ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
メイクデビューの翌日、トレーナーとエアプメンテはミーティングを行っていた。
「まず、昨日はよく頑張ったね。初勝利おめでとう」
「当然ドゥラね!」
エアプメンテが自慢気にふんすと胸を張る。
しかしトレーナーは難しい顔をしながら彼女に告げる。
「でも、問題点も見えた」
「問題? 誰がどう見ても完璧なレースをしたドゥラよ?
私は最強メンテ!」
「ところで……エアプメンテ。
君は普段、どんなことを考えてレースを走ってる?」
「どんなことって……走るの楽しい! くらいしか考えてないメンテよ?」
「……ペース配分とか、レースの組み立てとかは?」
「考えたことも無いメンテ」
「うーん……そうだよねぇ……」
頭を捻るトレーナーと、首を傾げるエアプメンテ。
そう、エアプメンテは何も考えていないのである!
なぜなら、それで勝ててしまうからだ。
当然、レースの駆け引きなど行ったこともない。
「今はそれでいいかもしれないけど、今後はそれだけで勝てるほど甘くないと思うんだ。
だからエアプメンテ、君にはそういったレース中に考えなければいけない事の勉強をしてもらいたい」
「えー! お勉強はイヤドゥラよ! 走りたいメンテ~!」
エアプメンテは床に転がり、長い手足をジタバタしながら不満を表明する。
見た目だけは大人っぽい彼女が駄々をこねる様子は、非常にシュールなものだった。
「勉強は今後のために必要なことなんだよ?
賢いウマ娘のほうがレース運びを有利に進められるのはデータが証明してるし」
「私はそんなのなくても勝てるドゥラよ!」
「そこが困ったところなんだよね……」
エアプメンテは挫折を知らない。
それがただでさえ低い彼女の学習意欲を沸かせない原因だった。
「せめて併走トレーニングの相手さえいればなあ」
「でも練習で私と走ってくれる子、いないドゥラよ」
「キミと走っても練習にならないって言われて断られちゃうんだよね……」
「ドゥ~ラドゥラドゥラ、強すぎるのは罪メンテねえ!」
トレーナーは頭が痛かった。
エアプメンテは併走でも加減しないでぶっちぎってしまう悪癖があった。
少なくとも、ジュニア級の子たちでは相手にならない。
大逃げでエアプメンテの併走相手になるウマ娘……出来ることなら、エアプメンテよりも強いウマ娘。
*****
「というわけで、併走相手に良さそうな子にお願いして来てもらいました」
トレーナーが併走相手として連れてきたのは、サイレンススズカだった。
彼女のトレーナーも一緒だ。
「今日はよろしくね、エアプメンテちゃん」
「おっ、先輩ドゥラね? よろしくお願いするメンテ!」
エアプメンテは腕をぐるぐる回してやる気満々だ。
二人は早速コースに入り、スタートの合図を待つ。
「それじゃあいくぞ? 用意……スタート!」
スタートの声が聞こえると同時に、二人は弾けるように飛び出す。
その様子を見ながら、二人のトレーナーは会話を交わす。
「今日はありがとうございます、沖野トレーナー」
「いいさ、可愛い後輩の頼みだ。それに大逃げ同士の併走ってのは、スズカにとっても貴重な経験だ」
そんな話をしている間に、二人は凄まじいスピードでターフを駆け抜けていく。
スタートからハナを取ったのはサイレンススズカ。
エアプメンテも負けじと追いすがり、ハナを奪おうとする。
しかし──
(差が、縮まらないドゥラ……!)
エアプメンテが全力でスピードを出しても、サイレンススズカの横に並ぶことすらできない。
いくら走っても、前に自分以外のウマ娘がいる。
(イヤだ、負けたくないメンテ……!
私は、最強になるのにっ、ここで負けるなんてまっぴらごメンテ!)
そんなエアプメンテの気持ちも虚しく、スズカとの差はどんどん開いていき……。
そのまま、ゴールを迎えてしまう。
「ハァ、ハァ、ハァッ……!!」
息を切らしているエアプメンテと、清々しい表情のスズカ。
二人の間には、明確で圧倒的な力量差があった。
「……流石に強いですね、サイレンススズカは。
これだけ速いのに、まだ余力を残してる」
「着差は三バ身ってところか?
お前のところのエアプメンテも末恐ろしいな」
結果は分かり切っていた。
しかし、トレーナーの中には
『エアプメンテならもしかしたら勝ってしまうんじゃないか?』
という気持ちも少しだけあった。
それだけに、サイレンススズカの強さに瞠目するしかなかった。
「楽しかったわ、エアプメンテちゃん」
「い、一度勝ったからって、調子にっ、乗るんじゃないドゥラ!
さっきのはっ、たまたま、調子が悪かっただけメンテ……」
「エアプメンテ、さっきの走りはキミのベストタイムだったよ」
トレーナーの言葉に目を見開き、エアプメンテは呆然としていた。
言い訳の余地もなく、ベストの走りをした上で、負けた。
そんな事実が深々と心に突き刺さる。
「ま……負けたドゥラか? 最強の私が……」
エアプメンテはわなわなと震え出し、その瞳からは涙がぽろぽろと溢れ出す。
今までに感じることのなかった気持ちが、エアプメンテの心を支配していく。
「うわ~ん!
悔しいドゥラ~~!!」
彼女は泣いた。ただただ泣いた。
上には上がいる。
結局、エアプメンテが敗北エアプで走り抜けることは不可能だった。
最強への道は、まだ遠い。
*****
「お疲れ様、エアプメンテ。
負けはしたけど、いい走りだったよ」
彼女の様子が落ち着いたのを見計らって、トレーナーが声をかける。
「ひっく、ひっく……でも、負けは負けドゥラ……」
エアプメンテは俯き、すんすんと鼻を鳴らしたまま応える。
負けたという事実が相当にショックだったらしい。
「わかったかい、エアプメンテ? 今のキミは、まだ最強じゃない。
キミより強いウマ娘は、まだまだ沢山いる」
「ドゥラ……」
「でも、僕はキミが最強になるって信じてる。
だから、頑張ろう。もう負けないために、もっと強くなるために!」
「わ……わかったドゥラ。
私、もっと強くなるメンテよ!
お勉強もイヤだけど、頑張るドゥラ!!」
トレーナーの発破を受けて、エアプメンテは決意を新たにする。
彼女は単純故に、立ち直りも早かった。
そんな二人の様子を、沖野トレーナーとサイレンスズカも微笑ましそうに見守っていた。
*****
その後は二人でトレーニングを行い、エアプメンテとスズカはすっかり打ち解けていた。
「そういえばスズカ先輩って、普段何を考えて走ってるドゥラか?」
「突然どうしたの?」
「今日、トレーナーに言われたドゥラよ。
レース中に考えなきゃいけないことの勉強をしなきゃいけないメンテ」
「考えてること……そうね、楽しい、かしら」
「え、それだけドゥラか?」
「あとは、先頭の景色は気持ちいい、とか」
「他には?」
「え? それくらいだけど」
エアプメンテは振り向き、トレーナーの方を見る。
「聞いたドゥラかトレーナー!
あんなに速いスズカ先輩がこう言ってるメンテ!
私も参考にするメンテよ~!」
目をキラキラさせながら嬉しそうにはしゃぐエアプメンテの姿にトレーナーは頭を抱え、沖野は苦笑いを浮かべていた。
「あー……なんか悪いな?」
「いえ、今日はありがとうございました。
エアプメンテも、無理に勉強させないほうがいいんでしょうかね……」
「まあ、人それぞれだ。
うちのスズカは、やりたいように走らせることがベストだと思ってる。
それに……」
「それに?」
「俺はスズカが自由に走ってるところが、一番好きだからな」
トレーナーはそれを聞いて、ハッとする。
自分がエアプメンテの走りに惹かれたのは、何故だったか。
荒々しくて、それでいて自由で、どこまでも飛んでいけそうな……そんな走りだったからだ。
「……本当に、ありがとうございました」
「礼はいいさ。
それに、うちにもデビューを控えてるウマ娘がいるんだ。
エアプメンテはライバルってことになる。
強いぞ? うちのキタサンブラックは」
沖野のそんな言葉を受けて、トレーナーも言葉を返す。
静かに、そしてハッキリと。
「負けませんよ」
それを聞いて沖野は微笑み、彼もまた同じようにハッキリと応えた。
「俺達もだ」
*****
サイレンススズカとの併走を機に、エアプメンテのレース方針は固まった。
自由に、楽しく。
全力で、最短距離で。
『エアプメンテ、大差で勝利! 圧倒的なスピードで逃げる姿はまさに暴風!
このウマ娘を止められる者はいないのかー!?』
エアプメンテはその後2レースを走り、どちらも大勝。
その強さを世間に知らしめた。
次なる戦場は4月、阪神競馬場。
桜咲く季節の中、前代未聞の六冠への挑戦が始まる。