〜とある病院の看護師の会話〜
「ねえライザさん!」
「なんですかルピィ師長?もうちょっとで休憩の時間なんだから集中して下さいよ…」
「分かってるって!それより今日から待合室に最新型の映像機が設置されるんだって!休憩時間に見に行こうよ!」
「分かったからサッサと手を動かしなさいよ…」
「はーい!」
この病院に勤務し始めて42年、エルフのルピィは長年研究されてきた完全魔力不使用の設備がこの病院にも設置され始めた事に少し興奮していた。
自分が物心付いてから91年、この世界の魔素が年々薄くなっている事に魔素学に詳しくない彼女でもかなりの不安を感じていたのだ。
この調子で世界に魔力を使わない機材が浸透していけば魔物が放出する魔素の量が魔素の消費量を上回ってこの息苦しさともお別れだ。
魔物の絶滅も一時期は止まらなかったが最近はそういう話をとんと聞かない。
きっと既に解決している問題なのだろう。
「あと30年くらいで元に戻るかな〜!」
「何か言った?」
「ううん!なんでもないよ!」
彼女は子供の頃のような心地よい魔素に包まれる日々が来るのを心待ちにしていた。
「ふいー…休憩だ!行こうぜライザ!」
「はいはい…」
ライザとルピィの二人はそれぞれの情報端末を手に病院の待合室に向かった。
「へえ…魔力完全不使用の設備ねえ…エコってやつでしょ?減ってる減ってる言ってるけど私は魔素が減ってる実感あんまり湧かないけどなー…」
「エルフ的には結構爆速で減っていってるよ!大体30年もすれば魔力が完全に枯渇するくらいのスピード感だし!
あと人間も魔素が全くないと魔力不足で死ぬの看護学校で習わなかった?」
「全然覚えてない!てか意外と死活問題じゃん!」
「そうだよ意外とヤバいよ」
ワァッ!!
「お!始まるっぽいね…」
「院長の方針でしばらくは教育番組中心なんだって!最初は何かな!」
子供達だけでなく多くの大人が見守る中、映像機が番組を流し始めた……。
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[孤島のマスコット!パラポ大特集!]
[〜パラポ最後の群れ〜]
画面の中央に緑の文字で番組名が表示され、次第に大海原の先にある島に向かう船の映像が流れ始めた。
「今回の舞台はアムリタ洋沖合に位置するパラポネラ島…この島では、世界でこの島にしかいない固有の生き物達が独自の生態系を築いています…」
上空からの島の映像が流れ、固有種の虫や植物の写真がいくつか紹介される。
「ご紹介するのはパラポネラ島唯一の大型の生き物…パラポです!」
のんびりと草を食むパラポの映像が流れる。
「パラポは現代まで生き残った数少ない魔物の一つ!50年前にパラポネラ島が発見されてようやく見つかった比較的新しい魔物でもあります!
ここで冒険家がパラポネラ島に初上陸した当時の映像をお見せしましょう!VTRどうぞ!」
パラポの頭の輪郭が広がって別の映像に移り変わる。
『こんなところに島があったなんてな…!』
『しかもかなり大きな島だ!これは大手柄だぞ!』
『待て!魔物の足跡がある…竜種の足跡だぞ!』
『『『っ!!』』』
「地面にある足跡が竜種の足跡だと判明した途端に冒険家達に緊張が走ります!
それもそのはず…今でこそパラポとラプターの2種を除いて絶滅した事で有名な竜種ですが、50年前…人に危害を加える魔物を対象とする狩猟が活発だった時代では竜種側から人類に襲いかかる事件が多発するほど活発な魔物でした」
『急いで戻るぞ!』
『竜種がいる島ってだけで情報は十分だ!後は専門家に任せよう!』
『装備が足りなすぎて竜種狩りなんてやれるかってんだ!』
「この時代の人々には温厚な竜種がいるという常識はなく、竜種が活動していると分かった時点で国から認可を受けたプロ
だんだん流れる音楽が悲しいものとなっていき、猟師達がパラポネラ島に上陸する映像が流れる。
『いたぞ!構え!
バンバンバァン!!
『ブォォォ!?』
『………弱い?』
「プロ
しかし、あまりにも抵抗らしい抵抗を見せずに殺されていくパラポに対して一部の猟師達の頭にある可能性が浮かびました…そう、パラポが人を殺さない竜種であるという可能性です。
研究機関でパラポが解析されるイラストが流れる。ここら辺はグロ注意で子供には見せられないようだ。
「調べたところ…なんとパラポは数十万年前に絶滅した竜種の祖先…古竜に極めて近い魔物だと分かりました!」
「ちょおっと待ったぁぁぁ!!」
解説の言葉が途切れた途端に画面の端に杖に目口と小さな手が生えたキャラクターが割って入り、音楽が軽快なものに変わった。
「どうしたんですかつえじい?」
「ちょっと待って下さいよ!パラポはそんなに大昔から生き残って来たんですか?
いくら海に囲まれた島といえど時代によっては空を飛ぶ魔物がやってくる事もあるでしょう!
戦う力を持たないパラポはどうやってこれまで生き残って来たんですかな?」
「つえじい落ち着いて!」
「ハッ!私とした事が…申し訳ござらん!とにかくパラポがこれまでの時代を生き残ってこれた理由が知りたいですぞ!」
キャラクター…つえじいの疑問に答えるように解説が始まる。
「つえじいが言っていたようにパラポは戦う力を持たないか弱い魔物、外から魔物がやってくればかなりの確率で全滅しているでしょう…しかし!パラポネラ島は世界でも有数の特殊な環境!」
「特殊な環境?」
「はい!パラポネラ島付近の海流はパラポネラ島を中心に渦を巻くようになっており、海中から向かうと弾き出されてしまうのです!」
「なんと!」
「さらに!空と海両方の見方でもパラポネラ島は孤立した島!陸地や栄養の豊富な海域から遠く離れているので生き物達がこの島に辿り着く事ができなかったのです!」
「ほほー…パラポがこれまで生き残って来れたのはそんな理由があったんですな!」
つえじいが納得したところで解説者が続けて話し出す。
「つえじいの疑問が解決したところで話を戻しましょう!
パラポは古代から生き残った古竜、大昔…古竜が多く生きていた時代では今より活発な魔物でした」
「映像を見るととてもじゃないですが強そうには見えませんぞ?」
「パラポの祖先は今よりスラッとした体型で足も早く、魔力を使った特殊な攻撃手段も持っていました。
それでもパラポは草食の魔物なので、肉食の魔物から逃れるために今より陸地に近かった時代のパラポネラ島に海を渡ってやって来たのです!」
「なんと!あの体で泳げるんですか!」
スラッとしたパラポの予想イラストと海を渡るパラポのイラストが流れる。
「自分達を食べる天敵もおらず、植物を独り占めできる新天地にやってきたパラポ達は次第に戦う力を失っていき、今のようなまあるいお腹の竜種になったと考えられています!」
「なあるほど!パラポは大昔に苦労したおかげで楽に生きてきたわけですな!」
ここで一気に音楽が暗くなる。
「しかし、のんびり暮らしていたパラポ達は人類によってその多くが駆除されてしまいました。
「なんと…悲しいすれ違いですな…」
「現在生き残っているパラポは二つの動物園に2頭ずつ、パラポネラ島に暮らす12頭の群れのみなのです」
「まさに絶滅一歩手前ですな…」
「現在人工での繁殖が研究されていますが、動物園で飼育されているパラポはストレスで繁殖を嫌がるなどの問題が起こっており、今一番希望が集まっているのが…パラポの自然繁殖!」
動物園にいるパラポが悲しそうにするイラストの次にハートの中に野生のパラポの番とその中心の卵が表現されたイラストが流される。
「今回なんと!調査団に同行した取材班がパラポの出産映像を手に入れました!」
「なんですって!?早く見たいですぞ!」
「つえじいの気持ちもよーく分かりますがこの話はニュースコーナーの後で!」
画面が切り替わり、最近のニュースが流れ始めた。
「竜種ってラプター以外にも生き残りいたのね…」
「私もびっくり!子供の頃に最後のワイバーンが死んだって噂が流れた時にお婆ちゃんが嘆いてたからパラポのこと教えたら喜ぶかも!
こんど教えてあげよ!」
「ルピィ師長のばあちゃんってまだ生きてるんですか?凄いですね…」
二人が話している途中、ある子供の声が耳に入った。
「あ!パラポのニュースだ!」
『次のニュースです…去年保護されたパラポのオスの幼体の名前が決まりました!』
パラポの幼体が「パピコ」と書かれたカードを咥える映像が流れる。
『応募された中からパラポ自身に選んでもらった結果決まった名前は…「パピコ」くん!
パピコくんは高い知能を有した突然変異個体であり、パラポの研究や魔物学の絶大な進歩が期待されています!
次のニュースです…超ロングセラーの伝記「残火」の映画化が……』
「パピコくんって言うんだね!」
「そうだねー!かわいいね!」
待合室の子供達がパピコ君の話題で興奮し始めた。
「かわいいねえ…あ、もう休憩おわりだよ」
「え?もう終わり!?ちえー…続きは自分で調べるかあ〜」
「勉強熱心だねえ…」
「勉強が途切れると時代に乗り遅れちゃうからね!」
若者エルフは勤勉である。
[魔素]
世界中に存在する謎のエネルギー。
この世界では万能エネルギーとして魔素を使用する文明が発展してきた。
この世界の生き物は酸素とは別に生命維持に魔素を必要としている。
[魔物]
魔素を生産する生き物の事を指す。
人間に狩り尽くされて全体の九割九分が絶滅している。