【Fate/La Festa】 フェイト/ラ・フェスタ   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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1stシーズン
第一話 鑽火神事


 

 大きな地震に波止場が揺れた。

 深夜の町中で、犬が狂ったように吠え散らかす声が響く。

 

 貿易港の町がある。

 太平洋に面し、三方を山に囲まれた大きな都市だ。

 その卯波港(うなみこう)の荷揚げ用のガントリークレーンが軋みをあげ、海浜公園が、工業区域がその灯りを瞬かせた。

 それほどの衝撃だ。

 裾野の町でも街灯が瞬き、あるいは明かりを落とし。

 山の手の住宅街では街灯が幾つか爆ぜた。

 それでも、山裾に広がるこの深夜の卯波(うなみ)市街は静かな眠りに包まれていた。

 

 

────◆

 

 ──翌朝のこと。

 朝のニュース番組では、昨夜のアインツベルン城での爆発事件について報道されていた。

 ──調査によれば、生活用ガスか、永いこと地下室に溜まっていた地下ガスのどちらかが発火して爆発し、もう一方にも引火したものと見られている──

 ──残留するガスが漏洩している恐れもあるため、アインツベルンの森付近には近寄らないよう、卯波市(うなみし)では橋下(はしもと)市長より立ち入り禁止勧告が出ており──

 

「──と、ご覧の通り、情報操作と現場の閉鎖は万全に済ませてあるとも!」

 

 肥満体の男が、室内の一同を振り返ってモニターを指し示した。

 体型に合わせた赤い特注スーツの派手な姿。彫りの深い面立ちと、溢れる知性に輝く碧眼は、部品単位で見れば良い男なのだが、その肉体は力士と見紛うほどにブクブクに太っていた。

 「彫りの深い目」も、深いと言うよりは、脂肪で膨れた顔面に目玉がふたつ埋まってるようなものだ。

 

「──やるではないか、金柑頭!」

 

 呵呵大笑して讃賞したのは、黒の長髪に漆黒のスーツを纏った絶世の美女だった。

 肥満体の男とは真逆にスタイルの良い長身を折り曲げて、高々と長い脚を組んでソファにふん反り返っている。

 

「冗談はその肥満体型だけで心底安心したぞ! その皮下脂肪の中には代わりに脳味噌がたっぷり詰まっていると見える!」

 

 腹を抱えて笑う美女の暴言にも、男は眉ひとつ動かさない。

 それどころか、前髪を優雅に払い、尊大に仰け反って見せた。

 

「褒めろ!讃えろ!絶賛しろ! 私の優秀な頭脳とカリスマに掛かれば叶わぬ策謀など何もない! いや愚凡な貴様には重々に残念な事であるが」

「いやそなた自己陶酔が過ぎるわ」

 

 途端に美女がスンッ、と鎮まる。

 

「とは言え、これはもう──」

「──始まった、のだろう?」

「それが、そうもいきません」

 

 肥満体と美女に目線を向けられたのは、そこに立つ、カトリックのキャソックのような黒衣を纏う壮年の男だった。

 

 ──この部屋には、五人が集っている。

 モニターの前に立つ、赤い服の肥満体型の男。

 ソファにふん反り返る漆黒のスーツの美女。

 その隣に腰掛ける、刈り込んだ銀髪の、酷く凶暴な印象を持つがっしりした体型の初老の男性。

 向かいのソファに腰掛ける、上等な夏用スーツに身を包む、品の良さそうな中年男性。

 そして、全員の注目を集めた黒衣の男。

 彼を見つめる顔ぶれのうち、二人の年嵩の男らは、そのどちらもが「まっとうではない」種類の人間だった。

 「ヤクザ」に、「政治ゴロ」。

 服装こそ高級な仕立てのスーツだが、どちらも見るからに剣呑な形相で目をギラギラさせている。

 だが、肥満体と美女が放つ覇気は、彼ら「人間のプロ」を遥かに凌駕していた。

 

 それにも関わらず、キャソックを纏う男には物怖じした様子は無い。

 顔色ひとつ変えずに淡々と語る。

 

「未だに席がひとつ、埋まっていません」

 

 "席"とは当然、この室内で各自がめいめい腰掛けているソファの事ではない。

 

「良いではないか! 見ろ! 事態は既に動いている! あの様子では、たいして経たずにまた何処かと激突するぞ!」

「とは言え、条件不履行だの反則だので儀式が破綻しては、元も子もなかろう?」

 

 肥満体はモニターを指して状況を急くが、美女は薄く笑んで冷静に指摘する。

 だが、肥満体は止まらない。

 

「おためごかしはやめたまえ、平らな顔の魔王! 貴様とて、すぐにも動く心積りであろう?」

「平らて」

 

 微苦笑を吐いた美女だが、すぐに居住まいを正した。

 

「──どうかな。いずれにしても、準備は進めるがな」

 

 言いながら美女は立ち上がり、出口へと歩き出す。

 

「行くぞイサオ。戻って戦支度の続きだ」

「まだ、やる事があんのかい」

 

 続いて立ち上がったのは、美女の隣に腰掛けていた初老の男だった。

 浅黒い肌に、筋骨逞しい体付きが、夏用の高級スーツを内側から圧し上げている。

 何よりも、日焼けした巌の如き顔面が凶悪に歪んでいる。

 イサオ・インティライミ。この卯波市(うなみし)に拠点を置くマフィアの、日系ブラジル人のボスである。

 刈り込んだ銀髪をガリガリと掻くその右手の甲には、赤い、不気味な痣が浮かんでいた。

 とは言っても、開いた胸襟や袖口から覗く手首に渡って派手な刺青(いれずみ)が彫り込まれているため、それらに紛れて逆に違和感が無い。

 

「……して、監督殿の見解は如何かな?」

 

 それら二人を見送った肥満体の男が、黒衣の男に問いかけた。

 

「あ奴の言う通り、確かに条件不履行で儀式が破綻してはたまらない。フライングで失格だなんて馬鹿げた事はしたくないものだが?」

「前例が少ないので、何とも」

 

 黒衣の男が静かに答える。

 

「しかし、それを言えば、令呪の分配時期にも年単位のバラつきがあります。聖杯に故障などでも無ければ、最後の一騎は必ず現界しましょう」

「それが、我々全員がいなくなってからで無い事を祈るばかりだな!」

 

 肥満体が鷹揚に頷いた。

 

「──時に監督殿。アインツベルンの起こした事故の秘匿に多大なる貢献をした我々に、何か褒賞とかはないのかね?」

 

 顔を上げた肥満体の男が、ずずいと黒衣の男に肉迫した。

 文字通り、肉の宮が迫る圧迫感たるや。

 丸い顔面の中のキラキラした碧眼が、じっと見つめてくる。

 それでも、黒衣の男の澄まし顔は動かない。

 

「──予備令呪一画譲渡の約束か、他陣営の情報ひとつ。どちらかを任意の時にで、いかがでしょう」

「素晴らしい!骨を折った甲斐があると言うもの!」

 

 舞台役者のように大袈裟に喝采を上げた肥満体の男が、振り向いて歩き出した。

 

「よし! 言質も取った事だし、行こうか市長! 貴方の栄光の道は拓かれたも同然ですぞ!」

「おお! おお(がい)さん! よろしく頼むよ!」

 

 ソファに残るひとりの中年男性が、気色を上げて立ち上がった。

 橋下辰志(はしもとたつし)。危険地帯であるアインツベルンの森への立ち入り禁止を市民に勧告した、卯波市市長そのひとである。

 ──その両手には、白い儀礼用の手袋を嵌めていた。

 季節は初夏。特に用事も無いのに。

 

 

────◆

 

 ディートリヒ・フラゥゾマーはフォワーダーである。

 「フォワーダー」とは、簡単に言えば「海外との配達請負人」「国際物流業者」である。

 ディートリヒの勤め先は、中小企業や個人事業主を主な顧客とするタイプであり、海外製品を仕入れるなどの際に生じる、煩雑な通関業務を代行するサービスを行っている。

 その職場のひとつ、荷揚げした倉庫の中の点検に大わらわになっていた。

 初夏の朝とは言え、日差しに焼かれ始めた倉庫の内部は早速にも暑い。

 とは言え、場合によって巨大な荷箱や木材を取り扱うため、厚手の作業用手袋を嵌めていた。

 金髪に手拭いを巻きつけ、作業に勤しむ。

 

「おはようさんー」

 

 そこに、くたびれたスラックスと半袖ワイシャツ姿の中年男性が現れた。

 オールバックの髪型に、眠そうな顔。

 そんな男が倉庫に入ってきて、ディートリヒの元へのたのたとやって来る。

 

「昨夜はなんか、すごかったみたいだねえ。僕ぜんぜん目ェ覚めなかったけど」

「そうなんすか?」

 

 ディートリヒは軽く応えて作業の手を離した。

 男の名は、市ヶ谷建午(いちがやけんご)。個人で輸入雑貨の貿易商をしている。

 その商売にあたり、フォワーダーとしてディートリヒの会社に関税業務を委託しており、ディートリヒがその担当をしている。

 市ヶ谷建午(いちがやけんご)の事務所が卯波港(うなみこう)からほど近いところにあるため、時折りこうして直接荷受けに訪れるのが日常だ。

 

「でも、倉庫が崩れてなくて、良かったねえ。……あ、それとももう片付けた後だった?」

「いやいや、こんな荷物の山が崩れたら、オレひとりじゃどうにもできないっすよ⁉︎ 」

 

 与太話に応じながら、脚立を伝って地上に降りる。

 

建午(けんご)さんの荷物、来てますよ。こっち」

「おお。ありがとうディーくん」

 

 荷物を積んだパレットの合間を縫って、案内する。

 

「これっす」

「おおー。思ったよりか、大きいねえ」

 

 ディートリヒが抱え上げたダンボール箱に、市ヶ谷が手を伸ばす。

 

「あれ? 建午さん、その手、どうかしたんすか?」

「んん?」

 

 市ヶ谷建午の右手には、包帯が巻かれていたのだ。

 指先は無事なようだが、包帯は手首にまで巻き付いている。

 

「──もしかして、夜中の振動でテレビでも落っこちてきたんすか⁉︎ 」

「いやあ。一昨日に犬に噛まれちゃってねえ」

 

 市ヶ谷は、のんびりと右手を上げ下げした。

 

「うっかり、ガブリとやられちゃってさ。嫌んなっちゃうね」

「うわ。じゃあこれ、事務所に後で届けますよ!」

「いやあ、大した事ないよ。すぐそこだし」

「いやいや」

「いーよいーよ、大丈夫だから」

 

 ディートリヒが心配して荷物を遠ざけてると言うのに、市ヶ谷が両手を伸ばして迫ってくる。

 そんな押し問答を繰り返しているうちに、やがて市ヶ谷が荷物を抱え込んでしまった。

 

「本当に大丈夫っすかあ?」

 

 それでも、ディートリヒが恐るおそる箱の下から支えようと手を伸ばすが、市ヶ谷はあっさりと箱を抱え直した。

 

「だぁーいじょうぶだって。ホラ」

 

 確かに別段、特に重いものではないのだが。

 

「んじゃあ、またよろしくねー」

「ホント気をつけてくださいよー⁉︎ 」

 

 ディートリヒの心配の声を背に、市ヶ谷は倉庫から立ち去っていった。

 

 ──サーヴァントの気配があったよ。

 

 その時、ディートリヒの脳裏に他者の声が閃いた。

 ディートリヒが思念の対話で問い返す。

 

 ──どんな奴だ?

 ──分かんないよ。霊体化してたもん。

 

 脳裏に返答が流れ込む。

 

 ──誰に着いてきたか分かるか?

 ──そんなのわっかんないよ⁉︎ あんなにいっぱいいるんだもん⁉︎

 

 現在は通勤時間帯、あるいは早くから勤務を開始するところもある時間帯だ。港湾近辺も例に漏れず人々の往来が非常に激しい。

 

(この時間帯を狙って移動している⁉︎ )

「──まさか、な」

 

 ディートリヒは、手袋に覆われた右手の甲を見下ろして、口の端を引き攣らせた。

 

 

────◆

 

 小柄な人影が、草木を蹴って森を突き抜けた。

 やがて開かれた場所に見えたのは、かつて城砦があっただろう名残の、煙と異臭が燻る瓦礫の山だった。

 

「アインツベルンがやらかしたって、本当だったんだ」

 

 人影が、少女の声で呆れたように呟いた。

 オーバーサイズのパーカーと、裾から伸びる、細くもしなやかな脚。

 ポケットから引き抜いた両手は、タクティカルグローブで覆われていた。

 大きなトレッキングシューズで瓦礫を踏みつけ、頭のフードをはぐる。

 現れたのは、グレーのショートヘアにつり目の少女の顔だった。

 

 ──なんか、森の中、すごい結界でしたよ⁉︎

 

 脳裏に声が閃く。

 

「別にあんなの大したこと無いよ。それより出てきて。探るから」

 

 少女の声に応えて、傍の虚空から顕れたのは、彼女よりも背の高い栗毛の少女だった。

 エプロンドレスを纏い、小さなシルクハットを被っている。

 

「えー? 危なくないですかあ?」

「宝探しって、そういうものだよ。警戒よろしく」

 

 素気無く言って、瓦礫を乗り越える。

 時折り、小さなコインを片手であちらに、こちらにと弾きながら、荒れた敷地を進んでゆく。

 瓦礫の山は、辛うじて城だった頃の名残がある配置で散らばっており、二階以上の部位を残している箇所はどこにも無い。

 情報によれば、アインツベルン城はおよそ五階構造だったはずだ。

 

「ほら、あそこ」

 

 そして、地下室を二階層備えていた。

 元は広間と思しき場所で、赤い絨毯ごと引き裂いた巨大な穴から地下階層が覗く。

 しかも、地上階の床の穴を相似縮小したかのような穴が、二階層に渡って穿たれている。

 最下層の抉れた床面まで丸見えだった。

 

「なんてバカみたいな威力」

「ほえー。さぞかし名のある英雄をお招きしたようで」

 

 一緒に覗き込んだシルクハットの少女が、のんびりと相槌を打つ。

 パーカーの少女が、地下階層にコインを投げ込むと、立ち上がってシルクハットの少女に両手を伸ばした。

 

「あそこに降ろして」

「おまかせください!」

 

 パーカーの少女を軽々と抱き上げたシルクハットの少女は、難なく穴を飛び降り、地下階層に静かに着地した。

 するりと腕から降りたパーカーの少女は再びコインをばら撒くと、すたすたと残る通路を歩き、辺りを検分する。

 なにしろ大きな穴の下だ。初夏の陽光が無遠慮に差し込み、明かりには困らない。

 やがて最下層の、大きな部屋に辿り着いた。

 周辺に散らばる家具や燭台、魔術道具の残骸などから、ここが何のための場所だったか、だいたい察しがつく。

 

「ここで召喚したんだ」

 

 辺りをざっと見回したパーカーの少女は、大きな瓦礫を指してシルクハットの少女に命じた。

 

「あれ全部、外に出して」

「ええー? 重たいじゃないですかー」

 

 それは乱雑に積み上がった、階層を仕切っていた岩盤である。

 本来なら、ここを片付けるには大きな重機が必要だ。

 

「あ、よいしょ」

 

 ところが、シルクハットの少女は、旅行鞄でも持ち上げるような所作で巨大な岩塊を抱え上げた。

 

「えいっ」

 

 そして、その巨大な岩塊を、まるでビーチボールかのように地上へ放り投げた。

 

「よいしょっ、それっ」

 

 緊張感にかける掛け声と共に、部屋を埋め尽くしていた大量の岩塊が、冗談みたいにぽいぽいと地上へ放り出されてゆく。

 

「いいよ。ストップ」

「ほえ?」

 

 もう一個、と抱え上げたところで、シルクハットの少女は頭上に掲げた岩を、ごとんと下ろした。

 シルクハットの少女は、息ひとつ乱していない。

 

「もう、いいんですか?」

「これがお宝みたいだからね」

 

 言って、パーカーの少女が、いま下ろした岩塊に屈み込んだ。

 

「見てごらん。元は四角かったものが砕けたやつだ」

「……何か違うんです?」

 

 あちこちから岩塊を覗き込むパーカーの少女に対し、シルクハットの少女には、他の瓦礫との差異が分からない。

 

「石の材質がね、違うんだよ。──これは、どっかの神殿の礎だ」

「神殿の……」

 

 岩塊の検分が済んだ少女は、タクティカルグローブの両手を叩いて立ち上がる。

 

「言う通り、アインツベルンはさぞかし名のある英雄をお招きしたようだよ」

 

 その時、地上の離れたところから、くぐもった男の苦鳴が聞こえてきた。

 

「ニホンジンが労働ジャンキーだってのは本当みたいだね」

 

 言って、パーカーの少女が小声で何事か呟くと、これまでの道すがらにばら撒いてきたコインが全て、少女の元に飛来してきた。

 それらのコインを宙でキャッチすると、パーカーの少女は足音も立てずに移動を開始した。

 

「──脱出するよ。フォローよろしく」

「おまかせください!」

 

 言うと、ふたりの人影は地下室の闇に紛れて消えていった。

 

 

────◆

 

 「うなみ祭り」とは、卯波市(うなみし)で毎年夏に開催されるお祭りである。

 貿易港として発展してきた卯波市は、外国との関わりが多い都合上、昔から多くの外国人が移住しており、生活の上で様々な国の人々を見かける機会が非常に多い。

 それは文化にも影響を及ぼし、混じり合い、醸成され、今日(こんにち)の卯波独特の雰囲気を作り上げた。

 中でも「うなみ祭り」はその集大成と言えるもので、市街の様々な場所で、古来より続く卯波のものはもちろん、異国の踊りを、音楽を、祝祭を楽しむことができる。

 近年では、多くのアーティストによる異文化のコラボレーションも活発で、毎年夏になると卯波市は多くの観光客で賑わうのだ。

 

「……今年は、行けるかなあ」

 

 辻末梨花(つじまつりんか)が呟いた。

 スマートフォンの「うなみ祭り」公式サイトを眺める目は、どこか虚ろで力無い。

 だるい。

 人工透析の後は、いつもこうだ。透析は著しく体力を消耗する。

 腎不全を患ってから一年が経つ。

 二日に一度の透析が必要な身体になってから、普通の学校生活からは遠ざかり、友だちとも疎遠になった。

 気分は落ち込む一方だ。

 

 辻末家の邸宅の敷地は、一般家庭の数倍の広さがある。

 梨花はいま、離れの物置の中にいた。

 物置とは言っても、日用雑貨を押し込んでおくものとは違い、まるでアンティーク雑貨の店舗の中のように、様々なアンティーク雑貨──のような物──が、棚に、テーブルに整然と並んでいる。

 これらはすべて父の蒐集物で、二階にも沢山の物品が仕舞われている。

 ここは、梨花のお気に入りの場所だった。

 

──真夜中の地震で、何も倒れてなくて本当に良かった──

 

 仕事で家を離れる事が多い父の事を感じられる場所であるし、これらの物品を眺める事は、梨花自身も好きだったから。

 

「……みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ」

 

 ふと、詩を誦んじた。

 

「くりかえす、つどにごど──」

 

 幼い頃、父に子守唄代わりに教わった詩。

 意味はよく分からない。

 ただの音声として覚えたもので、口滑りのリズムが気に入っている。

 

「ただみた、される、ときおは、きゃくする」

 

 風が、頬を撫でた。

 ──空調だろうか?

 何を思う間も無く旋風と白虹が渦を巻き、梨花の前髪を舞い上げ、そこらの紙切れを吹き飛ばした。

 

──なにこれ──

 

 瞳が光度に順応するにつれ、輝きに見失っていた室内の光景に、さっきまではなかったものが現れていた。

 ふたりの人影。

 方や、梨花ほどの背丈の老爺。

 方や、父ほどの背丈の、メイドさんのような女性。

 老爺は、光り輝く西洋甲冑を身に付けていた。

 その面頬の下の、豊かな髭が動き出す。

 

「──問おう。おぬしがワシの、マスターか」

 

 

────◆

 

 白絹が如き美しい髪が、悦びにふるえて微かに揺れる。

 白痴のように茫とした少女の貌が、やがて気色を浮かべて輝く。

 燭台の灯りがゆらめく荘厳な石造りの部屋で、真白きドレスを纏う少女と、巨軀の戦士が向かい合う。

 それは、少女の戦士だ。

 少女のためだけの戦士だ。

 

──ああ。

 

 歓喜の吐息が漏れる。

 

──なんて素晴らしい!

 

 少女は初めての感動に打ち震えた。

 

──さあ! 楽しい祝祭の始まりだ!

 

 

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