万「次構築術式が雑魚っつったらぶち殺すわよ」 作:ヘジェイオウ
でも万にスポットを当てた作品が少なめだったので、こんなんどう?
────ああ、憂鬱だ。
私は今、万様の部屋へと向かっている。
本音を言えば、できれば、いやなるべく、いやマジで行きたくないのだが、奥様方から命令されたからには行かねばならない。命じられれば逆らえないのが小間使いの悲しいところである。
はぁ、と今一度大きなため息をつきながら歩く。
「いや本ッッッ当に行きたくない……」
何で私はあの人のところへ向かってるんだ??? 何が悲しくて朝からあんな狂人の下へ向かわなければならないのか。きっと前世の自分は文明を破壊し、生けとし生けるもの全てを殺し尽くした大罪人に違いない。でなければ今己の身に課されている苦行に説明がつかない。
かつての万様は奔放ではあるものの、最低限の会話が通じる人物であった。何度もやれやれとしつこく言えば文句を言いながらもやってくれるし、嫌いな瓜も工夫を凝らせば渋い顔をしながらも食べてくれる。正直言ってみっともないが、幼子のようなものと思えば受け入れられないこともなかった。
だが最近の万様はダメだ。もう本当にダメだ。体が受け付けない。心が拒否している。足がもつれ、腰が痛くなり、焦燥で呼吸もままならない。
* * * * * *
事の発端は先日の新嘗祭まで遡る。
連日の折檻が祟ってその日は万様の機嫌が悪く、何度服を着るように言っても頑として聞かなかった。
さらに今回の新嘗祭は、あの両面宿儺が来ると聞く。もしそんな場で万様が粗相をしたらと思うと、恐怖で身の毛がよだつ思いだった。
「……祭りなら、神饌の唐菓子があるんじゃない? 久々に食べたいわぁ」
「新嘗祭はそういったものではございません!!」
必死の制止も虚しく、万様は衣一枚羽織っただけというほぼ全裸に近い格好で宿儺の前に躍り出てしまった。
あまつさえ、あなたは独りじゃないとか何とかよくわからないことを言いながら宿儺に抱きつき、宿儺の部下に激怒されながらも
「今日からそこに立つのは私! 私ならその人に、そんな寂しい目はさせない!」
と啖呵を切った。
すぐに引っ込めようとしたが、時すでに遅し。恐らく宿儺の斬撃?によって斬りつけられ、万様は地に沈み、不運なことに丁度そこにあった石に
およそ重傷を負ったとは思えないほど恍惚とした笑みを浮かべ、万様は意識を失った。
その後、宿儺と部下に平謝りしながら万様を回収し、お抱えの医者を呼びつけ大慌てで治療を施した。
幸いなことに傷は浅く、早期に手当てができたのも功を奏した。万様はほどなくして目を覚まし、奥様方に強めの折檻をくらいながらも今まで通りの生活に戻っていく……はずだった。
* * * * * *
「…………入りたくないなぁ……」
直近の出来事を思い出していると、いつの間にか万様の部屋の前まで辿り着いていた。
あの日以降、万様はおかしくなってしまった。
支離滅裂な言動を繰り返し、あらゆる人からの言うことも受け付けず、日々奇行に走り続けている。家の者からは半分見放されつつあり、私の肩身も狭い。
だがはっきりしているのは、今この障子を開けなければ、明日からより肩身が狭い思いをするであろうことだ。何ということだろう。とうとう私に実害が出始めた。しかもその原因は全て万様にあるのだから余計にタチが悪い。
こうしていても何も進まないのも事実。
意を決し、障子を勢いよく開けた。
「なんッッで思い出せないのよぉぉぉぉぉぉおお!! 私の脳みそ! 貴女はそんなに情けない記憶力だったの!?!? 思い出しなさい!! 例えその身が尽きようとも!!! それが人間の司令塔としての務めってもんじゃないのぉぉぉおお!?!?!?」
障子を閉めた。
だが一度開けてしまった事実は変わらない。そしてそれを証明するように、閉めた障子が目の前で勢いよく開いた。
「何よ? こんな朝から。私は自分の記憶から宿儺の身長とそこから推定される座高を一厘単位で思い出しながら復元する作業で忙しいの。用事なら早くしてくれない?」
「……朝食の準備ができております。広間にお越しください」
「ねえ話聞いてた??? 冷静に、落ち着いてよく考えてみなさい。あなたの言った朝食と、私の言った愛の作業。どちらがより重要かは明白よね?」
「満場一致で前者だと思われます」
「ハァン!? 昨日あれだけ言ったのにまだ分かってないじゃない!!! 仕方ないわね、その重要性を貴方含む後世に伝えるのも未来の妻たる者の務め。もう一度説明してあげるわ。そもそも宿儺とは世界にとって…………」
「…………そろそろ暇を貰いたくなってきた……」
本当に、本当にどうしてこうなってしまったんだ。
続くかもしれない。