【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
youtube:https://www.youtube.com/watch?v=wz7pDqEJ9xs
ニコニコ:https://www.nicovideo.jp/watch/sm43658803
草原を走る一つの影があった。炎のような紅蓮のたてがみを風になびかせ、四つの蹄が踏みしめる大地からは炎が舞う。その炎を空へ舞い上がらせるように四本の足は美しい黄金回転の軌跡を描く。
「お前のその炎を纏って走る姿はどこまでも美しいな」
「あなたにそう言って頂けるとは光栄です。エンペルトさん」
ゆるすぎのライバルであるわたなべ。そのわたなべの手持ちポケモンであるエンペルトは同じく手持ちポケモンであるギャロップに頼み周囲の偵察をしてもらっていた。
ギャロップの走る姿はエンペルトのお気に入りであった。走る姿の美しさもさることながら、彼が気に入っていたのはギャロップという存在そのものであった。ギャロップを見ることで彼はかつての親友、ヒコザルを思い出すことができていた。ヒコザルを近くに感じる事で辛うじて自分を保つことができていた。
かつて彼はその親友のヒコザルをポケモンバトルで殺めてしまっていた。その事で一度心を失いかけていた事がある。
だがそんな彼に再び心を呼び戻したのはこのギャロップである。炎の色がヒコザルを思い出させた、ということもあるが、なによりもヒコザルがしていた昔話の中にギャロップが出ていた、という事実がギャロップからヒコザルを思い出させていた。
ヒコザルがしていたそんな昔話……
「俺の親父もポケモンバトルのポケモンなんだ。炎ポケモン使いの人がマスターでさ、ブーバーの先輩がつえぇんだ。俺もよく訓練つけてもらってたよ。それとさ、そこにギャロップもいるんだけどよく背中に乗っけてもらって高原を走ってさぁ~。それがすっげぇ気持ちいいんだよ。ポッチャマもいつか旅をすることになったらギャロップ見つけて乗せてもらえよ、気持ちいいぜぇ」
そんな話を、思い出していた。
(俺は進化して……ちょっとだけ炎が苦手になったからな……。流石にもうギャロップに乗るのは難しいが、あのヒコザルの言っていたことは分かるよ。あんな美しいフォームの背中に乗って風と一緒になったらそりゃあ気持ち位だろうな)
そんなエンペルトを少し離れたところで仲間のカイロスとムクホークが見ていた。
「いやぁエンペルトさんって本当にカリスマ! って感じのポケモンですよね。こう、背中を追いたくなるっすよ」
「ん? あぁ……そうか、お前は最近仲間になったから昔のあいつは知らないのか」
「え? 昔はそうじゃなかったんすか?」
「そうだな、昔のあいつは心のない戦闘マシーンのような……抜身のナイフのようなやつだったよ」
「嘘でしょ!? あんなに他者思いの、戦うときもなるべく相手を傷付けないようにしているエンペルトさんがぁ?」
「あぁ、ギャロップ……当時はポニータか、が仲間になってからは大分優しくなったがな、それまではすごかったよ。今でももし戦闘中にポニータが戦闘不能になったらと思うとゾッとするよ。かつてのアイツに戻ったら……そう、相手が気の毒になる」
そして時は現在。わたなべはゆるすぎとポケモンバトルをしていた。
わたなべのポケモンはエンペルトを残し戦闘不能となっており、奇しくもかつてムクホークが恐怖した状況が完成されていた。ムクホークの思っていた「ゾッとする」出来事は今まさに彼の目の前に広がっていた。
エンペルトの足元にはバブルこうせんで弾け散った肉片、メタルクローで分断されたポケモンだったモノが散らばっている。
ムクホークは自分が弱者では無いと知っていた。そんな彼が全力で戦っても尚勝てない相手をエンペルトはただの一匹で蹂躙していた。仲間であることの安心感とどうじに生命として恐怖を感じていたのは言うまでもない。
「俺が……お前たちを救ってやる。こんな治療もできないトレーナーから……開放してやる……ヒコザル、お前の仲間を送ってやるからな……寂しくないようにたくさん送ってやるからな」
エンペルトの目には虚空のみが映っていた。