宿儺様は現代を満喫したい 作:呪術大好き
両面宿儺。呪術界でその名を知らぬ者は居ない。
呪術全盛の時代、当時の術師が総力を以て挑むも敗北したという史上最強の術師にして呪いの王。
死後、その指は死蝋と化し封印され二十の指は散逸。現代最強の術師である五条 悟ですら破壊不可能の特級呪物となっている。
そして、時は2018年。両面宿儺は思わぬ形で復活を遂げた。
校内への魔除けとして置かれていた宿儺の指の封印を解いてしまい呪霊に襲われた高校生、虎杖 悠仁が呪力を得る為にその指を飲み込んでしまったのだ。
並の人間では耐えられぬ毒性を持つ指に虎杖の肉体は適応。両面宿儺はこれより顕現する────が、その前に。
「……ん? なんだここ……?」
「貴様か、宿儺の眠りを覚ましたのは」
「えっ?」
虎杖 悠仁は目を覚ます。足の冷たい感触を見下ろすと、そこは水面。反射する肋骨と背骨のような奇妙な天井が目を引いた。そして、後ろから声が掛かると彼は振り向く。
「よう」
「お……俺? いや違う……」
幾多の骸の上に座り込む自分と同じ顔の男性がこちらを見下ろしている。彼こそが両面宿儺。そしてここは虎杖の中に形成された宿儺の生得領域である。
同じ顔をしているが、自分とは明らかに何かが違う。自身の中に入り込んだもう一つの魂がある。この時虎杖 悠仁は無意識に己の魂の形を知覚した。
「そう険しい顔をするな。折角の受肉だ、挨拶でもと思ってな」
「じゅにく……? あんた、誰?」
「宿儺の名は両面宿儺。小僧、今お前が飲んだ指の持ち主だ」
「あー……俺、虎杖 悠仁! よろしく宿儺! ……っていうか、一人称宿儺なの?」
「……お前宿儺の事を知らんのか?」
「知らね」
「はぁ……」
納得した後に元気に挨拶と少しの問答をする虎杖に、宿儺は呆れた顔をする。どうやらこの子供は呪術に関する事を何も知らないようだ。
「小僧……活きが良いのは好きだが、今どういう事柄になっているかわかっているのか?」
「えーと……呪霊って怪物に襲われて、伏黒に助けられて……呪力っていうのをゲットしようとして、咄嗟に持ってた指を飲んだ……とこまでは覚えたんだけど、ここ何処?」
「ここは宿儺の生得領域……魂の中とでも思えばいい。外がどうなっているかは粗方理解した。だが……」
虎杖が話した内容で把握はしたが、宿儺にとっては骨が折れるなという苦労を感じさせる内容だった。伏黒という者は恐らく術師だろう。自分が受肉した所を見られればこの少年が祓われてしまう恐れがある。
「おい小僧、宿儺としては手を貸してやるのは構わん。だがそのままだと宿儺は小僧ごと殺されるかもしれん」
「えっ、マジで!? ど、どうすりゃ……」
「慌てるな。宿儺が受肉しても、小僧が安全という事を示せればよい。縛りを結ぶぞ」
縛り。呪術におけるソレは術式の威力を高める事や互いの間で結ばれる絶対のルール。もし縛りを破ればどんな事が起きるかは、呪いの王である宿儺ですら予想がつかない。
「縛り?」
「簡単に言えば小僧と宿儺の間の約束事だ。コレを破ると悪い事が起きる」
「約束……どんな?」
「そうだな……ふむ……」
顎に指を置き宿儺は考える。ようやく千年以上に渡る暇潰しの時間が終わりそうだったので、どうせなら現代の文化を楽しみたい。
そして何より、宿儺は昔から食べる事に目が無い。長い時を得て磨かれたであろう現代の食文化への探究心が早速芽生えていた。
「小僧、宿儺からの条件はこうだ。宿儺が"契闊"と唱えた時、小僧の身体を一分間自由に使わせて欲しい。もちろんその間に他人を傷付けたり術式を振るったりはしない」
「あー……まあ"いい"ぜ、俺は何したらいい?」
「小僧は……そうだな……宿儺に何か願いはあるか?」
「えーっと……いきなり願いって言われてもなあ……」
「何でもいいぞ、宿儺が叶えられる事なら聞いてやる」
「じゃあ……人が危ない時、助けに出てきてくれたりとかってできる?」
「他人を助けろか、"良い"ぞ」
こうして、史上最強の術師と一人の少年の間で縛りが結ばれた。その瞬間、虎杖の意識は闇に落ちていく。
「おっと、眠ったか。さて……少し楽しませてもらおうか」
その場に倒れる虎杖を抱え、骸の山に彼を寝かせると宿儺は一時的に肉体の主導権を奪い────
2018年 6月。宮城県仙台市杉沢第三高校にて特級呪物「両面宿儺の指」受肉。
受肉者「虎杖悠仁」の秘匿死刑決定。当人が両面宿儺の指を全て集める迄を猶予とする。
これは、現代を満喫したい呪いの王の物語。
羂索くんの計画はもうめちゃくちゃ