【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
山路は鬱蒼と生い茂る木々が影となる。冬の山道は只でさえ冷える中、木陰の気温は更に冷たい。
空には雲が無く頭上にはどこまでも広い蒼穹が広がる。
峠の空気は空に輝く太陽とは裏腹にあまりにも冷たく、呼吸のたびに白い息が吐き出される。
今まで過ごしたホウエン地方と比べるとあまりにも過酷な環境である。
木陰の奥からは野生のポケモンの鳴き声、足音が聞こえてくる。
「ぐへへ、こんな人のいない峠をお嬢ちゃん一人とは関心しないなぁ」
そんなポケモンの音に混じって、人間の声が聞こえた。
木々の合間から小汚い中年の男が姿を表す。その男を警戒し足を止めているといつの間にか後ろにも似たような男が立っていた。
お嬢さんと呼ばれた者は身長は160cmもいかない程で、体は全体的に凹凸のない平坦な感じであった。
髪の毛は肩までの長さでありツーサイドアップに纏めており、太陽によって透き通るような茶色の髪が風にたなびく。
その目鼻立ちは少女らしさというよりは美少年の類のそれであり、女子だけの学校に通えば王子様と呼ばれるような顔である。
「いやぁ、たしかに命の意味を考えたくて旅に出たけどさぁ……こういうのを望んでたわけじゃないんだよ」
頭をかきながら、腰のモンスターボールに手をやる。
「おじさんたちさ、若い女の子が護衛も無しにこんな所歩いてると思う?」
言いながらモンスターボールを投げる。
「ちょいとお願いね、オリオール」
ボールの中から現れたのは蛇のようなフォルムのポケモンだった。
虹色の鱗は冬の太陽に照らされ、その反射光はとぐろを巻くそのポケモンの形状から発せられる光のヴェールのように辺りを色づける。
まさにオーリオールの名のごとく光輪を宿したポケモン、ミロカロスであった。
「やりすぎないようにやっちゃって」
「相変わらず難しい注文だよね……ま、あんまり期待しないで」
「んもう、そんなこと言ってちゃんとやってくれるんでしょ、ありがとっ」
目の前の蛮族のような中年がそのやり取りを見て吹き出す。
「お嬢ちゃんどうしたんだ?今からヤられると分かって頭がおかしくなったか?いきなりポケモンとままごとなんて始めちゃって」
「それともポケモンとおしゃべりできる電波ちゃんですかねぇ」
後ろからも茶々を入れられる。
(ん、あぁそっか。ポケモンの声がなんとなく聞こえるのは特異体質だった。久しぶりに人と話すから忘れていたよ)
「んじゃまぁ……電波ちゃんってことで。んでおじちゃんたちどうするよ。人間じゃポケモンに敵わないでしょ?いま逃げるなら見逃してあげるよ」
女は本心からそう言っているようだが、二人の中年の下卑た笑い声はより一層大きくなる。
「おいおいお嬢ちゃん~、こんなところで今日日(きょうび)山賊家業なんかしてるんだぜ。俺たちだってポケモンの一匹くらい持ってるさ」
言うなり前後の中年はそれぞれグラエナとゴルバットを繰り出す。
「そのポケモンがどれほどのもんかは知らねぇけど、2対1ならどうってことはねぇ!ここで降参してくれりゃあそのポケモンは痛い目には合わせないぜ。ま、お前の体は楽しませてもらうけどな」
「え?待ってくれるの?ありがとっ。んじゃあ……もう一匹出させてもらうよ」
二匹のポケモンを同時に戦闘させるというのは至難の技でありトレーナーの中でも極々僅かな者しかできない。ダブルバトルは大体においては二名のトレーナーがタッグを組んで行う。ホウエンのジムトレーナーにおいてもダブルバトルは二人のジムトレーナーが担当していた。ジムトレーナーレベルですら二匹を同時に司令を出す事はできないのである。
故に男たちはこの少女のポケモンは同時に一匹であると思いこんでいた。
「だけど、私はできるんだよね。ホウエンでさ、ずっと追っかけてた子がね、やってたの、二匹同時司令。だから見様見真似で覚えちゃった」
言いながら腰につけていたもう一つのモンスターボールを投げる。
中から現れたのはワカシャモ。ホウエンでは珍しくはあるがそれなりに見るポケモンである。
「頼んだよ、プラージュ!」
流石に二匹同時にポケモンを繰り出した事に驚きを禁じ得ない中年たちは、それでも虚勢を張ることをやめない。
「へ、へへへ。多少抵抗してくれたほうが盛り上がるってもんだ、それにな、落ちぶれたとは言え俺たちはシンオウのトレーナー!ポケモンも死を恐れねぇ!死は終わりじゃねぇ、救済だ!行くぞ」
死を恐れない。その言葉を聞き少女の目がスッと細くなる。
(これは次の目的地が決まるかもね)