【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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木々が作り出す帳が影を落とす。
隙間から差し込む光はスポットライトのように降り注ぐ。
ハクタイの森のやや奥まった、到底人が訪れるような場所でないひっそりとした場所。
そんな場所には似つかわしくない白いベンチ。そこに座っている。
手には瓶入りのアルコール飲料を持っている。
イアの実を発行させ樽で熟成させたものだ。
隣にはパチリスのぶちょうが居る。
二人で話したかったから他の奴には席を外してもらった。
「飲め」
半ば強引にパチリスにグラスを渡し、イアの実の酒をグラス半分程注ぐ。
本来は人間の指二本分位を入れるのだが、今の俺にはそういう分量を調整するだけの力すら残っていないらしい。
「お前。発電自体はできたよな。それを攻撃に転用できないって……。
分かったんだ。お前は尻尾を地面につける癖があるだろ。あれを……やめろ。
尻尾を、立てるんだ。尻尾が地面についてると、せっかくの電気が全部地面に流れる。
電気をお前の体で蓄えて、それを逃すこと無く、文字通り全て相手にぶつけろ。
それがスパークという技の全貌だ。お前にもできる」
ぶちょうは手に酒を持ったまま、真っ直ぐ前を見ている。
焦点は定まっていない。
遡ること数日前。
その時も俺はぶちょうと話していた。
似たようなオス同士で話が合うのだろう。
「ももはホント強いよな、俺はそのうちクビかもしれねぇなぁ、部長なのに」
「お前はまだいいだろ。貴重な電気ポケモンだぜ」
「そうは言ってもな、肝心の電気で攻撃する技の使い方がわかんねぇからなぁ」
「んなもんそのうち覚えるだろ。その点俺はどこまで行っても同じ水ポケモンだからな。このままじゃ俺はただの穀潰しだからそのうち口減らしされちまうかもな」
「オイオイ演技でも無いこと言うなよ」
「ハッハッハ、その時にはお前たちになにか遺す事にするよ」
「バカ言うな、お前は家族がいるだろ……」
「あんなの……ただの家族ごっこだよ。アイツラが寂しそうだから父親の振りしただけだ」
「そうかねぇ、俺から見たら随分楽しそうだけど。苦楽を共にしてるから、下手な本当の家族より余程……な」
この会話のときも同じ酒を飲んでいた。
そこそこ良い酒なんだからガブガブ飲むなよ、ってボヤいた覚えもある。
遡ること数十分前。
永久の刻が流れると言われるハクタイの森。
そこでゆるすぎはモミと呼ばれる女と共に行動することになった。
モミとモミの連れているラッキーは治癒が得意らしく戦闘の度に傷を治療してくれた。
これなら少々過酷な旅路でも安心であろうと誰もが安心、慢心していた。
その森の中で虫取り少年のヨウタとミニスカートのカナコというトレーナーが勝負を挑んできた。
そのカナコがぶちょうと同じ種、つまりパチリスを繰り出してきた。
電気タイプだから俺は出番がないと思っていたのだが、その思いに反して俺のボールが投げられた。
仲間の誰もが驚いていただろう。
俺も、青天の霹靂だった。
だが、ももつむりだけは驚きではなく、申し訳無さそうな顔をしていた。
俺も、同じ水ポケモンだからある程度は分かっていた。
俺はアイツには敵わない。アイツは俺の上位互換だ。アイツがいれば俺は必要ない。
ならこのパーティに俺の必要性は無いのだろう。
だが人道的に、ポケモンを捨てることは後ろ指をさされる。
一番丸く収めるには……バトル中の不幸な事故だ。
リング禍であれば同情すらしてもらえる。
数日前、ぶちょうと話していたことを思い出していた。
口減らし。
真実は分からないが、だが事実として俺は今死の目の前に居るということだ。
目の前のパチリスは帯電を始めている。
つまりこのパチリスは、電気技を使えるってことか。
そういえば、ぶちょうは電気技を覚えていないことを気にしてたな。
「ぶちょうに遺してやるって言っちまったからなぁ」
今日は特に頭痛が酷い。頭をガリガリとかく手の力もいつもよりも強い。
俺がこの技の全貌を明らかにしてやるからよ、お前も使えるようになれよ!
パチリスは帯電を維持したままこちらに向け体当たりをしてきた。
避けようかと思ったが、どうやら俺の中の電子がアイツに引っ張られているようで上手く体が動かない。
なるほど、道理でこんな隙だらけの技なのに誰も彼もが当たるわけだ。
一瞬で意識が飛んだ。
もう目覚めることも無いかと思ったが、モミとラッキーが迅速に処置をしたおかげで目が覚めた。
だが、体が重たかった。
自分の体がまるで自分のものではなく、何かの抜け殻に入っているかのようだった。
自分の中の臓器の動きが、あからさまにいつもと違う。
ラッキーの説明によるとポケモンセンターの回復サービスで使われる薬をかなりの高濃度で使われたらしい。
薬はポケモンの新陳代謝を強制的に引き起こし傷を治す。
そのためポケモンセンターでの回復は「老い」を引き起こすと言われている。
それをかなりの高濃度で打ち込まれたらしい。
つまり、今の俺は体は完治しているが中身は老衰前の老人のようだ。
「俺は……あとどれくらい持つ」
「ごめんなさい……あと……1時間程……」
ラッキーは心底申し訳無さそうに言う。
「何を謝る。最後に時間をくれたんだ。感謝しか無い」
俺は捨てられていたベンチと酒瓶を持ち、森の奥に進んだ。
ぶちょうにだけ来てもらった。
ベンチを木漏れ日が差し込んでいる所に投げる。
ガラン、と音をたて雑に設置されたベンチに二人は座る。
そして今に至る。
「俺には使えない技だからよ。お前に遺すことにした、任せたぞぶちょう」
「随分と、くそ重てぇ遺産だな。……なぁ、アイツラに遺す言葉は……無いのか」
「アイツラ?」
「みゆきとにしまつやだよ」
「……ホントの家族じゃないんだ、俺に縛られても……な。忘れてもらえる方が良い」
「本当に、良いのか」
「…………」
スルリ、と手から酒瓶が滑り落ちる。
老化の速度は俺に最後の一杯を飲ませることすら許さないようだ。
空が高い。こんな日に逝ったら、迷ってしまうかもしれないな。
そんな事を考えていた。
強制的な新陳代謝は終わりの時を知らせ始める。
酷く寒い。
もはや心音はあるかないかの動きしかしていない。血が流れないとこれほどに寒いのか。
霞む目を前方に向けると、みゆきとにしまつやがはっきりと見えた。
どうやら脳が最後に見せようとしたのはアイツラらしい。
「おとうさん」
俺の脳内が作り出した幻影が語りかける。
勘弁してくれ。家族ごっこだったんだ。
最後くらい静かに逝かせてくれ。
幻影は俺に駆け寄り、俺の、もはや魂と切り離れそうな肉体を抱きしめてくれた。
「おとうさん!私にとっておとうさんは……おとうさんだった。おとうさん!」
触れてくる二人の手は温かく、今の今までなかった未練が今になってこみ上げる。
嫌だ!死にたくない!!
俺は……こいつらの……
神様がいるってんなら勘弁しれ!!
なんとか なんとかならないのか……
パパスの刻が永久のものとなった