ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
あっという間に一ヶ月が過ぎ、合宿も佳境を迎える。
エアプメンテ達は、ひたすらトレーニングに打ち込んでいた。
ある時は、山で。
「ハーッ、ハーッ……ゴール、ドゥラよ!
タイムは?」
「前走とほぼ同じだよ。
よく頑張ったね、エアプメンテ」
「……よしっ、やったドゥラ!」
本日二本目の山中トレーニングを終えたエアプメンテは、呼吸を落ち着けながら小さく拳を握る。
「それにしても、二本走ってもだいぶ余裕が出るようになってきたね。
このまま三本目も行けそうな雰囲気だ」
「なんなら、このまま行くメンテか?」
「わーっ! 冗談だよ冗談!」
そのまま走り出しそうなエアプメンテを、トレーナーは慌てて静止する。
そんな彼の様子を見てエアプメンテは笑う。
「ドゥ~ラドゥラドゥラ!
流石にわかってるメンテよ、トレーナー!
でも、本当に行こうと思えば行ける気がするメンテよ」
「まったく……でも、その元気があれば大丈夫そうだね。
どんな悪路が来ても、キミなら大丈夫だ!」
ある時は、海で。
「はい、ラスト一本!」
「ドゥラ~っ!!」
エアプメンテは大地を踏みしめ、砂浜を駆ける。
すごい勢いで砂が舞い散ってはいるが、その量は初日と比べるとかなり少なかった。
それに、初日と違ってちゃんと前に進んでいる。
「すごい進歩だよエアプメンテ!
ずっと頑張ってきた甲斐があったね!」
「えへへ……なんか、分かってきた気がするドゥラ。
上手く説明できないけど、
「ちゃんと身体が覚えてるってことだね。
あとは合宿から帰ったら、学園の芝コースでもちゃんと試してみよう」
「は~いドゥラ」
エアプメンテは、おもむろに海の方を見る。
その瞳は、どこか寂しげだった。
「あー、そっかぁ。
合宿、もうちょっとで終わっちゃうメンテね」
「……そうだね。
一ヶ月。
長いようで短かったね」
トレーナーも、彼女につられて海を見る。
二人はお互いに、何も言わなかった。
ただ、ぬるい潮風だけが吹き抜ける。
やがて、エアプメンテが口を開く。
「練習はキツかったけど……。
終わっちゃうって思うと、寂しいドゥラね」
「……そうだね」
「トレーナー。
なんか最後に楽しいことがしたいドゥラ!」
「た、楽しいことぉ?」
あまりにも突然の提案に、トレーナーは思わず間抜けな声を出してしまう。
「だってだって、どうせなら思い出になるようなことしたいドゥラ! 今のままだと思い出に残るの、山と浜走ったことばっかりになるメンテよー!」
「たまに海で泳いで遊んでたじゃん」
「走ってた時間の方が圧倒的に多いドゥラ~!」
駄々をこねるエアプメンテに、それもそうかと思うトレーナー。
だがトレーナーも、突然そんなことを言われてもいい案が思いつくわけでもない。
結局彼の口から出たのは、ありきたりな提案だった。
「それじゃあ……せっかくだし、花火でもしよっか?」
「花火ドゥラか!」
花火。
その響きに、エアプメンテの瞳がきらきらと輝く。
「楽しそうドゥラ!
夜が楽しみメンテねえ~!」
*****
そして二人は、そのまま近場のスーパーまで買い出しに向かった。
「花火ってどこに売ってるドゥラかねえ」
「この時期だと大体専用コーナーがあることが相場だけど……」
二人が花火を探してきょろきょろとスーパーを見渡していると、見知った顔がある。
「あ、スズカ先輩ドゥラ!」
「え?」
見ると、サイレンススズカと沖野トレーナーが二人並んで歩いている姿が見えた。
エアプメンテはそのまま近づいていく。
「スズカせんぱ~い!」
「あら、プメンテちゃん。
お買い物?」
「トレーナーと花火買いに来たドゥラ!
スズカ先輩たちは?」
「私たちは食材を買いに。
合宿も終わりだから、最後にバーベキューをしようってことになって」
「バベキュ!」
その言葉を聞き、エアプメンテが反応する。
「いいメンテねえ!
聞いたドゥラかトレーナー! バベキュドゥラよ!」
「ダメでしょ、スーパーで走っちゃ。
すみません二人共、うちのエアプメンテが突然……」
トレーナーは早歩きで追いつき、沖野たちに頭を下げる。
「別に気にすることでもないさ。
それより、エアプメンテ。
バーベキューしたいのか?」
「したいメンテねえ!」
「そうか。
それじゃあもし良かったら、俺達と一緒にやらないか?」
「スピカとですか?」
意外な提案に、トレーナーが疑問の声を出す。
それに対して、沖野は笑顔で言う。
「ああ。
どうせなら賑やかな方がいいだろう?」
「やるやる! やるメンテよ~!」
テンションの上がるエアプメンテと、それを微笑ましい目で見るサイレンススズカ。
そんな二人をよそに、トレーナーと沖野はコソコソと話す。
「実際の所は?」
「……花火、こっちにも分けてくれないか?
食材費だけでスカンピンになりそうなんだ」
「そういうことなら、構いませんよ。
併走のときのお礼もまだでしたし」
「助かる」
*****
こうして、二人はチームスピカにお邪魔することになった。
エアプメンテはあっという間に馴染み、肉をつまんでいた。
「そういえば私も食べ物持ってきたから、みんなにあげるメンテ!」
「お、随分いっぱいあるじゃねえか!
一体なに持ってきたんだ?」
わくわくするウオッカの目の前で、エアプメンテは自らの荷物をどさどさと出し始める。
ウオッカの表情が、どんどん困惑と呆れの表情に変わっていく。
「乾パンに貝柱に……脱脂粉乳? あとはなんだこれ……」
「カツオのキャラメルメンテねえ!」
「全部バーベキュー関係ねえじゃねえか!」
それはエアプメンテが合宿に持参して、結局手を付けていない食べ物達だった。
ちなみに納豆は初日で食べきってしまった。
納豆は彼女の好物なのだ。
「プメ公、てめェ~!」
「わっ、なんドゥラかゴルシ先輩!」
エアプメンテの後ろから、ゴールドシップが険しい表情でやってくる。
そして、懐から何かを取り出した。
「キャラメルっつったらこれだろうがァ!」
そう言ってゴールドシップが取り出したのは、ジンギスカン味のキャラメルだった。
「なんでそんなもん持ってんだよ……」
「あんまり美味しくなさそうメンテねえ」
エアプメンテは渋い顔をする。
比較的食べ物の好き嫌いは少ないエアプメンテだが、流石に気が引けた。
じゃあカツオのキャラメルはどうなんだという話なのだが、エアプメンテのそれは厳密にはキャラメルではない。
『ツナピコ』というマグロの甘辛煮を固めて六面体にしたおやつだ。
なんならカツオですらなかった。
「私は嫌いじゃないですけどねえ、これ」
ゴールドシップの横では、スペシャルウィークが口をもぐもぐさせている。
北海道出身の彼女にとっては馴染みのある食べ物だった。
「あ、スペおめーいつの間に! まあいいか。
これ食ってみるか? お前たち」
「いいんドゥラか? それなら一個、試してみたいメンテ」
「俺も気になるな」
そう言ってエアプメンテとウオッカは一つずつキャラメルを受け取り、口に放り込む。
もぐもぐと噛んでいるうちに、二人の表情が微妙なものになっていく。
なんとかごくりと呑み込むと、二人揃って慌てて飲み物を探し、一息に飲み干す。
「はぁ、はぁ……なんドゥラか、これ……」
「人間の食い物か? これ……」
「私は嫌いじゃないですけどねえ」
はぁはぁと息を乱す二人に対して、スペシャルウィークはしれっと2つ目に手を付けていた。
*****
「ひっでえ味だったな……」
「ほんとメンテよ……」
エアプメンテとウオッカは、口の中をリフレッシュするのも兼ねて二人でゆっくり麦茶を飲んでいた。
「そういえばおまえさ、六冠目指してるんだろ?」
「そうドゥラよ」
「実は俺も、ちょっと考えてたことあるんだよ。
全部取ったら、最強じゃねーかって。
じゃあ全部走ってやろうじゃねーかって。
……まあ、桜花賞でアイツに負けちまったんだけどな」
そう言ってウオッカは視線を遠くにやる。
エアプメンテもつられて視線の先を見る。
「スカーレット先輩、ドゥラか」
「ああ。
そっからアイツと色々走って、勝ったり負けたりして……。
今は『アイツには負けたくねえ』『アイツに勝ちてえ』って一心で走ってる」
エアプメンテはその話を、無言で聞いていた。
真剣に、聞いていた。
「なんかいいドゥラね、そういうの。
私には同期にそういう子、いないメンテ」
しみじみと言うエアプメンテに対して、ウオッカは「へえ」と言い、不敵に笑う。
「そのうち、そうも言ってられなくなると思うぜ?」
「ドゥラ?」
「うちのキタサンは、お前に勝ちてえって思ってる。
そういうヤツは、強ぇぜ?」
エアプメンテはそれを聞き、キタサンブラックの顔を思い浮かべる。
皐月とダービーでは、正直言って脅威には感じなかった。
なんか後ろにいるな、くらいの認識だった。
この合宿で、私は強くなった。
キタサンブラックは、どれくらい強くなっているのだろうか。
そう考えて、エアプメンテもまた静かに笑った。
「それは、楽しみメンテね」
*****
その後は特に何事もなく、のどかに楽しくバーベキューは続いた。
あっという間に空は暗くなり、みんなのお腹も満ちていく。
「よーし、バーベキューもぼちぼち終わりだな。
それじゃあそろそろ……花火、いくか!」
そう言って沖野は大量の花火をみんなの前に並べる。
「ちなみにこの花火は、エアプメンテのトレーナーが買ってきてくれたものだ。
みんな、ちゃんとお礼を言っておくように!」
「ありがとうございます!」
「感謝しますわ」
「ありがとよ、プメ公のトレーナー!」
「あなたはこういう時くらいちゃんと敬語を使いなさい!」
「がああああ! アームロックは勘弁しろよマックイーン~!」
スピカの面々に口々にお礼を言われ、トレーナーは照れくさそうに笑った。
「それで、誰からやるドゥラか?」
「よし、一番槍はゴルシちゃんに任せな!」
そう言ってゴールドシップは手際よく花火の袋を開け、そのうちの一つを手に取り火をつける。
彼女の持った花火はぱちぱちと小さく弾け、静かに燃えていく。
「いやぁ、花火と言ったらこれだよなぁ……」
「なんで線香花火からスタートなのさー!!」
「風流でいいだろ?」
「普通もっとこう、派手なのから行くでしょ!
もー、ボクがお手本見せてあげるよ!」
そう言ってトウカイテイオーは大きな打ち上げ花火を取り出し、火をつける。
じりじりと導火線が燃えていき……ひゅん、という音と同時に宙めがけて花火が飛び出す。
少ししてから、ばぁん! という音と同時に、空に輝く花が咲いた。
「へへん、やっぱりこーいうのでしょ!」
「わぁぁ……さすがテイオーさん!」
テイオーは得意気に笑う。
それを見てキタサンブラックはきらきらと瞳を輝かしていた。
その後、全員好き好きに花火を取って遊ぶ。
「二天一流ドゥラ~♪」
エアプメンテは両手に花火を持ってはしゃいでいる。
しかし、花火が消えると同時にもじもじし始めた。
(おトイレ行きたいドゥラ……)
催してしまったエアプメンテだが、トイレまでの道のりはほぼ真っ暗だ。
一人で行くには怖かった。
そんな中、キタサンブラックの声がする。
「すいません、ちょっとおトイレ行ってきます」
渡りに舟だと思った。
「私も! 私も行くメンテねえ!」
エアプメンテは急いでキタサンブラックを追いかけた。
*****
「いやー、正直助かったメンテねえ。
一人だけじゃ怖くて行けなかったドゥラ」
トイレを済ませてスッキリした後、エアプメンテはキタサンに礼を言う。
「たまたまタイミングが合っただけで、私は何もしてないよ。
でも、エアプメンテちゃんの助けになれたなら嬉しいな」
キタサンもまた、嬉しそうに笑う。
そうして暗闇の中、二人並んで歩く。
「……そういえば、聞きたいことがあったんだ。
エアプメンテちゃんは、なんでそんなに強いの?」
キタサンブラックはおもむろにそんな事を訊ねる。
とても抽象的な質問だった。
エアプメンテが怪訝そうな顔をしたのを見て、キタサンは慌てて取り繕う。
「ご、ごめん! 変な質問だったよね!」
「ホントに変な質問メンテねえ。
でも、なんで強いか、ドゥラか……そうメンテねえ」
エアプメンテは少し考えた後、こう答えた。
「私は、強いから強いドゥラ!」
「えぇ~……?」
今度はキタサンが怪訝そうな顔をする番だった。
しかしエアプメンテは、それを気にすることなく続ける。
「だって、そうとしか言いようがないメンテよ。
自分が強い理由なんていちいち考えたことないドゥラ。
そういうキタサンは、どうなんドゥラ?」
「え、私?」
「ウオッカ先輩に聞いたドゥラよ。
キタサンは私に勝ちたがってるって。
そういうヤツは強いって言ってたドゥラ。
キタサンは、強いんドゥラか?」
キタサンの瞳が揺れる。
ぴたり、と足が止まる。
エアプメンテもまた、一緒に足を止める。
「私……私、は。
自分が強いかどうかなんて、まだわからない。
でも、一つだけハッキリしてて。
私は、私は──」
キタサンは顔を上げ、強い意志を持ってエアプメンテに向き合う。
「あなたに、勝ちたい」
びゅう、と強い風が吹く。
二人はそれを意に介すことなく、ただ向き合う。
まっすぐ、視線を合わせたままで。
「……菊花賞であなたに勝った時、私は胸を張って『強い』って言えるようになると思う。
今度の秋華賞、頑張ってね」
そう言って、キタサンブラックは拳を突き出す。
「誰に向かって言ってるドゥラか。
私は最強のウマ娘メンテよ?」
エアプメンテもまた拳を突き出し、ニッと笑いながらキタサンブラックの拳にぶつけた。
かくして、夏が終わる。
季節は巡り、涼しさが寒さへと移り変わる時期。
灼熱の秋が、始まる。