やぁ、独立傭兵のアルノさんだよ   作:上代わちき

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九話「ルビコン脱出」

 

 

 

「621、調子はどうだ」

 

「お前には十分な経験がある。ルビコンでの仕事も、いい刺激になっただろう」

 

「無数の戦場を渡り歩いたお前の頭脳は、完成されたといっていい」

 

「そして。ルビコンでの仕事で組み上げ最適化した、その機体」

 

「負ける道理はない」

 

 

 

「残りは、実績だ」

 

「ランク1。独立傭兵アルノ」

 

「奴を倒せば、それで帳尻は合う」

 

 

 

「ランク1撃破の実績は、企業に対しても解放戦線に対しても大きな影響力を持つだろう」

 

「そしてその力は、カーラ。……いや、俺達『オーバーシアー』にとっても無視できない脅威となる」

 

 

 

「仕事の時間だ」

 

「独立傭兵アルノを排除しろ」

 

「そうしてはじめて、お前の人生と」

 

「お前の『友人』に対する譲歩を引き出してやれる」

 

「お前の価値を示してこい、621」

 

 

 

 

 

 やぁ、独立傭兵のアルノさんだよ。

 

 リフトを上って地上に出て来たところだ。

 機体のダメージが大きいじいじは先に船へ行った。

 イグアスたちもまだカーラの部隊の対処で動けない。

 だから、ここは補給を済ませたボク一人だ。

 

 

 

 

 敵方に現れた増援は、少年だ。

 

 

 ハンドラー・ウォルターの猟犬。

 G13の名を持ち、アイスワーム殺しを成し遂げた英雄。

 そして『オーバーシアー』の懐刀。

 

 強化人間C4-621。

 独立傭兵レイヴン。

 

 

 

 彼、ないしは彼女が。

 この作戦を阻む、最後の刺客だった。

 

 

 

 

 

 

 識別『ローダー4』

 機体名は前と全く同じだけど、パーツはしっかり調整してある。

 

 RaD製の使いやすそうな奴に、アーキバス製のフレームを組み合わせている。

 BAWSのライフルやらパルスブレードやら六連ミサイルやらあるが、一番目立つのは肩のスタンニードルランチャー。

 件のアイスワーム殺しを成し遂げた、伝説の武器。

 

 そしてなにより。

 今までの機体と違って、こいつばかりはただのアセン以上の『何か』を感じる。

 

 

 

 

 

 まず仕掛けてきたのは向こうだ。

 ブースターを吹かしたABでこちらに肉薄してくる。

 バーストライフルとミサイルの弾幕も一緒に、だ。

 

 それに対してこっちは、引き気味に弾幕を避けつつ十連装ミサイルとガトリングの弾幕で歓迎する。

 奴はジグザグにブースターを吹かして弾幕を凌ぐが、こっちの重ショが命中する。

 

 

 

 だがそれでも奴は動きを止めずこちらの懐に潜り込み、決定的な痛打を叩きこもうとしてくる。

 パルスブレードだ。

 

 感覚でQBを吹かして避けたが、他の奴の攻撃と違って首の裏がチリっとくるようなやばさを感じた。

 

 

 

 再びガトリングで牽制する。

 ちょうどそろそろ奴の姿勢が崩れる頃合いだ。

 

 それをわかっていたのか、アサルトアーマーで仕切り直しにされる。

 実に鬱陶しい。

 

 

 

 

「なるほど。前より腕を上げたか。でもそれでボクを……私を殺せると思ったら大間違いだ」

 

 

 アサルトアーマーの効果切れに合わせて今度はこっちがABを吹かす。

 目的は勿論、スプリングチキンによる超強化ブーストキックだ。

 

 

 

 勿論奴はキックを避けるが、そこへ容赦なく重ショを叩きこむ。

 重ショを叩きこんだら、またすぐABを吹かしてキックを仕掛ける。

 多少の被弾を覚悟で、そいつを繰り返す。

 

 アサルトアーマーを吐かせた今、こいつにこのコンボを拒否する手段はない。

 削れるうちに、奴のAPを削ってやる……!

 

 

 

「へぇ、ここまで来てまだやるんだ。何か理由がある、そういう動きだね」

 

 振り切られた。

 普通なら振り切れる道理なんてないのに、奴はその道理をかっ飛ばしやがった。

 

 

 

 当然ながら、奴から酷い反撃がやってくる。

 おそらくマニュアルで偏差射撃したであろう、スタンニードルランチャーの弾。

 それを何とか、逆関節特有の素早い挙動で避ける。

 

 が、続けて来た追撃のキックをまともに食らってしまった。

 

 

 

 

「まだだよ。私はまだ戦える。最後まで付き合ってもらうよ、スモークチキン……!」

 

 切り札を切る。

 十連装ミサイルと重ショで奴に回避を切らせたところへ、ようやく拡散バズーカを放つ。

 

 拡散バズーカは、私の武装の中で唯一足を止める構え武器。

 こいつとの戦いでその構えは大きな隙になる。

 だから今まで使わなかった。

 

 

 

 当然、アイツは十連装も重ショもすべて振り切り、拡散バズーカの一撃すら凌いでこっちに肉薄してきやがる。

 構えで足を止めた私を、パルスブレードで確実に殺すために。

 ライフルの弾やらミサイルやらを張りながら、近接で殺そうとしてくる。

 

 

 

 でも、それをこそ待ってた。

 

 

 

「まとめて消えろ!!!」

 

 アサルトアーマー。

 それで何もかもかき消して、奴のACの姿勢も崩す。

 

 チャンスだ。

 すぐさま重ショで追撃して、スプリングチキンで蹴り飛ばす。

 

 

 

 もちろんワンコンボでは終わらせない。

 すぐにリロードが終わった重ショで再追撃し、もう一回スプリングチキンで蹴り潰す。

 

 でかい札は全部切った。

 このチャンスで、全部ものにする。

 

 

 

「死ね。死ね。死ね」

 

 

 蹴る。

 とにかく蹴る。

 奴のACを、執拗に蹴る。

 

 それが、私のすべてだ。

 

 

 

 

 

 

 

「っ??!!! アサルトアーマー?! まさか、もう冷却が終わって……?!」

 

 

 …………やられた。

 

 奴の、二回目のアサルトアーマーで全部ひっくり返された。

 

 

 

 あとちょっとだったのに……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ野良犬。久しぶりだな」

 

 

 ……?

 イグ、アス……?

 

 

 

「待たせた、姉貴。こっちは全部片付いたぜ」

 

 そ、か。

 ごめん、私、しくじっちゃった……。

 

 

 

「でも、まだ生きているんだろ。なら、それで十分だ」

 

 もう、私の機体が動かない……後は、任せていい?

 

 

 

「ああ、俺に任せろ」

 

 ありがとう……頼もしいな。

 

 

 

 

「よう、『てめぇ』がヤブ医者の言っていた耳鳴りの正体か。ナイルの奴の紹介っていう割に話が長いと思っていたが、まさか役に立つとはな」

「なんちゃら変異波形って言ってたっけか。……てめぇがイグアスを寝込ませてたってなら、ちゃんと礼を言わなきゃな」

「おせぇぞ、ヴォルタ」

「うるせぇ、俺とてめぇとじゃ速度が違うんだよ。少しは配慮しやがれ」

 

 二人が……揃ってる……。

 なんだか、久しぶりな感じだね……あの二人が並んでるのを、見るの。

 

 

 

「アルノさん。俺が機体を運びます……!」

 

 レッド、君。

 

 

 

「大丈夫です。あの二人なら、きっと倒せる」

 

 

 うん。

 そりゃあ……自慢の弟とその最高の相棒が揃ってるんだ。

 

 この二人のタッグは……私でも勝てない真のイレギュラーだ。

 少年だって……倒せる筈だよ。

 

 

 

 

 

 

 

「621。ランク1、独立傭兵アルノの撤退を確認した」

 

「パイロット自身は生きたままだが、ランク1越えには違いない」

 

「今の記録でも、企業や解放戦線への抑止力として十分機能する筈だ」

 

 

 

「ここからは生き延びることだけを考えろ」

 

「お前には、その権利と義務がある」

 

 

 

 

 

「さて」

「ああ」

 

「ここから先は、何があっても通さねぇぞ野良犬」

「あの人には、返しきれねぇ恩があるからな」

 

 

 

「絶対に、姉貴を」

「絶対に、アルノさんを」

 

「死なせねぇ!」

「死なせねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ルビコン脱出の作戦は成功に終わったってわけさ。

 もちろんその後のプランも順調だったから、ハッピーエンドで終わりってわけだい。

 

 え、イグアスたちと少年の戦い?

 その詳細を語るのは、ちょっと無粋な気がしてねぇ。

 また今度にでも語るよ。

 

 

 

 ただまぁ、そだね。

 全部終わった後に、イグアスと一緒に吸ったタバコは。

 

 すんごく美味しいものだったとだけ言っておこうかな。

 

 

 

 それじゃあ、私……ボクはここまでだ。

 機会があったらまた会おう、諸君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボス。技研都市の制圧が完了した。いつ企業や解放戦線が来ても迎撃できる」

「上出来だよチャティ。ウォルター、そっちはどうだい?」

「コーラル潮位が上がっている……だが、ヴェスパーが壊滅して猶予があることを思えばまだ取り返しがつく」

「ヴェスパーの『次』や解放戦線がコーラルの横取りを目論んでも、ランク1越えのビジターの名が立ちふさがるだろう」

「つまり、まだルビコンごと焼き払うプランは発動しなくていいってわけだね。場合によっては、予定変更も視野に入る」

「ああ。多少無茶を通してでも実績を作って正解だった」

 

「それと、オールマインドについても無力化しておいたよ。奴と接触したビジターがこっちに情報を寄こしてくれたのが効いた」

「表向きは通常の動作をさせたままにしている。奴自身も無力化のプログラムが仕込まれたことに気づいていない。ビジターの『友人』のおかげだ」

「そうか。これで、仕事は一区切りだな」

 

 

 

「理想は、情報を持っている奴らを追って口封じしておきたいところだが……」

「奴らはもう星系から脱出している。情報を持っていかれたのは手痛いが、もう口封じは現実的ではない」

「わかってるよ。流石にこれ以上は、オーバーシアーとしてではなく私個人の私怨でしかなくなる。ここから先は、弁えるさ」

 

 

「さて」

「ここからはビジターとの交渉だね」

 

 

「621、そして『エア』。お前達の目的と、俺達『オーバーシアー』の目的は究極的にはあわない」

「だけど、お互いの妥協点を話し合うだけの時間は確保できた。その状況もね」

「一応こちらなりに交渉材料も用意してある。例えば、変異波形用の義体などだな。うまく落としどころを探ろう、ビジター」

 

 

 

『レイヴン……私も、彼らの思うところは理解しているつもりです』

 

『私としても『破綻』による人間絶滅は望むところではありません』

 

『だから、彼らと共に探ろうと思います』

 

『せめて、この場の全員が平和に歩める可能性を』

 

 

 

「それともう一つ。621、お前の人生についてだ。お前には、普通の人生を歩む権利がある」

「ま、さっきの交渉を終えた上でウォルターの猟犬のままがいいなら、それでいいじゃないかと思うがね」

「カーラ」

「ふん、前々から思っていたがウォルターは何かと不器用すぎるんだよ。……ビジターの意味を見出したのがウォルターなら、最後まで責任をとるのもウォルターの役目だよ」

「それは…………そう、なのか」

 

「ま、なんにせよ。全員生きているんだ。とりあえずはどうにかなるだろ」

「ボスの言う通りだ。ボスやビジターとの会話は『笑える』ものだ。それが途切れないというのは、少し安心できる」

「……そうだな。本当に、不思議で幸運な巡り合わせだ」

 

 

 




2024/02/04追記
これにて「やぁ、独立傭兵のアルノさんだよ」は形式上完結。
少なくとも物語としては、ここまでで完成ということになります。
ここまでお付き合いいただいた皆様、感想を送ってくれた方々、誤字脱字報告をくださった方に、改めて御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。



次回からはおまけ・番外編を展開していきます。
また、以下にいつものようなノリでちょっとした文をまとめてありますので、よろしければこちらもお付き合いください。



────
ローダー4
「本作の621」の機体。中量二脚型AC。
武装は、ランセツRF・パルスブレード・六連ミサイル・スタンニードルランチャー。
フレームは、RaD製レイヴン頭・RaD製探査用コア・アーキバス製派生腕部「VP-46D」・アーキバス製二脚「VP-422」。
ブースターはファーロン製万能型「BST-G2/P04」、FCSはファーロン製中・近距離モデル「FCS-G2/P05」、ジェネはBAWS製高出力型「HOKUSHI」。
拡張機能はアサルトアーマー。

基本的に張り付きながらランセツRF・六連ミサイルの弾幕で相手を疲弊させ、高火力なパルスブレード・スタンニードルランチャーを確実に命中させて仕留める戦法。
またアサルトアーマーも積極的に駆使し、追撃・反撃・仕切り直しなど幅広い用途を目的に展開する。
作中に限っては621特有のイレギュラー補正が入っているため、パイロット技量を含めた実力はアルノを優に超える最強のラスボス機。

ベイラムからの仕事に恵まれず、アルノの大きな実績の影に隠れながらもアーキバス・解放戦線・RaDからの仕事で力を蓄えながら調整した機体。
その傭兵活動を象徴するかのように、アーキバス製・BAWS製・RaD製・中立企業製のパーツが程よく混合しつつベイラム製のパーツは一切ない。
パーツの中でも特に目立つのがアーキバス先進開発局製のスタンニードルランチャー。
これはウォルターのツテでミシガンに取り次いでもらい、特別にアイスワーム撃破作戦に参戦させてもらった時に由来するパーツであり、同作戦は本作621最大の実績。
だが621は、実績を奪いミッション遂行をも阻害した宿敵アルノを倒すに至り、「ランク1越え」の称号を手に入れた。
たとえ、直後のイグアスとヴォルタとの戦闘で引き分けに終わったとしても、その事実は変わらない。
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