【ポケモンプラチナ】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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かつての出来事の物思いに耽っているといつの間にかポケモンの学校のような場所でゆるすぎはナオトと呼ばれる少年と戦う事になっていた。
そのナオトが繰り出したポケモンは僕と同じムックル……そしてその姿に僕は驚愕した。
カザキリ。
それがそのムックルの名前。或いはかつての名前。
彼は僕と一緒に洞窟に住んでいた、同じくらいに生まれたムックルだ。
洞窟襲撃から逃げる際に彼は胸に雪崩の直撃を受けて大きなキズを負った。その時にその傷のため飛んで逃げるための体力が失われ途中ではぐれていたが、今こうして出会えた。
色々な経験をしたのだろうか。肉体は前と比べるとしっかりしたものになったように感じる。だが、その目には生気は無かった。その理由は直後に知ることになる。
ナオトはポケットから赤いカプセルを取り出しカザキリに飲ませる。
後に知ったがそれはプラスパワーと呼ばれるポケモンに対する薬らしい。一時的に攻撃力を上げるという効果なのだが、それは脳のアドレナリンを分泌させ一種の興奮状態を人為的に作り上げ、心臓に負荷をかけ血流を加速させる。
当然ポケモンの健康を考えるのであればそれは良いはずもなく、一種の依存性もあり重度の使用による幻覚症状もある。
だが、攻撃力を上げるというトレーナーにおいては甘美たる効果はそういった負の側面を見せなくする。知識としては知っているが使用をやめない者は後を耐えない。
そして今、カザキリは体中の血液を高速で循環させ、筋肉を一回り大きくさせる。
その力はポケモン2~3匹を相手にしても問題無い程の威圧感を示している。
だけど僕たちは4匹。そして4匹がそれぞれ個々で戦うのではなく、連携して戦う。
キラーの威嚇から入り、すかさず交代からのみゆきの鳴き声。これでプラスパワーで上がった攻撃力は相殺される。あとは純粋な殴り合い。だとすればビバディが適任なのだが、今回はお願いして僕に戦わせてもらった。
「カザキリ……今は聞こえて無いだろうけど……君はさ、飛ぶのが好きだったよね。誰よりも高く飛びたがって、僕はそんな君を追いかけるのが好きだった」
そんなカザキリは、やはり僕の声が全く聞こえて無いようで。自慢の俊足から放たれる打撃、でんこうせっかの一撃を浴びせてくる。
力を貯めた足で大きく地を蹴る。そのまま真っ直ぐ突っ込んでくるならば避けようはあるのだが、地面を蹴ると同時に羽を広げその突撃は曲線を描いて来る。
高速の物体が視界から外れ、意識を向けていない箇所に激痛が走る。弧を描く攻撃というのはこれほどに対応しにくいのか。
だけど……その攻撃は僕もできる。……いつも君と一緒に空を飛んでいた僕だから、だからできる。できるようになった。君の飛び方を攻撃に転用すれば良いんだよね。
足に力を貯めて、曲がりたい方向とは逆の翼で空気を掴んで……ホラできた。
ぶつかることでカザキリの筋肉を感じる。僕の知っていた頃の肉ではなくなっていた。
不自然に鍛えられたその筋肉はかつての靭やかな、飛ぶための柔らかな肉ではなかった。
それが悲しく、申し訳なく思えた。
あの日僕が、君を背負えて飛べていたら一緒に逃げられたのだろうか。そうすれば違う未来があっただろうか。
ごめん。遅すぎる謝罪の言葉。でも思わずにはいられなかった。
それから僕とカザキリは殴り合った。子供の頃にやった喧嘩のように、僕たちは夢中でお互いをつつき、蹴り、体当たりをした。
僕たちはどっちも傷だらけで、多分もうお互いに一発も耐えることはできない。
「強くなったな……俺ではどうやら敵わないようだ」
ふいに耳に聞こえた懐かしい声。体力の限界で薬の効果が切れたのか、どうやら気を取り戻したらしい。
「頼みがある、このまま俺を殺してくれ」
心のどこかで、分かってはいた。
今の状況ならば、みんなが力を削いでくれたこの状況なら、僕はカザキリに勝てる。
そしてもし僕が、カザキリの立場だったら。
空を飛ぶのが大好きなのにこうして無理やり戦闘用に体を作り直されて、薬で自我を奪われ、生きているのか死んでいるのかも分からない毎日。
そんな中にかつての親友が現れたら。僕もきっと親友に看取ってもらいたいだろう。
だけど、
「僕には……できないよ。せっかく、こうして生きて出会えたのに」
「ムックル!相手が止まったぞ今だ!でんこうせっかだ!」
ナオトの声が聞こえる。モンスターボールで捕獲されたポケモンはトレーナーの指示に逆らうことはできない。
カザキリの体は一瞬の抵抗を見せたが、大きく翼を広げ電光石火の姿勢を取った。
ここで僕が先行して反撃をしなければ僕は負ける。おそらく命を落とす。
しかし、僕は翼を広げることはできなかった。
もう昔みたいに飛ぶことができなくなっても、もう昔みたいにみんなと仲良くできなくても、それでもカザキリには生きて欲しかった。僕も一緒に生きたい。そうすれば少なくとも僕とカザキリはまた仲良くできる。でもどうやら今の状態ではそれはできないらしい。どちらかの命しか選べない。
カザキリの命は僕の命と引換えになるんだろうけど。まぁ仕方ない。僕がカザキリの命を奪うという覚悟が今の僕にはなかった。
仲間になったばかりなのに、ごめんよ皆。
目をぎゅっとつぶって最期の時を待つことにした。
しかし、いつまでたっても僕にカザキリの攻撃が飛んでくることは無かった。
僕の横を一陣の風が流れ、ドゴンという音と共に何かが落ちる音がする。
恐る恐る目を開けるとそこにはカザキリが倒れており、その姿をビバディが見下ろしていた。
「僕は、君たち二人の事は分からない。けど、ぴるぷぷ、君は僕らの仲間だ。みすみす死んでいくのを見過ごせなかった」
目をつぶっていた僕を見過ごせず、どうやら強制交代からの体当たりをしたようだ。
ビバディの体当たりは僕の電光石火よりも遥かに強い。
地面に伏したカザキリは二度と起き上がることは無かった。
その顔は様々な感情が混じったような、一言では語れない顔だった。
高く、高く、もっと高く飛びたい。
この空の向こうには何があるんだろう。
空の上には神様がいて、カザキリともう一度会わせてくれるだろうか。