ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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8話

 エアプメンテは、ひたすら勉強に打ち込む。

 それもこれも、合宿のためだ。

 彼女は計算問題のプリントを解き、勉強を見てくれているエアグルーヴに渡す。

 

「グルーヴお姉ちゃん、どうドゥラか?」

 

「うん、全問正解だ。

 これで四則計算は完璧だな」

 

 トレーナーとエアグルーヴは、本当に基本的なことから遡って教えていた。

 エアプメンテの成績の悪さは、授業を真面目に聞いていないことに起因していた。

 授業内容をなんとなくでしか覚えていないのだ。

 だからふわっと記憶はしていても、本当の意味で理解していない。

 言ってしまえば、勉強エアプだった。

 

 だが、授業は一人の生徒のために待ってはくれない。

 エアプメンテが内容をわかっていなくても、授業はどんどん進んでいってしまう。

 最終的にエアプメンテは

『何がわからないのかわからない』

 という領域に至ってしまっていた。

 

 だから、段階的に遡って教えることにした。

 数学に関しては、結果的に算数から教えることになってしまった。

 

 最初にその方針を決めた時、エアグルーヴは

『これでは期末に間に合わないのでは?』

 と疑念を持っていた。

 しかしトレーナーは、

『いいえ、エアプメンテなら必ず間に合ってくれます』

 ときっぱり言った。

 

 ひたすらに勉強を嫌がり苦しんでいた追試対策の時の様子からすると、どうしても信じがたい話ではあった。

 しかしトレーナーがあまりにもハッキリと断言するものだから、エアグルーヴも最終的には信じた。

 エアプメンテに故障もなく四冠を取らせたトレーナーの発言だ、なにか根拠があるのだろう。

 

 そしてトレーナーは、エアグルーヴに一つだけ念押ししたことがある。

 

『エアプメンテは、とにかく褒めてあげてください。

 できたことがどれだけ簡単なことでも、とにかく褒めてあげてください』

 

「偉いぞ、プメンテ」

 

「えへへ、嬉しいメンテ。

 さあ、次の範囲も教えて欲しいドゥラ! 

 なんだか段々コツを掴んできた気がするメンテねえ!」

 

 事実、褒めることはエアプメンテに勉強を教える上で非常に有効だった。

 彼女は一度調子に乗れば、どんどん勉強への意欲を増していく。

『豚もおだてりゃ木に登る』という言葉があるが、今のエアプメンテの状況にはピッタリと当てはまるものだった。

 

 そんなエアプメンテの様子を見て、エアグルーヴは目を細める。

 小学生レベルの学習から始めるのはとんでもなく悠長に思えたが、どうやら違った。

 以前は30分もしないうちに勉強を投げ出して逃げたり寝たりしていたのだが、今は長時間ぶっ通しで勉強をしても楽しそうにしている。

 

 今までは勉強なんて、ちんぷんかんぷんで分からなかった。

 でも、今は分かる。分かるまで、教えてくれる。

 出来なかったことが、出来るようになる。

 エアプメンテはそれが楽しくて仕方がなかった。 

 そして彼女は、楽しいことには没頭するタイプだった。

 

(……本当に、分からないものだ)

 

「なあ、プメンテ」

 

「なんドゥラか?」

 

「勉強、楽しいか?」

 

「うん、楽しいドゥラ!」

 

「それはよかった。

 ……お前のトレーナーに感謝するんだな、プメンテ。

 あの人はお前が楽しく勉強できるようにと色々考えてくれたんだ」

 

「トレーナーが……」

 

「ああ。

 彼はお前のことを信じている。

 本気になったエアプメンテは無敵だ、と。

 それがレースだろうと、勉強だろうと」

 

 それを聞き、エアプメンテの身体がふるふると震える。

 正体の分からない、熱い気持ちが溢れてくる。

 

「レースで信じてくれるのは、分かるドゥラ。

 だって私は強いから。

 でも、勉強はダメダメンテなのに……トレーナーは、信じてくれるメンテね」

 

 そんなエアプメンテの様子を、エアグルーヴは微笑みながら見る。

 

「いいトレーナーを持ったな、プメンテ。

 彼の期待には応えてやらんとな?」

 

「うんっ、もちろんドゥラ! 

 テストなんてぶっちぎりで突破してやるメンテねえ!」

 

 *****

 

 こうして、エアプメンテの勉強の日々は続いた。

 トレーナーもさることながら、エアグルーヴも出来る限り積極的に協力した。

 その甲斐あってエアプメンテは少しずつ、しかし確実に成長していった。

 やがてテスト範囲の勉強も着手できるようになったのだが、どんどん難しくなっていく問題に行き詰まることも多くなっていく。

 

「むむむ……」

 

「大丈夫だよエアプメンテ。

 キミなら絶対にできるようになる。

 分からないようだったら、同じことでも何度だって教えるから」

 

「……わかんないドゥラ! 

 トレーナー、もう一回教えてメンテ!」

 

「もちろん!」

 

 それでも、エアプメンテ達は根気よく勉強を続けた。

 勉強の時間が終わっても、エアプメンテは自室で勉強を続けていた。

 

「プメちゃん、また遅くまでお勉強? 

 あんまり無茶したら、身体に悪いよ?」

 

 同室のリバーライトが、心配そうにエアプメンテを気遣う。

 しかしエアプメンテは手を止めず、リバーライトに言う。

 

「大丈夫ドゥラ。

 次のテストは、どうしてもいい点取りたいメンテ」

 

「プメちゃん、補習の時すごく辛そうだったもんね」

 

「補習がイヤなのもあるメンテ。

 でも……それだけじゃないドゥラ」

 

「え?」

 

 エアプメンテは机に向かい、リバーライトに振り向かずに答える。

 

「私が勉強できるって、信じてくれる人がいるドゥラ。

 だから、それに応えたいメンテ」

 

 それを聞いたリバーライトは、感銘を受けジーンと来た。

 あの奔放で子供っぽいプメちゃんが、そんなことを言うなんて……! 

 

「プメちゃん。

 私も協力するから、何かあったらいつでも頼ってね」

 

「いいんドゥラか?」

 

「もちろん! 

 プメちゃんがやる気なら、私も応援するよ!」

 

「リバー先輩……ありがとドゥラ! 

 私、頑張るメンテねえ!」

 

 こうしてリバーライトのサポートも受けつつ、エアプメンテは勉強を続け……やがて期末試験の日を迎える。

 

 *****

 

(ついに、来たメンテね)

 

 エアプメンテは、神妙な面持ちでテストと向かい合う。

 レースの時以上の緊張感だった。

 そして──

 

(あ……これ、この間勉強したところドゥラ!)

 

 答えが、わかる。

 少しずつ答案が埋まっていく。

 

 しかしエアプメンテが勉強したのは、わずか一週間あまりの超突貫工事。

 テストに備えるには、あまりにも時間が足りなかった。

 分からない問題も多く、その度にペンが止まる。

 でも、エアプメンテは諦めない。

 

(考えるドゥラ。

 時間が来るまで、ギリギリまで考えるドゥラ。

 最後まで諦メンテ!)

 

 こうして、エアプメンテはテストと戦っていく。

 国語・数学・英語・理科・社会。

 そして──

 

 *****

 

「……プメンテ、結局どうなったんでしょうか」

 

「全部返ってきたら、一斉に教えるって言ってましたけど……」

 

 全てのテストが返却されたその日。

 トレーナーとエアグルーヴは、トレーナー室でエアプメンテを待っていた。

 今までの努力の結果が、どうなるか。

 二人は緊張しながらエアプメンテを待つ。

 

 瞬間、勢いよくドアが開いた。

 

「トレーナー! グルーヴお姉ちゃん! 

 じゃーん! 見て見てメンテ! 私頑張ったドゥラよ!」

 

 エアプメンテは前のめりになりつつ、返ってきた答案を二人に見せつける。

 

「こ、これは……!」

 

 国語:68点

 数学:60点

 英語:62点

 理科:69点

 社会:67点

 

 それは、お世辞にも高得点とは言えなかった。

 しかし、三人にとっては値千金の……努力の結晶だった。

 

「すごいよエアプメンテ! よく頑張った!」

 

「まさか全教科60点台を取れるなんて……。

 数学なんて前の中間では6点だったというのに、成長したなプメンテ……」

 

 トレーナーは拳を握りしめながら喜び、エアグルーヴに至っては涙ぐんでいた。

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラ! 

 やれば出来るもんメンテねえ! 

 これで補習は回避! 合宿も行けるドゥラ! 

 ばんざーい!」

 

 こうして、エアプメンテ最大の危機は去った。

 期末試験という高いハードルを、見事乗り越えたのだ。

 

「それでは、私は生徒会室に戻ります。

 今後も励むんだぞ、プメンテ」

 

 ひとしきり喜びを分かち合ったのち、エアグルーヴは足早に去っていった。

 

「グルーヴお姉ちゃん、わざわざ私のテスト結果見るためだけに来てくれたんドゥラね」

 

「あとで改めてちゃんとお礼言っておこうね。

 忙しい中で、すごくお世話になったから」

 

 そう言うと、トレーナーはくらりと目眩がして、ソファーに座り込んだ。

 

「トレーナー!?」

 

「あ、安心したら気が抜けちゃった。

 最近、ちょっと寝不足で……」

 

 よく見れば、トレーナーの目の下には隈が浮かんでいた。

 通常業務をこなしながら、エアプメンテの勉強にずっと協力していたのだ。

 彼の身体は、疲労の限界を迎えていた。

 

「ごめん、ちょっと、寝る、ね……」

 

 そう言ってトレーナーは横になると、すぐに寝息を立てる。

 

「よっぽど疲れてたんドゥラね。

 ……ありがとメンテ、トレーナー」

 

 寝ているトレーナーの姿を見ていると、エアプメンテもまた大きなあくびをする。

 

「ふわぁ……そういえば私もここんとこ、あんまり寝てなかったドゥラね。

 お部屋に戻って寝るメンテ」

 

 こうしてエアプメンテもまた、部屋に戻って泥のように眠った。

 テスト勉強という戦いを終えたエアプメンテは、ゆっくり休んで英気を養う。

 

 そして──灼熱の夏がやってくる。

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