ルビコンでの仕事は、思いのほか順調とは言えない。
壁越えの実績で621を企業に売り込む筈が、ベイラムに先を越されてしまった。
表向きはG4の奮戦による成果とのことだが、その実態はかのランク1の影がちらついている。
独立傭兵アルノ。
ルビコンにおいて最強の名を冠する、ベイラム寄りの独立傭兵。
ランク1に君臨するだけあって、その実力はミシガンやヴェスパーの主席隊長を優に超えるもの。
独立傭兵にとっての美味い話は、すべて奴に持っていかれるだろう。
現に「壁越え」の異名は……表向きこそG4のものだが……奴に取られてしまっている。
だが、それで621の価値が揺らぐことはない。
ランク1の名声と実力で目立たないだけで、621も十分な経験がある実力者だ。
G4とG5を倒す力を持ち、そして解放戦線の護衛依頼で敵方として出てきたG2ナイルも瀕死にまで追い詰めた。
この調子でいけば、壁越えの名を逃したことを差し引いても、十分巻き返せる。
そう思っていた。
「やぁナイルさん。仲間外れはいけないねぇ。ボクも混ぜてくれないと」
「っ……。独立傭兵、アルノ……何を、する気だ?!」
「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」
◆
やぁ、独立傭兵のアルノさんだよ。
じいじからの依頼で捕虜収容所に急行してきたよ。
今回の目的はG2ナイルさんの支援。
つまりは、彼を何としてでも生かして帰さないとって奴だ。
なんでも「今回の状況は何かと匂い立つが、G2だけは生きてもらわないと仕事がしにくい」からだそうだ。
……じいじ、戦場と仕事では甘いことをしない人の筈だったんだけどね。
誰に似たんだが。
「やぁ、そこの君が独立傭兵レイヴンだね。君の噂は聞いてるよ。少年」
「……それは光栄だな、独立傭兵のアルノ。まさかランク1が出張るとは思わなかった」
なんか少年って感じがするレイヴン君に話しかける。
男の子か女の子かわからないけど、とにかく少年って感じだから少年呼びだ。
すると、その代理人が応対しちゃった。
しかもめっちゃ警戒してる。
まぁ敵同士だもんね。
ともあれ、少年がイグアスとヴォルタ君を負かしたことには違いなさそうだ。
どうにも中々やばそうな感じがする。
じいじの言葉を借りるなら「機体越しに匂い立つ」と言うべきかな?
イグアスとヴォルタ君が世話になったお礼をしてあげようと思ったけど、こりゃやることやったほうがよさそうだね。
「っ?!」
と、いうわけでバズーカどーん。
解放戦線のヘリに命中。
効果は抜群だ。
「護衛対象のヘリが撃墜された……621、ミッション失敗だ」
「っ……アルノ、お前は」
これで君達がこの作戦領域に留まる理由はなくなった。
さっさと撤収することをおすすめするよ。
と、ちょっと圧をこめて少年に語り掛ける。
ぶっちゃけ機体が死んで瀕死のナイルさんを護りながら少年を撃破って、なかなかやばそうな感じなんだよね。
だからこれで引いてくれると、アルノさん嬉しいんだけどねぇ。
「……仕方ない。621、撤退しろ」
とかなんとか思ったら、ちゃんと撤退してくれた。
ミッション完了だい。
「礼を、いっておくべきか……アルノ」
別にいいよ、ナイルさん。
さっきも言ったけど、一応傭兵としてのお仕事だからね。
どうしても礼が言いたいなら、生きて帰ってからにして欲しいな。
◆
と、いうことがあったねぇ。
『けっ……所詮野良犬は野良犬か。姉貴に勝つなんざ百年早ぇよ』
おや、その野良犬に二体一の状況で負けた人がなんか言ってますねぇ?
『うるせぇ! 俺達はその野良犬に勝った姉貴相手には勝ち越し……あ』
なんで、だろうね。
なんでイグアスとヴォルタ君のコンビ、ボク勝てないんだろうねぇ。
ミシガンさんとのタイマンなら平気で勝てるのに!
ルビコニアンデスノート二連戦なら余裕なのに!
惑星封鎖機構の化け物兵器とか普通に倒せるのに!
同じACでもランク圏外の木っ端なら一対五とかでも勝てるのに!
なんでイグアスとヴォルタ君のコンビとの模擬戦じゃ一度も勝てないんだよちくしょおぉぉおおおおおお!
『悪かった! 話を振った俺が悪かったから落ち着いてくれ姉貴!』
うぅ……。
また頭なでなでしてほしいなぁ。
ついでに今日一日一緒の布団でボクのことぎゅーっとして温めてぇ。
そうしたら多分落ち着く……。
『ずうずうしいなおい! というか無理だろ、今の姉貴はガレージヘリで遠くにいるんだからよ』
わかってる、言ってみただけさ。
いやこっちいいよぉ。
オールマインドからほぼ無償で借りたこのヘリ、めちゃくちゃ便利なんだ。
修理と弾薬補給だけならこのヘリの中でだいたい完結するし、修理機材とか燃料とか食べ物とか補給する時は中立地帯のオールマインドセンターに寄るだけでいいし。
ヘリの中は中でなかなか快適だし。
知ってるかい?
このヘリ何故か和室があって、押し入れの布団敷いたらぐっすり眠れるんだよ?
キッチンもあるしお風呂もあるし。
ネット環境もばっちしだからオンラインゲームも捗る捗る。
コンビニで売ってたビールうまー。
タバコもうまー。
スモークチキンもうまー。
うひゃあ幸せだあ。
『……ま、楽しそうならそれでいいか。悪いけどそろそろ切るぜ。ちと小遣い稼ぎの仕事が来てるんでな』
あいよー。
イグアスもお仕事がんばってねー。
……それにしても、小遣い稼ぎのお仕事ねぇ。
ブルートゥの奴、イグアスを雇って何をしてるんだか。
◆
「よく戻った621」
「実績に少し傷がついたが……生きて帰れただけでも十分だ」
「独立傭兵アルノ。アリーナランク1を保持する、最強のAC乗りだ。まともに戦えば命はない」
「いずれは倒すことになるかもしれんが……俺の方でも情報を集めておく」
「今は休むことに専念しろ」
ガレージヘリ
独立傭兵アルノの移動型拠点。COMで自動制御されたヘリであり、普段の生活は勿論作戦領域への移動や待機・ACの回収も自動でこなす。
オールマインドからほぼ無償で借りたものであり、傭兵支援システムに登録している独立傭兵なら誰でも利用可能。
巨大な下層部にACを格納するガレージがあり、修理・メンテナンスの機械や機材が並ぶ。
弾薬なども保管されており、ミッション数回程度の修理・弾薬補給はヘリだけで完結できる。
それ以上の修理・弾薬補給・大規模アセンブルは、中立地帯などにあるオールマインドセンターに停泊する必要がある。
ACシミュレーターもあるため、架空現実でACの訓練をしたり、アリーナにエントリーしたり、過去のミッションを再現して遊んだりできる。
ヘリの上層には運転制御室や居住区があり、座敷・キッチン・シャワールームなどが完備されている。勿論ネットもある。
アルノはよく座敷の炬燵に引きこもり、デバイスでゲームしたり付属のテレビを見たりしながら、タバコと酒と好物のスモークチキンを楽しんでいる。
またデータで遊ぶACも大好きなので、ACシミュレーターで一日中遊び惚けたりすることもしばしば。