怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第13話 赤と銀の翼

「か、殻島さん……ですよね」

 

 雪町は呆けたような表情のままだった。

 

「本当に殻島局員ですよね」

 

「はい。っていうかあなたも名前呼んでたじゃないですか」

 

「すみません……。いや、でもすごいです。まさか本当に倒してしまうとは」

 

 自身の部隊を歯牙にもかけなかった巨大怪獣。それを新人の防衛局員が倒したとあらば信じられないのも無理はない。それを受けた雪町は、いつもの冷静な思考止まっていた。

 

「いやほんと、死ぬかと思いました。でもこれで安全に帰れるはず――」

 

 ほっとしかけたが、そこで問題を思い出した。

 

 自分がここにきたのはもとより羽村の策略。目的は下水放流の事実に辿り着いた殻島を始末するため。そして雪町部隊の三人も始末のリストに載っている。

 

「いや全然安全じゃない!」

 

 同時刻帯にミッションを遂行する予定だった雪町ら3人の隊員を、汚水の流出河川の近くまで向かわせゲスラとぶつけた。

 それはサポートメカを発動するため。隊員3名の死亡を脅威の証明とすることで、サポートメカを引き出させてゲスラを倒させる。

 市に被害は及ばない。下水道の不正はばれない。それが羽村の目指すゴールだ。

 

「雪町さん、あなたのドライバーは」

 

「それが、通話を呼びかけても反応がなくて」

 

 やっぱりか、と唇を噛む。怪獣を討伐したはいいものの、このまま通信を拒否されていれば一向に転送されない。ハルは重傷、関と雪町の傷も放ってはおけない。

ひとまず雪町に自分たちが置かれている状況を説明した。

 

 

 

 

 

「じゃあ、このゲスラという怪獣が現れたのも市長の施策のせいで?」

 

「ええ。そして奴は俺達を殺そうとしてるはずです。俺達が生きて帰れば、下水の秘密が露見しますから」

 

 終始苦い顔で伝える。せっかく命懸けで怪獣に立ち向かい勝利を収めたというのに、今度は人間によって生死を左右されている。悔しさと焦りでいてもたってもいられなかった。

 

「くそっ、一体どうすりゃいいんだ……!」

 

「たしかに、今日の朝水道について聞かれたときはどうしたのかと思いましたが」

 

 頭を抱える殻島とは対照的に、雪町は口に手を当て静かに考えていた。やがて一つの疑問が浮かんだのか、殻島に向き直る。

 

「あなたの『MITTドライバー』を見せていただけますか?」

 

「え、えむ、あい……?」

 

「S4隊員が持っている通信ドライバーです。あなたの左手にも」

 

 雪町の要求に応え、殻島は左手に巻かれた腕時計型の機器を見せる。羽村に渡されたものだ。

 

「何かわかりましたか?」

 

「ええ。私の通信機、『MITTドライバー』は電源が入っていて作戦室との通話を拒絶されている状態ですが、あなたのドライバーは電源がそもそも入っていません」

 

「……たしかに」

 

 雪町のドライバーは約2センチ四方の画面が青白く灯っており、作戦室側と通話ができないだけで操作自体は可能になっている。だが殻島のものは操作どころか画面がそもそも真っ暗だ。機能を停止しているように見える。

 

「でも、MITTドライバーは隊員を転送させる際のポインターとなります。つまり、対怪獣バリアが張られている現状、市の内と外を繋ぐ唯一の手段ですから、殻島さんが転送された時には必ず電源が入っていたはず。ということは……」

 

 

――――――――――

 

 

「か、殻島勇玖、緊急出動隊員、怪獣ゲスラ、とう、ばつ」

 

 作戦室のオペレーターは震える声で状況を報告した。

 羽村はただ、口をつぐんで画面を見据えている。

 

「……どうするんですか」

 

 オペレーターの女が羽村に向き直る。

 

 殻島勇玖がゲスラを倒す。心の中でもしやとは思っていた出来事だったが、その可能性はわずかほどもなかったはずだ。それが現に起きてしまった。羽村の望まぬ結末だろう。

 

 殻島は羽村の未処理下水放出を知っている。その事実は、羽村が築き上げた牙城にひびを入れる(くさび)となってしまうだろう。

 

 告発されれば、協力者であるオペレーターたちともども、羽村は終わる。

 

「現在、雪町部隊の隊員3名、および殻島は生きています。これではサポートメカを呼べないじゃないですか」

 

 隊員3名の死を理由としてサポートメカを呼ぶ予定は崩壊したといえる。

 

 それを理解した羽村の顔は、今まで見たことがないものだった。常に保たれていた不気味なほどの笑みは消え、真一文字に結ばれた口からはいつ唸りが漏れてもおかしくない。

 だが、決して狼狽えている表情でもなかった。

 

「……S4のレラトーニ本部に繋げてくれ」

 

 それに従い、オペレーターは『本部通信』との表示があるアイコンに触れる。

 程なくして、本部の統括室と繋がった。羽村が耳にヘッドホンを当てる。

 

「羽村鎮男。夜蛍市長です。現在夜蛍市外におけるS4の任務の指揮に特例として当たっています。急を要する事態と判断し、かつ本部より救援を賜りたく――」

 

 ヘッドホンを付けているため、オペレーターは本部側の発言は聞くことができない。おそらく所属と要件を尋ねられ羽村がそれに答えたのだろう。立場としてはかなり高い羽村だが、惑星におけるS4の日本管轄区本部に対しては流石に敬語を使っている。

 

「……はい。そこで――巨大怪獣が――。4名の中に……星人……」

 

 厳かな語り口に、眺めるオペレーター達も微かな緊張を感じた。彼の発する言葉に「星人」という、状況とは無関係に思える単語が現れるのも気になる。

 

「承知いたしました」

 

 一区切り付いたのか、通話画面が消失すると、羽村はふうと息を吐いた。

 

「なんとかサポートメカを寄越すよう話を運ぶことができた。まもなく戦闘機が市外地に着くだろう」

 

 羽村の言葉に、オペレーターは疑いを向けた。

 

「この状況でどうサポートメカを出させたのですか」

 

 既にゲスラは討伐されている。隊員から死者も出ていない。本部がサポートメカを遣わせる理由は一つもない状況で、どうやって腰を上げさせたのか。

 仮にそれができたとして、脅威となる怪獣が葬り去られた今、戦闘機を呼ぶことに何の意味があるというのか。

 

「サポートメカが攻撃の対象となるのは、殻島だ」

 

「……は?」

 

 目の前にいる人物が市長であることも忘れ、怪訝な顔を繕うことなく表に出す。S4のサポートメカが人間を攻撃するなど、万に一つもないはずだ。

 

「殻島のドライバーの電源をこちら側で落としておいたのが功を奏したな」

 

「一体、どういう……」

 

「一言で説明すると」

 

 羽村の表情はやはり険しい。かつてなかったリスクの大きい賭けに出ているのだとわかった。「功を奏した」というのが、まぎれもなく彼が切れる最後のカードなのだろう。

 

 一拍溜めを作ってから、羽村は口を開いた。

 

「殻島を、敵星人に仕立て上げるんだ」

 

 

――――――――――

 

 

「……俺を、敵星人に仕立て上げる!?」

 

「はい。おそらくその上で、応援部隊か、あるいはサポートメカによる攻撃が行われるかと」

 

 雪町の口から放たれた内容は、あまりに突拍子もないものだった。

 

「何で羽村がそんなこと……」

 

「まず、MITTドライバーの説明から行う必要がありそうですね」

 

 雪町は自分の左手首に目線を落として続けた。

 

「MITTドライバーは作戦室との連絡手段、テレポーテーションの地点となる重要なデバイスですが、その最も基本的で肝要な性質は『身分証明』です」

 

「身分証明?」

 

「これを持つことができるのはS4隊員だけ。すなわちドライバーを装着していれば、その人は必ずS4に属しているということになります。これは市外地でも同様だと推測できます」

 

「市外地に出られるのはS4隊員だけ。イコール市外地にいる人間は必ずS4隊員、ってことですか?」

 

 雪町が頷く。

 

「作戦室で感知するドライバーの反応が、S4隊員が市外地で活動を行っていることの証明です。が、殻島さんのMITTドライバーは起動していない。これは羽村市長から渡されたものですね?」

 

「そうです」

 

「手段は不明ですが、市長が何か細工を施したと考えられます。この状態では、殻島さんが市外地にいることの証明になりません」

 

 なるほど、と殻島は頷いた。羽村から手渡しされた自身のMITTドライバーは、当然羽村が管理していたものだろう。その技術に精通していれば、自動的に電源を落とす程度の細工は加えられるかもしれない。

 

 雪町部隊の3名に細工がされていないのは、MITTドライバーの管理をS4隊員個人が行うためだろう。装備品のように調査・討伐に赴く時だけ腕に巻くのではなく、それこそ免許証のように常日頃から携帯するものなのだ。それはもはや私物と変わりなく、さしもの羽村もそこまでは手を及ぼすことができなかったと考えられる。

 

 雪町は一度ふうと息をつく。頭の中を整理しつつ説明をしてくれているようだ。

 

「ですが、あなたは実際にここにいるわけです」

 

「え?」

 

 当たり前のことを言われ、殻島は僅かばかりたじろく。

 

「はあ、まあ」

 

「では、それを傍から見た人間は、どう感じると思いますか」

 

「どう感じるって……」

 

 質問の意図を掴みかね、首を傾げる。

 

「ドライバーが起動していない。すなわちあなたは隊員としての証明がない人間です」

 

「じゃあ当然、変、に思われますよね」

 

 雪町はまたも深く頷いた。表情がより一層強張っている。

 

「そう。殻島さんは決してこの場にいるはずがない人間なんです。でも、いる。それはこう解釈することもできます。『いるはずのない人間がいる』のではなく、『そこにいるモノは人間ではない』と」

 

「……え」

 

 そこでようやく、雪町の予想との繋がりが見えた。

 

「まさか、それで俺が敵星人にされるってことですか?」

 

「突飛な考えだと思われるかも知れませんが、ありうることです」

 

 殻島は少々取り乱していた。たしかに自分はS4隊員ではないし、証明となるドライバーも動かない。だがそれだけで敵星人と判断され、有無を言わさず攻撃されるとは。

 

「あまりにむちゃくちゃ、というか非情な仕打ちじゃないですか」

 

「『星人』もまた、怪獣とならんでS4が戦わなければならない対象ですから」

 

「たしか、人間に擬態する術を持つ星人も多くいると聞いています。今の場合だと、俺が擬態した敵の宇宙人だと?」

 

「ええ。思われる可能性が高いです。そして怪獣と星人では、S4の警戒度合いが桁違いです」

 

 外惑星における二種類の外敵は、想定される被害の規模が大きく異なると雪町は言う。

 

「『怪獣』の行動原理は、突き詰めれば本能です。腹を満たすため、あるいは自身を守るため、生物単体としての欲求と意思が赴くままに活動し、それが破壊活動に繋がります」

 

「星人は違うんですか?」

 

「『星人』には知能があります。超常的な頭脳を駆使して行われるのは無差別の破壊ではなく侵略であり、その根幹に位置するのは本能ではなく敵意です。彼らの行動は計り知れません。少なくとも人間が想定する範囲内に収まるという見通しは甘いでしょう。無数の怪獣を呼び起こし使役するかも知れません。万単位の円盤で隊形を組み、人間の住む地に押し寄せるかもしれません」

 

 説明を聞けば、明らかに怪獣よりも星人の方が脅威であると理解できる。そして、殻島は今まさにその脅威であるとS4の本部に断定されるかもしれないのだ。

 

「ドライバーがない、人間であることの証明がない殻島さんが星人だと判断されるということ。それは夜蛍区の市外地、すなわち日本の防衛部隊が観測できる地に星人がいると判断されます。それがS4の予期する最悪のシナリオだということは、もうおわかりでしょう」

 

「……星人(おれ)が夜蛍市に狙いを定める前に、S4は早急に排除しようとする」

 

「ええ、以前と変わらずサポートメカを飛ばすよう本部に掛け合うでしょう」

 

 一つの結論に辿り着き、がくりと肩を落とす。

 

 羽村はそこまで手を回していたというのか。万が一自分がゲスラを屠った場合、サポートメカを呼ぶことができなくなる。そのパターンに対応するため、テレポート後電源が切れるMITTドライバーを持たせ、「星人かもしれない存在」に仕立て上げて市外に放置する。その事実が、危険の証明となるのだ。

 

「近くに星人がいる。何を企んでいるかわからない。だから戦闘機で殺してくれ」

 

 そう主張するのだろう。

 

 が、疑問は尽きない。『星人』がいくら恐ろしい存在といえど、今自分たちが直面している状況は強引すぎではないかと思う。

 

「でも、まだ俺以外に雪町さんやハルがいるじゃないですか。そんな状況で攻撃を?」

 

「それが私たちの命運を分けます」

 

 雪町の口の端が、今日初めて上がった気がした。

 

「星人は最優先で討伐すべき対象。そのための手段は選びません。とはいえ、まだ私たちの生存が確認できる状態で上空から攻撃することは抵抗があるでしょう。まずもって本部は簡単に攻撃許可を下さないはずです。反面、私たちを始末したい市長は即座に攻撃を行うよう強く主張するに違いない」

 

 本部との通信で慎重な交渉を行う羽村の姿が思い浮かべられる。交渉は彼の得意とするところだ。それは、責任感に殉じたということを抜きにしても羽村の頼みを断り切れなかった殻島がもっとも痛感している。

 

「予想になりますが、最終的な判断は実地確認……すなわちサポートメカをここに送り込み、本当に脅威たる星人がいるかを搭乗員の目で見て状況を把握する、現場主義的な判断が下されると思います」

 

 星人の被害を未然に防止するためにサポートメカの攻撃を行うか否か。それはいまだ確定しないと雪町は言う。

 

「じゃあ、すぐには攻撃されそうもないですよね。敵星人がいるって主張が出るのは羽村側だけだし、俺の姿も丸っきり人間だ」

 

「それがそうとも言えません。あなた自身、先ほど人間に化ける技術を持つ星人もいる、とおっしゃっていたではありませんか」

 

「あっ……」

 

 当然、傍から見れば殻島は人間。それはここを訪れるであろうS4本部の人間も同様の認識だ。だが、『傍から見れば人間』では不十分なのだ。それは地球人の皮を被りこの地を侵略せんとする宇宙人かもしれないのだから。したがって、殻島による「自分は地球人だ」という主張は全くの無意味だ。正直者も嘘つきがいたならば、どちらも必ず「私は正直だ」と言う。

 

「おそらくあなた自身で潔白を証明するのは難しいでしょう。ですが、私にも何かできるとはとても……」

 

 応援部隊かサポートメカがここに来るとして、彼らに攻撃の必要性がないと説明できればいい。つまり、殻島は敵対的意思を持つ星人ではないとわからせねばならないのだ。が、その方法がない。

 

 羽村は「殻島勇玖が異星人だ」という説明をした上で、攻撃を急かすだろう。サポートメカの場合は最悪だ。元々強大な怪獣の対抗策として準備されている攻撃手段なのだから、一度それを向けられれば、なす術なく殺されてしまう。

 

 なんとかして自身の無力と無抵抗を証明しなければ。でもどうすればいいのか。

 頭をフル回転させる殻島達は、聞き慣れぬ音を拾う。飛行機が飛ぶ音に近いが、より鋭い。加速度的に上昇するボリュームの源はたちまち目の前に現れた。

やや先太りの機体。その先端に操縦席をかかえ、後ろのブースターで推進を保つ。銀のボディを基調とし、機体から飛び出す鋭い主翼から機体側面にかけて赤いラインがよく目立つ。

 

「来ましたね」

 

 スーツと同様、サポートメカも怪獣対策組織の祖、科学特捜隊(かがくとくそうたい)の戦闘機を模し、最新の技術を搭載している。

 殻島達を品定めするように地面と同じ高さを旋回する、S4随一の兵器。

 

「ジェットビートル……」

 

 機体は目線の先、川の水面を舐めるように跳ぶ。本来サポートのために送り込まれるその戦闘機だが、いまだ救いの手ではない。ただ殻島に裁定を下す存在だ。煌めく銀灰色の表面が、大きな生き物の眼光に思えた。

 

 

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