宿儺様は現代を満喫したい 作:呪術大好き
東京都立呪術高等専門学校。
京都校と合わせて二校しかない呪術教育機関のうちの一校。五条 悟や七海 建人など多くの呪術師を輩出しており、任務の斡旋やサポートも受け持っている呪術界の要である。
本日の用事はその呪術高専学長である夜蛾 正道との面談。五条に連れられやって来た虎杖は、本当に東京なのかと周囲の景色を見回す。
山の自然が広がっているが、東京の郊外は案外こんなものだと五条は付け加えた。
「五条 悟、といったか」
「うわっ、ビックリした! お前そこから喋れんの!?」
「やろうと思ったらなんか出来たぞ」
「愉快な体になったねぇ〜、んで何?」
受肉した際に第三、第四の目として開いていた場所の片方が開き、虎杖の頬に口が生えるとそこから宿儺の声がする。ジロジロと眺める五条に目を合わせ宿儺は喋る。
「そのガクチョウとやらはお前より偉いのか?」
「まあね。僕が学生だった頃から先生やってた人だし」
「力が序列の時代ではなくなったのだな」
「両面宿儺には少し退屈かな?」
「いや、良い。強いだけの奴が頭をやっても務まらんだろう」
ついていけない範囲の事を話している五条と宿儺の会話を聞いていた虎杖だが、唐突に五条の方へ視線を移し口を開く。
「そういえば、コイツ有名なの? 俺ちょっとしか話せてないからわかんないけど」
「そりゃあもう」
虎杖の質問に対し、五条は軽く説明する。両面宿儺とはどういう存在なのか。
二つの顔と四本の腕を持つ仮想の鬼神とされていたが、その実は実在した術師であり、呪術全盛の時代の術師が総力をあげ挑み敗れたとされる紛うことなき呪いの王。
しかし、その解説の途中に宿儺は不服そうに口を開いた。
「別に宿儺としては戦うつもりなど無かったのだがな」
「そーなん?」
「うむ。宿儺の事を呪霊と勘違いした京の術師に攻撃されてな、軽く捻ってやろうと思っていたら加減を間違えて殺してしまったのだ」
「戦争って小さいことから起きるもんだねぇ」
宿儺は当時の状況を語り始める。宿儺はとある田舎の村で守護神として祀り上げられ暮らしていた。畑や人を呪霊の被害から守り、対価として村の食物を食らっていたという。
「裏梅と一緒に謝りに行ったのだが、却って怒らせてしまったようでな。村に攻め込まれ迎え撃つしか無かった」
「裏梅って?」
「宿儺に仕えていた術師だ。ご飯を作るのが上手い奴でな、術式も食物の保存に向いていたから共に来いと誘った」
「へぇー、両面宿儺に友達がいたとはね」
「ともだち?」
「一緒に居て気分の良いヤツってこと」
五条の説明に対し「確かにそう考えると裏梅は友達だったな」と納得する宿儺。千年前の友人との思い出に感傷に浸りつつも、学長室へと着く。
夜蛾の面談の内容は簡潔でありながら深いものだった。虎杖に対し「呪術高専に何をしに来たのか」を問い、呪いを学び呪いを祓った先に何を求めるのかを問う。
虎杖にとっての戦う理由は主に二つ。自らの死刑までの猶予期間の目的の「宿儺の指を回収するため」と「祖父の遺した言葉に従い人を助けるため」。
夜蛾はその答えに「他人の指図で呪いに立ち向かうのか」と憤り、自らの術式で操る呪骸で攻撃を仕掛けながら納得のいく答えを引き出すべく問い続ける。
「君は自分が呪いに殺された時も、そうやって祖父のせいにするのか」
呪骸の攻撃を受け続けながらも、虎杖は考える。自分はなぜ戦うのか。何のために戦うのか。
(運動も喧嘩も昔から人一倍できた。でもソレを一度だって「俺にしかできない」って思ったことはない)
あの時、呪霊に挑んだのは。
正しく死ねた祖父と違い、呪霊に殺されるのは「間違った死」だと感じたから。
あの時、宿儺の指を食べたのは。
呪力を扱えない自分が呪いを倒すために、呪力の籠った指を使う必要があったから。
あの時、宿儺と縛りを結んだのは。
人を助けるために、宿儺の力を借りたかったから。
なら、自分にしか出来ない事は何なのか。その答えを、少しずつ虎杖 悠仁の脳は導いていく。
「……「宿儺を食う」。それは俺にしかできないんだ」
呪骸の拳を躱し、抱きかかえるようにその場に抑え込む。
「死刑から逃げられたとして、この使命からも逃げたらさ。飯食って風呂入って漫画読んで……ふと気持ちが途切れた時に「ああ今呪いのせいで人が死んでるかも」って凹んで」
問答の間、黙っていた宿儺が静かに目を開く。この少年の答えを一字一句聞き逃さないように。
「それを「俺のせいじゃねぇ」「関係ねぇ」って自分に言い聞かせるのか? そんなのゴメンだね」
サングラスの奥から、目隠しの奥から両者の視線が虎杖を見つめる。この少年がどんな道を歩くのかという期待を込めて。
「自分が死ぬ時の事は分からんけど、生き様で後悔はしたくない!」
虎杖 悠仁 呪術高専入学面談 合格。
「生き様で後悔はしたくない、か。良い答えだったな小僧」
「そう?」
各セキュリティや寮の部屋へと案内された虎杖は、明日の予定や
「実に良い。宿儺は小僧を気に入ったぞ」
「そんなベタ褒めされると照れるな〜。そこまで良いこと言った俺?」
「……小僧の答えは、宿儺の生き方とも似ていた。故に宿儺は気に入ったのだ」
己の快か不快かで生きていた宿儺だが、その生き方を後悔した事は無い。自分がどんな道を選んだとしても、それは己が選び生きた証として受け入れていた。
照れ臭くなった虎杖は体を起こし、段ボールの中に入れていた米入りのタッパーとふりかけを取り出す。
「小僧、それは何だ?」
「今夜の晩飯。余ってるから食べようと思ってさ」
「……その透けた箱に入っているのはお米だと分かるが、袋のヤツは?」
「ふりかけ。米にかけて食べるんだよ」
「お米に……かける……?」
持ってきておいた電子レンジで米を加熱し、机に置くと蓋を開く。
「おお……お米が温まっている……! あの箱か!」
「レンジな。んじゃいただきまーす」
箸を持ち手を合わせる虎杖。小袋に入った鮭のふりかけを米にふりかけると、宿儺が口を開いた。
「なるほど、そうやって食うのか……」
「そ。千年前だとこんなの無いもんな───」
「契闊」
その言葉を唱えた瞬間、虎杖の体に紋様が浮かび上がり、頬の口が消えると同時に二つの目が開く。これより一分間、宿儺は人を傷付ける行為も術式を扱うことも出来ないが自由に虎杖の体を動かすことが出来る。
「さて……楽しませてもらうぞ。フリカケとやら」
立ち上る湯気が米の上にふりかけられた鮭の香りを宿儺の鼻へと運び、それを目一杯吸い、息を吐く。凝縮された芳醇な鮭の香味を味わい、そして米を一口分掴みゆっくりと口へ運ぶ。
この時点で十秒が経過している。
「……! これは……!」
しっかりと二十回噛みしめてから飲み込むと、宿儺は四つの瞳を大きく見開く。
宿儺の居た千年前。住んでいた村は海も川も遠かった故に魚は貴重なものだった。それこそ、凍らせて鮮度を保てる裏梅が現れるまで宿儺自身もまともに食べたことが無かった。
「噛みしめる度に鮭の旨味がお米の甘味と交じり合い、新たな調和を生み出している……!! 良い、実に良い!!」
椅子から立ち上がり背筋を反らして耳まで届きそうなほどに大きく口端を歪めて笑う宿儺。
受肉した時のように高笑いを挙げたくなったが、
二口、三口と口へ運びたくなったが宿儺は抑え椅子に座り込む。
この時点で一分が経過し、宿儺は主導権を虎杖へ譲渡した。
「……おっ? 今のが契闊かぁ……宿儺が何してたのか覚えてないしビビるな」
宿儺がこの縛りを一分と定めたのは、理由がある。
「なあ宿儺、何してたんだ? ……なあって、おい?」
料理の最初の一口。この瞬間と味を掻っ攫い、次の出番まで何度も心の中で反芻して味わうためである。
故に、虎杖が何度呼びかけようとも宿儺が次の日まで出てくることは無かった。
「……あー!! 一番ふりかけてた部分無ぇし!!!」
両面宿儺 鮭のふりかけご飯、
まさみち「両面宿儺大人しかったな」
最強「ねー」