怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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過去一で期間が空きましたね。本当にすみません!
何かあったわけではないです。シンプル怠慢です。でもまだまだ書き続ける所存ですのでよろしくお願いします!


前回のあらすじ

 アペヌイ上空に居座るメトロン星人との直接対話を望む長官、五穀(ゴコク)と秘書の真姫(マキ)。彼は「知景(チカゲ)と興己(コウキ)がメトロンに襲撃された」という事実を引き合いに、メトロンに接触しようとする。知景たちが殻島(カラシマ)に会った事実を話すと、五穀は殻島の存在についても指摘する意向を示す。知景たちは、未来(ミライ)捜索の手を広げることと交換条件で五穀に協力し、メトロンの宇宙船に再び向かうことを決めた。


第105話 対

 階段を駆け上がり、最上階に至った。普段あまり動いていないであろう自動ドアはもどかしいほど遅く滑る。その向こうには、既に五穀(ゴコク)と真姫(マキ)が待機していた。

 集合場所に指定されたのは、甫村基地の屋上だった。五穀いわく、メトロンの円盤まで移動する術に、向こうのテレポート技術を指定されたという。すなわち、帰す帰さないはメトロン側に委ねられているということだ。

 

「なかなかサマになってるな」

 

 五穀は知景(チカゲ)と興己(コウキ)の格好を見回して言う。MA(メテオールアーツ)を与えられたものの、今のところは怪獣素材を用いた戦闘用の装備ではない。通常のS4隊員用調査制服だ。かつて世界規模の怪獣対策組織であった科学特捜隊のデザインを基調とした、にぶいオレンジ色のスーツ姿を皆が纏っている。もっとも、五穀だけノージャケットノーネクタイ、ワイシャツは腕まくりというクールビズ仕様だが。

 

「他の訓練隊員より一足早く隊服を羽織ってもらったわけだが、どんな気分だ?」

 

「くそ暑ィ」

 

「お前は大物になる」

 

 五穀が笑って知景の肩を叩く。それほど強い力ではなかったが、体が揺れた。膝が折れそうになる。軽口を叩いたが、内心は再びメトロン星人と対面することに怯えていた。

 

「大丈夫で御座いますか?」

 

 真姫が尋ねたのは興己だ。見れば、彼は俯きがちに一点を見つめている。

 

 「おい」と強めに発破をかけようとした。しかしそれより早く興己は顔を上げ、「大丈夫です」と答えた。表情に余裕はないが、分かりやすく怯えてもいない。

 

 念押しするようにゆっくり頷いてから、ジャケットの左胸あたりを強く握る。

 

「内ポケットに何か入ってんのか?」

 

「散髪用のハサミ」

 

「お守りか」

 

 栄(サカエ)家は代々美容院を営んでいる。興己自身もハサミの扱いは達者であり、お守り代わりにハサミを携帯していると話していた。

 ふと思い出す。五穀の見立ては、メトロンがアペヌイ大怪災を引き起こしたというもの。栄家は、そのアペヌイ大怪災で事業の撤退を余儀なくされている。幸い別の店舗を構えることができたそうだが、だとすれば、興己にとってメトロン星人は。

 

「ほら、知景さんもシャキっとして」

 

「う、うるせえよ、してるわ!」

 

 興己の背中に張り手をかますと、「痛(い)てっ」と笑って身を捩らせる。自然と自分の口も綻んでいるのに気づいた。

 

 知景も顔を上げ、空を見上げた。空の闇と溶岩に照らされた紅の色が、今日も拮抗を続けている。その中に、繋がったコンタクトレンズのようなUFOがぼんやりと浮かんでいる。

 

 睨むように見つめる。それでも、極力肩の力を抜く。興己に習うように、自分もジャケットに手を当てた。ずしりとした重みがある。あるものを、灰濱寮の共同部屋から持ってきてもらった。こいつにとってのハサミほどじゃないが、お守りにはなってくれるはずだ。

 

「そろそろだ」

 

 五穀がつぶやいたのとほぼ同時に、4人を囲う円が足元に展開していく。円は全員を覆ったところで拡大しなくなり、ぼやっとした明かりを発した。

 

 光は照度を増し、やがて全員を包み込む。この感覚は、これで3度目か。目を開くと、そこはもう屋上ではない。

 

 白と赤が交差する奇妙な壁に囲まれたフロア。10メートルほど先には、鈍く尖った赤い頭が並んでいる。メトロン星人の突き出た目がこちらに向いていた。

 

「お久しぶりです。五穀長官」

 

 集団のなかで一番近くに立つメトロン星人から、中世的な声が発された。見かけで判別は難しいが、この声はこの宇宙船のリーダーにあたるボロマのものだ。

 

「いやあボロマ殿。申し訳ありません、急なお呼び立てをしてしまって」

 

「お気になさらず。我々はあなた方の領空をお借りしている立場ですので、いつでもお声がけをいただければ」

 

 慇懃(いんぎん)で柔らかな受け答えの割に、五穀とメトロンの集団には距離があった。彼らの中間に見えない領域線が引かれ、踏み越えることはタブーなのだとすら思った。

 

 地球人とメトロン星人。各々の集団が向き合う。対談。対峙。知景の頭には、連なって「対決」という単語が浮かんだ。

 

「本日は、一つ確認したいことがございまして」

 

 真姫が口を開いた。

 

「こちらの2名の隊員は、先日何者かに襲撃を受けています。私もその場に立ち会いましたが、その襲撃者はメトロン星人の姿をしていました」

 

 知景と興己は論を補強するように小さく頷いた。この場において、必要以上に喋るなと五穀に釘を刺されている。

 

「聞けばこのふたり、地球時間の4日前に、この宇宙船にお邪魔していたそうで」

 

 五穀が引き継ぐ。

 

「無関係というわけでもなさそうでしたので、調査のためにこの場を設けさせていただいた次第です。どうです? 件の襲撃に何か心当たりは」

 

「ありません」

 

 ボロマが即答する。

 

「地球と友好協約を結んでいる我々が、地球の住人に危害を加えるなどもっての外。ありえないと思われます。その状況を記録したものは何かございますか?」

 

「いえ、残念ながら。しかし、実際にウチの門寿(モンジュ)はこの目で襲撃の瞬間を見ています。地球人に擬態した状態から、メトロン星人の姿へと変異して襲いかかる瞬間を」

 

「であれば、別惑星の星人による謀略かと。変異後のメトロン星人の姿もまた擬態の姿で、我々の信頼関係を破壊する目的があると考えられます」

 

「そんな回りくどい手法をとる星人がいるでしょうか」

 

「労力としては最小限です。地球とメトロンの亀裂が惑星間戦争へと繋がれば、互いの資源が大きく消耗すると予測され、外の惑星に付け入る隙を与えます。縁起でもない話ですがね」

 

 知景は口の中を噛んだ。やはり証拠映像がない以上水掛け論にしかならない。もっとも、映像を提示したところで加工の可能性を示されてのらりくらり躱されそうだが。

 

(しかし長官、地球人に擬態していたっていう情報は隠していてもよかったんじゃねえか? 会話の中でその情報がメトロン側から出れば、襲撃の状況を知っていた証拠になる)

 

 直後に考えを振り払う。ボロマは口を滑らせるような真似はしないだろう。

 

「失礼しました。この件は一度こちらで持ち帰りましょう」

 

 五穀がパンと手を叩く。

 

「もう一件お伺いしたいことがございます。4日前のことですが、地球の領土として保有するにアペヌイの領域に怪獣が出現しました。凶暴怪獣アーストロンであると確認されています。迅速に対応に当たりましたが、我々の組織が到着したときには既に討伐されていました」

 

 そして、と淀みなく続ける。

 

「付近の施設にあったカメラ映像から、ある人物がアーストロンを討伐する一部始終が確認できました。さらに、この宇宙船に転送されたふたりに確認したところ、その人物と一緒だったと申しまして」

 

「はい」

 

 ボロマの目が一瞬こちらを向いた気がした。

 

「アーストロン討伐の件につきまして、心より感謝申しあげます。野放しになっていれば、多くの地球人が危険に晒されていたことでしょう」

 

「とんでもございません。私たちは星を共にする共同体。危険が迫れば、今後も全霊をもって対処にあたらあせていただきます」

 

「頼もしい限りです。そこで確認させていただきたいのは、そのアーストロンを討伐した人物についてです」

 

 五穀が手で知景達を示した。

 

「彼女らはその人物が、殻島(カラシマ)勇玖(イサク)と名乗ったと話していました。この名前は、地球が領土を展開する別惑星モシリスにて行方不明となっていた人物と一致します」

 

 この情報は、モシリス統括長官の久茂(クモ)に連絡をとって確認済みだ。ダークバルタンの襲撃で消えた人物は、たしかに殻島勇玖といった。

 

「単刀直入に聞きます。この殻島という人物に、心当たりは」

 

 なるほど、と知景は思った。聞く順序に工夫を凝らしている。おそらく、ボロマは否定しづらいだろう。

 

 一つ目の問答の中で、知景と興己がメトロンの船に転送された事実は確認済み。後出して、アーストロンを倒した人物を一緒に転送したと話している。

 

 ボロマが「そんな人物は船に回収していない」と反論すれば、知景と興己「のみ」を回収したという論理に行き着く。無関係の地球人を宇宙船に攫うという事実は、ボロマも認めたくないだろう。

 

 アーストロンを倒した人物が地球人に似ていることはカメラが捉えている。現時点でボロマは、「殻島であること」は否定できても「怪獣を倒した地球人らしき人物」を船に回収した事実は否定できない。

 

「カラシマ、イサク」

 

 ボロマはそらんじて、「ああ」と合点がいった様子だった。その声に焦りは含まれていない。

 

「そんな名前で通っていましたね」

 

 後ろに控えたメトロン星人に「呼べ」と命じる。命じられたメトロン星人がフロア左手に向かい、壁と同化したドアが開いた先へ消えた。

 一分もしないうちに、同じ個体と思われるメトロン星人が戻ってくる。その後ろについてきたのは、地球人だった。水色のウィンドブレーカーらしきものを羽織った細身の男。色素の薄い、興己に切りそろえてもらった髪。間違いない、殻島だ。

 

 だが、何か違う。口元に浮かべた微笑が、以前会ったイメージと気持ち悪いほど結びつかない。

 

「初めまして、五穀長官、門寿隊員。そしてお久しぶりです。遊崎《ユウサキ》さんと栄くん」

 

 やはりおかしい。敬語、呼び方、雰囲気。全てが以前の殻島と一致しない。

 違和感を察したのか、真姫がこちらに目線を向けた。興己も気づいているのだろう、震えのように小さく首を横に振った。

 

 殻島の表情の中にわずかな困惑が覗いた。

 

「まったく、どうして彼女らが」

 

「どうも初めまして。殻島さん、で合っていますか?」

 

 五穀が柔らかく聞くと、「ははっ」殻島は笑う。

 

「そうですねえ。一応、殻島勇玖ということで通っています」

 

「先ほどボロマ殿もおっしゃっていましたが、通っているとは?」

 

「名前を借りてるんです。モシリスで姿を消した男性から」

 

 まさか、と知景は思った。以前真姫から示された可能性が、的中してしまったのか。

 

――他国がメトロン星人との共同作戦でアジア系の人物を派遣しているのかもしれません。万が一衆目に触れた場合、『バルタン星人に攫われた日本人』として説明されてしまえば違和感が薄れる。

 

 すなわち、モシリスで消えた防衛局員という設定だけを利用されているのだ。知景達は偽の情報をまんまと鵜呑みにしてしまった。

 モシリス長官の久茂からは、名前の情報しか聞いていない。消えた局員がどんな顔か、この場は誰もわからない。

 

「ま、待ってください」

 

 その時、興己が初めて口を開いた。

 

「当初、あなたは僕たちに『国連の任務でメトロン星人と行動を共にしている』と説明してくださいました。ですが僕が違和感を示すと、次に『モシリスで姿を消した防衛局員』のエピソードを伝えてくださっています。どうして、二度も嘘をつく必要があったんです?」

 

「一つ目は馬鹿用の嘘。二つ目は少し賢い人用の嘘ですよ」

 

 殻島は表情を変えずに言い放つ。

 

「要は納得いただければそれでいいんです。段階に応じた対処法は頭に叩き込んでありますので」

 

「であれば」

 

 五穀が口を挟んだ。

 

「本当の目的は」

 

「話したところでご納得いただけるかどうか。私は何番目かの嘘をお伝えするだけだと思います」

 

「あなたの本名は?」

 

「それについては、ボロマたちも知りませんよ」

 

「何もお話できないと? それは少々説明不足が過ぎるのでは」

 

「外惑星開発戦略本部からの要請とだけお伝えしておきます」

 

 殻島が口にした組織の名に、五穀は眉根を寄せた。

 

「私がお伝えできる内容は事前に用意された幾通りかの説明だけですが、それ以外の対処法も心得てあります。行使する権限も」

 

 五穀が鼻から息を吐いた。引き際をわきまえた印象だ。

 

 組織に関して詳しいことはわからないが、殻島の言葉は明白な脅しだった。実力行使もやむをえない。嘘をついてやっている間に退いておけ、と。

 だから名前を借りていることに関してもオープンにできたのか。納得する一方で疑念も湧いてくる。明らかにやり口が強引だ。殻島は決して上等な論理で話しているわけではない。「話せない」の一点張りだ。

 

「ご足労いただいて大変恐縮ですが、今日の所はお引き取りいただいた方が賢明かと」

 

 しかし、これ以上は粘れないか。

 

 知景は何か探りあてたかった。4日前に会った殻島は、嘘をついているようには見えなかった。もちろんそれは向こうの演技ゆえかもしれないが、とにかく目の前の人間が隠しているものを暴きたい。

 目の前の男が、「モシリスで消えた本物の殻島」である証拠を見つけなければ。だが、そんなものがあるのか? フル回転する知景の脳が、記憶を掘り起こした。

 

 3日前だ。知景と興己は、アペヌイ甫村基地で女性隊員ふたりと出会った。浦菱(ウラビシ)唯(ユイ)。佐納(サノウ)奏(カナデ)。

 中でも浦菱の発言が気がかりだった。

 

――大事な人が行方不明になるって、辛いよね。

 

 自分たちへの励ましの言葉に、並々ならぬ重さがあった。まるで浦菱自身も、大切な人の安否を気に掛けているような。

 

 それだけではない。浦菱は特錬隊員だった。合格するには個人所有のMAを持っているかどうかが重要になる。あの若さでMAを獲得するのは非常に難しいため、どこかで任務遂行ポイントを大量獲得した可能性が高い。彼女の実力もあるのだろうが、外に考えられるのはポイントの譲渡。隊員が死亡した場合、生き残った同部隊の隊員に怪獣討伐ポイントが振り分けられることがある。

 

――去年の選抜を合格したばかりなんです。

 

 佐納が言っていた。ダークバルタンのモシリス襲撃後初めての特錬試験を突破したということになる。

 

 もし、浦菱の部隊の仲間がモシリスで死亡しており、応援で飛び出した局員の殻島も目の前で喪っていたのだとすれば。彼女の態度や特錬への入隊に一本の筋が通る。

 

 全て憶測だ。都合が良すぎる理論。それでも――。

 

 今はそれに、縋るしかない。

 

「何だよ、あんた殻島じゃないのか。残念だなァ!」

 

 知景が、初めて声を出した。きょとんとした殻島を睨み付けて、続ける。

 

「浦菱さんが、あんたのこと探してるってのに」

 

「浦菱?」

 

 間が空いた。

 

「――誰のことです?」

 

 動揺している様子はない。だが、十分だった。

 短いの間で見せた、表情の硬直。強烈な何かをぶつけられ、懸命に取り繕った顔を、知景は見逃さなかった。

 

 断言できる。目の前の人物は、本物の殻島勇玖だ。

 

 殻島は一礼してドアの向こうへ消えた。五穀がボロマに向き直る。

 

「改めまして、本日はありがとうございました。またこちらで情報を精査し、必ずご報告させていただきます」

 

 それでは、と歯切れ悪く言ってあたりを見渡す。ボロマは口を開かない。

 

「今日はこのあたりで……と、いうわけにはいかないのか?」

 

 フロア内のメトロン星人の数は当初より多くなっている。そして、地球陣営を囲むようにフロアの壁際に広がっていた。

 

「……かなり面倒になるんじゃないか?」

 

「何がです?」

 

 ようやくボロマが反応した。

 

「地球人4人、それも一人は惑星統括長官だ。まとめてメトロン星人の船で死亡なんて、うまくもみ消せないだろう」

 

「五穀長官、あなた今回の訪問は本部に申し立てしていないでしょう。本部の方はむしろせいせいするんじゃないですか? 奔放な長官が消えて、更迭の手間が省けるので」

 

「痛いところを突く」

 

 五穀が俯いて笑った。直後、まったくの同時に、五穀と真姫がMITTドライバーに触れた。脇で控えたメトロンが動き出す。

 

 近接戦闘か。誤射を避けるためか、飛び道具は持っていない。

 

「くそっ!

 

 1体がこちらにも迫ってきた。身構えた知景の前でふりかざしたメトロンの腕に、矢が突き刺さる。腕ごと吹き飛ばしそうな勢いでメトロンは仰け反った。

 真姫の援護だ。

 

「ふん!」

 

 興己の方からも声がした。見れば、迫っていたメトロンの一体を五穀がハンマーで弾き飛ばす、まさにその瞬間だった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「構うな! それより、さっき会ったあの男は」

 

「本物です!」

 

 興己が答えた。彼も悟っていたらしい。やっぱり頭の回る奴だな、と思った。

 

「栄と遊崎! 命令だ、連れ戻せ! じっくり話を聞かねえと!」

 

「了解!」

 

 同時に叫ぶ。群がるメトロンのほとんどは五穀と真姫の連携で退けられていく。乱戦の様相を呈するフロアを駆け抜けて、ドアを目指した。

 

 

 




五穀と真姫のMAも必ず描写します。
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