【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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6秒
対峙したズガイドスはにしまつやを睨みつける。
その行為はにしまつやを倒すべき敵と判断したからであり、その視線には相手を畏怖させる力を持っていた。
一瞬を奪い合う勝負の中で相手を睨みつけるこの行動は、果たしてバトル初心者からしたら時間の無駄だろうがその行為には多大な意味がある。
畏怖に刈り取られたポケモンは攻撃に対する防御が一手遅れることとなる。
一体どれほどの火力を持つかわからない攻撃を、更にガードが遅れることでより深刻な威力へと高める。この睨みつけという行為は命にも関わる行動なのである。
しかし、ズガイドスにとってはそれほどまでに今、目の前に対峙した相手が危険極まりない存在であると判断した。一撃で決めないとこちらがやられる。
だから、たとえ相手の命を砕くことになろうとも決して引くことの無い不退転の決意とも言える睨みつけ。
にしまつやからこぼれ落ちた粉がライトに反射し、観戦者から見ればその光景は煌めく戦場に佇む二匹として美しく見えていた。
7秒
ズガイドスは頭突きに絶対の信頼を持っていた。今までこれで砕けなかった敵は居ない。
まして今は相手のガードが一瞬遅れる状態を作り出した。
今、技を繰り出せば確実に勝てるという確信があった。大きく息を吸い込み全身に力を入れる。
だが、彼の体は動かなかった。攻撃前の精神集中。相手の命を刈り取ることへの躊躇。相手の行動を確実に見据えてからの後の先。
どれでもない。
ただ単純に体が痺れていた。
ズガイドスは不思議だった。なぜこのタイミングで自分の体が痺れて動かないのか。
ウォーミングアップは十分行った。筋肉は温まっている。貯めすら必要とせず、瞬時に打ち込めるはずだった。
だが、足が痺れて動かない。全身を駆け巡る血が筋肉を硬直させているようだった。
対してにしまつやはビクンというズガイドスの動きを予測の範疇の1つに入れていたのか、その様子を見て広角を上げる。
(しびれごな、保険として撒いたが効果はあったみたいだね。)
にしまつやは両手から蔦を伸ばしズガイドスを絡め取る。
先程イワークに見せた技、メガドレインを今一度放とうとしていた。
8秒
にしまつやとズガイドスの間にピンと張った蔦が伸びる。
その蔦からはズガイドスに絡みつき生命力を汲み上げていく。
ここまで技が決まるともはやこのままの状態ではズガイドスは頭突きを放つことはできない。
このまま突っ込んだとしても蔦で突進方向制御され目標に向かい突っ込むことはできない。
何よりも蔦は常に体力をすいとる為、突進のための力がみるみる間に吸い取られる。
突進の為に進化し続けたズガイドスの手は細かい作業をすることはできず、蔦の絡みを解くことも難しくただ弱々しく蔦に手を添えることしかできない。
にしまつやの宣言通りの10秒まであと2秒ではあったが、2秒もあればズガイドスの生命力の全てを吸い付くし死に至らしめることができるという確信。それはにしまつやだけでなく、その場に居たもの全てが感じ取った。
そんな見るものが見れば殺戮ショーの始まりの中、ズガイドスに駆け寄る影があった。
ヘルメットをかぶった青年。ズガイドスのトレーナー、ヒョウタである。
9秒
ヒョウタの右手にはキズぐすりが握られていた。
このまま回復されたら吸い取る量よりも回復量が増すと判断したにしまつやは、更にもう一本の蔦を絡めようと体から伸ばそうとする。が、蔦が懐に入れていたモモンのペンダントに引っかかった。
ヒョウタはズガイドスのもとまでたどり着くと左手で蔦の接触部分を外しながら即座にキズぐすりによる処置を行う。
戦闘中におけるポケモンの治療は反則行為ではない。
だがポケモンの拘束状態などを人間が解除することに関しては反則となる。が、それは便宜上記載されているだけのルールだった。そんな事をしようとする人間がいるはずが無かったからである。
実際今ヒョウタもメガドレイン中の蔦を握ることにより、ヒョウタ自身の生命力が吸い取られている。
人間はポケモンと比べると随分と弱い。単純な腕力という点で言えばたとえそれが幼体期のポケモンであろうとも人間の力の何倍もの強さがある。
そんな中に飛び込むのは、自らの命を捨て去るほどの覚悟が必要となる。
それを1秒と考えること無くヒョウタは今、死地へと飛び込んだ。
「嫌だ!君が死ぬのだけは嫌なんだ!」
10秒
ズガイドスを守るヒョウタの姿とモモンのペンダントは、にしまつやに在りし日を思い出させていた。
昔日の母の言葉。あなたをずっと見ている。
このままギガドレインを解除しなければズガイドスの命を終わらせることができる、その蔦はほどかれた。
「どうした。トドメを……刺しなよ。僕は君たちの仲間を何匹も死なせた。君は僕を殺す権利がある」
「ヤ・ダ・ネ。私ぁ逆張りおっさんトレーナーのポケモンだぜ。言われたらNOとしか返さないよ。それに10秒経った。勝負は私の負けだ。試合の勝ちだけ貰っとくよ」
にしまつやは踵を返し、仲間たちの元へ歩いていく。
みゆき、パパスとハイタッチを交わし、今の自分にも家族がいるということを実感した。
無事コールバッジを手に入れたゆるすぎは嬉しさのあまりにしまつやの絵を描きプレゼントしていた。
絵には日差しを受けながら座るにしまつやが描かれていた。そんな絵を鑑賞しながら、後ろからみゆきとパパスが覗き込む。
「へぇ、ゆるちゃん結構絵が上手いんだな」
「どれどれ、ホントじゃん、上手くかけてる。ところでこのLOVE&PIECEってどんな意味なんだろうな?PEACEだったら愛と平和ってことなんだろうけど」
「そりゃあおめえ愛の一欠片ってことだろう。ほら、愛ってのは独りだけじゃ完成しないだろ。愛でるものと愛でられるもの、二つ揃って愛なんだよ。その片側の1つの欠片ってことだ」
「なるほどねぇ……でもゆるちゃんだからただのスペルミスなんじゃないかって疑っちゃうよね」
3匹の笑い声が辺りに響き渡った。