地獄の戦場で傭兵は安価スレを立てる   作:からな2586

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プロローグ

 

 真面目にやってきたはずなのに、気が付けば金も名誉も戸籍も失っていた。

 

 

 南極の一画にて銃弾が飛び交う。かつては美しい氷が広がっていた大地も、今ではひび割れと薬莢と油で汚されている。マイナス10度の空気は安物の断熱材をあっさり貫通し、コクピット内まで広がってくる。

 

 搭乗している機体を氷山の陰に隠し、敵の隙を突くべく息をひそめる。戦闘能力に長けない自分が生き延び、戦果を挙げるにはこういった手をとるしかない。だがそれは許されないらしい。

 

『傭兵ども、もっと前線に出ろ! さもなくば背後から射殺するぞ!」

 

 背後の指揮官から無慈悲な通信が飛んでくる。長く続いた戦争、人材不足は止まらずまともな指揮官など存在しない。銃を至近距離で当てることすらままならない素人が俺たち傭兵を指示するなんてよくあることだ。

 

 仕方なく俺は機体を前線に向けて動かす。アサルトギアと呼ばれる人型兵器は南極の氷の上を前進し始めた。

 

 アサルトギア。10mほどの角ばったフォルムの機体は、南極で発生した資源戦争用に製造されたものだ。東部には円状のセンサーシステムが搭載しており、人型の利点を生かし高い位置から敵を索敵する。そして構えた超大口径の銃で、敵に風穴を開けるのだ。

 

 ピピ、という音と共にコクピット内のモニターに赤い点がいくつも浮かぶ。敵のアサルトギアが、こちらの輸送部隊を襲撃しているのだ。俺は手に持ったアサルトライフルを構え、奴らに向かって撃とうとする。

 

「うっ……」

 

 瞬間、幾つもの映像がフラッシュバックする。破壊される機体、飛び散る血。友軍が一斉にこちらに武器を構える光景。

 

 

 思考制御が乱れ、銃口があらぬ方向を向く。銃弾は一発たりとも敵機に当たらず、代わりに返礼として手痛い銃弾の嵐が飛んでくる。

 

 再び氷山に身を隠す。少し被弾したのか、冷気がコクピットの中まで漏れてくる。足元には銃弾に倒れた、仲間だった傭兵の残骸が転がっている。2070年、人類は変わらず不毛な戦争を継続していた。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 命からがら戦場から生き延びた俺は、交戦地帯から離れた場所にあるプレハブ小屋に入る。ここはEU軍が建設し一時期使用していたが、立地の関係上放棄された簡易拠点だった。そこを今、個人傭兵の俺が勝手に使用している、というわけだ。

 

 ポケットの端末を覗き込むと、電源の切れた画面に俺の顔が映る、黒髪黒目のパッとしない男だ。体を防寒着で覆っており、やつれた表情だ。直ぐに電源を入れ、画面が付くと今日の仕事の給料が入っている。

 

 ──────────────────────

 達成報酬    4500ドル

 弾薬代    -1000ドル

 任務前補修費 -3200ドル

 

 合計報酬  300ドル

 ──────────────────────-

 

 ドン、とコクピットの手すりを殴る。命がけで戦ってたった300ドル。インフレの進んだ今ならアメリカのスーパーでアルバイトした方がよっぽど稼げるだろう。暗い気分になりながらアサルトギアのハッチを開け、はしごで地面に降り立つ。

 

 地面に降り立つと10代前半の金髪の少女がぱぁっと顔を明るくし近寄ってくる。

 

 

「ジンさん、お帰りなさい! 大丈夫だった、怪我してませんか?」

 

 戦場に似つかわしくないあどけない顔立ちだが、事実彼女は民間人である。そんなアリスがこんな寂れたプレハブ小屋に居るのには理由がある。

 

「大丈夫だアリス、お前の父さんと約束したんだ。必ず戸籍を取り戻して学校に通えるようにするってな。それまでは死なないよ、絶対」

 

 2050年、中東諸国で発生した戦争を引き金に発生した第3次石油危機は全世界を揺るがした。数多の企業が倒産し、失業者が急増。各国は国民の矛先を逸らすべく対外への強硬姿勢を強め、国際関係はどんどん悪化していった。

 

 その中で発見されたのが南極にて発見された莫大な石油資源とレアメタルを数多含む鉱山だった。各国は相次いで南極上にプラントを建設・拡張して氷を掘り返し、資源を得て自国民を富ませていく。

 

 資源を得れば得るほど国民の生活が安定し、支持率と経済が改善する。しかし各国が各々資源スポットを独占したため、自然と採掘量は頭打ちになってしまう。そして当たり前だが、何かを作るより奪う方が数十倍易しい。

 

 結果として南極は互いの資源を奪うべく、日夜傭兵が殺しあう地獄の戦場と化していた。

 

 

 俺、ジンもそれに巻き込まれた一人だ。真面目に生活し、真面目に勉強していたはずなのに、気づけば第3次石油危機由来の祖父の借金がどうとか言われて戸籍と体を売り飛ばされ、気づけばこんなところにいる。

 

 アリスと一緒に暖房の効いた部屋に行く。わざわざ用意してくれていた暖かいスープとパン一個を頂きます、と言って食べる。これでもいつもに比べると豪勢な食事だった。明らかに成人男性が食べる量としては少ないとわかっているのだろう、アリスは心配そうに俺に言う。

 

「ねえジンさん、やっぱり個人傭兵なんて辞めて、以前の組合に戻った方が……」

 

 傭兵組合、というものがある。ありとあらゆる勢力に対して平等に、金を対価に戦力を貸す組織だ。所属している傭兵は万単位で、当然サポートも価格交渉力も個人と比べると段違い。通常であれば組合に入らないなんてありえない。

 

 実を言うと、半年前まで俺とアリス、そして死んだアリスの親父は傭兵組合にいた。俺は特にスニーキングとゼロ距離戦闘の成績は高く、戻ってくると言えば歓迎されるだろう。

 

 だが俺は首を振る。

 

「それはダメだ」

 

 目の前のアリスに言うことはできない事情があった。簡単に言うと、幼いアリスを慰みものにしようとするロリコンどもが組合の中にいたのだ。

 

 アリスの父が死んだことにより彼女を守る者がいなくなったのが一番の原因だった。いわゆるセクサロイドが導入され、戦場でのそういう悲惨な自体は大幅に減ったものの、それでも下種は残っている。

 

 しかも奴らが組合上層部と懇意で、俺の権力では決して追い出すことはできなかった。……仮に襲われてしまったら、事件を隠すためにも若いうちはロリコン共の部屋に監禁されて玩具にされ、価値が無くなったら殺処分という最悪の未来は避けられないだろう。なぜなら奴らは既に数件、実行しているからだ。

 

「……私のことは気にしなくていいから、ジンさん自身が元の生活に戻れる方法を取った方がいいと思います。私みたいな足手まといがいても生き抜けるほど、ここは楽じゃないのはわかっています」

「……」

「だから、組合に戻りましょう?」

 

 ……確かに組合に戻れば順当に金が稼げて、俺が元の生活に戻る確率は少しずつ高まる。傭兵は命の危険がある分、収入も高い。生き残れば日本に帰れる未来も生まれるだろう。ただしその場合は、男どもに玩具にされるこの子を見捨てることになる。

 

「それだけはできない。子供は心配せず寝ろ」

 

 酷い言い方かもしれないが、俺はそう返して自分の部屋に戻るしかなかった。机に座り、俺はインターネットを開く。彼女の言う通り、このまま個人傭兵をしていてもジリ貧だ。仕事は来ないし、来ても足元を見られる。整備などのサポートも受けられないし、このままでは破滅も近い。それでも俺はあがきたかった。

 

「相棒との約束なんだよ……! 絶対に、絶対に何とかして見せる!」

 

『EU連合の同士討ちが相次ぐ。第4プラント保護のための傭兵求ム』

『輸送艦が傭兵組合の部隊により強襲。消息不明のため、調査部隊を組む』

『マッドプロフェッサーの新兵器、アゴブレード入荷! アサルトギアの顎を延長し、単分子ブレードに! 試験者募集』

『決死隊を募集。某国プラントを中央突破、報酬は膨大』

 

 ひたすら裏サイトを探し回り、夜中まで依頼を探し、時には自身の宣伝文句を書き込む。だが信用のない個人傭兵を高値で雇う依頼主などいるわけもなく、それでも可能性を求めて俺は作業を続ける。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 一週間後。一件のメールが届く。恐る恐る開くと、そこには仕事の依頼が書かれていた。

 

 

『依頼:専属パイロットとしての契約 契約期間:1年更新 報酬:任務一件あたり1万ドル~ 弾薬費、整備費及び生活費等無償』

 

 

 それは通常あり得ない契約だった。通常、弾薬費や整備費は報酬から差し引かれる。そのため提示される金額より手取りは遥かに低くなるのが普通だ。だからこの待遇は異常と言ってよいだろう。

 

 間違いなく俺が求める、アリスがこの地獄から抜け出せる可能性のある依頼だった。

 

 

 だがその最後の一文に、見慣れない文字が映った。

 

 

 

『注記:安価は絶対です』

 

 

 ……ん??? 

 




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