トレーナーが決まったらしい。
対してエアプメンテは選抜レースのあと、殺到するスカウトに対してこう宣言した。
『私の目指すのはただひとつ!! 『最強』ドゥラ!!
まず目標にするのはクラシック三冠!
それに、トリプルティアラ! 両方取れば最強メンテね~!!
あと凱旋門賞も勝ったら超最強メンテ!
だから、ぜーんぶ走らせてくれる人!
その人にトレーナーになってほしいドゥラ!』
「……それで、どうなったの?」
「なんかみんなでザワザワコソコソ話し合ったあと、最終的には一人残らずどっか行っちゃったメンテ……」
エアプメンテは気落ちしてため息をつく。
トレーナー契約ができなければ、そもそも最強どうこう以前の問題だ。
「まあ、大丈夫だよ! だってプメちゃん、すっごく強いもん!」
「それもそうドゥラね!」
この時のエアプメンテは楽観的だった。
しかし、それから何日経っても……エアプメンテのトレーナーは中々決まらなかった。
「なんで契約できないドゥラか~~!!」
トレセン学園の片隅にある大樹のうろの中に、エアプメンテは叫ぶ。
「トホホ……私はこんなに強いのにー……」
実際、トレーナー達にとってのエアプメンテの評価は決して低い訳では無い。
問題は、彼女のぶち上げたアホみたいな目標にあった。
少しでもトゥインクル・シリーズを知っている者ならば決して言う事のない無謀な目標。
それでいて、デビュー前の新人とは思えない実力まで持っている。
もしこの才能を活かすことができなかったら? 暴走させて潰してしまったら?
そもそも現実的に考えて、目標レースはどうする? なんて言って納得させる?
常識のあるトレーナーであればあるほど、彼女と契約することを断念せざるを得なかった。
実際のところは、エアプメンテはロクにレースのことを知らなかった。
基本知識は入試の時に叩き込んだにも関わらず、
最終的に覚えていたのは
『クラシック三冠を取ったウマ娘はすごい』
『トリプルティアラを取ったウマ娘はすごい』
『凱旋門賞を勝ったらすごい』
くらいのものだった。
実際のところ、どのレースがいつ行われるかも覚えていない。
彼女はレース日程エアプだった。
その日もスカウトが来ることはなく、トボトボと歩いていると……一人の若者がエアプメンテに声をかけてきた。
銀縁の眼鏡をかけた、真面目そうな青年だった。
「……あの、君っ!」
「誰メンテ?」
「僕はトレーナーなんだ。まあ、まだ新人なんだけど」
「と、トレーナードゥラか!?」
「ああ、君のことをスカウトしたいんだ」
「ス、スカウト! 私にもついに来たメンテ!!」
エアプメンテの声が跳ねる。
それと同時に、一つの疑問が生まれた。
「なんであの時じゃなくて、今ドゥラか?
私はアレ以降、選抜レースを走ってないメンテよ?」
「それは……ごめん、ずっと迷ってたんだ。
先輩たちにも止められた。新人のお前が、君をスカウトするのは無謀だって。
……でも、僕は君の走りに夢を見た。無謀な挑戦でも、やってみたいって思ったんだ」
「私の走りに、夢を?」
予想もしていなかった言葉に、エアプメンテはきょとんとする。
トレーナーはそんな彼女を真っ直ぐ見据えて言った。
「他の子に比べて、君の走りは速いだけじゃない。
荒々しくて、自由だった。どこまでも飛んでいけそうな走りだった」
「そ、そうドゥラか~? えへへ……気に入ったドゥラ!
今日からあなたは私のトレーナーメンテよ!
よろしく頼むドゥラ!」
「本当かい!? それじゃあ……これからよろしく、エアプメンテ!」
二人は固い握手を交わす。
ぐっと力の入った、固い握手を。
「い、痛い! 痛いよエアプメンテ!!」
「ご、ごめんドゥラ! 嬉しくて力加減ミスっちゃったメンテ……!」
若干の不安も抱えながら。
今ここに、新たな契約が結ばれたのだ。
*****
その後、エアプメンテはトレーナーの指導のもと練習に勤しんでいた。
「えー、またプールドゥラか~?」
「そうだよ。無茶な日程こなすんだから、少しでもスタミナを鍛えないと」
「え~、もうスタミナは十分あると思うメンテよ? もっと走りたいドゥラ」
「いいから、早く行ってらっしゃい」
「わかったドゥラ~……」
そう言ってエアプメンテは不満げにプールに向かっていった。
その背中を見て、トレーナーは小さくため息をつく。
思った通り、彼女は優秀だ。すごい才能だ。
だからこそ、難しい。能力が優れているからこそ、トレーニングの必要性について納得させるのが難しい。
特に、スピードとパワーは同世代のウマ娘を遥かに超えている。
ということで、菊花賞を見据えて今からスタミナを鍛えさせてはいるものの……どうもしっくり来ない。
なにか、もっと大事なものが不足しているような……。
結局、その違和感は解消されないままメイクデビューの日を迎えることになってしまった。
*****
『エアプメンテ、後続を突き放し今ゴールイン! まさに圧倒的!』
メイクデビューは大差をつけての逃げ切り勝ち。
まさに快勝と言ってよかった。
「ドゥ~ラドゥラドゥラ! 楽勝だったメンテねえ~!!」
「おめでとう、エアプメンテ!!」
レース後の控室、エアプメンテは思いっきり調子に乗っていた。
彼女の脚質は逃げ。それもゴリゴリの大逃げだ。
レースと言うより、タイムアタック。完全に一人舞台だった。
調子に乗るのも無理はないほど、完璧なレースに見えた。
「スタミナも全く問題なかったドゥラよ!
だから今度からはもっと走る練習させて欲しいメンテねえ!」
「ああ、そうしようか」
「それじゃあ、ウイニングライブに行ってくるメンテよ~!」
そう言って、エアプメンテは控室を飛び出していった。
それを笑顔で見届けて、トレーナーは一人考える。
エアプメンテが勝ったのは、もちろん嬉しい。
ずっと頭の中にあった違和感も杞憂に終わった。
エアプメンテは強い。このままクラシック級に殴り込んでも通用するだろう。
……でも。
「レースのスケジュール、どうしよう……」
それは新人の彼にとって、トレーニングの指導と同じくらい大きな試練だった。
*****
「もう凄かったドゥラ! あんな沢山の人の前でレースするのなんて初めてだったから、凄く楽しかったメンテよ!」
「ふふっ、プメちゃん、もうその話5回目だよ~?」
「ドゥラララ、嬉しくてついメンテ……」
その日の夜、エアプメンテはそれはもう浮かれていた。
勝つと確信していたレースだったが、やっぱり嬉しいものは嬉しいのだ。
リバーライトは笑顔で聞いていたが、その表情には影が差していた。
「でもわかるよ、レースで勝った時のあの感覚、やっぱりすっごく嬉しいよね。
私は……ちょっと最近、勝ててなくて」
「あ……無神経にはしゃいじゃって、ごメンテ……」
「ううん、いいの。プメちゃんが勝ったのは私も嬉しいから!」
リバーライトはそう言って笑顔を取り繕う。
その日、エアプメンテがこれ以上メイクデビューの話をすることはなかった。
エアプメンテは、同世代に負けたことがない。
大きなレースで負けたこともない。
だから、本気の悔しさはわからない。
一定の理解は示せても、本当の意味では理解できない。
エアプメンテは、敗北エアプだった。そして、エアプのままでいたかった。
(私は……負けないドゥラ。勝って勝って勝ちまくって、最強になるメンテよ!)