ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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20話

「えー、ありがたいことにシンボリルドルフさんが協力してくれるということで、ご厚意に甘えようと思います」

 

「わ~いドゥラ!」

 

 エアプメンテはパチパチと拍手をする。

 

「でも、今日は本当にお試しで一度併走してもらうだけだからね。

 本格的に協力してもらうのは、正式にリギルのトレーナーの許可が取れてからです」

 

「本人の了承があるのにドゥラか?」

 

「本人がいいって言ってても、トレーナー側にも色々予定があるからね。

 ルドルフさんも、その辺は大丈夫ですよね?」

 

「勿論、そのつもりだ。

 ところで、エアプメンテの言う『作戦』というものを私はまだ聞いていないんだが……。

 そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

 

「わかったドゥラ! ごにょごにょ……」

 

 エアプメンテが得意気に耳打ちするのを見て、トレーナーはドキドキしていた。

 いい作戦だと思って承認したけど、自分はあくまでもエアプメンテ以外を担当したことのない新人トレーナー。

 果たして歴戦の強者であるシンボリルドルフにとってはどう映るのだろうか……。

 緊張しながら見守っていると、シンボリルドルフが大きく笑った。

 

「……はっはっはっは! 面白い! 君は大したウマ娘だな。

 自分のことを『強い』と心から信じていないと実行できない作戦だ」

 

「ふふん、私は最強ドゥラからね! こないだは負けちゃったけど、それでも最強メンテ!」

 

 そんなエアプメンテの言葉を聞いて、ルドルフは嬉しそうに笑う。

 

「この私を前にして『最強』を名乗るとは、いい気概だ。

 それで、私は何をすればいい?」

 

「まずプメが前を走るので、後ろから追ってください。

 そして追い越したりすることなく、ずっと張り付いていてください」

 

「わかった」

 

 ルドルフが了承する。

 トレーナーは、今度はエアプメンテに向けて指示を出す。

 

「プメの方は、八割くらいのスピードを維持しながら先頭でずっと逃げ続けて。

 しかし、決してペースを上げないこと! ペースを上げたのがわかったら、その時点で中断するからね」

 

「わかったドゥラ!」

 

 話を聞いた二人は、早速スタート位置につく。

 シンボリルドルフとエアプメンテが二人並んでいる姿を見て、トレーナーはなんだか不思議な気分になった。

 エアプメンテが、まさか最強と名高いシンボリルドルフと一緒に走る光景が見れるだなんて。

 ……いつか、二人がドリームトロフィーで戦う日も来るのだろうか。

 とにかく、今は練習。

 胸を借りるつもりで行こう。

 

「それじゃあよーい……スタート!」

 

 トレーナーが合図をすると、二人は勢いよく飛び出す。

 先頭で走るエアプメンテの背中を見ながら、シンボリルドルフは彼女を観察する。

 

(なるほど……いいスタートだ。

 私の認識している限りでは、トゥインクルのウマ娘で彼女に比肩するスタートダッシュの持ち主はいないだろう)

 

 ルドルフはエアプメンテと一定の距離を保ちながら、エアプメンテの分析を続ける。

 

(ふむ……フォームもいい。

 一見派手で乱れたフォームに見えるが、地面を蹴る力を無駄なく推進力へと変えている。

 努力と学習の跡が垣間見えるな。

 だが──これはどうだ?)

 

 ルドルフは、小手調べに軽くプレッシャーを飛ばしてみる。

 

(──っ!?)

 

 それに対して、エアプメンテは多少のやりづらさを感じた。

 

(何ドゥラか? ルドルフ会長の存在感が急におっきくなったドゥラ。

 あの時のキタサンみたいな感じに……)

 

 視界の端にルドルフが見える。

 ルドルフはギリギリ追い越さない程度の位置についている。

 その位置から、一切動かない。

 エアプメンテが一定のペースで走るのと同じように、シンボリルドルフもまた全く同じペースで張り付き続けていた。

 

「く、ッ……!」

 

(……ダメダメ、我慢ドゥラ! ここでペースを上げたら、あの時の二の舞になっちゃうメンテね!)

 

 エアプメンテはスピードを上げて引き剥がしたい衝動を必死で抑える。

 ルドルフはそれを見て、内心でほくそ笑む。

 

(ほう……このくらいは耐えてくるか。

 なら、もう少しギアを上げてみるか)

 

 ルドルフは、更にプレッシャーを強める。

 エアプメンテは背中がずしりと重くなるような錯覚を覚えた。

 

(なん、ドゥラかっ、これ……!)

 

 レースを走っていて、こんな感覚になるのは初めてのことだった。

 まずい、こんな重いままじゃ、追い越される。

 もっと速く走らないと、ペースが維持できない! 

 もっと──

 

「ストップ、プメ! そこまで!」

 

「……ドゥラ?」

 

 トレーナーの声に、エアプメンテは足を止める。

 しかし、どこか釈然としない気持ちがあった。

 

「私、ペース乱れてたドゥラか?」

 

「何言ってるのさ。

 さっき急激にペースを上げたじゃないか」

 

「えっ、えっ……? むしろ、ペースを維持しようとしたドゥラよ。

 身体が重くなって、このままじゃ落ちちゃうって思って……」

 

「?」

 

 トレーナーは首を傾げる。

 エアプメンテの話は要領を得ない。

 横から見ているトレーナーからしたら、ピッタリ張り付くシンボリルドルフに耐えかねて速度を上げただけにしか見えなかった。

 

「お疲れ様。

 こういうのは初めてだったかな?」

 

 ルドルフは息一つ乱さず、エアプメンテに話しかける。

 その姿には、明確な余裕が感じられた。

 

「会長、何ドゥラかアレ! 何やったドゥラか!? 急に身体が重くなったメンテよ?」

 

「ははは、それはプレッシャーでそう感じただけさ。

 いくら私でも、相手の身体を実際に重くするなんて不可能だ」

 

「どういう理屈なんドゥラか、一体……」

 

「一言で言えば、技術だ。

 積み重ねたレース経験と感覚で、相手の動きを支配するプレッシャーを意図的に放つこともできるようになるんだ。

 それは位置取りだったり、足の使い方だったり……とにかく、上手く動くことで相手の動きをコントロールすることができる。

 まあ、実際にはもっと色々あるんだが……今はこの認識で問題ない」

 

「へぇ~……そんなの、初めて聞いたドゥラよ」

 

「走っている者にしか分からない感覚だからな。

 ともかく、このプレッシャーを浴びながらもペースを維持できるようになるのが作戦成功への第一歩だ」

 

「重い一歩メンテねえ……」

 

「それでは、また来るよ。

 今日の所はトレーナーと話をしなければいけないからな。

 頑張ってくれ、エアプメンテ」

 

 シンボリルドルフはそう言って去っていく。

 その背中を見ながら、トレーナーはエアプメンテに訊ねる。

 

「プメ、どうだった?」

 

「どうもこうもないドゥラよ……なんなんドゥラか、アレ。

 虎かライオンにでも追っかけられてるのかと思ったメンテよ。

 なんか妙に疲れたドゥラ~……」

 

 そう言ってエアプメンテはその場に座り込んでしまう。

 

「でも、収穫だね。

 こんなテクニックが存在するって知っておけてよかった。

 今日みたいに知らないままやられるのが一番怖かったから」

 

「そうメンテね。

 次走ったら、もうちょっと耐えられる気がするドゥラ」

 

「それに……キタサンブラックだって、このテクニックを習得して使ってくるかもしれない。

 その場合を考えると、やはりルドルフさんに協力してもらえるようになったのはラッキーだったね。

 問題はプメにかかる負担だけど……大丈夫かい?」

 

「あんまり走ってないし、身体は大丈夫ドゥラよ。

 それに、こんなの初めてだから……なんだか燃えてくるドゥラ!」

 

 エアプメンテにとって、明確な格上との練習経験はほとんどない。

 しかし今回、貴重な格上……それも最上位クラスの相手との練習ができるのだ。

 エアプメンテは今まで経験できなかった練習にテンションが上がっていた。

 

 トレーナーはそれを見て安心していた。

 以前は、練習でスズカに負けただけで悔し泣きしていたプメが、敗北を糧に強くなろうとしている。

 

「……プメ。君はやっぱり、強い子だ」

 

 トレーナーは独り言のつもりで呟く。

 しかしエアプメンテはしっかりそれを聞いていたようで、上機嫌で親指をグッと立てた。

 

「当然メンテねえ!」

 

 *****

 

 翌日、リギルの東条トレーナーから正式に許可を得た後で三人は集合する。

 

「ルドルフさん、今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく。

 それと君からもらった菓子折りは、リギルのみんなで頂かせてもらったよ」

 

「よかった……」

 

 トレーナーは、先日のやりとりを思い出す。

 リギルに許可を取る上で、わざわざ菓子折りを持って挨拶に行ったのだ。

 

 *****

 

 許可は、恐ろしいほどにあっさりと取れた。

 

「まあ、貴方だったら任せても大丈夫でしょう」

 

「え、でも初対面ですよね?」

 

「あのエアプメンテのトレーナー、というだけで理由としては十分よ」

 

 そう言われて、トレーナーはきょとんとしてしまう。

 エアプメンテのトレーナーだから、なんだというのか。

 自分はまだ新人だし、担当に怪我もさせてしまっている。

 

「……何よ、その意外そうな顔は」

 

「あ、いや……そんな理由で任せられて、正直意外というか。

 僕、まだトレーナー歴3年しかないし、担当もまだ一人だけだし……」

 

「いい? 新人トレーナーが最初の担当でいくつもG1取らせるなんて、普通はありえないの。

 でもあなたはそれをやってのけた。

 それだけであなたを優秀だと判断するには十分よ」

 

「でも、それはプメの才能あってこその話で……」

 

「才能あるウマ娘を勝たせるのはトレーナーの手腕よ」

 

「そ、そう言われれば、そう……なんですかね?」

 

 トレーナーは自信なさげに言う。

 東条はそれに呆れながら話を続ける。

 

「もう三年もやってるんだから、自信持ちなさい! 

 新人扱いされるのなんて、今年が最後なんだから」

 

「は、はい!」

 

 活を入れられ、思わず背筋をピンと伸ばす。

 そんな様子を見て、東条はクスリと笑った。

 

「まだまだ若いんだから、いろいろ試していろいろ挑戦してみなさい。

 先輩として、出来る限り協力してあげるから」

 

 *****

 

「東条さん、いい人で安心しました」

 

「だろう? おハナさんはああ見えて面倒見がいいんだ」

 

 どこか自慢気に言うルドルフの姿には、自らのトレーナーに対しての強い信頼が見て取れた。

 

「二人ともー、挨拶はそのくらいにして早く走りたいメンテねえ!」

 

焦れたエアプメンテは待ちきれず、まだかまだかと言わんばかりにぴょんぴょん跳ねている。

 

「そうだね、それじゃあウォームアップを済ませたら併走を始めようか」

 

「どんとこいドゥラ!」

 

 こうして、ルドルフのプレッシャーに耐える特訓が始まった。

 しかし──

 

「だ、ダメンテよ~……」

 

 何回やっても、ルドルフのプレッシャーに負けてペースが維持できなくなってしまう。

 

「第一コーナーまで保たないね……」

 

 トレーナーが残念そうに呟く。

 それに対して、ルドルフが解説する。

 

「基本のスタイルが逃げだからな。

 そういう相手には余計に効きやすいんだ」

 

「なんでドゥラか?」

 

「普段こういったプレッシャーを向けられることが少ないから、耐性がない。

 それに、プメンテは堪え性がないタイプのようだから尚の事だ」

 

「たしかに、そうかも知れないメンテね……」

 

 エアプメンテは顎に手を当てて考え込む。

 自分が明確に脅威となるプレッシャーを感じたのは、菊花賞と春天の二回。

 十戦のキャリアの中で、たった二回だけなのだ。

 おまけにそのうちの一回は、敗因に繋がってしまっている。

 

「耐性、ないのかもしれないドゥラねえ……」

 

 実際には少し違う。

 彼女が重圧を掛けられたのは一度や二度では決してない。

 ただ、生半可な重圧は気づきもせずに振り切ってしまっているだけだ。

 そういう意味では、むしろ耐性は高いほうだ。

 

 しかし、本当の強者が放つプレッシャーに対してはその鈍感さは意味を持たない。

 それだけだ。

 

「こればかりは、慣れる以外に方法はない。

 根気強くやっていこう」

 

 ルドルフがそう言って励ます。

 エアプメンテはそれに応じて、再び立ち上がる。

 

「っしゃあ! もう一本、お願いするメンテねえ!」

 

「その意気だ。

 さあ、今度こそ耐えてみせろ!」

 

 *****

 

 時は夕暮れ。

 シンボリルドルフに追いかけられながら、エアプメンテが必死で走っている。

 そんな風景を、遠くから見ているウマ娘たちがいた。

 キタサンブラックとトウカイテイオーだ。

 

「プメちゃんだ……」

 

 キタサンブラックだ。

 彼女は春の天皇賞で勝って、喜んだ。

 それはもう、大喜びした後だった。

 舞い上がった気持ちが、まだ抜けきっていない。

 そんな彼女にとって、その光景は衝撃的だった。

 

「いいなー、カイチョーと一緒にトレーニングしてるなんて」

 

 トウカイテイオーが羨ましそうに遠くの二人を見つめる。

 隣のキタサンブラックもまた、立ち止まって二人の走りを見ていた。

 

 まだ春天から三日しか経ってないのに、プメちゃんはもう先に進もうとしている。

 生徒会長の力まで借りて、必死で猛特訓している。

 負けたのに、まったくめげず落ち込まず、頑張っている。

 自分の中の浮かれた気持ちが、急速に冷えていくのを感じる。

 

「……テイオーさん。

 自主練、付き合ってくれませんか?」

 

 キタサンがエアプメンテ達から視線を外さないまま、そう呟く。

 その言葉を聞いたテイオーは、嬉しそうに答える。

 

「もっちろん! 次はプメちゃんだけじゃなくて、カイチョーのこともギャフンと言わせてやろうね!」

 

 まだ次走すら決まっていないのに、当たり前のように対決する前提だった。

 そしてそれは、エアプメンテ陣営も同じ気持ちだった。

 

「次こそは、キタサンに絶対勝つドゥラよ~!!」

 

「その意気だ、プメ!」

 

「そのためにはまず、第一コーナーくらいまでは耐えられるようにならなければな。

 さて、まだ行けるだろう?」

 

「もちろん! もう一本、お願いするメンテねえ!」

 

二人は互いを意識し、互いに勝たんと努力し続ける。

しかし、忘れてはいけない。

 

エアプメンテに勝ちたいのは。

キタサンブラックに勝ちたいのは。

一人だけ、ではないのだ。

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