【Fate/La Festa】 フェイト/ラ・フェスタ   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第二十二話 闇夜の奇祭に願わくは

 

 市内を一望し、港の遠く水平線から遥か山嶺をも見渡す、いと高き巨塔。

 ウノハナセントラルタワーホテルの屋上で。

 

「ええ〜……⁉︎ 」

 

 困り果てた顔のシャルロット・コルデーは、鋭い目つきで舶刀(カトラス)を突きつける、そっくり同じ三人の傷跡だらけの少女に取り囲まれていた。

 

──なに⁉︎ どうしたの⁉︎

──いや、港の桟橋にいたサーヴァントが、三人いて……

──はあ⁉︎

 

 思念でラウラの素っ頓狂な声が閃いた。

 

──殺したじゃん⁉︎ あのサムライのサーヴァントと同じ分身持ちだったのか⁉︎

 

 ところが、シャルロットがうろうろと三人のサーヴァントを見回して警戒しているうちに、その傷跡だらけの少女のサーヴァントはそれ以上身動きもせず、霞のように消えてしまった。

 

「……へ?」

 

 三人が、ほぼ同時に消え去った。

 なんらかの追撃を警戒して、身を抱き竦めたシャルロットがうろうろと屋上を見回す。

 だが、それきり何も起こらない。

 

──シャルロット⁉︎ ヤバいなら逃げて!

──いえ、それが、何もしないで消えちゃいました。ぜんぶ。

──はあ⁉︎

 

 物陰に隠れようと、そろりそろりと謎の機械の陰に近寄るシャルロットの脳裏に、再びラウラの怪訝な思念が閃いた。

 

──他にサーヴァントの気配が無いなら、戻ってきて! こっちに来るかもしんない!

──わかりましたー。

 

 応えたシャルロットは、サーヴァントの気配を改めて探った。

 他に何者もいないのを確認してから、シャルロットは霊体化して立ち去っていった。

 

 

────◆

 

 居場所が割れた射撃手など、アサシンのサーヴァントにとってはものの敵ではないだろう。

 謎の能力で長距離射撃を躱されたアンは、即座に移動を開始した。

 サーヴァント同士では、例え互いに直接目視できなくとも、ある程度近付けば気配を察知できてしまう。

 ここから霊体化してマスターの元へ向かえば、方角的にきっとどこかですれ違う。そうなると、霊体化同士の追いかけっこになる。そうなればキリが無いし、引き離せなければ実体化した際に不利なのは、恐らくアンの方だ。

 だからアンは、霊体化してこの高層ビルの屋上からできる限り上空に移動した。

 射撃手を求めてやって来るアサシンを迎え撃つために。

 やがて見下ろす屋上に、唐突に少女が姿を現した。シルクハットにエプロンドレス。先ほど見たアサシンのサーヴァントだ。

 

「『比翼連理(フリーバード)()三連星(トライスター)』!」

 

 上空で実体化したアンは、長大なマスケット銃を差し向けて宝具を展開した。

 最初の弾種は相方の分身。

 撃ち放った光弾が三つに分かれ、それぞれがメアリーの姿に変じてアサシンを取り囲んで着地した。

 それは陽動にして、敵の目線を横方向に縛る第一手。

 ──だが、実体化した時点でアンの身体は物理法則に縛られ、重力に引かれて落下を始める。

 敵サーヴァントの姿が、見るみる屋上外縁の柵の遮蔽に埋もれてゆく。

 

──やっぱり、ここから狙うのは不確実──⁉︎

 

 身を吹きなぶる風の中、瞬時に思考を巡らせる。

 ──敵は恐らく「同行他者」のスキルを知らない。

 ──このまま宝具を中断して、「メアリーが複数いる」と誤認させるのも手ではないか。

 ──まだ、アン自身の面は割れていない。

 ──敵は謎の回避スキルを持っている。二射目を躱されてこちらを察知されたら、霊体化で迫ってくるだろう。

 

(マスターも心の平衡を危うくしている。今は下手な博打は打てない)

 

 決断したアンは、落下中に宝具を中断し、霊体化して立ち去っていった。

 

 

「マスター⁉︎ 」

 

 無人の公園の、巨大な石碑の陰でうずくまっているディートリヒの(そば)で、アンが実体化した。

 

「……よう。アン。 ……無事だったか。……よかった……」

 

 アンをのっそりと見上げて、ディートリヒが軽薄な素振りで片手を上げるが、その瞳には、いつもの力が無かった。

 ──メアリーの死に、打ちのめされている──

 アンは、腰に手を当てて嘆息した。

 

「……気持ちは嬉しいですけれど、サーヴァントに対して入れ込み過ぎですわよ?」

「いやあ、分かってんだけどよ……。お前らといるのが凄え楽しかったから」

 

 ディートリヒが前髪を掻き上げてから目元を押さえて俯く。

 アンは努めて平静に言葉を続けた。

 

「生前私たちは、海で好きに暴れてましたけれど、最期は船上ではなく、メアリーは獄中死でしたわ。別に騎士様みたいな死に花なんて望んではいませんでしたから、別にそんな事はどうでもいいんです。──ただ、メアリーは召喚されてからの生活をずっと楽しんでたのは確かですわ」

 

 アンにとって、メアリーは大切な相棒だった。

 だが、アンらのそれは、マスターのような人種のそれと比べれば非常にドライだという差異も理解している。

 だから、大した事は言えないけれど。

 

「……メアリーは、最後に何か、言ってまして?」

 

 傍らに立ったまま、アンは問うた。

 

「……勝ってよ……って、言ってた」

「なら、勝ちましょう」

「……そうだな」

 

 ディートリヒが、少しだけ顔を上げた。

 

「聖杯を肴に派手に祝杯上げる約束だったよな」

「そうですわ。それさえ叶えば上々。その為の聖杯戦争でしてよ?」

「他の魔術師が聞いたら、さぞかしブチ切れんだろうなあ」

 

 ディートリヒの(すが)めの顔に、ようやく笑みが戻ってきた。

 

「知った事じゃありませんわ♪ 」

「そうだな! ──移動すっか」

 

 気勢を上げて立ち上がったディートリヒに続いて、石碑の陰から公園の柵を跨いで路地に出る。

 周辺は、住宅街だった。

 

「ともあれ、今は警察署周辺がフィーバータイムのはずだ。アサシンは撒けたみたいだし、一旦遠回りしよう」

「結構ですわ」

 

 言って路地を歩くディートリヒに、アンも追従する。

 辺りの家並みは、随分と水準が高い様子だ。恐らくは富裕層が集まる区域なのだろう。

 とは言え、家格やらについては特に羨望も嫉妬も無いアンには、それ以上の感想は特に無い。

 ただ、魔術師が多く住むと聞いていた通り、魔力の気配をちらほらと感じる。

 そこで、行く先の家の門が開き、家人が出てきた。

 自分たちは、ただの通行人。この町では外国人のペアなど珍しくも無い──

 ところが、突如アンの眼前にサーヴァントの気配が膨れ上がった。

 

──なっ⁉︎

 

 それも三騎だ。

 その出現は唐突だった。

 アンはまだ直接見えた事は無いが、アサシンが気配遮断スキルを目前で解除したら、こんな感じだろうか。

 ──いや、その現れ方は、まるで気配を遮る壁から抜け出てきたかのようだった──

 そして先頭に出てきた人物だ。

 それはアインツベルンの魔術師の少女だった。

 それが、何故かサーヴァントの気配を纏っていたのである。

 続いて現れたのは、髭もじゃの小柄な老爺と。昨夜、アインツベルンの森の前で、メアリーと同時に現れた、あの時の宮廷女中の服装のサーヴァントだった。

 それら門から出てきた三人が、そろってこちらを──アンを見ていた。

 

「──なっ、あ、」

 

 百戦錬磨の海賊をして混乱たらしめる異常の連続に、さしものアンも反応が一瞬遅れた。

 ──アインツベルンのサーヴァントはこの場にいないようだが、アレまで参戦してきたら、この数を相手にディートリヒを庇いきれるか──

 狼狽しながらアンがマスケット銃を抜き出した。

 こちらの武装を認めた老爺が黄金の甲冑を身に纏い、大槍を構えた。

 まずはすぐにでもマスターを安全な場所に──

 

「「待てえー!」」

 

 少女と、ディートリヒの絶叫がぴったりと重なった。

 

 

────◆

 

 早朝にヤクザと警察の全面戦争が勃発してから、ほんの数時間も経っていない。

 謎のサムライ姿の武装集団にヤクザの拠点が制圧され、この町いちばんの有名なヤクザの事務所が入ったビルが崩落し、かと思えば警察署は謎の爆破予告による全員退避で大童(おおわらわ)となっていた。

 市役所も全焼し、行政も機能していない。

 混乱の最中、報道機関は統制も無いまま混乱を混乱のまま伝え続けていた。

 

 そんな混乱の坩堝となり、車通りも少ない卯波市の市道を、黒塗りのセダンが走っていた。

 乗っているのは三人。

 運転手も、助手席に座る者も、後部座席でふんぞり返っているのも同じ顔、同じ体格、同じ黒の長衣の男たち。

 対向車もほとんど見かけない。

 市内は月曜日の昼前だと言うのに、不気味に静まり返っているようだった。

 何しろ早朝の市役所庁舎の火災から、非常事態宣言を発令すべき行政がまともに機能していない。

 気の早い者は自家用車で市外脱出を目論み、ヤクザか警察のバリケードに道を阻まれているはずだ。そしてヤクザが制圧されてからは、運の良い者はそのまま逃げおおせただろう。

 自宅に引き篭もる事を選んだ市民も、碌な情報もないままで、引き続き身動きが取れないはずだ。

 いずれ県知事の元へ非常事態宣言発令とその解除の要請が行くだろうが、それは聖堂教会が裏から阻んでいる。──聖杯戦争における神秘の発現の目撃者は、少なければ少ないほど良い。現状維持が好都合なのだ。

 ──本来ならば、早朝の時点でこれらの手を打つべきが監督役の仕事である。

 それらの根回しを、代わりに片手間で片付けた甲斐は、秋は、照夫は市内を走る車中でほくそ笑んでいた。

 次の目的地は、間抜けな魔術使いがやらかしそうだと言う卯波警察署。

 監督役が前後不覚に陥っているのをいい事に、オイタを働く魔術師を、副監督役として誅滅するためだ。

 ──突如、走行中のボンネットに外人の少女が片膝立ちで現れた。

 

「えいっ!」

 

 そのまま右手に逆手に振りかぶった奇妙な刃物を、ボンネットに肘まで埋め込んだのだ。

 

「──んなッ⁉︎ 」

 

 ボンネットが「く」の字に曲がる程の激突の衝撃に、つんのめった三人の身体が縦に跳ねる──

 

 

────◆

 

 小さな神社の敷地の縁石に、ラウラが腰をかけて待っていた。

 

「──ただいま戻りました!」

「うん」

 

 虚空から実体化して現れたシャルロットに返事をする。

 

 ──ウノハナセントラルタワーホテルの屋上襲撃から撤退した時の事である。

 

「あの傷跡だらけの女の子が、三人もいたんですよー」

「わかってる。──あの時のサムライと言い、なんかそう言うスキルが流行ってんのかな」

 

 シャルロットの宝具にミスは無いが、万が一にもまた同じヤツの分身が出てきたら面倒だ。

 アインツベルンのあの大男も、あの瞬間に殺しきれたのか判然としていない。

 ──少なくとも、聖杯から右手の令呪を通じて「一騎脱落」の報せを感知している。誰かが死んだのは間違い無い。

 

「あっ⁉︎ また何か来た⁉︎ 」

「ん?」

 

 シャルロットの悲鳴にラウラが顔を上げた瞬間、再び二人を幾重もの刃がジャキジャキと音を立てて交差して取り囲んだ。

 今度は離れた位置に立つシャルロットをも取り囲む、浅葱色の伝統服を着ている連中が見えているから、これらが何者かは分かる。

 

「……いちいちコレするのがニホンの挨拶なワケ?」

「大人しく話を聞いてもらえれば、危害は加えない」

 

 足を組んでリラックスした姿勢のままのラウラの耳元で、聞き覚えのあるハスキーな声──あの燃える異常世界で切断したラウラの足を復元治癒し、一時同盟を組んだ白髪のサムライのサーヴァントが言った。

 シャルロットの周囲に五人。ラウラの周囲に見えている日本刀が五本。

 ちょうどいま話題に出たサムライのサーヴァントが総勢十人、ラウラ達を取り囲んでいた。

 

「……その左足はどうした?」

 

 やや不自然に間を開けてから、やがてサムライのサーヴァントが奇妙な事を問うてきた。

 刀の一本の切先が、ラウラの、本来の肌とは微妙に色が異なる左足を指し示す。

 

「は? アンタが繋げてくれたんじゃん。それとも仲間から聞いてない?」

 

 再び口を噤んだサムライが、頷いて続けてきた。

 

「なるほど。そうだった。私がやったのだった」

「……いや、それ、通じると思ってんの……?」

 

 涼しげな鉄面皮でいけしゃあしゃあと(うそぶ)くサムライに、ラウラは突き付けられている刃も忘れて怪訝に呻いた。

 

「無用な詮索をするならば、この場で斬って──」

「そう言うのもーいいから! 分かったから! ちゃっちゃと用件に移れって!」

 

 そして再び紡がれる常套句を、ラウラが裏張り手を振って遮った。

 

「話が早くて助かる」

「どーいたしまして」

 

 鉄面皮をピリとも動かさずに言うサムライに、ラウラは心底呆れて溜め息を吐いた。

 

「……で。今度は何の用? あのアインツベルンの色男なら、一回キツめに刺しといたからどっかで死んでると思うけど。聖杯から連絡来てない?」

 

 取り囲む刃も気にせずラウラが右手をヒラヒラと振る。

 タクティカルグローブに覆われていて見えないが、それは令呪を示す符丁。

 僅かに黙したサムライは、ややあって返答した。

 

「……それは、何時の事だ?」

「知らない。……時間が分かんないとこにいたんだよ。夜中なんだか朝なんだか」

 

 流石に、このサムライの分身達が、あの燃え盛る異常世界で出会ったサムライ達とは別の集団であろう事には見当がついている。

 会話にいちいちラグがあるのも、思念でマスターと打ち合わせているからだろう。──異常世界にいたサムライの分身達は、マスターから逸れていた。

 果たして彼らがどこまで事態を共有しているか。

 それが読めないうちは、慎重に回答せねばならない。

 

「……アインツベルンのサーヴァントは、何か言っていたか?」

「は? ……オマエの試練がどーのって、言ってた」

「他には?」

 

 珍しく食い気味に問うてきたサムライに、一応拘束された身の上なので、ラウラはまあまあ真面目に記憶を振り返ってみた。

 ──なんらかの新たな情報が得られればいいが……。

 

「んー。……こっち見て「不意の急襲」とか言ってた気がする」

「……」

 

 またサムライが不自然に黙り込む。

 もはや裏で打ち合わせている事を隠そうともしていない。──この白髪のサムライのサーヴァントに腹芸ができない事を、コイツのマスターが諦めてしまったのかと邪推してしまう。

 

「……あのさ。ハナシがあるんならちゃっちゃと済まして欲しいんだけど」

「──ああ、そうだな」

 

 まるで咳払いの代わりのように音を立てて刀を構え直したサムライが、澄まし顔で続けてきた。

 

「そちらのサーヴァントなら探知できるだろう。あの方角に、高速で移動するサーヴァントの気配がある」

 

 言いながら、シャルロットの傍に着いていた白髪のサムライがひとり、刀の切先を、一方へ向けた。

 言われたシャルロットは、別に肉眼で視るものでもないだろうに、眉間に皺を寄せて虚空を凝視した。

 

「……いました! ……でも、このスピードって、霊体化……?」

「自動車に乗っているか、随行しているはずだ」

 

 白髪のサムライが注釈を加えた。

 

「貴女には、今すぐに、あの自動車を破壊して足止めをしてもらいたい。それでこの協定は終わりだ」

「は?」

 

 聞いていたラウラが、怪訝に声を上げた。

 

「乗ってるヤツを殺すんじゃないの?」

「……ついでに叶えば望ましい」

 

 ラウラの質問に対しては、またサムライの返答にラグが生まれた。

 

「話した以上の事は望まない。──ならば、報酬を先払いしておこう──」

 

 

────◆

 

 白髪のサムライがそう言って、異常世界のあの時と同じ文言を唱えると、再びラウラとシャルロットの消耗が回復した。

 そしてすぐに霊体化して立ち去って行ってしまった。

 ──依頼内容からして、ラウラの徒歩に随伴するよりも、シャルロット単独で霊体化で現場に赴かないと間に合わないタイミングだ。

 ラウラとシャルロットを分断する事が目的かと考えたが、それならあの場で殺せば済む話である。

 ──つまり、あのサムライ自身では、それをできない事情があったのだろう。

 どうも今回のあの白髪のサムライの協定依頼には、異常世界の時とは違い、僅かに毒を感じる。

 宝具の瞬間も見せていないし、シャルロットのクラスも明かしていない。

 なのにこんな依頼を強制したのは何故なのか。

 それを解き明かさなければ、クルマ一台壊して済みそうにない嫌な予感がする。

 ──何しろサーヴァント・シャルロット・コルデーには、バヨネットナイフと言う武装はあっても、戦闘技能は何一つ無いのだ。

 (かち)で走るラウラから離れ、シャルロットが霊体化のスピードで遥か遠くを先行する。

 その距離は、先刻の警察署から高層ビルほどもあった。

 目標の、サーヴァントの気配が帯同する自動車を見つけたと、シャルロットが思念でラウラに報じた。

 

──とにかく、エンジンぶっ潰したらすぐに逃げなよ!

──えんじんってなんですか?

 

 そうして突撃した自動車のボンネットを、シャルロットが叩き潰した。

 燃焼するガスの嫌な臭いを察知したシャルロットは、すぐに車から飛び退いて霊体化して離れた。

 自動車が爆発した。

 火達磨になって黒煙を吹き出す自動車の残骸が、力無く前進を続けて、やがて道端のコンクリート塊にぶつかって止まる。

 接触の瞬間にシャルロットは車内の様子を目撃していた。

 乗員は三人。

 奇妙な事に、全員が同じ顔をしていた。

 先に白髪のサーヴァントと傷跡だらけのサーヴァントと出会っていたため、また分身かと疑ったが、彼らは人間。すなわち三つ子のようだった。

 もっとも、"子"と呼ぶにはいささか歳を取っているようだが。

 日本人の顔貌に馴染みは無いが、二十代は超えているように見受けられた。

 ──さて、その乗員達が自動車を破壊されてどうなったか。

 霊体化して遠く離脱した上空から見下ろすシャルロットには、サーヴァントの卓越した動体視力で、爆発の直前に乗員の三つ子三人ともが、まるで手品のように迅速に車外に飛び出したのが見えていた。

 ──そして、随伴しているサーヴァントの気配も依然健在──

 

「Hugh! 大胆なコトしてくれんじゃん!」

 

 見れば、三つ子の男たちの姿は、燃える車から数メートル離れた路上に、道路の傍らの敷地に、そこの建材の山の上にとそれぞれあった。

 あの一瞬であれ程の距離を跳べるのは、生身の人間では有り得ない、尋常の無さを感じさせる。

 ──つまり、そういう人間離れした生業の人種も存在すると、ラウラが以前に語っていた。

 ともあれシャルロットは、霊体化したまま迅速に飛び去る事にした。

 如何に人間離れしようとも、人間に霊体化したサーヴァントは視えないし、人間の身ではサーヴァントには及ばない──

 

「キャスター! アイツを殺せ!」

 

 今や遥か遠くから、そんな声が聞こえた。

 彼らに帯同していたサーヴァントの気配が、瞬く間にシャルロットに迫ってきた。

 シャルロットの傍に着くや、すぐさま虚空で実体化したそのサーヴァントは、浅葱色の日本衣装を纏い、長い白髪を後頭部で結い上げ、日本刀を振り翳して、先ほど会ったばかりの精悍な顔を苦渋に歪めて霊体化しているシャルロットを睨みつけていた。

 

──えぇっ⁉︎ あなたは──

「逃げろっ!」

 

 実体化した白髪のサムライのサーヴァントが、退避を叫びながら刀を振りおろした。

 

 

────◆

 

「──アイツまだ反抗する余力あるじゃん」

「だからって命令無視はできねえだろ」

「どうせ殺し合うのに何やってんだか」

 

 破壊されたセダンから脱出した甲斐(かい)が、(しゅう)が、照夫(てるお)が、遠くの空きテナント施設に飛び込んでいくサーヴァントらを見送ってめいめい嘲笑を零した。

 

「ま、それよりも、だ」

 

 三人が同時に動いた。

 それぞれが跳躍し、道路脇の建築資材置き場の敷地の中央に着地して集合する。

 両手に取り出した小さな紙片を、素早く両の手首のブレスレットに滑らせると、たちまちブレスレットが膨らむように展開変形して金属メッシュ状のグローブとなって両手を包み込んだ。

 ──これぞ聖堂教会謹製、代行者用汎用概念武装「灰錠」。

 これらは特に、三人専用に特注で(あつら)えた装備である。

 三人はその灰錠グローブで覆われた両手の五指を組み握り合わせると、素早く手放して踊るように両腕を振り切った。

 たちまちその両手から大量の大きなシャボン玉が飛び出して、三人を囲むように広く展開すると、その場で滞空した。──三人を取り囲む、シャボン玉が集合して形成したドームのようだ。

 ──メッシュ状のグローブには専用の薬液が含み込まれており、握った指を開く動作で泡を生む。

 それらのシャボン玉は非常に透明度が低く──と言うよりも、表面が半透明の鏡のように周囲の光景を良く写し返していた。

 

「俺らを足止めしたって事は、」

「俺らに用事があるってこったろ」

「サーヴァントに用事があるならサーヴァントを直接殴るだろうしな」

 

 めいめいが薄笑いを浮かべたまま棒立ちしていると、一方のシャボン玉が三つ、立て続けに割れた。

 どこか遠くからの投射物が激突したようだった。

 そしてこのシャボン玉には魔力が通されており、術者に接触したものの情報を伝える。

 

「オイオイ、今どき()()だってよ」

「師匠と冴木以外で使ってんの初めて見たな」

「……師匠はいつもどうやって持ち歩いてんだろうな。夏でもじゃかぽこ出てくるけどよアレ」

 

 いま飛来してきたのは、聖堂教会の"異端"討伐の代行者のうち、一部の玄人などが持つ旧式装備「黒鍵」の投擲形態のようだった。

 「黒鍵」も、神秘と言う名の魔力を通した概念武装。

 それが、三人のシャボン玉を二個も貫通して、三つめのシャボン液でようやく全溶解して消滅した。

 ──このシャボン玉は、触れたものを区別無く溶融する特性を持つ。

 

「……で。何処のどいつだよ俺らに逆らうアホは」

「しかも、俺らが誰だか分かってて逆らうアホだ」

「冴木のむっつりメガネかぁ? いやまさかなあ」

 

 薄笑いのまま、黒鍵が飛来した方角を眺め遣って嘲弄するが、無人の町の景色に反応は無い。

 突如、虚空を紫電が(ほとばし)った。

 三人の周囲を、無数のシャボンごと取り囲むほど広範に渡って紫電が弾けて這い回り。

 一帯を、紅蓮の爆炎が殺到した。

 

 

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