ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ! 作:東頭鎖国
桜花賞、当日。
「すごい人の数ドゥラね……」
エアプメンテは観客席をぐるりと見渡す。
今までのレースとは比べ物にならないほどの人が、今日のレースを見るために詰めかけている。
これが、G1レース。
初の大舞台に、エアプメンテの胸は高鳴っていた。
(さて、私と一緒に走る連中はどんなウマ娘ドゥラかね)
エアプメンテは自らの周囲に視線を移す。
落ち着かないもの、気合の入っているもの、静かに目を閉じているもの。
様々な様子で出走開始を待っていた。
中でも、特に目立っていたのは──
「イェーイ♪ TVの前のみんな、ドンキちゃんをよろしくー♪」
思いっきりカメラ目線で笑顔を見せつけているウマ娘だった。
それも一つのカメラだけではなく、設置された複数のカメラ一つ一つに目線を向けている。
「何やってるドゥラか?」
「何って、アピールアピール!
お茶の間のみんなにドンキちゃんの可愛さを伝えてるんだよ♪」
そう言ってエアプメンテの方に振り向くウマ娘。
くりっと丸くて大きな瞳が特徴的な、可愛らしい少女だった。
「私はレッツゴードンキ。
あなたは、一番人気のエアプメンテちゃんだよね」
「そうドゥラ! 私が一番人気のエアプメンテドゥラ!
いや~、一番人気って響きは気分がいいメンテねえ」
エアプメンテはふんぞり返って調子に乗る。
そう、彼女の前評判は圧倒的一番人気。
間違いなく、このレースでもっとも注目されるウマ娘だった。
それは、他の出走ウマ娘たちにとっても変わらない。
彼女はこの中でひときわ目立つ存在だった。
「そう、一番人気。一番目立つポジションだよね。
でも今日は、ドンキちゃんが一番目立って見せるからね。
一位になって、センターでっ☆」
レッツゴードンキはビシッと宣戦布告をして、ゲートに向かっていった。
エアプメンテはポカンとしながらその背中を見送る。
「変な子メンテねえ」
エアプメンテは自分のことを棚に上げながらそんなことを思う。
そのまま係員に背中を押され、エアプメンテもゲートに入っていった。
程なくしてファンファーレが鳴り、レースが近づく。
集中力が、高まっていく。
そして──
がこん! という音と同時にゲートが開き、ウマ娘たちが一斉にスタートを切る。
『さあ各ウマ娘、きれいなスタートを切りました!
……おっとエアプメンテ、早くもハナに立ったー!』
エアプメンテの作戦は、当然大逃げ。
あっという間に前に出て、グングンと後続を引き離していく。
『エアプメンテ、凄まじいスピードで逃げていく! これは独走状態か!?』
走るのは気持ちいい。
風を切る感覚が心地良い。
それは、G1レースという大舞台でも変わらない。
エアプメンテはいつもと変わらない気持ちで、自分の好きなように走っていた。
……そんなエアプメンテに、追いすがる姿がひとり。
『いや、レッツゴードンキがエアプメンテの後ろについている!
このまま独走は許さないと言わんばかりに迫っている!』
(負けないよ、エアプメンテちゃん。
ホントは私も逃げて先頭で走るのが好きなんだけど、今日はあなたに譲ってあげる。
でも……ずっと後ろに張り付かれるのは辛いでしょ? 私も逃げだからわかるんだ)
後ろでプレッシャーをかけつづけてエアプメンテの体力と集中力を奪い、スタミナを切らして沈んだところを一気に抜き返す。
それがレッツゴードンキの作戦だった。しかし──
『エアプメンテ、さらにスピードを上げていく! まだ加速している!
レッツゴードンキとの差がどんどん開いていく!』
(どうして!? 全然沈んでいく様子がない!)
エアプメンテが沈むにはプレッシャーも、距離も足りなかった。
必死に追いすがるレッツゴードンキも、一杯になってしまい──
「無理ぃ~っ!」
エアプメンテについていくことができずに失速していった。
こうなってしまったら、もはやエアプメンテを阻むものは何もない。
『エアプメンテ、悠々一人旅でゴールイン!
背後からのプレッシャーをものともせず軽快に、自由に走り抜けた!
トリプルティアラ最初の一冠を戴いたのは……自由の女神、エアプメンテだぁーっ!!』
エアプメンテがゴール板を駆け抜けると、しばらくして他の子達もゴール板を駆け抜けていく。
全員が全員、バテバテだった。
破滅的なペースで走る先頭二人に引っ張られて後ろの子達も掛かってしまい、無茶なスパートをかけてしまった結果だった。
「ひーっ、ひーっ……!」
二着はレッツゴードンキ。
彼女もまた完全にスタミナを切らしていたが、意地でなんとか順位を死守してゴール。
そして、エアプメンテは──
「ドゥ~ラドゥラドゥラ!
まずは桜花賞、いただきメンテねぇ!」
指を一本、高く天に掲げる。
観客席からは拍手と歓声が雨のように降り注いでいた。
一方、レッツゴードンキは呼吸を落ち着けると、観客席に対して両手で大きく手を振っていた。
「応援してくれたみんな、ありがとー!
次は絶対勝つからね!」
(……応援、ドゥラか)
ずっと一人で気ままに走っていたエアプメンテに、応援してくれた人に感謝するなんて発想はなかった。
自分を応援してくれる人がいるかどうかなんて、気にも留めてなかった。
意識して耳を澄ませて見ると、彼女の名を呼ぶいくつもの声が聞こえてくる。
「凄かったぞ、エアプメンテー!」
「次も絶対見に来るからね!」
「これからも頑張れー!」
そんな声を受けて、なんだか胸があたたかくなる。
エアプメンテは観客席に手を大きく振って、笑顔で叫ぶ。
「みんな、応援してくれてありがとメンテ~!」
*****
ウイニングライブが終わり、エアプメンテは楽屋で大きく息を吐く。
「つかれたメンテ~……」
「よく言うわよ、レースの時はあんなに元気だったのに」
「よくあんなスピードで走りきるよねえ」
周りのウマ娘は呆れて苦笑していた。
レッツゴードンキはエアプメンテに駆け寄り、不意打ち気味に背中を叩く。
「お疲れ様、プメちゃんっ☆」
「ドゥラぁぁ!? ぷ、プメちゃん!?」
エアプメンテはびっくりして、思わず変な声を出してしまう。
レッツゴードンキはそれを気にも留めずに話し出す。
「レースもライブも、今日は二人でいっぱい目立っちゃったね☆
私達、もうお友達だよね。だからプメちゃんって呼んでもいいよね♪」
「そ、そうドゥラね」
グイグイくるレッツゴードンキに、エアプメンテは思わずたじろぐ。
後ろでは三着のウマ娘が「あたしもいるんだけどー」と茶々を入れる。
「今日一番目立ってて、一番強かったのはあなただけど……。
次は、負けないから。これからよろしくね、プメちゃん」
レッツゴードンキは瞳をぎらりと輝かせ、右手を差し出す。
「望むところメンテね!」
エアプメンテはその戦線布告に対して、がっちりとその手を握り返した。
「あたしたちも負けないよ!」
「今日はしてやられちゃったけど、オークスでは覚えてなさいよ!」
「月夜の晩だけだと思わないでね!」
他のウマ娘たちも口々にエアプメンテとの再戦の意志を示す。
彼女たちはエアプメンテの圧倒的な走りを見せられた後でも、闘志に燃えていた。
次までに、私はあいつより強くなる。次こそは、私が勝つ。
そういった気持ちが渦巻いていた。
「みんながんばってねー、私はこのままマイル路線に行くから」
そうでない子もいた。
「エアプメンテちゃん、次走はオークス走るの?」
「え? 次は皐月賞ドゥラよ」
その発言に、楽屋は水を打ったように静かになる。
そして、次の瞬間。
「「「「さ、皐月賞~~!?」」」」
全員の気持ちが一つになった。
「さ、さ、さ、さ、皐月賞って、クラシック三冠も取るつもりなの!?」
「当然ドゥラ! 私が目指しているのはホントの最強メンテからね!
クラシック三冠とトリプルティアラ両方取るドゥラ」
「え~!? そんなの絶対私より目立つじゃん!
ずるいよプメちゃん~!」
「そんな事言うならドンキも皐月賞出ればいいドゥラ」
「それが出来たら苦労はしないよ~」
しれっと発言するエアプメンテに対して、楽屋は混乱でいっぱいだった。
「ちょっと、正気!?」
「いやでも、この子なら本当にやるかも」
「やめてよ縁起でもない!
ホントにそうなったらここの私達全員これから負けることになるじゃない」
「私はマイル路線だから関係ないけどねー」
困惑するウマ娘達に対して、エアプメンテは笑いながら宣言する。
「まぁ、最強伝説を目の当たりにするがいいメンテねえ!
ドゥ~ラドゥラドゥラ!」
*****
その後、エアプメンテは勝利者インタビューで正式に宣言した。
「次走は皐月賞ですドゥラ。
私はクラシック三冠とトリプルティアラ両方を制覇し、史上初のクラシック六冠を目指しますメンテ」
エアプメンテの言葉に、取材陣はざわつく。
「桜花賞の後に皐月賞……正気ですか!?」
「クラシックG1の連闘で、距離だって1600から2000に伸びるんですよ!?」
「どう考えても無謀です。
トレーナーは止めなかったんですか?」
「順番に! 順番に!」
スタッフが静止することで、取材陣は一時の落ち着きを取り戻す。
その間にトレーナーはマイクを取り、取材陣に向けて話し始めた。
「まず、この挑戦に対してはトレーナーの私がGOサインを出しました。
常識的に考えて、無謀な挑戦だということは承知の上です。
その上で、私は本人の要望を受け入れました」
取材陣は再びざわつく。
そんな中、一人の記者が手を挙げた。
「なぜ無謀な挑戦を容認するのですか?
エアプメンテさんは普通に走れば間違いなく素晴らしい成績を残すことができるウマ娘です。
だというのになぜ、ともすれば才能を潰してしまうようなスケジュールを許可したのですか?」
その言葉に対して、トレーナーは表情を変えずに答える。
「それが可能だからです。本人はそう信じています。
そして、私もそれを信じています。
それだけです」
トレーナーの目は据わっていた。
その姿はあまりにも堂々としすぎていて、それ以上は誰も何も言えなかった。
一方で自分の発言の重大さに気づいていないエアプメンテは、カメラに向けて呑気にピースサインをしていた。
そんな中、一人の記者がおずおずと手を挙げる。
「あの、言うかどうか迷ったんですけど……。
秋華賞はクラシックレースではないので、厳密には五冠です」
その言葉に、トレーナーとエアプメンテはぴしりと固まる。
「えっ……秋華賞って、クラシックじゃないドゥラか? トレーナー、知ってたメンテ?」
トレーナーは首を横に振る。
そう、意外と知られていないが秋華賞はクラシックレースではないのだ。
「ま、まあ……細かいことはいいドゥラ! とりあえずクラシック三冠とトリプルティアラってことに変わりはないから、よろしくメンテねえ!」
こうして、ちょっと締まらない雰囲気でインタビューは終わった。
しかし、エアプメンテにとっては気を緩めるような余暇はない。
次の勝負は、一週間後。