ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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19話

 悔しさに泣いた、天皇賞の翌日。

 エアプメンテはトレーナーと二人でミーティングを行っていた。

 

「昨日はお疲れ様。

 春天は負けちゃったけど、プメが最強のウマ娘なのは変わりないと思ってる」

 

「……負けちゃったのにドゥラか?」

 

 エアプメンテは俯きながら話を聞いており、その耳は垂れている。

 どうやら、キタサンブラックに負けたことがよっぽどショックだったらしい。

 対してトレーナーは、表面上は努めて落ち着いていた。

 

「うん、無敗と最強は違うからね。

 最強議論に名の挙がるシンボリルドルフやサイレンススズカだって無敗じゃないんだ! 

 一度負けたくらいで最強じゃなくなる、なんてことはあり得ないんだ!!」

 

 トレーナーは熱弁する。

 落ち着いたフリをしていただけで、内心は全然落ち着いていなかった。

 彼はエアプメンテに脳を焼かれているのだ。

 

 そんなトレーナーの様子に、自信なさげだったエアプメンテの耳がぴこんと立ち上がる。

 

「ほ、ほんとドゥラか?」

 

「もちろん。

 君は強い子だ。

 強くなれる子だ。

 プメはすごい! プメは最強だ! 依然変わりなく!」

 

 トレーナーは熱情の限りにエアプメンテを褒め殺す。

 エアプメンテの耳がぴこぴこと動き、尻尾がぶんぶんと揺れる。

 そして、その口角はどんどん上がっていった。

 

 

「そ……そうドゥラかぁ~?」

 

「当然だ! だから、悲しんでる姿は似合わないよ! だって君は、最強のウマ娘なんだから!」

 

 トレーナーがダメ押しに叫ぶと、エアプメンテは笑顔で勢いよく立ち上がる。

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラ!! 

 そうメンテよねぇ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 

 一回負けたくらいでへこたれてたら、最強の名が泣くメンテねぇ~!!」

 

 エアプメンテはそう言って大きく笑う。

 彼女は派手に悲しむ分、立ち直りもまた早かった。

 

「その意気だ、プメ! また一緒に頑張ろう!」

 

「お~!!」

 

 *****

 

 そして翌日、再びトレーナー室で。

 

「まず、先の天皇賞の敗因は複数ある。

 プメが最後のスパートをかけられなかったのはあくまでも原因の一つに過ぎない」

 

 トレーナーは所感と反省点をまとめて、エアプメンテに対しての講義を始める。

 エアプメンテは真剣な様子で聞いていた。

 

「敗因、いっぱいあるメンテか?」

 

「ああ。

 でも戦う前は気づけなかった。

 ……今思えば、もっと早く気づくべきだったんだ。

 ハッキリ言うと、キミにとって3200mは長すぎた。

 これがまず一つ目の敗因」

 

 トレーナーが指を一つ立てる。

 それを聞いて、エアプメンテは怪訝な顔をした。

 

「でも、菊花賞は勝ったメンテよ?」

 

「そう、そこなんだ。

 菊花賞で勝てたのは、キミの能力が適性を補って余りあるほど高かったからだ。

 だから、気づけなかった。

 プメ。キミは3000mを本気で走った結果、どうなった?」

 

「あ……」

 

 エアプメンテは自分の足に視線を落とす。

 あの時は、自らの怪我も自覚できないほどにレースに熱中していた。

 だから、勝てた。

 だから、折れた。

 

「今なら分かる。

 アレは明確に、超えてはいけない限界を超えたレースだったんだ。

 だから僕は、キミが踏みとどまったことをプラスに捉えている。

 確かに、踏みとどまったから負けたのかも知れない。

 でも、踏みとどまったからこそ無事に帰ってきてくれたんだと思う」

 

「トレーナー……」

 

 エアプメンテはレース後すぐ、念のために精密検査をした。

 しかし結果は異常なし。

 骨にもダメージは見受けられなかった。

 

「だから、あの時のことを気に病む必要はないよ。

 それに敗因の大本は別だ。

 そもそも、限界を超えた全力でスパートしなければ負けるような状況まで追い込まれたこと」

 

 そう言ってトレーナーは二本目の指を立てる。

 

「これに関しては、キタサンブラックが強かった。

 最初から最後まで、キミを追い込み続けたんだ。

 それに、一度抜かせるタイミングで我慢したのも偉かった」

 

「そうなんドゥラか?」

 

「ああ、キミが失速した時、キタサンブラックにはチャンスがあった。

 しかしそのチャンスを棒に振ってでも、プメへのマークを外さないことを選んだ。

 あくまでも目標をプメ一人に絞っていたんだ」

 

「確かに、めちゃくちゃしつこかったメンテね」

 

「プメは最後まで、キタサンブラックのマークを外しきることができなかった。

 むしろ、引き剥がそうとして無理にペースを上げることで余計な消耗をしてしまった。

 キタサンブラックのペースにまんまと引き込まれてしまったこと。

 これが三つ目の敗因」

 

 トレーナーは三本指を立てる。

 エアプメンテは「ドゥラ……」とうめきながら渋い表情をしていた。

 

「今回のキミは、強みを封殺されたまま走っていたようなものだ。

 プメ、キミは自分の強みがわかるかい?」

 

「私の強みは強いことドゥラ!!」

 

 得意気に答えるエアプメンテを見て、トレーナーは眉間を押さえる。

 

「うん、そうなんだけど、そうじゃなくてね……。

 とにかく、そういうところ。

 キミの強みは、とにかくマイペースなところだ。

 体内時計も正確で、ペースを乱すことも殆どない。

 本能レベルでスタミナ配分をできているんだ。

 多少のアクシデントがあったとしても、すぐに修正して走ることができるアドリブ力もある」

 

「へぇ~」

 

 エアプメンテは他人事のように感心する。

 あんまり自分の走りを客観的に考察されたことがなかったため、新鮮だった。

 

「ところが、先の天皇賞。

 とにかくキタサンブラックの存在にペースを乱され、本来得意なはずのスタミナの配分が上手く出来なかった。

 その結果追い込まれて、最終直線での勝負をせざるを得なかった。

 本来、自分のペースで周りの全てを乱すくらいの走りができるはずなのに、それができなかった」

 

「本当に、キタサンの存在がおっきかったんドゥラね……」

 

「ライバルに対して警戒するのは悪いことじゃないけど、ちょっと意識しすぎたね。

 これから何度も走る相手だから、そこは気をつけよう」

 

 エアプメンテは首を縦に振る。

 そして、あることに気づく。

 

「ん……確認するんドゥラけど、私はキタサンのことを意識しすぎて負けたんドゥラよね?」

 

「総合的に見るとそうなるね」

 

「でも、キタサンも私のことをすごく意識してたドゥラよね」

 

「そうだね。

 なんとかして自分のペースに引き込もうと、プメのことだけを見ていた」

 

「それじゃあ……他のみんなは、私のこと意識してたドゥラか?」

 

「勿論。

 同じレースを走っていて、プメのことを意識しない人はいないよ。

 そう断言できる」

 

 自分の質問に対するトレーナーの答えを聞く度、エアプメンテの脳内にある何かが形作られていく。

 

「自分はキタサンのこと意識して負けて、でもキタサンも私のこと意識してて、みんなも私のこと意識してて……。

 ……あーっ! 閃いたドゥラ!!」

 

 エアプメンテに電流走る。

 思考がまとまり、頭の上にひらめきの電球が点った気がした。

 

「トレーナー、お願いがあるメンテよ!」

 

「お願い?」

 

「私、い~い作戦閃いちゃったドゥラ。

 やってみたいメンテ!!」

 

「さ、作戦!? プメが!?」

 

 トレーナーは驚愕した。

 今までエアプメンテのことは、全て作戦無しで送り出してきた。

 それが彼女にとってもっとも走りやすく、もっとも強いことだと信じていたから。

 

 そんなエアプメンテが、自分から作戦を考えて、やりたいと言っている。

 トレーナーは、これは聞いてやらねばと思った。

 

「いいよ。

 ちなみに、どんな作戦か聞かせてくれるかな?」

 

「聞いて驚くなドゥラよ!! ごにょごにょ……」

 

 エアプメンテは得意気に耳打ちする。

 

「……プメ、それ本当に一人で考えたの!? この短時間で!?」

 

「うんっ、今考えたドゥラ!!」

 

「すごいよ、プメ!!」

 

 エアプメンテが告げた作戦は、特別奇抜なわけではない。

 発想としては、非常に単純なものだ。

 しかし、自分で作戦を考えることができるようになったという事実そのものが、トレーナーを大きく感動させた。

 エアプメンテは競争ウマ娘としても、人間としてもグングンと成長している真っ最中なのだ。

 

「その作戦、採用だ! さっそく練習しよう!」

 

「ドゥラ!」

 

 *****

 

「……とは言ったものの」

 

「相手がいないと練習のしようがないメンテねえ」

 

 二人はテンションが高まったまま外に出てきたはいいものの、作戦の練習には相手が必要不可欠だ。

 

「仮想敵がキタサンブラックだということを考えると、生半可な子ではダメだ。

 かといってそんな強いウマ娘なんて、僕にはスピカくらいしか伝手がない。

 ……プメ、キミの友達とかは?」

 

 エアプメンテは首を横に振る。

 後方からあのレベルの威圧感を放てる相手は知らない。

 

 ……いや、一人だけいた。

 

「グルーヴお姉ちゃんに協力してもらうのはどうドゥラかね?」

 

「エアグルーヴさん? 確かに彼女なら、併走相手として申し分ない。

 だけど……協力してくれるかなぁ」

 

「ダメンテか? でもグルーヴお姉ちゃん、お勉強見たりしてくれたドゥラよ?」

 

「見るのと実際に走るのじゃ負担の大きさが違うからね。

 それにただでさえお世話になってるのに、そこまでしてもらうのは……っていう気持ちもあるし」

 

「ちょっとぐらい大丈夫ドゥラよ! さっそく頼みに行くメンテ!」

 

「あ、ちょっとプメ!」

 

 善は急げということで、エアプメンテはトレーナーを置いてけぼりにして生徒会室まで向かう。

 そしてエアグルーヴに協力を仰ごうとするが……。

 

 

「初めましてかな、エアプメンテ。

 せっかく来てくれたところ悪いが、あいにくエアグルーヴは休みなんだ」

 

「え~!?」

 

 応対してくれたのは、生徒会長であるシンボリルドルフだった。

 生徒会室にエアグルーヴの姿はなかった。

 どうやら、体調を崩しているらしい。

 

「最近、疲労が溜まっていたみたいだからな。

 これを機会にゆっくり休んでくれるといいんだが……」

 

「そうドゥラかぁ……あとでお見舞いに行くメンテね。

 新しい作戦を練習で試せるのは、しばらく後になりそうドゥラ」

 

 エアプメンテは残念そうに肩を落とす。

 しかしシンボリルドルフは、エアプメンテがこぼした一言に反応した。

 

「新しい、作戦?」

 

「そう、とっておきの作戦ドゥラ! さっき自分で考えたメンテよ!!」

 

「ほう……?」

 

 エアプメンテは得意気に胸を張る。

 それを聞いたシンボリルドルフは、興味を引かれた。

 そして悪戯っぽい笑顔で、ひとつ提案をする。

 

「なあエアプメンテ。

 ものは相談なんだが……」

 

「ドゥラ?」

 

「その練習相手、私では不足だろうか?」

 

「えっ!? 練習、付き合ってくれるんドゥラか!?」

 

「ああ、少しだけな。

 私のトレーナーにも許可を取っておく。

 そちらのトレーナーは、大丈夫だろうか?」

 

「大丈夫ドゥラ! 会長が練習の助っ人に来てくれるってなったら、きっと驚くメンテねえ!」

 

 こうして、シンボリルドルフが練習相手を買って出てくれるようになった。

 

「ところで、なんでそんな気軽に付き合ってくれるんドゥラか? 会長、忙しいはずメンテよね?」

 

「そうだな。

 君に興味があるから、とでも言えばいいだろうか?」

 

「私にドゥラか?」

 

「ああ。

 君の話はエアグルーヴからよく聞かせてもらっているし、君の出走レースも全て見せてもらった。

 だから実際の君はどんな人物か、間近で見る君の走りはどんな物なのか。

 それが気になったのさ」

 

「へえ、光栄ドゥラね~! 私の走りを見たら、きっと腰抜かすドゥラよ!」

 

「ふふっ、それは楽しみだ」

 

 

 *****

 

 そして、二人はトレーナーの元に帰ってくる。

 

「トレーナー! 練習相手連れてきたドゥラよ~!」

 

「本当かい!? じゃあエアグルーヴさんは協力し……」

 

 トレーナーはエアプメンテを見る。

 隣に立っているシンボリルドルフを見る。

 

「……え?」

 

 トレーナーはシンボリルドルフを二度見する。

 

「……あの、エアプメンテさん? 練習相手って、もしかして……?」

 

 エアプメンテはとシンボリルドルフは、二人揃って頷いた。

 

「シンボリルドルフです。

 この度はよろしく頼みます、エアプメンテのトレーナーさん」

 

「え、え……えぇぇ~!?」

 

 トレーナーは、驚いてひっくり返った。

 それを見たエアプメンテは、悪戯が成功したと言わんばかりにドゥララと笑う。

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラ! 流石にびっくりしてくれたメンテね! よろしくお願いするメンテよ、会長!」

 

「ああ、君の『作戦』とやらが楽しみだ」

 

 楽しそうに笑う二人を見ながら、トレーナーは胃のあたりを押さえていた。

 

「……だ、大丈夫かなぁ……」

 

 エアプメンテの自主性を重んじて、彼女の作戦を軽い気持ちで承認したものの……まさかこんなことになるとは思っていなかった。

 ともあれ、望外のパートナーを得たエアプメンテの特訓は始まるのであった。

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