ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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4話

 クラシック最初の一冠、皐月賞。

 入場直前、エアプメンテとトレーナーは控室で最後の打ち合わせを行っていた。

 

「朝にも聞いたけど、身体の調子は大丈夫だね?」

 

「絶好調ドゥラ!」

 

 エアプメンテは腕をぶんぶんと回して答える。

 その様子にトレーナーは安心して笑みを浮かべる。

 

「いいかい、皐月賞は有望なウマ娘たちが揃っている。

 名家の期待株サトノクラウン、そして同じく良家出身のゲンジツスチール」

 

「どっちも育ちのいい子メンテね」

 

「血統は大事さ。

 素質もそうだけど、強くなる環境に恵まれてるってことだからね。

 実際、二人共重賞を勝っている」

 

「私も育ちのいい子ドゥラよ!」

 

「少なくとも家族に大事にされてたのは分かるよ」

 

 トレーナーも何度か電話越しにエアプメンテの母親とやり取りをしたことはあるが、上品で物腰柔らかな人だった。

 エアプメンテの明るく天真爛漫な様子を見ると、笑顔の絶えない家庭だったのだろう。

 トレーナーは微笑ましさを覚えながら、しかし目の前の勝負に向けてエアプメンテと向き合う。

 

「最後に、キタサンブラック。

 彼女はあのチームスピカ……サイレンススズカと同じチームに所属しているウマ娘だ」

 

「スズカ先輩のチームドゥラか!」

 

「ああ。

 少なくとも生半可な鍛え方はしていないだろうね」

 

「血が騒ぐドゥラね! 

 それでトレーナー、なにか作戦はあるドゥラか?」

 

「ない! 

 君の好きなように、自由に走ってらっしゃい!」

 

 トレーナーは、エアプメンテに作戦など不要なことは分かっていた。

 エアプメンテもまた、トレーナーがそう答えてくれることは分かっていた。

 

「そうこなくっちゃドゥラ!」

 

 だから、これは気合を入れるための一種の儀式。

 エアプメンテはぐっとサムズアップすると、ドアを開けてターフに向かう。

 

「それじゃ、行ってくるメンテ!」

 

 

 *****

 

 エアプメンテは出走ウマ娘の顔ぶれをキョロキョロと確認する。

 要注意のウマ娘三人を一目見ようと思ったのだが……。

 

(顔を知らないから誰が誰だかわからんメンテ……)

 

 無駄骨だった。

 どの道、知ろうが知るまいが関係ない。

 エアプメンテはそう思い直してゲートに向かおうとすると、背中から声をかけられる。

 

「エアプメンテさんっ!」

 

「ドゥラ?」

 

 エアプメンテが振り向くと、見知らぬウマ娘が立っていた。

 動きやすそうな和装の勝負服を来た、活発そうな雰囲気の子だった。

 

「誰メンテ?」

 

「私、キタサンブラックです! 

 スズカさんから話は聞いてます。

 今日はいいレースにしましょう!」

 

「あぁ、キタサンブラックってお前の事メンテね! 

 それで、スズカ先輩はなんて言ってたドゥラ?」

 

「ええと……。

『私みたいな走りをする子よ』

 って言ってました!」

 

 それを聞いて、エアプメンテは嬉しそうにニヤつく。

 レース前だというのに、まあ緊張感のない表情だった。

 

「スズカ先輩、そんな事言ってたドゥラか? 

 いやあ、照れるメンテねえ~」

 

「あはは……」

 

 エアプメンテの様子に、キタサンブラックは苦笑する。

 スズカからは感情表現が豊かな子だと聞いていたが、想像以上だった。

 

「でも……スズカ先輩は大事なことを伝え忘れてるドゥラ」

 

「え?」

 

 エアプメンテはニヤリと笑う。

 先程の緊張感のない笑顔とはまるで質が違う。

 ぎらりと輝いたその瞳は、凄まじい自信と闘志を感じさせた。

 

「私は、強いドゥラよ」

 

 そう言ってエアプメンテは意気揚々とゲートに入っていた。

 エアプメンテが離れてから、キタサンブラックは自らの拳に力が入っていたことに気づく。

 

「……わかってます、そんなこと。

 でも、負けませんから」

 

 キタサンブラックもまた、ゲートに入る。

 時刻は、15時40分。

 皐月賞が、始まる。

 

 *****

 

 エアプメンテはゲートの中で、集中力を高めていた。

 

『もっとも速いウマ娘が勝つと言われる皐月賞! 

 成長を見せつけるのは誰だ! 

 一番人気はこの子、エアプメンテ!』

 

『桜花賞を制していますからね、実力では頭一つ抜けているでしょう。

 連闘と距離延長の影響がどう出るかが鍵ですね』

 

 自分を紹介する実況解説の声が聞こえる。

 

「がんばれエアプメンテー!」

 

「お前のレースを見るために女房を質に入れてまで来たんだぞー!」

 

「皐月賞も取っちまえー!」

 

 自分を応援してくれる観客の声が聞こえる。

 しかし、それらは彼女の耳には入ってこない。

 彼女に聞こえる音は、ただ一つ。

 

『さあ各ウマ娘、ゲートに入り体勢整いました!』

 

 がこん! 

 

 それは、ゲートの開く音。

 待ちかねていたそれが聞こえると同時に、エアプメンテは弾けるように飛び出した。

 

『各ウマ娘一斉にスタート! 

 エアプメンテ速い! 素晴らしいスタートダッシュを切ったのはエアプメンテ! 

 あっという間に先頭に躍り出た!』

 

 早々にハナを取ったエアプメンテは、そのままスピードを上げて駆け抜ける。

 

『これは桜花賞でも見せた大逃げ! 

 しかしこのハイペースで、最後まで保つのでしょうか?』

 

『皐月賞は2000mですからね。

 このペースで逃げ切るのは難しいんじゃないでしょうか』

 

 実況解説は、エアプメンテが走り抜けられるかどうか懐疑的だった。

 しかし、一緒に走るウマ娘たちは必ずしもそうではなかった。

 

(この子はこのまま潰れる。

 2000mなんて、保つわけない!)

 

(最終直線で一気に差し切る! 

 勝つのは、私だ!)

 

 エアプメンテのスタミナが尽きると踏んで、足を溜めるもの。

 

(まずい!)

 

(このままじゃ、ラストスパートでも追いつけなくなっちゃう!)

 

 または、危機感を募らせていくもの。

 しかし、このままエアプメンテのペースについていったら破滅することは目に見えている。

 気持ちは違えど、控えなければ行けないという点では同じだった。

 

 キタサンブラックは、前者だった。

 

(勝負は最終直線。

 絶対に、負けない!)

 

 そんな競争相手の思惑など知る由もなく、エアプメンテは一人走り続ける。

 

(今日も風が気持ちいいメンテねえ。

 桜花賞のときも良かったけど、やっぱ先頭の空気は格別ドゥラ)

 

 彼女はどこまでもマイペースだった。

 大差の先頭一人旅を続けていると、やがて最終直線に差し掛かる。

 

『さあ、勝負は最終直線! 

 エアプメンテ大差で逃げる! 果たして彼女を差し切ることができるウマ娘はいるのか!?』

 

 歓声が一際大きくなる。

 

 エアプメンテがちらりと後ろを見ると、何者かが猛追してくる。

 それは、キタサンブラックだった。

 

(負けない、負けない、負けない、負けない! 

 私は、無敗の三冠ウマ娘になるんだッ!)

 

 彼女の余力を全てつぎ込んだ全力のスパートで、エアプメンテとの差は少しずつ縮まっていく。

 

(へぇ……あの子、スズカ先輩と同じチームって言ってたメンテね。

 けっこう速いドゥラ。

 でも、スズカ先輩ほどじゃないメンテね!)

 

 エアプメンテは再び視線を正面に戻し、スパートをかける。

 縮んでいたキタサンブラックとの差が、どんどん開いていく。

 キタサンブラックは焦る。

 走る。

 全力はすでに出している。

 その上で、更に気合を絞り出そうとする。

 でも、伸びない。

 届かない。

 

(そんなっ……!)

 

『ゴール! エアプメンテ、圧巻の勝利! 

 距離延長などまるで感じさせない、余裕の大逃げ! 

 これで桜花賞と皐月賞、掟破りの変則二冠達成だぁーっ! 

 二着はゲンジツスチール、三着はキタサンブラック!』

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラ! 

 これで二つ目! 

 勝利のブイ! メンテねえ!」

 

 エアプメンテは笑いながら指を二本、天に掲げる。

 すると、大きな歓声が沸き起こる。

 彼女は手を大きく振ってそれに応えた。

 

「応援してくれてありがとうドゥラ! 

 次はオークス取るメンテよ! また応援してメンテ~!」

 

 そんなエアプメンテの背中を、キタサンブラックは乱れた息を整えることもできずに見つめていた。

 

「はぁ、はぁ……まけ、ちゃった……」

 

 キタサンブラックの順位は三着。

 気力を出し切り、失速したところをゲンジツスチールに追い抜かれる形になった。

 しかし二着か三着かなど、彼女にとっては些細なことだった。

 

「あんなにがんばったのに……全力、だったのに……。

 影さえ、踏めなかった……!」

 

 格の違いを、思い知らされた。

 

 *****

 

 エアプメンテはレースの後のウイニングライブもつつがなく終え、トレーナーと二人で帰路についていた。

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラ! 

 いやー、勝ったメンテねえ!」

 

「凄い走りだったよ、エアプメンテ。

 君なら勝てるって信じてた!」

 

 二人は揃って勝利の喜びを分かち合っていた。

 そんな中、エアプメンテはおもむろに切り出す。

 

「トレーナー」

 

「ん?」

 

「信じてくれて、ありがとメンテ」

 

「なんだい急に、改まって」

 

「ずっと、言いたかったんドゥラよ。

 トレーナーが六冠取るって信じてくれたから、私は出走できたドゥラ。

 もし、トレーナーが私を信じて契約してくれなかったら、六冠どころか、こうやってレースに出ることもできなかったドゥラよ。

 だから、ありがとメンテ」

 

「エアプメンテ……」

 

 照れくさそうにそう話すエアプメンテに対して、トレーナーは真剣な顔で答える。

 

「厳密には五冠と秋華賞だよ」

 

「そこは本題じゃないメンテ! どうでもいいとこ拾うなドゥラ~!」

 

 ズレたことを言うトレーナーを、エアプメンテはぽこぽこと叩く。

 

「痛い痛い痛い! 

 ホントに痛いからやめて!」

 

「やメンテ!」

 

「やめて~!!」

 

 そのままトレーナーは、エアプメンテの気が済むまで叩かれた。

 加減されているとはいえ、ウマ娘の力で叩かれるのはちょっと痛かった。

 

「ご、ごめん、エアプメンテ……」

 

「まったく、次からは気をつけるメンテよ」

 

「ホントにごめん……なんか照れくさくて、誤魔化しちゃったんだ。

 それに礼を言ってくれるのは嬉しいんだけど、それはまだ早いと思う。

 僕はまだ、君にお礼を言われるようなことはしていないから」

 

「ドゥラ?」

 

「だから五冠と秋華賞を達成した時に、改めて聞かせてくれると嬉しい」

 

 その言葉に、エアプメンテはみるみる笑顔になる。

 トレーナーは、自分が六冠を取ると信じて疑っていない。

 それが確認できて嬉しかった。

 

「しょ~がないドゥラねー! 

 私が六冠取ったら改めてお礼言ってあげるメンテ!」

 

 トレーナーもまた、笑い返して言う。

 

「それに、お礼を言うなら僕の方だよ。

 エアプメンテ、僕と契約してくれてありがとう。

 今まで、新人で頼りない僕のことを信じてついてきてくれてありがとう」

 

 その言葉を聞き、エアプメンテは再びトレーナーのことをぽこぽこと叩く。

 

「痛っ! なんで!?」

 

「そういうのこそ最後の方に聞きたい言葉ドゥラよ! 

 トレーナーばっかりずるいメンテ!」

 

「そ、そうなの!? 

 痛い痛い痛い! やめて!」

 

「やメンテ!」

 

「そんな~!」

 

 そんなやり取りもありつつ。

 二人の戦いは、まだまだ続く。

 エアプメンテの目指す最強まで、あと四冠。

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