ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
エアプメンテ、六冠達成!
エアプメンテ、骨折!
そんな二つのニュースが同時に流れ、世間には動揺と衝撃が走った。
一方、当の本人はというと。
「トホホ~……まさか骨折するなんて思わなかったドゥラよ」
松葉杖をつきながら、けっこう呑気してた。
むしろ『菊花賞の後でよかったメンテねえ』くらいに考えていた。
エアプメンテは、医者とのやり取りを思い出す。
*****
「お、お、折れてるって……骨折ってことですか!?」
全く予想外の一言に、トレーナーが狼狽する。
「そうですね、右足の脛骨が折れてます。
おそらく疲労骨折でしょう」
医者は表情を変えずに言う。
「で、でも痛くないドゥラよ!? ここにも歩いてきたし!」
「おそらく一時的なものでしょう。
極度の興奮状態による脳内物質の分泌によって痛みが抑えられているだけです」
「ドゥラドゥラドゥラ! まっさか~、そんな漫画みたいな話があるわけないメンテよ」
エアプメンテがそう言って笑った直後──
ビキィ!
と鋭い痛みが走り、エアプメンテが悶絶する。
「ウギャアア!! あったドゥラ~!!」
「プメーっ!!」
「お分かりいただけましたか」
医者は努めて冷静に言う。
「なんでそんなに冷静なんですか先生!?」
そんな医者の態度とは対照的にトレーナーは声を荒げる。
至極当然の反応だった。
「落ち着いてください、私だって深刻な骨折ならもっと慌てています。
しかしエアプメンテさんの骨折は幸い、治りやすいものです。
きちんと骨がくっつけば選手生命にも支障はありません」
「ほ、本当ですか!?」
一転、トレーナーの表情が明るくなる。
「本当です。
手術なども必要ありませんし、大したことはありませんよ」
「そうですか、よかったぁ……」
トレーナーはほっとして胸を撫で下ろす。
エアプメンテは、まだ走れる。
そんな中、エアプメンテは痛む足を押さえながら思った。
「……骨折れてる時点で、大したことあると思うドゥラ……」
*****
その後、トレーナーとエアプメンテはすぐに緊急会見を開いた。
伝説的記録を打ち立てたウマ娘の骨折とあって、最初はトレーナーに世間の非難が集まりそうになった。
しかし、結果から言うとそうはならなかった。
「イェーイ、テレビの前のみんな、見てるドゥラか~? 私は元気ドゥラよ! ピスピース!」
当のエアプメンテ自身が元気な姿を見せたこと。
完治すれば選手生命には別状がないこと。
それに……エアプメンテ自身の言葉があったこと。
「今回の故障に関してはトレーナーが無茶なスケジュールを断行したことが原因との声があります。
それと同時に貴女のトレーナーの資質を疑う声もありますが、エアプメンテさんはどうお考えですか?」
年若い記者がそんな質問を投げかける。
それはトレーナーにとってある程度、想定されていたモノだった。
彼はトレーナー二年目のペーペーだ。
エアプメンテ以前の実績がない。
自分が世間から軽んじられていることを知っている。
『トレーナーの力量は関係なく、エアプメンテの才能だけで勝っている』
なんて評判があることも知っている。
しかしいざ実際に投げかけられるのは、辛い。
ケガをさせた後ろめたさもあって、トレーナーは何も言えなかった。
そういった記者の質問に対して、エアプメンテは逆に問いかける。
「その前に、記者さんに一つ質問してもいいドゥラか?」
「え、私にですか?」
「お願いドゥラ! 答えてくれたら私も質問に答えるメンテ!」
エアプメンテは両手をぱちんと合わせてお願いする。
記者はそれに当惑しながらも了承する。
「わ、わかりました……」
「ありがとメンテ。
それじゃあ、質問するドゥラ。
私が六冠に挑戦しているのを見て、どう思ったドゥラ?」
「どう、とは……?」
「記者さんの気持ちメンテね。
すごいとか、応援してたとか」
「私の……」
記者は、
「非常に個人的なものですが」
と前置きした上で答える。
「失礼ながら、最初は無謀だと思っていました。
しかし、貴女が桜花賞、皐月賞と勝ち進んでいくうちに……もしかしたら、と思いました。
本当に六冠を取ってしまうのではないかと。
そして……こういう場で特定のウマ娘に肩入れするような発言をしていいのか分かりませんが。
菊花賞、応援していました。
貴女の走りに、夢を見ました」
年若い記者はそう答えた。
エアプメンテはそれに頬を緩ませながら、うんうんと頷く。
「応援してくれて、ありがとメンテね。
それじゃあ、今度は私が質問に答える番ドゥラね。
結論から言うと、私のトレーナーになれるのはトレーナーしかいないドゥラ。
そう断言できるメンテねえ」
「……と、いうと?」
「トレーナーはすごいメンテよ?
練習も勉強もわかりやすく教えてくれるし、私の体調にはすごく気を遣ってくれてたドゥラ。
でも、それは重要じゃなくて。
一番大事なのは……私に六冠を走らせてくれたことドゥラ」
エアプメンテは、スカウトが来なかった日々のことを思い出していた。
自分のスケジュールが如何に無茶なものか、レースを走るようになってから理解した。
あの日、スカウトが来なかった理由も理解した。
でも、トレーナーはそれを理解した上で、自分をスカウトしてくれた。
新人の、何の経験もない状態で。
「たぶん他のトレーナーだったら、みんな辞めろって言うと思うメンテ。
でもトレーナーは私を信じて、走らせてくれたドゥラ。
まだデビューもしてない私が、六冠を獲れるって信じて。
六冠っていう目標を追っかけることが出来たのは、私の走りに記者さんが夢を見てくれたのは……。
トレーナーが私のトレーナーじゃなかったら、絶対に出来ないことだったメンテね」
記者はそれを静かに聞いていた。
その上で、何も言えなかった。
彼もまた、エアプメンテの走りに夢を見た一人だったから。
「……答えていただき、ありがとうございました」
そんなこんなで、世間は一定の落ち着きを取り戻した。
エアプメンテの六冠を応援していた人であればあるほど、トレーナーの事を悪く言えなかった。
*****
そんなわけで、当分は安静。
当然、練習も休みだ。
「暇メンテねえ~……」
放課後。
エアプメンテは外のベンチにぽけーっと座っていた。
「みんなボチボチ次走が決まって頑張ってるから、なおのこと暇メンテねえ」
友人のレッツゴードンキはマイルCS、ミッキークイーンはジャパンカップに向けて練習に打ち込んでいた。
イッツコーリングはエリザベス女王杯へ向けて。
いずれも来月のG1レースだ。
ちなみにジャパンカップはスピカのゴールドシップも走るし、
エリザベス女王杯は同室のリバーライトも走る。
(知り合い同士が同じレース走るのを見るのって、思えば初めてかもしれないメンテねえ)
そんなことを考えながら空を見上げる。
今後はそういうレースも増えていくのだろうか。
「……走りたいメンテね~」
身体がウズウズする。
フラストレーションが溜まってくる。
何も出来ないけど、部屋にじっとしているのも嫌だ。
だから外に出てきてはみたものの……何も出来ることがない。
「暇メンテねえ~~!!」
*****
「というわけで、暇だから遊びに来たドゥラよ」
暇を持て余した結果、エアプメンテはトレーナー室に来ていた。
「僕は暇じゃないんだけどなあ……」
トレーナーはデスクに座ってPCと向かい合っていた。
「何やってるんドゥラか? 私が休みだからトレーナーも暇だと思ってたドゥラ」
「色々あるんだよ。
……ああ、ちょうどよかった。
プメ、これ見てよ」
そう言ってトレーナーが取り出したのは、エアプメンテをモデルにした小さなぬいぐるみだった。
「わぁ! これ、私ドゥラか!?」
「そう、君のぱかプチ。
この前、許可出しただろう?」
「そうドゥラっけ?」
「そうだよ」
エアプメンテはグッズ化や写真の使用許可などの手続きを全てトレーナーに任せている。
一応その都度トレーナーが説明してはいるのだが、彼女はすっかり忘れていた。
「なんにせよ、うれしいメンテねえ。
まさか私がぱかプチになる日がくるなんて思わんかったドゥラ」
「ほかにも色々オファーが来てるよ。
フィギュアに缶バッジ、アクリルスタンドなんかもある」
そう言ってトレーナーは資料を広げてエアプメンテに見せる。
「へぇ~、多いメンテねえ」
「他にはエアプメンテチップスにエアプメンテグミ。
エアプメンテ目薬にエアプメンテ弁当箱……」
「なんか節操ないメンテねえ」
「今のキミは注目の的だからね、本当に色んなところからオファーが来るよ。
せっかくだし目を通してみてよ。
NGなものがあったら弾くから教えてね」
「わかったドゥラ!」
そう言ってエアプメンテは資料に目を通す。
本当に、色んなところからオファーが来ている。
エアプメンテせんべい、エアプメンテまんじゅう。
エアプメンテタオルにエアプメンテ石鹸……。
「私のグッズだけで温泉旅館でも開けそうドゥラね」
大抵の商品の謳い文句に、
『あの六冠ウマ娘が!』という枕詞がついてくる。
そういったものに目を通しているうちに、自分が六冠を獲ったウマ娘であるという実感が湧いてくる。
そのまま資料をぺらぺらとめくっていると、トレーナーから声をかけられる。
「プメ……改めて、ありがとう。
会見の時、かばってくれて」
「改まる必要ないドゥラよ。
トレーナーじゃなかったら私がここまで来れなかったっていうのは本当のことメンテね。
これからも一緒に頑張って欲しいメンテね!」
「……ああ、頑張ろう!
まずはゆっくりと怪我を治すところからだね」
「は~いドゥラ……」
そうやってエアプメンテが休んでいる間にも、あっというまに時間は進んでいく。
短い秋が終わり、冬のG1戦線がやってくる。