ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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10話

 結局、エアプメンテ達はチームスピカと顔合わせすることになった。

 せっかくだから、この機会に交流を深めようという結論に至ったのだ。

 

「私はスペシャルウィークって言います! 

 よろしくお願いしますね」

 

「アタシはダイワスカーレットよ」

 

「ウオッカだ!」

 

「ボクはトウカイテイオー!」

 

「メジロマックイーンですわ」

 

「エアプメンテドゥラ! よろしくお願いしますメンテねえ!」

 

 次々と挨拶してくるスピカのメンバーに、エアプメンテは笑顔で応える。

 その様子を見ながら、トレーナーと沖野は二人で話していた。

 

「まさか宿までスピカと被るとは思いませんでしたよ……。

 もしかしてここ、穴場だったりします?」

 

「いやまあ、こっちにも事情があってな……。

 ほら、こっちの方の」

 

 そう言って、沖野は指で丸を作る。

 当然、OKサインではない。

 金欠のサインだ。

 

「あぁ……そういうことですか。

 実は僕もちょっと、懐事情がキツくて」

 

 その辺の事情もあって、彼らが泊まる宿は……よく言えば趣のある、年季の入った宿だった。

 

 トレーナーはまだ一年目の新人、それもチームに所属していない専属だ。

 学園側から割り当てられる予算は雀の涙にすぎない。

 エアプメンテが凄まじい成績を上げてはいるが、それはあくまで最近の話。

 その結果が予算計画に反映されるのはまだ先のことだった。

 

 沖野も沖野で、何かと出費が多い。

 キチンとした合宿施設が揃っている場所は使えない。

 そんな中で二人が選出した場所が、偶然にも被ってしまったのだ。

 

「……まあ、お互い頑張ろうな!」

 

「……そうですね!」

 

 *****

 

 

 その一方で、エアプメンテ達はというと。

 

「キタサンブラックです! 

 エアプメンテさん、改めてよろしくお願いします!」

 

「うん、よろしくドゥラ! 

 ……ところで、キタサンブラック?」

 

「な、なんですか?」

 

「……なんでさっきからずっと気をつけしてるんドゥラか?」

 

 キタサンブラックはエアプメンテと対面した時からずっと、ピンと背を立てて直立したままだった。

 彼女はエアプメンテを前にして、完全に緊張してしまっていたのだ。

 

「ほら、固まってんじゃねーよっ!」

 

「わひゃあっ!?」

 

 ゴールドシップに背中を叩かれ、ようやくキタサンの身体から力が抜ける。

 

「ゴ、ゴルシさん!?」

 

「まったく、同期なんだから緊張する必要ねーだろ! 

 堂々としてろい!」

 

「え、緊張してたドゥラか? いやー、ごメンテ。

 どうやら強者のオーラが出ちゃってたみたいメンテねえ!」

 

 そう言ってエアプメンテは笑う。

 しかしレースの時とは正反対に、平時のエアプメンテからはそんなオーラは出ていない。

 キタサンは改めてエアプメンテの姿を見て、緊張を解く。

 

「ごめんなさい。

 改めてよろしくお願いします、エアプメンテさん!」

 

「えー、同期なんだからそんな固い感じじゃなくて、もっと気軽に呼んでほしいメンテ!」

 

「それじゃあ……よろしく、エアプメンテちゃん!」

 

 そう言って、二人は握手を交わした。

 

 *****

 

 その後、テイオーとマックイーンとの顔合わせも済ませ、エアプメンテはサイレンススズカのところに行っていた。

 

「スズカ先輩、久しぶりドゥラ!」

 

「久しぶりね、エアプメンテちゃん。

 併走の時以来かしら」

 

「私、あの時より強くなったドゥラよ! 

 次走ったらスズカ先輩にも負けないメンテねえ!」

 

「そう? 

 よかったら、試してみる?」

 

「やるやるドゥラよ~!」

 

「今はダメだよ、エアプメンテ」

 

 トレーナーはその気になっているエアプメンテを制止する。

 エアプメンテはあからさまに不機嫌な顔をしていた。

 

「え~、なんでドゥラか! 

 スズカ先輩に会う機会なんてなかなかないメンテよ! 

 やるなら今しか無いメンテ!」

 

「ダメです、キミ、さっき山走って海で遊んで体力使ったよね。

 それにこれから午後の練習もあるんだから。

 今走ってたら身が持たないよ」

 

「う、それもそうドゥラね……スズカ先輩! 万全の時にまたリベンジしてやるメンテねえ~!」

 

 *****

 

「で、午後は何をやるメンテか?」

 

「とりあえず、ゆっくり休む。

 その後は、また山に行くよ。

 さっきは試しに一本だけ走ってもらったけど、次は二本走ってもらおうと思う」

 

「に、二本ドゥラかぁ!? 

 さっき、一本であんなに疲れたメンテよ?」

 

「楽な練習じゃ意味がないからね。

 テスト勉強でロクに練習できなかった分も取り戻さなきゃいけないし。

 とにかく、体力をつける! そして、悪路に強くなる! それが今回の合宿の肝だよ」

 

「うぐぐ……これも最強のためドゥラね。

 いっちょ気合入れて頑張るメンテよ!」

 

 こうして、エアプメンテ達は再び山にやってくる。

 

「エアプメンテ、午前中の走りで道は覚えたかい?」

 

「ばっちりドゥラ!」

 

「よし。

 それじゃあ僕はスタート地点で待ってる。

 一応タイムは計っているけど、あんまり気にしなくてもいい。

 とにかく、ゆっくりでいいから安全にゴールすることだけを考えて」

 

「りょーかいドゥラ! 

 マッハで帰ってくるメンテねえ!」

 

「あ、ちょっ……!」

 

 そう言うと、開始の合図も待たないままエアプメンテは元気に山中に入っていってしまった。

 トレーナーは慌ててストップウォッチのスイッチを押す。

 

「話聞いてたのかな……」

 

 *****

 

「ひーっ、ひーっ……!」

 

 十数分後、エアプメンテは息を切らしながらトレーナーのもとに戻ってくる。

 エアプメンテは、積み重ねたプール練習によってスタミナには自信があるつもりだった。

 しかし山中の悪路と、じりじりとした日差しがすごい勢いで体力を奪う。

 結局、下山し終わる頃にはすっかりグロッキーになっていた。

 

「こんなの、速く走るどころじゃ、ないメンテ……」

 

「だからゆっくりでいいって言ったのに」

 

「タイム計ってるって聞いたら、つい、熱くなっちゃったメンテ……」

 

「とりあえず、休憩してゆっくり息を整えようか。

 水分補給もしっかりとね」

 

「はいドゥラ~……」

 

 エアプメンテはトレーナーの言葉に従い、ちびちびとスポーツドリンクを飲む。

 一気に飲むと後で走る時にお腹がちゃぽちゃぽして気持ちが悪くなるからだ。

 

「それにしても、ここは景色がいいメンテねえ。

 海がよく見えるドゥラよ」

 

 エアプメンテは海を見下ろす。

 遊びに行った時と比べると、海水浴に来ている客は少し数が減ったように見えた。

 そんな中、エアプメンテは海面に見覚えのある姿を確認する。

 

「あれ、スピカの人たちが泳いでるメンテよ?」

 

 スピカのメンバーを見つけたエアプメンテは、トレーナーに向かって教える。

 トレーナーはそれを聞き、海の方に視線をやる。

 

「スピカの人たちも遊んでるんドゥラかねえ?」

 

「いや……あれは、遠泳トレーニングだね。

 だいぶ沖の方まで出ている」

 

 見れば、彼女たちの表情は水遊びのそれではない。

 苦しく、そして真剣な表情。

 その中にはキタサンブラックの姿もある。

 彼女もまた、勝つために必死なのだ。

 

 エアプメンテはその姿を静かに、じっと見つめていた。

 

「……よっし! 休憩終わりドゥラ! 

 もう一本行ってくるメンテ!」

 

 エアプメンテはそう言って、再び山中に入っていく。

 トレーナーはそれを見て、微笑みながらストップウォッチを押す。

 

「スピカの存在……いい刺激になってるみたいだね」

 

 エアプメンテには、誰かと一緒に練習した経験がほとんどない。

 見知ったウマ娘たちがすぐ側で練習しているのを意識した経験もほとんどない。

 

 だから、チームスピカの存在は嬉しい誤算だった。

 一緒に練習することはなくとも、その存在そのものがモチベーション向上に繋がっていた。

 

 *****

 

「ふひーっ、ひはーっ……!」

 

 二本目、エアプメンテはデロデロになりながらもなんとか下山しゴールする。

 

「お疲れ様エアプメンテ、よく頑張ったね」

 

「はーっ、はーっ……トレーナー、タイムは……どう、ドゥラか?」

 

「さっきより二分遅いね」

 

「そんなドゥラ~~」

 

 エアプメンテはへなへなとその場に崩れ落ちる。

 

「あのねエアプメンテ。こんなに短いスパンで山の中二回も走って、二分しか遅れてないってすごいことなんだからね? 

 自信持ってもいいんだよ」

 

「……私、すごいドゥラか?」

 

「うん、とってもすごい!」

 

「えへへ……私、すごいドゥラか~!」

 

 エアプメンテはあっという間に元気を取り戻し、すっと立ち上がる。

 しかし身体の方が着いてこれず、足元がフラついてしまう。

 

「あ、ととっ……?」

 

「危ない!」

 

 エアプメンテは態勢を崩す。

 トレーナーは彼女が転倒しないように慌てて体を支える。

 

「気をつけてね、気持ちが元気でも体力が回復したわけじゃないんだから。

 キミが思っている以上に、キミは疲れてるんだ」

 

「そーなんドゥラか?」

 

「そうなんだよ。

 ところでエアプメンテ、浜の様子を見てごらんよ」

 

 トレーナーに促され、エアプメンテは海の方を見る。

 すると、今まで遊んでいた海水浴客が次々と荷物をまとめ、帰り支度を始めていた。

 

「もうこんな時間メンテねえ」

 

「うん、もう昼と夕方の間くらいの時間帯だからね。

 そして、僕たちにとっては都合がいい」

 

「ドゥラ?」

 

 *****

 

「はっ、はっ……都合がいいって、こういうことだったドゥラね」

 

 エアプメンテは明日に疲労を残さないため、浜辺でジョギングをしていた。

 もう残っている人は少ないため、ジョギング程度では邪魔になることもない。

 

「そう、浜辺は地面が柔らかいから足への負担も軽い。

 クールダウンにはもってこいの環境だね」

 

「トレーナー、頭いいドゥラね!」

 

「一応これでも中央のトレーナー試験受かってるからね。

 このままのペースで10分くらい走ったら、ストレッチして練習終わりにしよう」

 

「わかったメンテ!」

 

「ちなみに明日からは浜辺で朝練するから。

 そのつもりでよろしくね」

 

「浜辺で朝練、ドゥラか?」

 

「うん。

 人のいない時間帯にしかできない練習」

 

 *****

 

 宿に帰り、エアプメンテは泥のように眠る。

 そして翌日、ほんのり空が暗い時間に二人は浜辺にやってきた。

 

「エアプメンテ、昨日はここでジョギングしたよね。

 いつも走っているターフとは違う感触だったと思うけど、どんな事を感じた?」

 

「うーん、柔らかくてザクザクしてたドゥラね!」

 

「そうだね、浜辺の砂はサラサラして柔らかい。

 そうだな……昨日はジョギングだったけど、試しに200mくらい流してみて」

 

 トレーナーの言う「流し」とは、8割前後の力で走ることを意味している。

 エアプメンテは首肯すると、大地を強く踏みしめてスタートを切る。

 

 ざくっ! どしゃあっ! 

 

「うわあっ!?」

 

 強く蹴られた砂が、凄まじい勢いで飛び散ってトレーナーに直撃する。

 その口には砂が入ってしまい、彼は渋い顔をしながらそれを吐き出す。

 

「ぺっぺっ……相変わらず、凄いパワーだなあ。

 でもパワーが強ければ強いほど、この砂場では()()()んだ」

 

 その言葉通り、エアプメンテは予想を遥かに超えた走りづらさに困惑していた。

 

(なんドゥラ、これっ……全然、進まないメンテ! しっかり地面を蹴ってるのに、ジョギングの時みたいな速さしか出ないドゥラ!)

 

 見た目上は砂嵐を巻き起こしながら派手に走っているエアプメンテだが、その速度は凄まじく遅かった。

 砂に足を取られて前に出れず、強く踏み込めば踏み込むほど砂が吹き飛び推進力が逃げていく。

 そこでエアプメンテは発想を逆転させる。

 

(押してダメなら、引いてみろメンテね)

 

 全力で進めないなら、力を抜けばいい。

 そう思ってジョギングに切り替えた結果、ちゃんと前に走れるようになった。

 そのままゆっくりとトレーナーの元に戻り、一言。

 

「おかしいドゥラ! 走れないメンテ~!」

 

「だろうね」

 

 トレーナーは意外そうな顔を見せずにしれっと答える。

 そんな返答にエアプメンテは眉を寄せる。

 

「トレーナー、私がこうなること知ってたメンテか?」

 

「うん。

 口で説明するより、まずは自分で体験してもらったほうが早いと思ったから」

 

「体験、ドゥラか?」

 

「うん。

 まず、スタミナを切らさず走るために出来ることは2つある。

 一つは純粋に体力をつけること。

 そしてもう一つは、力を無駄なく使うこと。

 それが出来れば、キミはもっと強くなる!」

 

 そう力説するトレーナーに対して、エアプメンテは素朴な疑問を口にする。

 

「それが、さっきの走りとどう関係するドゥラか?」

 

「あの砂の吹き飛ばし方さ。

 後ろに向けるパワーが強すぎて足場が負けてしまうんだ。

 それは何故かというと、足の接地の仕方にある。

 キミは踵に無駄な力が入っちゃってるんだ」

 

「踵に力が入るのって、ダメなことなんドゥラか!?」

 

 エアプメンテは驚く。

 今まではそんな事を考えたこともなく、感性のまま走ってきた。

 実際、それで勝ってきた。

 だから、まさか今更そんなことを指摘されるなんて思わなかった。

 

「少なくとも、速く走ることを目的をするならばやらないほうがいい。

 意識するのは、拇指球だ。

 足の親指あたりに、固いところがあるだろう?」

 

 エアプメンテはそう言われて足の裏の感触を確かめる。

 すると確かにトレーナーの言う通り、何か固いものの存在を感じた。

 

「……ん。

 あるドゥラね」

 

「そこに力を集めるイメージで走ってみて」

 

「わかったドゥラ!」

 

 エアプメンテはそう言って走り出す。

 しかしさっきと同じように砂を蹴り飛ばして加速ができない。

 

「なんで上手くいかないドゥラか~!?」

 

「クセを変えるのは大変だから、最初は上手くいかなくて当然だよ。

 ただし、意識だけは忘れないこと」

 

「う~……難しいけど、やってみるメンテね!」

 

 *****

 

「……そろそろいい時間だね。

 朝練はこの辺にしておこう」

 

「ひーっ、ひーっ……!」

 

 結局、完全にクセを直すことは出来なかった。

 少しずつ改善はしているが、ふとした瞬間に走りが戻ってしまう。

 

「ところで、トレーナー。

 なんで突然、こんな理屈っぽいこと教えるメンテ?」

 

「それは……ごめん。

 僕のトレーナーとしての力量不足が原因なんだ」

 

 トレーナーは申し訳なさそうに頭を下げる。

 エアプメンテはまさか謝罪されるとは夢にも思っておらず、きょとんとしていた。

 

「本当はもっと早い内に教えることだった。

 でも、僕はキミにどう教えていいか分からなかったんだ。

 うまく伝えられるか分からなかったし……変な教え方をして、君の走りを崩すのが怖かった。

 キミがありのまま走る姿は、とても素敵だったから」

 

「ドゥラっ!? 

 な、なんか照れるメンテね……」

 

「それに正直、キミは頭が悪いと思っていた」

 

「ズコーッ! 上げて落とすのやめろドゥラ!」

 

「失礼ながら、教えても理解できないんじゃないかって……」

 

「ホントに失礼メンテねえ!」

 

 淡々と話すトレーナーに対して、喜怒哀楽の激しいエアプメンテ。

 だが、トレーナーの言うことを特に気にしてはいなかった。

 自分が考えなしな事は自覚していたからだ。

 

「でも、今は違う。

 キミは勉強が出来る子だ。

 頑張ればなんだって出来る子だ! この間のテストでそれを強く実感した。

 だから、こういうこともちゃんと教える決心がついたんだ。

 キミなら絶対に覚えられる。そして、力に変えてくれる!」

 

「トレーナー……」

 

 トレーナーの目は情熱でギラついていた。

 彼はエアプメンテの走りに脳が焼かれているため、熱が入りすぎると止まらなくなってしまうのだ。

 そしてエアプメンテもまた、トレーナーが信じてくれるなら全力で応えようとする。

 

「トレーナー、もっと色々教えて欲しいドゥラ! 

 この合宿中に、必ずモノにして見せるメンテねえ!」

 

 *****

 

 一方、スピカの面々も朝練で山道をランニングしていた。

 山中ではなく、整備された海沿いのコースだ。

 朝は気温も比較的低めで、景色もよい。

 だが走りやすいかと言われれば、キツめの傾斜が立ちはだかる。

 朝練としてはハードなランニングコースだった。

 

「お、おい、アレ見ろよ!」

 

 そんな中、ウオッカが海の方を見て驚愕の声を上げる。

 なんだなんだと他の面々も視界を向けると、浜辺では凄まじい勢いで大量の砂が吹き飛んでいた。

 

「何よアレ……すごい勢いで砂が吹き飛んでるわよ」

 

「砂嵐ですかね?」

 

「でも、そんなに強い風は吹いてないわ」

 

 ざわつき始める面々の中で、テイオーがなにかに気づく。

 

「え、あれ……なんか中心に人がいるよ!?」

 

「え!?」

 

 そう言われて目を凝らして見ると……砂嵐の中心ではエアプメンテが走っていた。

 

「エアプメンテさんですわ……」

 

「何やってんだあいつ。

 ずりーぞ! 一人だけ楽しそうなことして」

 

 ゴールドシップはそう言って浜辺に向かって走り出そうとする。

 しかし、背後からガッシリと肩を掴まれ止められる。

 

「……今は朝練中ですわよ? 

 あなたこの前の宝塚記念でやらかしたのに、遊ぶ余裕あるんですの?」

 

「うっ……それを引き合いに出してくるのはずりーって!」

 

 痛いところを突かれてゴールドシップは黙ってしまう。

 彼女は前走の宝塚記念でスタート時に致命的な出遅れをかまし、15着に終わっている。

 

「エアプメンテちゃん、やっぱり凄い……。

 私も、負けてられない!」

 

 キタサンブラックはランニングのペースを上げ、先頭に躍り出る。

 そんな彼女の姿を、テイオーが後ろから微笑ましく見守る。

 

「やっぱりライバルが近くにいるっていうのは、張り合いがあるよね」

 

「あの時の私達と同じですわね」

 

 マックイーンもまた、微笑みながら見守る。

 彼女はテイオーと走った天皇賞・春のことを思い出していた。

 トゥインクル・シリーズの公式戦でテイオーとマックイーンが本気でぶつかりあった、唯一の戦い。

 絶対に負けられない、絶対に勝ちたい相手がいる。

 その気持ちがあるからこそ、全力が出せた。

 

「その気持ち、わかる気がするわね」

 

「勝ちたい相手がすぐ側にいるってなると、気合が入るよな」

 

 ダイワスカーレットとウオッカは互いを横目で見ながら頷く。

 彼女らも同じチームに所属していながら、互いにとって互いが最高のライバル。

 

「私もわかります。

 グラスちゃん達と一緒に走る時は、やっぱりいつもより力が入りますから」

 

 スペシャルウィークもまた頷く。

 彼女にもまた、高め合う沢山のライバルが同世代にいる。

 

「アタシもわかるぜ、あの時戦った沢山の強敵の数々が力をくれるんだよな……。

 須貝……横山……内田……」

 

 ゴールドシップもうんうんと頷く。

 彼女の頭上には見覚えのないおっさんの顔が大量に浮かんでいた。

 

「誰ですのそれ!? 

 というか、それ一体どうやってますの!?」

 

 マックイーンはその光景を見て驚愕してしまい、ツッコミを入れずにはいられなかった。

 なぜおっさんの顔がマックイーンにも視認できるのか。

 それはゴールドシップにしか分からない。

 

「ライバル……ふふっ。

 いいわね、そういうの」

 

 サイレンススズカはそう言って微笑みながら、キタサンブラックを追い抜かして先頭を奪っていった。

 

「えぇ~っ!?」

 

 キタサンは驚いて思わず声を上げてしまう。

 スズカにとってそれはそれ、これはこれなのだ。

 

「お前ら、喋るのはいいけど足は止めるなよー!」

 

 沖野はスクーターで後ろからみんなを追いながら、浜辺の方を見る。

 そして、キタサンブラックのほうに視線をやる。

 

(エアプメンテの存在は、キタサンに良い影響を与えてるみたいだな。

 この合宿で、キタサンは更に伸びてくれるに違いない。

 だが、問題は……あいつらがどれくらい伸びてくるか、だな)

 

 

 一方で、キタサンブラックも考える。

 

(みんなはライバル、って言ってくれるけど……。

 私はまだ、エアプメンテちゃんのライバルじゃない。

 だってエアプメンテちゃんは、まだ私を見ていない。

『相手』だって認識してない)

 

 挨拶の時の気安さがなによりの証明だった。

 彼女には緊張感の欠片も感じられない。

 緊張感を与えられるだけの存在になっていない。

 

(……エアプメンテちゃんは、なんであんなに強いんだろう)

 私も、もっと……もっと強くならなくちゃ!)

 

 強くなりたい。

 強くなる。

 

 そんな想いを抱きながら、二人はそれぞれ合宿の日々を駆け抜けていく。

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