【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
youtube:https://www.youtube.com/watch?v=HuYpcs_NoSI
ニコニコ:https://www.nicovideo.jp/watch/sm43555973
トバリジム。
格闘ポケモンの使い手スモモが経営しているジムで、所属するポケモンはどれも自らの肉体を駆使した格闘タイプのポケモンばかりである。
最初にこのトバリジムに挑んだのは数日前だった。その頃はポニータのツーリストが犠牲になった。ジムトレーナーでも無い一般トレーナーですら強い。その事実は私達を鍛えなおすという選択肢を選ばせる事になった。
レベルを上げた上で今再び挑戦し、そして今スモモに挑んでいる。
先鋒のアサナンはゴーストタイプのミストがほぼ完封することになり幸先は良かった。しかし、次鋒のゴーリキーは気合溜めからの自慢の怪力を武器としてこちらを圧倒した。お母さん……ハチみつこもその怪力から投げ出される岩石封じ(岩石封じとは言ってもジムには岩石は無いため投げられたのは鉄アレイなどのトレーニング器具である)に苦戦しドーミラーのレジドミラと交代した。
そのレジドミラの交代を待っていましたと言わんばかりに相手のゴーリキーは右手に力を入れ、出てきたレジドミラに伸ばした手の側面部分を叩きつけた。ただのチョップ、手刀。しかしそれはゴーリキーという力自慢のポケモンが気合を貯めた状態で放てば凶器を超え兵器とすらなる。その斧と化したチョップはレジドミラの鋼の肉体をただの一撃の元、二つに切り裂いた。
パーティに戦慄が走る。このジムはただ事ではない。もはや誰もが無傷でこの場を抜けられるとは思っていなかった。
そんな中、ゴーリキーの相手をしたのはミストであった。相手を混乱させ、ゴーストタイプの格闘技を無効にする特性、封印、混乱を駆使しなんとか倒すことに成功した。
安堵と同時に訪れる絶望の感情。誰もが分かっていた。今のは中堅。まだ大将が残っている。その事実を分かっている以上誰もゴーリキーを倒した事に歓声を挙げなかった。
そして戦場に降り立ったのは、全身の殆どは青い毛に覆われ、手足と耳、そして鼻の部分の毛は黒い毛が生え揃ったポケモン。その手の甲と膝と胴の真ん中には鉄の棘のようなものが生えている。おそらくは他の動物の牙や角に代わる攻撃のための部位なのだろう。それが四肢の先についているのはかくとうポケモンとしてこれ以上無いほどのアピールだ。
「ルカリオです。このジムのリーダーを努めさせてもらっています。今回はテストということですので5割程度の力でお相手させていただきます」
「随分と嘗められたもんだねぇ。悪いね皆、コイツはちょっと私に相手させてくれないかい?」
返事を待たずに飛び出したのはお母さん。挑発に乗ったから、とは考えにくい。多分お母さんは……最初に戦うことで相手の手の内を明かしたいのだろう。残ったメンバーの中で一番硬く、一番強い。相手が格闘主体で戦うならばミストさんに交代すればいい。手足のてつのトゲを主体に戦うのであればそれは鋼ポケモンの証明になる。それならばグラライガの地震がこれ以上無いほど刺さる。完璧な作戦だ。
だけど、冷静な態度で相手をしてしまっては相手のルカリオも冷静に分析し手の内を晒さないという選択肢もできる。なるべく頭に血が登っているフリをしてなるべく、主力技を引き出す必要がある。
しかし……気になるのはなぜかさっきからゆるすぎは「エスパーだエスパーポケモンだから」とやたらエスパーであると断言している。ルカリオはもしかしてあの風体と裏腹にエスパータイプなのだろうか……?
「なるほど格闘タイプの技を半減するメンバーで固めたいいメンバーのチームですね。当然俺も格闘タイプのポケモンなので、主力技の中に格闘技はあります。それを封じられたというのは痛手ですね。だがしかし、その程度ではまだ遠い」
ルカリオは言いながら右足を前にした半身になる。左の拳は顎の辺りを守るように持ち上げられる。右の腕は肘を90度に曲げ腹の辺りに持ってくる。その右腕が肩を中心とした振り子時計のように一定のリズムで振られる。肘から先は常に地面と並行なっている。
「それがアンタの構えかい。でもどんな構えだろうが格闘主体のアンタの間合いに入るつもりはないよ」
「審美眼も良い、私の体を見てこの体を主体に戦うと判断したのでしょう。だとしたら危険領域は私を中心とした一足の範囲。だがっ!」
ルカリオが踏み込むと同時に、振り子のように振っている右腕が鞭のようにしなり伸びてきた。2mと半は離れているであろうはずのお母さんの右腕から血しぶきがあがる。
「!?」
「本来手を使った技というのは手の長さより若干間合いが短いものです。手を伸ばしきる直前から力を叩き込まないといけないからですね。しかし俺のこの技は踏み込みと同時に手を伸ばし、ただ相手に攻撃が届きさえすればダメージになる。この手についた鋼の棘が君たちを切り裂いてくれるからね。通称メタルクロー」
「随分と技の詳細をペラペラと喋るじゃないか。余裕のつもりかい」
「余裕……というよりはそれくらいは説明してあげないと流石に卑怯ですからね。俺のこの技、見ての通り鞭のように腕をしならせる。速度も鞭と遜色ない。その速度は当たった時の衝撃音で初めて軌道が分かるほどの速度です。よけることはできない」
「けど近づかないとアンタをブっ叩けないからね!いかせてもらうよ」
右腕の怪我を気にもとめずにお母さんはルカリオに近づこうとした。両手は頭を守るように上げられている。
ルカリオの腕はまさに鞭のように左から右、上から下、下から上、と千変万化の軌道を描く。その一撃一撃はお母さんの傷が増えていくことでやっと認識できる。
だが裂傷は追いつつも攻撃の重さは無い為少しずつ歩を進めることができている。もしもこの攻撃が重みも伴っているのであれば意思とは関係なく間合いを離される。しかし、ただ裂傷を我慢すればいいのであれば……それは耐えられるのだろう。お母さんは私を、皆を守るためなら世界で一番根性がある。「アンタらを守るためなら命も惜しくはないさ」そう言っていた事もある。いつだって私達の前で一番敵の攻撃を耐えた。
「なんだい……全然重くないじゃない。こんな攻撃でアタシを倒すつもりだったのかい?」
「なるほど、少々貴方を甘く見ていました。貴方の未来を案じて手心を加えていましたが……どうやらそうも言っていられないようだ。ギアを一つ上げるぞ!!」
その言葉と共にルカリオが変わった。先程まで握られていた拳が開かれ、指が伸ばされる。その指の先には鋼でできた爪が伸びていた。指を呼ばしたことにより間合いは先程よりも長くなり、爪の数だけ火力も増すことになる。更に拳を握っていた先程よりも筋肉はリラックス状態にあり、その速度は先程よりも更に疾くなる。
もはやそれはナイフの嵐のようにお母さんを切り刻んでいた。
「お母さん!もうやめて!!それ以上やったら本当に死んじゃう!」
「バカ……言ってんじゃないよ。今交代なんてしたら交代の隙が狙われて無駄に死体が増えちまう」
無駄に死体が増える……確かに、交代すればそのまま無駄にあのメタルクローの一撃を食らうことになる。安全に戦場に立つには攻撃の手を止める必要がある。
でもそれは……。
お母さんのやろうとしていることは分かる。分かってしまった。だって私は家族だから……。本心ではそれを止めさせたかった。でもそれ以外手段が無いのも分かっていた。私はファイターでもあったから。
だったら……だったら私のできることは……。
「貴殿の心意気。見事だ。せめて最速で貴方を倒すことで苦しまずにしてやろう」
ルカリオの右手は先程までの弧を描く攻撃でなく真っ直ぐお母さんを突きに来た。
「そいつを……待っていた」
真っ直ぐ迫って来る右腕を後ろに下がること無く、ガードする事無く、逆にガードを解いた状態で前へ突き進み受け入れた。その右手は先程の弧を描く攻撃のように切り裂く攻撃でなく貫く軌跡を描いており、今まさにお母さんの胴体を貫いた。
こうなれば右手を一瞬封じる事はできる。だけど当然そうなればお母さんは……。
「お母さん!!」
命令やルールなんて関係なかった。本能で走っていた。私の体はお母さんを守る為駆け出していた。頭では分かっている、守るもなにも既に命が消えることは確定している。だが本能が体を動かしていた。ルカリオの残った左手を止めるために。
そのルカリオの左手は駆け寄る私をまっすぐと貫いていた。
分かっていはいた、左手だけでも到底敵わないことは。だが目的は達することはできた。
「見事なり、その命を差し出した行為は俺に刃を止めさせた。貴殿らの勝ちだ。最期の時間を君たちだけで過ごすが良い」
ルカリオは両手に刺さった、お母さんと私を抜き、隣合うように下ろした。
「バカだね、アンタ。なんでこんな事したんだい」
「だってお母さんだけじゃ片手止めるのに精一杯でしょ。お母さんのやろうとしたこと分かったから……黙って見ていられなかった」
「そうかい……うん……本当は、アンタに一番生きてて欲しかったけど……けど、ありがとう、にしまつや、貴方がいてくれたから私は生きていた」
「私も、ありがとうだよ。もう、なにもかもありがとう。また生まれ変わったら、今度は本当の親子に」
「あぁ、そうだね」
私の手とお母さんの手は重ねられ、そして静かに目は閉じられた。