ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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7話

 時は経ち、6月下旬。

 エアプメンテ達はトレーナー室でミーティングを行っていた。

 

「えー、もうすぐ夏休みです。

 今回の夏休みは海に行き、一ヶ月の合宿を予定していました」

 

「よっしゃあドゥラ! 

 合宿、楽しみメンテねえ!」

 

 喜色満面のエアプメンテとは正反対に、トレーナーは厳しい表情をしていた。

 

「予定して、いました」

 

「いる、じゃなくて……いました、ドゥラ?」

 

 エアプメンテは何かを察する。

 そしてトレーナーが差し出したのは、彼女が受けた追試の答案用紙のコピーだった。

 

「ドゥラっ!? そ、それは……」

 

「エアプメンテ、もうすぐ期末テストだ。

 成績が悪かった場合、補習で夏休みが潰れて合宿どころじゃなくなってしまう」

 

「ほ、補習はいやメンテ……」

 

 エアプメンテの中からつらい記憶が呼び起こされる。

 中間テストでズタボロの点数を取ってしまったエアプメンテは、補習及び追試を行わされたのだ。

 毎日三時間の補習をやらされた上に、その後にエアグルーヴ監督の下追試に向けての勉強までこなしていたのだ。

 過密スケジュールでレースを走っていた4~5月のほうがよっぽど楽だと思えるくらい、エアプメンテにとってはつらい日々だった。

 

 その追試の結果がトレーナーの手元にあった。

 辛うじて赤点は避けているものの、それはまあひどい内容だった。

 

「エアグルーヴさんに教えてもらった時は、耳を疑ったよ……。

 追試でこの点数は流石にマズイよ」

 

「ドゥラぁ~……! 

 でも合宿は連れて行って欲しいドゥラ! 後生メンテねえ~!」

 

 エアプメンテは泣きべそをかきながらトレーナーに縋り付く。

 

「落ち着いて話を聞きなさい! 

 別に行けないと決まったわけじゃないだろう。

 要は赤点を取らないように勉強すればいいんだ」

 

「べ、勉強ドゥラか~……。

 私はレースを走るために学校に来てるのに、なんでこんなに勉強しなきゃいけないメンテ~」

 

「そりゃ君は学生だからね。

 学生の本分は勉強! いくら優れた競争ウマ娘だからってそれは変わらないよ」

 

 トレーナーはエアプメンテを諭すように、穏やかに言う。

 しかしエアプメンテは納得しない。

 

「でもでも、レースに役に立たない勉強ばっかりドゥラよ?」

 

「今は役に立たなくても、将来絶対に役に立つから」

 

「今役に立たないんだったらダメダメンテ~!」

 

 地べたに転がってじたばたと駄々をこねるエアプメンテに対して、トレーナーは根気強くエアプメンテを諭す。

 

「それじゃあ、こうだ! 

 勉強は今役に立つ!」

 

「え~!? トレーナー、さっきと言ってること違うドゥラ!」

 

「いや、役に立つ! 

 もっと簡単に考えよう! 

 勉強が出来れば、合宿に行ける。

 勉強が出来なかったら、合宿に行けない。

 簡単なことだと思わないか?」

 

 トレーナーは早口でまくし立てる。

 エアプメンテは動きを止め、トレーナーの話を聞く体勢に入ってしまう。

 

「そ、そうドゥラか……?」

 

「ああそうだ。

 確かに勉強はイヤかもしれない。

 でもキミは嫌がっていたプール練習だって、頑張ったじゃないか。

 そのおかげで、2400mのレースにも勝てた。

 キミは苦手なことでも頑張って克服できるウマ娘だ!」

 

「そ……そうドゥラか~?」

 

「そうだ! キミは凄いウマ娘なんだから、勉強だって頑張れないはずがない! 

 キミは努力の天才だ! だから勉強だって努力できるはずだ! 

 つまりキミは勉強の天才だ! キミなら絶対にできる!」

 

「えへへ……私、天才ドゥラか?」

 

「そう! 天才! 最強! 楽勝! 優勝! 皆勤賞!」

 

 マシンガンのように褒められて、エアプメンテの頬がどんどん緩んでいく。

 トレーナーは理屈で説得するのが無理だと悟り、とにかく勢いで押す方法を取った。

 とにかく勢いが大事だ。

 半ばヤケクソで、もはやトレーナー自身にも何を言っているかよく分からない。

 パッションだけで話していた。

 

 しかしエアプメンテは褒められるのに弱かった。

 信頼を向けられるのに弱かった。

 

「そ……そこまで言うなら、しょうがないドゥラねぇ~! 

 ちょっとだけ、勉強も頑張ってみるメンテ!」

 

 エアプメンテは立ち上がり、すっかりやる気になっていた。

 トレーナーは、とりあえずやる気を出してくれたことに安心して一息ついた。

 

「そう言ってくれて嬉しいよエアプメンテ。

 とりあえず今のレベルを見るために小テスト作ってくるから、明日はそれを解いてみて欲しい」

 

「どんとこいメンテ!」

 

 *****

 

「……これは、大変だぁ」

 

 エアプメンテの答案を見たトレーナーは、額を押さえて天を仰いだ。

 難しい問題を出したつもりはない。

 だが、とにかく解答欄がひどい。

 国・数・英がとくにひどい。

 意外なことに理科と社会は平均点をやや下回る程度に留まっていた。

 

「記述問題がことごとく間違ってる……」

 

 エアプメンテは、主に選択問題で点数を稼いでいる。

 山勘で書いていることも考えたが、それにしては正答率が高い。

 記述問題も、惜しい部分はあるのだ。

 

 国語は漢字の間違いで点数を落としているし、英語はスペルがほぼ全て間違っているせいで点数が取れていない。

 数学も途中式を書かずに答えだけ書いているため点数はあげられない。

 どうやらエアプメンテは、完全に問題を理解できていないわけではないらしい。

 レースと同じで、極端な感覚派だった。

 

「エアプメンテが頑張ってくれれば、ギリギリなんとかなる……かな……?」

 

 なったらいいな。

 いや、なる。

 頼むから、なってくれ……。

 

 *****

 

「というわけで、強力な助っ人に来てもらいました」

 

 そう言ってトレーナーが連れてきたのは、エアグルーヴ。

 彼女は鋭く真剣な目つきでエアプメンテを見る。

 

「話は聞かせてもらった。

 なんとしても期末に間に合わせるぞ、プメンテ」

 

「トレーナー!? グルーヴお姉ちゃんまで来るのは聞いてないドゥラよ!?」

 

 エアプメンテはエアグルーヴの顔を見て、厳しい追試対策の勉強を思い出し青ざめる。

 てっきりトレーナーが一人で教えてくれると思っていたというのに。

 

「この度はお忙しい中、エアプメンテのために協力してくださってありがとうございます」

 

「いえこちらこそ、うちのプメンテがいつもお世話になっております」

 

「聞けメンテ~!」

 

 エアプメンテをよそに、トレーナーとエアグルーヴはお互いに頭を下げる。

 二人の交流は多くない。エアグルーヴがエアプメンテの成績を危惧し、追試の成績をトレーナーにリークしたのが始まりだった。

 それから二人は、エアプメンテの成績をなんとかするために何度か話し合いを行った。

 その結果、マンツーマンでじっくりと教えるのが最適だという結論に至った。

 

「僕も仕事があるから、エアプメンテの事をつきっきりで教えてあげることはできない。

 だから僕がいない分の穴はエアグルーヴさんに埋めてもらうことになった」

 

「ということだ」

 

「え~、どうせならスズカ先輩とかに教えてもらいたかったメンテねえ」

 

 エアプメンテはぶすくれて口を尖らせる。

 エアグルーヴはそれに呆れた様子で言う。

 

「貴様がスズカのことをどう思ってるかは知らんが、あいつは成績のいい方ではないぞ」

 

「えー! あんなに頭良さそうな雰囲気あるのに意外ドゥラ」

 

「それに、スピカは今忙しい。

 どっちみちお前に勉強を教えているほど暇ではないぞ」

 

「そうか……あそこはサイレンススズカ以外にも凄いウマ娘が多数在籍しているチームだ。

 今この間にもトレーニングを続けているんだろうね」

 

 トレーナーは納得したように深く頷く。

 

「皐月とダービーで一緒に走ったキタサンブラックもスピカ所属だ。

 負けていられないよ、エアプメンテ」

 

「そうドゥラね!」

 

 *****

 

 その頃、実際にチームスピカがどうなっていたかというと。

 

「バカねウオッカ! 

 なんで昨日授業でやったばっかりのところが分かんないのよ!」

 

「うっせーな仕方ないだろ! 昼寝してたんだから!」

 

 教科書とノートを広げたウオッカとダイワスカーレットがぎゃあぎゃあと言い合いをしている。

 その横ではスペシャルウィークが机に突っ伏しながら頭を抱えていた。

 

「数式が全然頭に入ってきません~……」

 

「頑張って、スペちゃん!」

 

 サイレンススズカはスペシャルウィークの横に座り、彼女を励ます。

 彼女自身の勉強道具はカバンにしまったままだ。

 

「……テストの時期になると、毎度こうですわね」

 

 メジロマックイーンは目の前の惨状を見て呆れる。

 

「キタちゃんは今度の期末テスト、大丈夫そう?」

 

 トウカイテイオーがそう訊くと、キタサンブラックは先輩たちの見習ってはいけない勉強風景に引きつった笑みを浮かべながら答える。

 

「はい、一応……大丈夫だと思います」

 

「それならよかった。

 キタちゃんはあんなふうになっちゃダメだよ?」

 

「はいっ、気をつけます!」

 

 そんなやり取りが行われる中、ゴールドシップはただ一人、黙々と真剣に机に向かい合っていた。

 その様子を見たキタサンは静かに感心する。

 ゴールドシップさん、こういう所は意外としっかりしているんだ……。

 キタサンはいつもおちゃらけている先輩の評価を、心の中でちょっと改めた。

 

「ところで、ゴルシはさっきから何の勉強してんの?」

 

「からあげ検定」

 

キタサンブラックは心の中で改めた評価を、元に戻した。

 

 *****

 

 スピカがそんな状態になっているなど、エアプメンテには知る由もない。

 知らぬが仏だった。

 

「よ~し、頑張るメンテよぉ~!」

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