【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】   作:null cedar

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外伝

私の体は四脚の椅子に縛られていた。

両足は椅子の足と一緒に、両手は背もたれと一緒に縄できつく縛られていた。

監禁されている部屋はさほど広くはなく、さまざまな道具やモニタ、PCなどが放置され何かの倉庫のような印象を受ける。

何かの……というか谷間の発電所の物置部屋だ。

 

遡る事数時間前、谷間の発電所付近で手持ちのポケモンと一緒に昼寝をしていた。

私だけが先に起きて、ちょっと川に水を汲みに行った。この行動がまずかった。

ものの見事に私はクソダサ銀色コスチュームのギンガ団の団員及びそのポケモンに囲まれておりました。

ポケモンはニャルマーなどのそこまで強くないやつだったから、私のワカシャモとミロカロス、つまりプラージュとオリオールなら敵でもなかったのだが。

完全にミスである。

というわけで彼らの指示に従ってここ、谷間の発電所のどこかに幽閉されてしまったというわけだ。

どこか、というのは発電所に入ってからは目隠しをされ、担がれた状態だったのでろくに建屋内の構造を知ることができなかったためである。

 

 

部屋にはドアが一つ。内鍵はかけられないタイプのようで鍵の持ち主のみが自由に施錠をできるようだ。

窓にはカーテンが一つ。

カーテンの開け閉めで光のモールス信号を作り、外にSOSを発信しようと思ったが、この辺りには人が通らない。

ウチのオーリにも少しはモールス信号を教えてはいるが、それもアイウエオだけなのでタスケテすら送れない。

 

カチャリ、と部屋のドアが開く。

ドアから現れたのはギンガ団のスーツを身に着けた男。髪は撫でつけられ、スクエアリムの眼鏡をかけている。

完全に拘束され、ポケモンを持っていない状態の私は今は完全なる弱者だ。

変に刺激して相手を怒らせてしまってはこちらの命が危ない。

さて、どう出るべきか。

 

「居心地はどうかね、お嬢さん」

見た目通りの慇懃無礼が似合う男のようだ。腰に着けているモンスターボールの数は二つ、そのうちの一つは使用中。

つまりポケモンが放たれている状態、ということだ。

この状況であればどこかで門番でもやらせているのだろう。しかし、トレーナーの指示が届かない範囲でポケモンを展開することに意味があるのだろうか。

 

「今までに無いスリリングな体験ね。クセになりそう」

「そうか、それは良かった。今後、君は半永久的に幽閉状態となるのだから気にいってもらえて良かったよ」

「遠慮しとくわ。絶叫マシーンやらホラーってのはたまにやるから楽しいんだから日常的にはちょっとねぇ、それに」

「それに……なんだね」

「そろそろ私のお迎えが来るはずよ、私にはいざって時にGPS付のタグが」

その言葉を遮るように言葉を重ねられる。

「あぁわざわざ嘘を付かなくても大丈夫だよ、君のポケモンはこの発電所に来てもらうように仕向けてある」

 

私を囮にポケモンを呼び出す。なんでそんなめんどくさい事をしたのだろうか。

ただ少なくとも彼らの目的が私ではなく、オーリかプラージュということはわかる。

私が目的ならわざわざ皆を誘い出す必要は無い。

そして、オーリやプラージュが目的であるにも関わらず真正面からポケモン勝負を挑まなかったということは、力の差が分かっているということだ。

ご明察、私たちのコンビネーションはこの程度の輩が10や20束になったって敵わない。

なんせ、チャンピオンのポケモンの子供なんだから。

では、分断して単独なら勝てると思ったのか?

そこが謎だ。オーリの強さは指示が無くてもレベル40程度のポケモンなら難なく倒してしまうはずだが。

 

「ん、そうか」

ギンガ団の団員はインカムで誰かと話している。

「お嬢さん。お迎えのナイトがいらしたようだ。ご挨拶をして差し上げなさい」

男が手元のリモコンを操作すると部屋の中のモニタが一つ点灯した。

画面の中にはこの発電所のどこかの部屋が映し出されているのだろう。

オーリとプラージュが数多くのギンガ団に囲まれている。

 

「あんたらっ!!」

体中を縛られているのを意に介さず、イスごと男に詰め寄ろうとする。

椅子が床を擦る音、足が蹴る音が部屋に響く。

モニタの中のオーリやプラージュもその音が聞こえたのか、上の方を向いている。

なるほど、どうやらこの映像は録画や捏造などではなくリアルタイムの物らしい。

私は恐らく二階で、その真下にオーリ達がいるのだろう。

ただ、私の声には一切反応しなかったからイスの衝撃音だけは聞こえて私の声は届いていないようだ。

 

「さて、君の手持ちのあの二匹。とても珍しい上に、とても強いね」

「あら、知ってるようね。その通り、私の指示なしでもあの程度の数ならものの数分で片付けちゃうわよ」

「しかし私もポケモントレーナーの端くれ。あなたと勝負させてください。そこで私が勝てばあの二匹の所有権を譲渡して頂きたい」

「断れば?」

「貴女には死んで頂き、ポケモンたちも残念ながら殺処分ですかね。黙らせることは無理でもこの発電所の電力を用いれば二匹程度縊り殺すことなぞわけない」

中指で眼鏡を治しながら、余裕の笑みを浮かべている。

なるほど、はじめからこちらに選択の余地は無いわけだ。

 

しかし、気になるのはなぜわざわざポケモン勝負を挑んできたのか。

普通にやれば私が負けるはずがない。

「もちろん五分の勝負をしてもらうわけにはいきません。このモニタ、貴方からは見えない角度とさせてもらいます。つまり、貴方は音声指示だけで戦ってもらいます」

小さなピンマイクが私の首元に着けられる。どうやらこちらからの指示はこのマイクで下に届くようだ。

「トレーナーの端くれ名乗る割には随分狡(こす)いことするじゃない」

「失礼。トレーナーの前に私はギンガ団なのでね。団の為が最優先なのです。勝負は謂わば余興。貴方への慈悲です」

まったくとんだ慈悲だ。音声だけで勝負しろだって?

相手のポケモンも分からなければ技も何を使って来たかも分からない。

そんなの勝てっこないでしょ。

と、普通のトレーナーなら思うだろうが。

こちとらオーリと明確に意思疎通ができていた今までがある。不利ではあるがまだ多少戦いようはある。

 

「分かったわ。その勝負乗った」

「よろしい。聡明な判断で助かります。私のポケモンは既にあなたのミロカロスの前に出していますからさっそく始めましょう」

なるほど、腰のモンスターボールの空き一つはそいつってわけか。

「ところで音声のやり取りってことはこっちの声は向こうに聞こえるようにしてくれるんでしょうね」

「当然です。今しがたあなたのピンマイクを通電しました。貴女の声だけはその部屋に届きます。私の方はこのインカムで私のポケモンに直接指示を出しています」

 

この勝負まとめるとしたらこういったルールだ

・相手のポケモン、技は一切目視することができない

・戦場の音はモニタからは聞こえてこない

・戦闘の指示は私の襟元のピンマイクから出せる

・相手は通常通り戦場を見てインカムで指示を出せる

 

「さぁ始めましょう。良い勝負になることを期待していますよ」

 

 

「オーリ!波乗り!!」

ピンマイクに指示を出す。

相手の出方はどうなのだろうか。今に至るまで指示は一切ない。

ポケモンに任せている?

「ミラーコート」

ポツリ、と呟く。

ゾクリ背中を氷の手でつかまれたような気分になった。

ミラーコートは特殊タイプの技を倍加させ返す技。

これならば確かに格下が使っても勝ち目はある。

 

しかし、これらのカウンター技は構えまでに時間を必要とする。

相手の技を見てから構えては間に合わない。ただこちらの技が直撃するだけだ。

その指示のあと一瞬の間を起き私の足元からゴウと波乗りの際に発生する波の音が聞こえてくる。

オーリの波乗りが発動したのだろう。

その後、私は耳を疑った。

 

その音よりも大きな波音が足元から聞こえてくる。

馬鹿な。

だがその音が示すことは一つ。

アイツのミラーコートが成功した、ということだ。

 

オーリが私の声が急に聞こえて攻撃するまでに一瞬迷ったか?

充分ありうる。私が指示を出して十秒以上してから波乗りの音が聞こえてきた。

だが、それだけでは納得できない。

このギンガ団の男は間違いなく私の指示を聞いてから悠々とミラーコートの指示をした。

通常なら先に、どんなに遅くとも同時に動かない限りカウンターやミラーコートは成功しない。

それを後出しで成功させたのだ。

 

「なるほどね、音声だけでも勝てないから、後出しジャンケンで勝とうってわけね。下衆もここまで来ると見事だわ」

「しかし、貴女はもうこの勝負を降りることはできない。なんせあなたのポケモンは貴女がここに居ることを知ってしまったからね」

確かにあの子は賢いけど、いや、賢いからこそこの状況を理解し、ここはもう逃げることができないと判断しているはずだ。

ならば私が取れる手段は。

考えろ、考えろ、考えろ。

脳にありったけの酸素を送れ、思考を巡らせろ。今の最善手は。私に取れる手は。

「さぁ、諦めて次の手を指示したらどうですか?だが、お気づきの通り私は貴女の指示を聞いてから準備することができる」

「あんたのソーナンス……レベルはどれほどなんだろうね」

男の頬がひきつる。まったく言葉に出していないポケモンの名前を当てられて動揺したようだ。

「そうそう、そういう顔が見たかったのよ」

 

考えてみれば簡単な話だ。相手の手を知ってから後出しジャンケンできるのであればこれ以上に適任なポケモンはいない。

ソーナンスは体力が高い。オーリもまだ戦えるようだが、恐らくもう一撃は耐えられないだろう。

とはいえ恐らくレベル的にはこちらが上。ソーナンス側もオーリの火力を三発も四発も耐えられないだろう。

つまり、カウンターを一度でも失敗させれば勝てるわけだ。とはいえ……

 

「とはいえ、後出しでミラーコート、カウンターを使えるこちら側にどうやって攻撃を当てるつもりですか」

その通りなのだ。

完全に運であれば五割の確率で勝つことができる。だが、今この状況では十割の確率で攻撃手段を読まれる。

いっそオーリに攻撃手段を任せると言う手段もある。

だが、それでは五割の確率で負けてしまう。そしてあの子の事だ。その責任を感じすぎてしまう。

 

そりゃあ……ダメだ、

背負うのは私だけで良い。

いや、待て待て何を負ける前提で話しをしているんだ。

そういえばあるじゃないか、とっておきのサインが。

 

「オーリ!!Aだ!」

私はマイクに向かって叫ぶ。

A、ついこの前私とオーリの間で取り決めたサイン。アクアテールのサイン。

お遊びのつもりだったがこんなところで役にたつとは。

これならば私の責任で五割だ!

男は少し考え

「ぼうぎょ」

と指示を送った。

「一体何のつもりかは知りませんが、ここは様子を見させてもらいましょうか」

 

足元では巨大な衝撃音とそれを弾く音が聞こえた。

どうや今の指示通りオーリはアクアテールを、相手のソーナンスは防御をしたので間違いない。

流石に二回も続けば確定だ。

私の指示は遅れて下に届き、ヤツの指示はリアルタイムで届く。

 

「私の声は録音してたっぷり二十秒後くらいに下に届くってわけね」

「なかなかの推察です。ですがそれが分かったからなんだと言うのですか。状況はより絶望的になったでしょう。

 今のは攻撃のサインかと存じ上げますが、Aがアクアテール。他にサインがあるとしてもあと三種。

 そのうちの一つは波乗り。二匹で旅をしているのであれば補助技は必須でしょうから、残りの攻撃手段はせいぜい特殊技が一つ」

「あんたねぇ~、それだけ頭良いならこんな悪事働いてないでもう少し真っ当な仕事しなさいよ」

 

どん詰まりの中思考は続く。

椅子の足でぎーっと床を擦ったり、足をどんどんと打ち付ける。

「ふふ、焦っているのですか。態度に出ていますよ。そろそろシビレを切らせた君のパートナーが勝手に攻撃をするのではないですか」

「分かってるわよ」

思いっきり男を睨みつける。インテリ野郎きらーい。

「C、Cよオーリ!!」

私の隠れた思惑を……受け取ってくれ。

 

「なるほど、Aは物理技、ならば恐らくBは波乗りなのでしょう。

 そしてこの状況、一拍を取りたい貴女は補助技のサインを出した。

 ならばこの場で私が選ぶ選択肢は……当然アンコールです」

口角を少し上げた。

男はその仕草を見逃さず

「ミラーコート」

とインカムに指示を出した。

 

「ハハハ、どうです。作戦を見破られた気分は。私がその程度の浅知恵を見抜けないわけが」

足元からは何も音がしなかった。

男がモニターを覗きこむ顔は面白いほど怒りに満ちている。

余程思い通りに行かなかったことが気に入らなかったのだろう。

「私の愛するオーリちゃんは『なにもしてない』でしょ」

 

「ど、どういうことだ。今の指示は一体」

「いやぁわざわざ敵に説明してあげる義理なんて無いんだけどね。気分いいからしてあげる。

 サインなんてもんはね、一瞬で指示を伝える必要のある攻撃技にだけありゃいいのよ。

 積み技や回復技は悠長に技名指示する。それが侘び寂びってもんでしょ。

 あぁちなみに今の指示はC、じゃなくて『し~』ってことよ。

 右手で人差し指を口元にやるあのジェスチャーが出来なくて残念」

 

思いっきり挑発してやる。この男は姿や話し方、ここまでの戦い方ややり方を察するに完璧主義の、一種の潔癖症だ。

思い通りいかないのは許せない。そんなタイプの人間。

だから思い切りかき回して、こちらのフィールドで戦ってもらう。

戦いってのは、何が起きるか分からない、そんなカオスの状況で戦うから命が輝くのだ。

それを自分だけ有利な状況で戦おうなんてのは許せない。私だけでなく、命をかけた全ての者たちに。

かつて命を賭して散っていった彼ら彼女らに申し訳ないのだ。

 

しかし、どれだけ言ったところで今のターンではお互いノーダメージ。

攻撃を当てなければ事態は進まない。そして、冷静さを欠いている今。

今こそが最善の時であり、この時を逃せば私たちの勝ちは恐らく皆無となるだろう。

 

意識が遠のきそうになる。まるで世界に私一人のようだ。

次の一手、それですべてが決まる。ここまでで私がやれることは全てやった。

後は全ての点を結んでいくだけだ。が、それが怖い。

かつての、ホウエンで戦った彼らもこんな気持ちだったのか。自分の命を決める一撃。

それを決定するのはこれ程までに孤独で怖いものなのか。

 

暗い、昏い思考の闇が私を覆う。

何も見えない、何も聞こえない。ただ思考のみがそこに存在している。

かつての私の経験が闇の中を一瞬で駆け抜けていく。その中で二匹のポケモンが足を止めた。

ミロカロスとワカシャモ。

あぁ……そうだね。勝とう。皆。

 

ズーー、タッタッ

縛り付けられた椅子でダンスを踊るように動いて見せる。

「余裕のダンスを見せようと思ったけど……流石にこうも縛られてると難しいね」

「そんな事より、早く支持を出したらどうです」

男はイラつきを隠さずに腕組みした指をトントンと打ちつける。

 

「あら、最後の一手だっていうのに焦らせてくれるじゃん。もう少し楽しんだらいいのに

 まぁ良いわ。オーリ!Bよ!B!

 さぁBの中身はなんだろうね。なみのりならミラコやればいいよ。怖いなら防御」

「カウンターだ」

男はインカムへ指示を飛ばした。

私は言葉を切り目を開く。

先ほどまでの軽口をきいていた顔とは打って変わって思考を読まれた顔をしていたのだろう。

男の顔は冷静さを保ちつつにやけが抑えきれないようだ。それがひどく醜く、悪意に満ちている。

 

 

「A」

男が呟く。

「Aなんだろ。今の指示は。正確に言うと今のモールス信号は。

 ひとつ前の行動の時の椅子の動きが不自然だったからな。

 勘付いては居たんだよ。その時の指示はアルファベットのE。

 ポケモンの技は一匹につき4つ。指示を出すならABCDの四つで良いはずだ。

 そこにE、つまり五番目の指示で何もしない。

 なるほど、君はずいぶんの策士だったようだね。口でのCは何の事は無い。ブラフ。何の意味もない」

男は私の方をまっすぐ見つめ説明を続ける。

私の挑発が効いているのか、勝ちを確信したからなのか。随分と口調は荒い。

 

私は足元が冷たくなっていくのを感じた。

男も気づいていたのだ。最初にモニタを見せた際、私の椅子の音が階下のオーリ達に聞こえていたことに。

こちらからタイムラグ無しでオーリに指示を送る手段に。

足の指先から熱がどんどんと奪われていく。このままここに居続けたら足に霜焼けができるのではないかと錯覚するほどに足の体温を感じない。

私の顔は男からはどう見えているだろうか。絶望に打ちひしがれた顔。何も考えられない虚無の顔。

男の解説は続く。

 

「そしてこのターン。君は口でBを指示した。そして足元の椅子からはエイ、つまりAと送られていた。

 Aとは最初のターンで見せたアクアテールの事だ。これは音と行動が一致している数少ない情報だ。

 しかし、君のミロカロスは聡明だ。この指示を聞いてすぐには動かなかった。

 すぐに動けば一度はソーナンスに攻撃を当てることができる。しかし、私はもちろん気づく。

 そうなれば今度はプランB。君を人質にしなければならないからな、私のイメージに傷が付く!」

 

あんたはもう十分そういういけ好かない野郎のイメージよ。

口に出したかったが、もうそういう気分にもなれなかった。

 

「だが、Aと読み切った聡明な私は焦らずここでカウンターを選択。そして見事に」

ちら、とモニタを見やる。

「その顔が見たかった。手前ぇを罵倒してたらタイミングずれちまうからな」

男はこの世の物を見るとは思えない程の驚きを示していた。

驚きのあまり鼻水や涎は垂れ流され、眼鏡はずり落ちている。

 

「さっきの見事にの台詞の続きはこうだろう。見事にオーリの冷凍ビームがソーナンスを撃破した」

 

 

私が幽閉されている部屋のドアが、開くことなく蝶番ごと弾き飛ばされた。

そのドアがあった空間から冷凍ビームが打ち込まれ男の氷像が一つ出来上がることになる。

階下ではプラージュの暴れまわる音が聞こえる。

私が救出されるのが確定し我慢していた鬱憤が爆発したようだ。

 

「サンキューオーリぃ~。助かったよぉ」

「んもう……バカ」

「バカなんて罵倒すんなって、今回はマジでヤバかったんだから」

「ごめん。そばについていればこんな事起きなかったのに」

 

ギュッと、オーリの首元に抱き着く。冷凍ビームを打ったばかりの体は冷たく、そして温かった。

 

 

 

ひとしきり経験値を貰ったオーリとプラージュを連れ、夕暮れ時の道路を三人で歩く。

「でもさ、よく私の思惑に気付いてくれたよね」

「どれの事……?」

「そうよねぇ、今回はいろいろ仕込んだことが多かったね」

それだけ聞いてワカシャモは目を丸くする。

 

「え?そんなにやり取りしてたのか?俺はAのアクアテールしか分からなかったぞ。

 Cっていったい何の指示だったんだ?」

「そんなの知らないよ。Aしか私も知らない。でもマスターの事だからブラフかましてるだろうし、

 ソーナンス相手なら動かなきゃ危険は無いから動かなかった」

「あ、そーなの。あれはね……Cと『し~』をかけたダジャレ」

 

二匹が呆気にとられた表情でこちらを見てくる。

なんだよぉ、苦しい時ほど自分の持ち味を活かすべきじゃん。

 

「そういえばCの指示の前にドンドンギーギーいってたのはなんなんだ?アレも作戦」

「うん、作戦。モールス信号」

「でもマスター。私はアイウエオしか知らないからあのサインは分からなかったよ」

「そ、あれは分からないのが正解。あれは釣り餌だったの。モールスを相手が知ってるかどうかを見る為の試薬。

 知ってたから、あれを聞いた時に反応したから次の作戦を決行することができた。

 アイツはモールス信号知ってて、んで私が隠れてエイの指示を出している事知ってもらう必要があった」

 

「あぁ……なるほど。だから最後の指示が」

オーリは勘付いてくれたようだ。

「え?最後の指示ってなんだ。確かマイクではBって言ってたよな」

「それは全く関係ないわ。さっきも言ったけど私たちの間で決められたサインはAだけ。アクアテールだけなの」

「じゃあなんであの時、れいとうビームなんて出したんだ」

「モールス信号でね、エイって指示が来たの。さっきも言ったけど私はアイウエオなら知ってるからエイなら聞き取れる」

 

プラージュはそれを聞いて納得しそうになった。

しかし、すぐにその言葉の矛盾に気づき頭をかきむしる。

「余計に分け分かんねェ!だってAなんだろ?Aだったらアクアテールじゃねぇか。なんでA=氷なんだよ」

「違うよプラージュ、私が受けた指示はエイ。Aじゃないわ。漢字で書いたら永遠の永。モールス信号がばれていても

 私たちだけにしか決して伝わらない言葉。でもマスター……それって分かりにくすぎ。気づくまで行動出来なかったよ」

「その思考のタイムラグも計算のうちってことで、ね」

 

私のカバンの中から一枚の紙が風に乗り飛んでいく。

かつてゆるすぎが自作していたタイプ相性表の写しだ。

そのタイプ相性表には、本来『氷』と書かれているべき個所に『永』と書かれていた。

 

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