ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
12月。
エアプメンテの足は少しずつ良くなってきたが、まだギプスは外れない。
そんな中で行われる、この年最後の大レース。
そう、有馬記念の日が近づいてきていた。
学園内は有馬記念の話、クリスマスの話題、特に関係ない話の3つに分かれて混沌を極めていた。
「有馬記念、もうすぐ始まるね♪」
「私も来年こそは出走いたしますわよ!」
「……そんなにすごいんドゥラか? 有馬記念って」
食堂にて盛り上がるレッツゴードンキとミッキークイーンを見て、エアプメンテがそう零す。
「もちろんですわ。
有馬記念は人気投票で上位になった者のみが走れるレース。
この一年間でもっとも活躍したウマ娘のみが走ることが出来るレース、といっても過言ではありませんわよ」
「へぇ~、結構すごいメンテねえ」
「エアプメンテさん、さっきからやたらリアクションが淡白ではありませんこと?」
「いやー、なんか知り合いが3人も走るレースだからあんまりそういう実感がないメンテね。
キタサンに、リバー先輩に、ゴルシ先輩」
今回の有馬記念の出走者の中にはキタサンブラック、リバーライト、ゴールドシップの三人が名を連ねている。
だから、あまり特別なレースという感じはしなかった。
「それって『無冠の帝王』キタサンブラックに、G1レース6勝の『不沈艦』ゴールドシップ、それに今年のエリザベス女王杯で勝ったリバーライトさんのことですわよね?
全員が全員、有馬記念出走にふさわしい人気と実績を兼ね備えた名ウマ娘ばかりですわよ。
特にリバーライトさんの強さは、身を以て体験しましたし……」
イッツコーリングが悔しそうな表情を浮かべながら言う。
エリザベス女王杯は彼女にとっては非常に悔しいレースだった。
それと同時に、同レースで勝利したリバーライトに対しては一定のリスペクトを持っていた。
「リバー先輩、すごく喜んでたメンテねえ。
それはそうと、何ドゥラか『無冠の帝王』って! キタサン、なんでカッコいいあだ名ついてるメンテか!」
エアプメンテが意外そうに言うと、ドンキがすかさず突っ込む。
「プメちゃんのせいだよっ☆」
「なんで私ドゥラ!?」
「ほんっと~に忌々しいことに、クラシック歴代最強と言われている貴女をもっとも追い詰めたウマ娘だからですわ。
その上、貴女が出走していないレースは全て一着ですの。
その中にはG2レースも含まれていますわ。
ったく、重賞勝っておいて『無冠』なんて贅沢なもんですわね」
ミッキークイーンがちょっといじけた様子でぼやく。
彼女も重賞レースを走っているが、いずれも二着に終わっている。
「まあ、それだけG1とG2の差があるということでしょう。
レースの格という意味だけではなく、世間的な評価として。
私も一応G2勝利ウマ娘なのですけど……正直言って、人気の面では皆様方に劣っていますし」
イッツコーリングは唯一、G2レースのフィリーズレビューを勝っている。
桜花賞の前、かなり早期の重賞勝利だ。
「エアプメンテさんの人気は言うまでもありません。
ファンのことをとても大切にしているドンキさんの人気もわかります。
でも……ミッキーさんに負けてるのだけは解せませんわ!」
そう、イッツコーリングはミッキークイーンに人気で勝ったことがない。
それが彼女にとっての気に入らない部分だった。
ただでさえキャラが被っているのに、人気でも負けているのだから。
「フフーン、まあ『格』の差ってやつですわねぇ! 実際、一緒に出走したレースでは全部先着してますしー?」
「ぐぬぬ……それを言うなら私は重賞勝っていますのよ! 『格』だったら私のほうが上ですわ!」
「なんか大変メンテねえ、ふたりとも」
顔を突き合わせながら張り合う二人を見て、エアプメンテがお茶を飲みながら他人事のように呟く。
すると二人は同時にエアプメンテのほうを向き、キッと睨み付けた。
「あなたには分からないでしょうね! ずーっとぶっちぎり一番人気なんですもの!」
「世間じゃ歴代最強なんて持て囃されて! あなたが同期じゃなければ私が一番人気ですのに~!!」
二人の気迫に、エアプメンテは思わずたじろいでしまう。
「レースの時より怖いドゥラ……」
「こわいねー☆」
レッツゴードンキは他人事のような顔をして二人を見ていた。
ニコニコしている彼女を見て、エアプメンテは問いかける。
「そういえば、ドンキは平気メンテね。
人気のこと考えてあんな感じになったりしないんドゥラか?」
エアプメンテは、彼女がファンを大切にしている事をよく知っている。
だから、こういった人気にもっとも拘るのは彼女だと思っていた。
「うーん、それはまあ……人気が高いことに越したことはないけど。
今、ドンキちゃんを応援してくれる人たちのほうが大切かなっ☆
だから実は、人気にはそんなに拘ってないんだ」
「なんか意外ドゥラね。
てっきり一番目立ちたいもんだと思ってたドゥラ」
「デビューしたての時は、そうだったかな。
でも、私……実はメイクデビューの一回しか勝ってなくて。
二着とか三着には結構入ってるんだけどね」
彼女は決して、弱いウマ娘ではない。
しかし、勝ちきれないレースが続いていた。
それでも──
「それでも、応援してくれるみんながいる。
ダメな時でも、励ましてくれるみんながいる。
私はそういう人たちのことを大切にしたいかな」
そんな彼女の言葉を、三人はじっと聞いていた。
燃え上がっていた二人も静かになっていた。
そして三人揃って、ドンキのことを凝視していた。
「……えっ、えっ? 何? どうしたの?」
レッツゴードンキが困惑していると、エアプメンテが感心した様子で言った。
「ドンキ……なんだかすっごく、大人メンテねえ」
「そ、そうかなあ?」
「大人と言うか……少し、考えさせられる話でしたわね。
自分の結果が芳しくなかったとしても、変わらず応援してくれる人の存在。
そういうこと、あんまり考えたことはありませんでしたわ」
イッツコーリングが顎に手を当てながら言う。
そして、自らの応援をしてくれる人たちを思い出す。
自分が負けた時も、温かい声援を送ってくれた人たちの存在を。
「そういった人たちに、感謝するべきなのかもしれませんね」
彼女はそう言って柔らかく笑った。
その一方で、ミッキークイーンは難しい表情をしている。
「うーん……私はファンのために走るとか、大切にするとか、いまいちピンときませんけど。
その辺しっかりした考えを持ってるんですのね、ドンキさん」
「そ、そうかな? えへへ……☆」
レッツゴードンキは褒められて、恥ずかしそうに頬をかく。
エアプメンテはなんとなく、自らのギプスを一瞥した。
自分は今のところ、公式レースで負けていない。
……これからは、どうなるんだろう。
そんなことを考えそうになって、慌てて首を横に振る。
多分、ロクな考えじゃないからだ。
そんなエアプメンテの様子に気づくことなく、レッツゴードンキは彼女に話題を振る。
「そういえばプメちゃん、聞いた? ゴールドシップさんの話」
「いや……なんかあったんドゥラか?」
「今朝、テレビで会見やってたんだけど……。
ゴールドシップさん、有馬記念を最後にトゥインクルシリーズを引退するらしいよ」
「……え?」
*****
『ゴールドシップさん、有馬記念を最後にトゥインクルシリーズを引退するらしいよ』
放課後を迎え、夕方を迎え、夜を迎えても。
昼間に聞いた話が、ずっと頭の中から離れない。
エアプメンテとゴールドシップの交流は、決して多いわけではない。
でも合宿の時は可愛がってもらったし、焼きそばも食べさせてもらった。
エアプメンテは彼女のことがけっこう好きだった。
そんな先輩が、引退する。
「……引退って、どんな気持ちなんドゥラかね」
自室のベッドに座ったまま、エアプメンテは独りごちる。
「ゴールドシップさんの話?」
それを聞いていたリバーライトが訊く。
「あ……うん、そうドゥラ。
ゴルシ先輩には、お世話になったことがあるメンテから……」
「そういえば、合宿の時はスピカと一緒だったって言ってたね」
エアプメンテは、こくりと頷く。
リバーライトは、俯くエアプメンテの隣に座った。
「もう、走らなくなっちゃうんメンテね」
「ピークアウトが来てるって噂だったからね。
それでも、油断できないけれど」
「リバー先輩は、今度の有馬でゴルシ先輩と一緒に走るんドゥラよね?」
「うん。
……正直、緊張してる。
ヘンなことばっかりしてる印象があるけど、あの人は本当に強いから。
有馬の人気投票だって、1番人気だし」
リバーライトはそう話しながら、自らの手を見つめる。
そして、気にしていないとばかりに笑みを浮かべながらエアプメンテに話す。
「ちなみに私は、12番人気」
「ええっ! 前走でG1勝ってるのに、そんなに低いんドゥラか!?」
「それくらい、私以外に強くて人気なウマ娘が沢山出てるってことだよ。
正直、私自身も有馬に出るっていう実感が湧いてないくらい。
でも──」
リバーライトは自らの手をぎゅっと握りしめる。
「走るからには、勝ちたいな。
プメちゃんと走ったキタサンブラックちゃんにも、ドリームトロフィーに行っちゃうゴールドシップさんにも」
「……ん? 今、聞き捨てならない単語が聞こえたメンテよ。
ドリームトロフィー? ゴルシ先輩、引退しちゃうんじゃないドゥラか?」
「え? トゥインクルシリーズは引退するよ? 今後はドリームトロフィーに移籍しちゃうけどね」
それを聞いて、エアプメンテは安心して大きく息をついた。
「なぁ~んだ……走るのやめちゃうわけじゃないメンテね。
なんかホッとしたドゥラよ~……」
ドリームトロフィーは『ピークを過ぎたウマ娘が招待される』という点から、後ろ向きな捉えられ方をされがちである。
実際、ゴールドシップのドリームトロフィー移籍に関しては喜ぶよりも惜しむ声が圧倒的に多かった。
しかし、エアプメンテにとっては違った。
「ドリームトロフィーって言ったら、スズカ先輩とかグルーヴお姉ちゃんとかが走ってるやつドゥラよね。
ゴルシ先輩も、そこに行くメンテねえ~……」
ドリームトロフィーはそもそも、トゥインクルシリーズで結果を残した者のみが走る事のできるレースだ。
いわば、選ばれた強者のみが走ることのできるレース。
それがエアプメンテの認識だった。
とにかく懸念と言うか、モヤモヤした感覚は彼女の中から消えた。
「それにしても、私も走りたかったメンテねぇ。
リバー先輩、応援してるドゥラよ。
私の分まで走ってきてほしいドゥラ!」
「うんっ! そして来年こそ、公式戦で勝負しようね!」
*****
そうして、有馬当日がやってきた。
エアプメンテはトレーナーに付き添ってもらいながら、観客席でターフをじっと見つめていた。
「知らんウマ娘がいっぱいいるメンテねえ……」
出走ウマ娘たちが続々と入場してくる様を見て、エアプメンテがそう呟く。
「シニア級の子たちだね。
来年からキミのライバルになるかもしれない人たちだ」
「ライバルドゥラかぁ。
ま、私は誰にも負けないドゥラけどね!」
そんな話をしているうちに、ゴールドシップが、キタサンブラックが、リバーライトが続々と入場してくる。
「あ、入ってきたメンテね! リバーせんぱーい! がんばれドゥラ~!!」
怒涛の歓声と共に、エアプメンテもまた声援を送る。
程なくして、各ウマ娘はゲートに次々と入場し……レースが始まった。
途中、最後方につけていたゴールドシップが怒涛の追い込みで前方のウマ娘たちを捲くり始めた時は会場中が沸いた。
それはゴールドシップの必勝パターンであり、誰もが勝ちを期待した。
だが……ゴールドシップは、伸びなかった。
ピークの時と同じ走りをしていながら、ピークを過ぎたがゆえに同じ勝ち方ができなかった。
レースの勝者はキタサンブラックでもなく、リバーライトでもなく、ましてやゴールドシップでもない。
一着を獲ったのは、オールハイユウ。
エアプメンテの知らないウマ娘だった。
「……なるほど。
まだまだ強いウマ娘は、いっぱいいるってことドゥラね」
「そういうこと。
僕たちも負けていられないね。
キタサンブラックとリバーライトも力走していたみたいだし、来年はこの二人にも要注意だね」
ちなみにキタサンブラックは3着、リバーライトは4着だった。
有馬の舞台を走り抜けた彼女たちを見て、エアプメンテは叫ぶ。
「私も走りたいメンテね~~!!」
燻った想いが出した叫びは、歓声に呑まれて消えていった。
*****
それから、一ヶ月後。
「ようやく走れるメンテねぇ~~!!」
そこにはギプスが取れ、両の足でしっかりと立つエアプメンテがいた。
エアプメンテ、復活。
エアプメンテ、再始動。
燻り続けた火が、再び燃え上がりはじめる。