ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
時は過ぎ、10月。
秋華賞の日がやってきた。
これを獲れば、エアプメンテはティアラ路線三冠達成、晴れてトリプルティアラウマ娘だ。
彼女はトレーナーと二人、控室で最後のミーティングを行っていた。
「2000m。
皐月賞を勝ったキミにとっては既知の距離だ。
懸念点は急坂だけど、合宿を思い出せば問題なく走れるはずだ」
「わかってるメンテよ!
どんなに急な坂でも、山よりキツいってことはないメンテよね」
「その通り。
キミは坂になんて負けないくらい強い。
だがもちろん、ライバル達もより強くなっているはずだ。
菊花賞が控えているとはいえ、くれぐれも油断はしないように」
「りょーかいドゥラ!
ところで、今日の作戦は?」
「なし!
好きなように走っておいで!」
「よっしゃあドゥラ!!」
いつものやりとりを終えて、エアプメンテは控室を出る。
戦うために。
そして勝つために。
*****
「……久しぶりドゥラね、この感じ」
ターフに出たエアプメンテは、とんとんと地面を踏んで芝の感触を確かめる。
約四ヶ月半ぶりのレースだ。
今まで過密なスケジュールで走っていた彼女にとって、これだけレース間隔が開くのは初めてのことだった。
エアプメンテは周囲を見渡す。
流石にトリプルティアラ最後のレースともなると、見知った顔が多かった。
「プメちゃんっ☆」
聞き慣れた声で呼びかけられる。
桜花賞とオークスでも共に走ったウマ娘、レッツゴードンキだ。
エアプメンテがレース場で初めて交流したウマ娘でもある。
「ドンキ!」
「学園ではちょくちょく顔を合わせてたけど、こうしてレース場で会うのは久しぶりだねっ♪
オークスでは情けないとこ見せちゃったけど、今回は負けないからね!」
「望むところメンテねえ!」
そう言いながら、二人はお互いに好戦的な笑みを浮かべる。
そんな中、唐突に後ろから笑い声がした。
「ハーッハッハッハッハ! それはぁ! 無理無理の無理ってモンですわねえ!」
それはオークス二着のウマ娘、ミッキークイーンだった。
彼女にとって前回の敗戦は、非常に悔しいものだった。
だから彼女は、エアプメンテにビシッと宣戦布告をする。
「今日ばっかりは! 負けませんわぁ!」
「ふふん、今回も勝つのは私メンテねえ!」
「い~え! 勝つのは私!」
そうやっておでこを突き合わせていると、また一人、横からウマ娘が割り込む。
「いーえ! わたくしですわ!」
そのウマ娘は、エアプメンテにとって見覚えのある顔をしていた。
「あ、お前は桜花賞とオークスにもいた、えっと……」
とっさに名前が出てこない。
ウイニングライブの楽屋で話した記憶はあるが、こうやって印象深いやりとりをしたわけでもないからだ。
「……まあ、覚えていなくても無理はありませんわね。
桜花賞とオークスではパッとしない結果でしたから。
わたくしはイッツコーリングですわ。
以後お見知り置きを」
「イッツコーリング……覚えたドゥラ! よろしくメンテねえ!」
イッツコーリングはスカートの裾をつまんで小さくお辞儀をする。
「そして! ミッキークイーンさん! ずっと言おうとしてたことがありましたわ!」
「え、私ですの!?」
唐突に名前を呼ばれたミッキークイーンはビックリして自らを指差す。
二人は直接的なやりとりを交わしたことがない。
大レースの前だ。
一体何を言われるものか、緊張して息を呑む。
そうしてイッツコーリングの口から出たのは、思いもよらない言葉だった。
「あなた、わたくしとキャラ被っていますのよ!」
「……はぁ~?」
イッツコーリングの言葉に、ミッキークイーンは思わず変な声が出てしまう。
「勝負服も同じドレスですし! 口調も被っていますわ!
世間ではパクっただの貴女のことを憧れてリスペクトしているだの、好き放題言われていますのよ!?」
「そんなこと言われても困りますわ!」
理不尽につっかかられて、ミッキークイーンは抗議の声を上げる。
しかしイッツコーリングは気にせず続ける。
「それもこれも、貴女のほうがわたくしよりレース成績がいいからに違いありませんの。
だから、これは宣戦布告ですわ。
貴女に勝って、わたくしの方が正当だと証明してみせますわ!
ついでにエアプメンテさん! 貴女にも勝ちますわ!」
「お、おうドゥラ」
妙な勢いに気圧され、エアプメンテはちょっと引いてしまう。
いつも一番人気で注目される自分がついで扱いされるのは初めてのことだった。
色んなウマ娘がいるんだな、と思った。
「プメちゃん。
改めて言うけど、今日は絶対に負けないよ。
……最後かも、しれないから」
「ドゥラ……?」
レッツゴードンキの発言の意味が分からず、エアプメンテは首を傾げる。
そしてファンファーレが鳴り、出走ウマ娘達が次々とゲートに入っていく。
エアプメンテもまた、ゆっくりとゲートに入る。
『さあ、穏やかな秋を彩る秋華たち。
しかしこの京都は、この肌寒い空気を追い払うほどの熱気に包まれています!』
スタンドからは、沢山の声が聞こえてる。
これも久しぶりだ。
「勝てよエアプメンテー!」
「久々にお前のレースが見れて嬉しいぞー!」
「あなたのレースを見るためにお父さんとお母さんを質に入れて見に来たのよー!」
しかし、エアプメンテはその歓声を意識から消し去る。
意識を全て、目の前のゲートに集中していく。
『さあ、秋華賞の舞台で美しく花を咲かせるのは誰だ!』
レースが、始まる。
*****
『さあゲートが開いた! 各ウマ娘、一斉にスタートを切りました。
エアプメンテ! ぐんぐん加速してあっという間にハナを取る!
凄まじい切れ味! オークスを荒らし回った暴風は、此度も吹き荒れるのか!?』
好スタートを切ったエアプメンテは、そのまま後続を突き放していく。
いつものパターンだ。
そして、彼女が勝つための最強の走りだ。
先頭を維持したまま、あっという間に第一コーナーを抜けて突き進んでいく。
『さあエアプメンテ逃げる逃げる! しかし後続のウマ娘も必死で食らいつく!
今回ばかりは逃さないとばかりに、虎視眈々と機会を狙っているー!』
エアプメンテ以外が大崩れしたオークスから四ヶ月。
同じ失敗を犯さないように、各陣営は駆け引きの仕方を必死で覚えた。
もう二度とあんな失敗はしない。
追い過ぎも、離れ過ぎもしない。
一定の距離を維持して、ラストスパートで……差す!
そして、それが実現できるほどの力があった。
逃げるエアプメンテを前に、自分のペースで足を残すことの出来る力が。
勝てる。
勝ってみせる!
そう思っていた。
そう、信じていた。
しかし──
(……マズったドゥラ。
今回は3000mじゃなくて、2000mだったドゥラ!)
菊花賞に向けての練習をし続けていた影響で、エアプメンテはいつもよりスローペースで走ってしまっていた。
一旦息を入れて、本来のペースに戻すためにスピードを上げる。
『あっとエアプメンテ、急にスピードを上げた!?
まだ第一コーナーを回ったばかり! このままでスタミナが維持できるのかー!?』
それを見た後続のウマ娘達は愕然とする。
(このタイミングでっ!?)
(こんなの、想定外ですわっ……!)
彼女たちは、オークスの時と比べて劇的に強くなっていた。
劇的に速くなっていた。
だが……それ以上にエアプメンテが速かった。
『さあ向正面から第三コーナー、淀の坂!
早期にペースを上げたエアプメンテ、果たしてスタミナが保つのか!?』
(これが話に聞いてた坂ドゥラか……確かに、思ってたよりキツい傾斜ドゥラね)
急激な上り坂に、流石にエアプメンテのペースが少し落ちる。
しかし、それは彼女にとって大した問題ではない。
(でも……山よりは走りやすいメンテねえ!)
エアプメンテは難なく上りきり、今度は下り坂を駆け抜ける。
走るのが辛いのは上りだが、気をつけなければいけないのはむしろ下り坂の方だ。
スピードを出しすぎると転倒のリスクがあるし、膝への負担もかかる。
「ッ、と……!」
膝に気をつけながらエアプメンテは慎重に坂を下りきり、そのままラストスパートに突入する。
『エアプメンテ! 坂を抜け最終直線!
落ちない! エアプメンテ、沈まない! 速い速い! まさに独走状態!
ミッキークイーン追うが、エアプメンテのセーフティリードは崩れない!
そのままゴール! 文句なしの大勝利!
圧倒的な強さを見せつけました、エアプメンテ!』
「ドゥ~ラドゥラドゥラ!!
今回も大勝利メンテねえ~!」
エアプメンテはバッと両手を挙げる。
三本と、二本。
左右でそれぞれ指を立てながら。
『エアプメンテ! 桜花賞、オークスと続けて今回の勝利!
これでティアラ路線の全てを戴冠! 今年の女王はこのウマ娘です!!』
観客席からは、怒涛のような歓声が上がった。
トリプルティアラ達成と共に、前人未到の挑戦に王手がかかったのだ。
*****
「はーっ、はーっ……」
レッツゴードンキは、息を整えながら空を見ていた。
彼女の順位は、18着。
最下位だった。
レッツゴードンキは笑顔を作り、観客席に手を振るエアプメンテの元に歩み寄る。
「プメちゃん、今日はおめでとうっ☆」
「ドンキ! ありがとメンテ!」
「負けちゃったけど、今日はプメちゃんと最後まで走りきれてよかった。
プメちゃんと走るの、これが最後だったから」
「え……最後ドゥラ?
もしかして、引退……」
「ううん。
私、短距離マイル路線に行くんだ☆
桜花賞は2着だったけど、中距離路線では結果を残せなかったから。
私はそっちでがんばるから、応援してるよ、プメちゃん!」
そうやって快活に言ったレッツゴードンキの瞳から、涙が次々と溢れてくる。
「あ、あれ? おかしいな……なんで。
泣くつもりなんて、なかった、のに。
祝福しなくちゃって、思ってたのに。
プメちゃん、ごめっ、私……!」
一度決壊してしまうと、もうそこから止まらなかった。
「もっと、プメちゃんと走りたかった……!
勝ちたかったよぉっ……!!」
「ドンキ……」
エアプメンテには、かける言葉が見つからなかった。
そんな二人の間の重い空気を払拭するかのように、ミッキークイーンが二人の背中をバシンと叩く。
「ひゃあっ!?」
「ドゥラぁ!?」
「ぬぁ~にを! 辛気臭い話をしてますの! どっちも引退するわけでもないでしょうに!
私はこれからも王道路線で走り続けますわ! エアプメンテ! 今回は後塵を拝しましたが、次こそは負けませんわ!
何回でもあなたと戦って、最後には勝ちますわ!」
「ミッキー……」
「あー! そういうの、わたくしが先に言おうと思ってたのにズルいですわ!」
イッツコーリングも割り込んでくる。
「エアプメンテさん、いつまでもわたくしを差し置いて1番をキープできると思わないことです。
私はあなたよりも強くなります、貴女を負かしてみせます!
貴女もですわ、ミッキークイーンさん!」
「へえ? どうやら先着されたことがよっぽど悔しいと見えますわね!!」
「言いましたわね! 偉そうに言っても貴女も結局2着じゃありませんの!」
「そっちこそ言いましたわね! 人が気にしてることを~!」
そのうち二人は言い合い、睨み合い、取っ組み合いはじめた。
「私たち差し置いてなんか始まったドゥラ……」
エアプメンテはそれを見て呆れていた。
「ふふっ……あははっ。
みんな、スゴイね☆なんだか、涙も引っ込んじゃった♪」
レッツゴードンキは、もう泣いてはいなかった。
負けたばかりなのに、みんな前を向いている。
そんなバイタリティ溢れる姿を見ている内に、なんだか泣いているのが馬鹿らしくなってきた。
「プメちゃん。
菊花賞、応援してるよ。
絶対に勝ってねっ☆」
「私に負けるまで、絶対に負けるんじゃありませんわよ!」
「わたくしに勝ったからには、無様な走りは許しませんわ。
ここまで来たら、六冠取ってしまいなさいな!」
檄を飛ばす三人に便乗するように、他の出走ウマ娘たちも次々とエアプメンテに声をかける。
「そうよそうよ!」
「あんたが最強だって思い知らせてやんなさいよね!
そうしないとアンタに負けまくった私たちの強さまで疑われるんだから!」
みんな口々に、エアプメンテに応援の言葉を投げつける。
ついさっきまでライバルとして鎬を削っていた相手でも、レースが終われば戦友なのだ。
「みんな……任せろドゥラ! 菊花賞、ぶっちぎりでゴールしてやるメンテねえ!!」
レースが終わったばかりだと言うのに、エアプメンテの心は次のレースに向けて燃えていた。
負けたくない理由が、また一つ増えた。
*****
そんな彼女たちの様子を、キタサンブラックはスタンドからじっと見つめていた。
「やっぱり、凄いや。
思ってた以上に、ずっと強くなってる」
手すりを握るキタサンブラックの手には、自然と力が入っていた。
「しかし、あなたも以前より遥かに強くなっています」
キタサンブラックの右隣に立っていたウマ娘は、そう言って彼女を励ます。
「ブルボンさん……」
彼女はミホノブルボン。
かつて無敗のままクラシック三冠に王手をかけた経験のあるウマ娘。
今のエアプメンテと、よく似ている。
「そうだよ。
今のキタちゃんなら大丈夫だよ!」
そう言って、キタサンの左隣に立っているウマ娘もまた彼女を励ます。
「ライスさん……」
彼女はライスシャワー。
かつて無敗だったミホノブルボンの三冠を阻止し、菊花賞を制したウマ娘。
今のキタサンブラックが成そうとしていることと、よく似ている。
どういう経緯か、そんな二人がキタサンブラックの側にいた。
「ありがとうございます。
お二人に協力してもらったこと、無駄にはしませんから!」