ドゥ~ラドゥラドゥラ! 私が最強のウマ娘メンテねえ!   作:東頭鎖国

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9話

 サマーシーズン到来! いよいよ、夏休みだ。

 無事期末テストを乗り切ったエアプメンテは、合宿場に向かう車の中ではしゃいでいた。

 

「トレーナー! 海が見えるドゥラよ!」

 

「今回の合宿場は海の近くにあるからね。

 もちろん、海に行く時間も取るつもりだよ」

 

「ほんとドゥラか!? やったメンテ~!」

 

「でも、遊びにいくわけじゃないからね? 

 それを忘れないように」

 

「もっちろんドゥラ!」

 

 車を降りると、二人は合宿場に向かう。

 エアプメンテの気分は弾んでいた。

 はやく身体を動かしたくて仕方なかった。

 

「まずは宿に行こうか。

 荷物を置いていかないとね」

 

「そうメンテねえ。

 色々詰めてきたから重くて仕方ないメンテ」

 

 そう言って歩くエアプメンテは、明らかに彼女の身の丈よりも大きな荷物を背負っている。

 これらは合宿で使う練習用具とは関係なく、全て私物だ。

 

「……ところでずっと聞きたかったんだけど、こんなにいっぱい何持ってきたの?」

 

「食べ物ドゥラ! 

 乾パンに納豆に乾燥貝柱、スキムミルクにカツオのキャラメル……」

 

「そんなにいっぱい!?」

 

「修行のときはこういうの持ってくって漫画に描いてあったドゥラ」

 

 エアプメンテは合宿をどういうものか、イマイチ理解していなかった。

 彼女は親以外と外泊するのは初めてなのだ。

 いわば、合宿エアプだった。

 

「エアプメンテ……。

 ちゃんと宿でも食事は出るし、近くにごはん屋さんもあるからね? 

 合宿ってサバイバルじゃないからね?」

 

「えっ、そうなんドゥラか? 

 それはそれで楽しみメンテねえ!」

 

 *****

 

 二人は宿に荷物を置いて少し休憩すると、すぐに練習場所に向かう。

 そこは、海沿いに茂る森だった。

 

「おぉ……海の近くなのにえらく木が生い茂ってるメンテねえ」

 

 エアプメンテは周囲にそびえ立つ何本もの木を見上げる。

 

「海の方とは雰囲気がぜんぜん違うでしょ? ここは足場が悪く、起伏も激しい。

 キミにはここで坂に負けない強靭な足腰を作ってもらいます」

 

「もう強靭ドゥラよ!」

 

「そうだね。

 でも菊花賞で勝つためには、もっともっと強靭になる必要がある。

 菊花賞の舞台、京都競場は知ってる?」

 

 エアプメンテは首を横に振る。

 彼女は今まで、京都競場で走ったことがない。

 

「だったら、軽く説明するね。

 京都競場には急勾配の坂がある」

 

「今まで走った競場でも、結構な坂はあったドゥラよ? 今更対策なんてする必要あるドゥラか?」

 

「うん。

 ところでエアプメンテ、坂を走ってる時は疲れるよね?」

 

「そりゃ、平らな道よりは疲れるメンテね」

 

「じゃあ、すごい坂だったら?」

 

「すっごい疲れる……そういうことドゥラね!」

 

 シンプルな説明にエアプメンテは合点が行き、手をぽんと打った。

 

「とりあえず今日は初日だから、軽く走ってもらうよ。

 まずはここの雰囲気を掴んでコースを覚えてほしい。

 僕が先導するからゆっくり走ってきて」

 

 そう言ってトレーナーはセグウェイで山を登っていく。

 エアプメンテはとんとんと軽く跳ね、地面の感触を確かめる。

 整備された山道だ。

 たくさんの人の足で踏み均され、芝と違ってやや固い感触。

 

「……よっしドゥラ!」

 

 エアプメンテが地面を強く踏みしめ、トレーナーを追いかけた。

 

 *****

 

(……これは、意外と厄介ドゥラね)

 

 最初は走りやすい道だと思った。

 しかし本格的に山中に入ると、そうも言えなくなった。

 

 急激な起伏に加えて間隔の不安定な階段や、ところどころに露出した木の根がペースを乱す。

 地面も固い場所だけでなく、しっとりと柔らかい場所もある。

 うっかり力を入れ過ぎれば、滑って転んでしまいそうになる。

 

 一方、トレーナーは一定のペースで常にエアプメンテの前を進んでいく。

 時折振り向いて、エアプメンテの様子を見ながら。

 

「な、なんでセグウェイでこんな悪路をスイスイ走れるんドゥラか!? 

 ……いや、そんなことより! こんなところで手こずって置いてかれるワケにはいかないメンテねえ!」

 

 エアプメンテは必死に走る。

 時折バランスを崩してスピードを落としつつ、なんとか一周して下山することに成功した。

 

「お疲れ様、エアプメンテ。

 初見でここまで走りきれるなんて、やっぱりスゴイね」

 

 トレーナーはセグウェイを降り、エアプメンテを褒める。

 当のエアプメンテはハァハァと息を切らして膝に手をついていた。

 

「はー、はー、はーっ……! 

 山が、こんなに走りづらいなんて、思わなかったドゥラ……」

 

「疲れた?」

 

「そりゃもう、疲れたメンテね……

 なんかいつもの練習より、何倍も疲れた気がするドゥラ」

 

 エアプメンテは体力的にも疲労していたが、気疲れもまた大きかった。

 山中では常に悪路の中、転倒に注意しながら走らなければいけない。

 それは彼女にとって初めての経験だった。

 

「合宿なんて楽勝だって、甘く見てたメンテ……」

 

「言ったろ? 遊びに来てるわけじゃないって」

 

「そうメンテね……私は、強くなるためにここに来てるドゥラ。

 改めて肝に銘じておくメンテ」

 

 そんなエアプメンテの言葉を聞いて、トレーナーは柔らかく笑う。

 彼女が合宿の本分をちゃんと思い出してくれて安心していた。

 

「分かってるなら問題ないね。

 それじゃあ一旦宿で休憩したら、海にでも行こうか」

 

「え、海行ってもいいんドゥラか!?」

 

 海に行く。

 その言葉を聞いた途端、エアプメンテは今までバテていたのが嘘のように元気を取り戻す。

 

「うん、遊びに来たわけじゃないとは言ったけど……やっぱりリフレッシュは必要だからね」

 

「やったドゥラ~!」

 

 エアプメンテは喜びのあまり、両手を上げてぴょーんと高く飛び跳ねる。

 トレーナーはその様子を見て思わず苦笑してしまうのであった。

 

 *****

 

「海ドゥラ~!!」

 

 水着を着たエアプメンテは、波打ち際で勢いよくばちゃばちゃと走り回る。

 トレーナーはそんな彼女の様子を浜の方で見守っていた。

 しかし、エアプメンテはそれを許してくれない。

 

「トレーナーもこっちに来て一緒に遊ぶメンテよ!」

 

「えぇ? 僕は遠慮するよ……」

 

「いいから、来るメンテ!」

 

 エアプメンテはトレーナーの手を引き、無理やり海まで連れて行く。

 そして波打ち際まで来たところでトレーナーの足がもつれてしまい──

 

「うわ~~~~っ!?」

 

 ばしゃあと大きな飛沫を立て、トレーナーは転倒してしまう。

 

「ドゥ~ラドゥラドゥラドゥラ! 

 トレーナー、びちゃびちゃメンテねえ!」

 

「この……やったなエアプメンテ!」

 

「ドゥラ~~っ!?」

 

 トレーナーはお返しとばかりにバシャバシャと水をかける。

 エアプメンテは顔面に水を浴び悲鳴を上げながら、楽しそうに笑っていた。

 

 *****

 

「びちょびちょになっちゃったよ……こんな予定じゃなかったのに」

 

「でもトレーナーもなんだかんだで楽しそうだったドゥラよ。

 それにしても、お腹が空いたメンテねえ」

 

 二人はひとしきり海で遊び、気づいた頃には昼過ぎだった。

 昼食をどうするか悩みながら歩いていると、トレーナーは正面にある建物に気づく。

 

「あ……海の家だ。

 丁度いいし、ここでご飯にしようか」

 

「いいメンテねえ! 賛成ドゥラ!」

 

 二人は海の家に入っていく。

 中は混んでいたが、なんとか二人が座る分の席は空いていたようだった。

 

「う~ん、何食べようか悩むメンテねえ」

 

 エアプメンテはメニューとにらめっこしながら難しい顔をしている。

 トレーナーはそれを見て、自分の財布の中身を確認していた。

 

「……お手柔らかにね?」

 

「決まったドゥラ! 

 焼きそば3つに山盛りからあげ!」

 

 メニュー表に書かれた値段を見て、トレーナーはほっと一息つく。

 こういった場所の食事は割高なのが常だが、この店の値段設定は良心的なようだった。

 

「僕も焼きそばにしようかな。

 すいませーん! 焼きそば4つに山盛りからあげお願いします!」

 

 注文を決めたトレーナーは店員に注文を伝える。

 すると、程なくして二人分の注文が届けられた。

 

「はい! ご注文お待ちぃ!」

 

 トレーナーはその声を聞いてぎょっとする。

 料理を届けに来た店員の顔が、見知った顔だったからだ。

 といっても、一方的に知っているだけだが。

 

「ゴ……ゴールドシップ!? なんでこんなところに!」

 

「誰メンテ?」

 

 びっくりして椅子をガタッと揺らすトレーナー。

 一方エアプメンテは、ゴールドシップが持ってきた焼きそばのほうに目が行っていた。

 

「よぉ、皐月とダービーじゃうちのキタサンが世話になったな?」

 

 目を輝かせるエアプメンテに、不敵に笑うゴールドシップ。

 トレーナーは不安そうに二人を見る。

 

「美味しそうな焼きそばドゥラね~!」

 

「聞けよ!」

 

 エアプメンテの意識は、ゴールドシップが持ってきた焼きそばのほうに行っていた。

 

 *****

 

「おいしかったドゥラ~」

 

 エアプメンテは焼きそばとからあげをペロリと平らげ、ご機嫌だった。

 

「美味しかったけど、食べた気がしなかったよ……」

 

 トレーナーは心なしか疲れていた。

 ゴールドシップの噂はかねがね聞いていたからだ。

 

「トレーナー、あの人と知り合いドゥラか?」

 

「いや、僕が一方的に知ってるだけ。

 なんたって彼女はチームスピカのメンバーだからね」

 

「スピカ! スズカ先輩のところドゥラね」

 

 チームスピカ。

 トレーナーにとっては先輩の率いるチームだが、直接の交流はない。

 今のところ、サイレンススズカに協力してもらった時が最初で最後だ。

 

「それに彼女は有名だから。

 もちろんレースで結果を残しているのもあるけど、それ以上に様々な奇行が──」

 

「アタシの奇行がなんだって?」

 

「うわぁ!?」

 

 トレーナーの後ろから、声が投げかけられる。

 声の主は、もちろんゴールドシップだった。

 

「よっ」

 

「あ、さっきの人ドゥラ!」

 

「い、一体なんでこんなところに?」

 

「ゴルシちゃん、せっかくカラアゲニストになったから自分の腕を振るえる場所を探してたわけよ。

 そしたら丁度あの店にはカラアゲニストが足りないってんで、流れの焼きそば職人としてヘルプに入ってたってわけ」

 

「カラアゲニストってなに……?」

 

「じゃあ、さっきの焼きそば作ってたのはお前だったんドゥラね!」

 

「いや、アタシはウェイトレスやってた」

 

「へぇ~、色々あるメンテねえ」

 

 とっ散らかった会話の流れに、トレーナーは既に頭が痛かった。

 エアプメンテはあんまり考えていなかったからそれほどでもなかった。

 

「それで、僕たちに何か用?」

 

「なに、たまたま後輩と同じレース走ってたやつがいたから、ちょっかい出してみただけよ」

 

「後輩?」

 

 首を傾げるエアプメンテに、トレーナーが補足する。

 

「キタサンブラックのことだよ。

 皐月とダービーで戦っただろう?」

 

「……あっ! 皐月賞の時に声かけてきた子ドゥラね。

 思い出したドゥラよ」

 

 少し考えたのち、エアプメンテは記憶の中からキタサンブラックの顔を引っ張り出す。

 クラシック路線では、ああいった形で声を掛けられたことはあの一度しかなかったからだ。

 

「まあ、それだけよ。

 お前たちは合宿か?」

 

「そうドゥラよ!」

 

「おう、そうか。

 うちのチームも丁度合宿だからよ、見かけたらよろしくな」

 

 そう言ってゴールドシップは立ち去っていった。

 どうやら、本当に大した用はなかったらしい。

 

「なんかどっと疲れた……。

 僕たちも一回宿に戻ろうか、エアプメンテ」

 

「そうメンテね」

 

 二人は着替えと荷物整理のため、宿に向けて歩く。

 ひたすら歩く。

 

「おい、なんでさっきからずっとついてくるんだよ?」

 

 ゴールドシップが振り向いて言う。

 そう、二人の進行方向はずーっとゴールドシップと一緒だったのだ。

 

「ついてきてるわけじゃないドゥラよ。

 たまたま私達の行く方向もこっちってだけメンテ」

 

「なんだよ、紛らわしいなぁ」

 

 そんな会話もありつつ、三人は歩く。

 そのうち別方向に分かれるだろうと思って、ただただ歩く。

 

「……ゴールドシップ、ずっと前にいるね」

 

「このままだと宿に着いちゃうドゥラよ?」

 

「まさか……」

 

 トレーナーは何かを察する。

 そして目的地に辿り着いた瞬間、それは正解だと気づく。

 トレーナーとゴールドシップは目を見合わせる。

 

「まさか……」

「やっぱり……」

 

「「同じ宿かい!!」」

 

 二人の声が重なった。

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