怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第29話 墜落事故の裏

『近づいちゃダメだッ!』

 

 リクの声がインカムを通して響き、小さな音割れを起こす。今日も浦菱たちは調査地における討伐任務にあたっていた。

 討伐対象は、何度も交戦経験があるアネモス。ただ今回は依然のような小型サイズではなく、全長10~20メートルの範囲内に収まる、いわゆる中型まで発達したものだ。アネモスならそこまで大きな脅威には結びつかないものの、あるイレギュラーが発生し状況を複雑にしていた。

 

「やっぱ……クラブガンも一緒だと面倒ね」

 

 中型超空間共生怪獣 クラブガン。アネモスと異なり、節足動物らしさがある。顔は、エビの頭部から足までを縮めたような姿形に、触覚が東洋龍の如くゆらりと伸びる。両手はカニのような鋭いハサミ、二足歩行の足は扁平に広がっている。ぎらぎらと光る黄色い眼が絶えずこちらを捕捉していた。

 

 野笠がクラブガンの腕の動きを見て跳ぶ。がしゃ、とハサミが瞬時に閉じた。跳んでいなければ、切断とはいかないまでもぞっとするような怪我になっていただろう。

 篠山がライフルを連射。3、4発は命中するも、クラブガンが口から黄土色のガスを噴射し目を眩ます。文字通り煙に紛れて銃弾を回避してしまった。

 

『篠山さん、退いてください!』

 

 今度は殻島の声。

 

『そのガスは誘導フェロモンのような成分が確認されてます!吸ったら意識が混濁して動けなくなりますよ!』

 

 そう、だから近づけない。ここで篠山のライフルが活躍することが予想されるが、障害が2つ。

 

 一つ目は今のようなガス噴射による目くらまし。接近を拒む上に視界まで奪う。

 そして、もう一つ。()()()()()()()()

 

 ガスが晴れ、クラブガンを視界に収める。その姿は何度見ても慣れない。クラブガンの足の間。そこに、まるで3本目の足が生えたかのようにアネモスが収まっているのだ。

 信じがたいことだが、クラブガン&アネモスは全くの別種でありながら『融合』する。上半身がクラブガン、下半身がアネモスという具合だ。この下半身を支えるチューブ状の肢体が機動力を増強させる。同時に、体格で圧倒的に劣る人間が唯一虚を衝つける『足下』を克服している。

 

(……厄介!)

 

 浦菱は突き出されたハサミを避け、さらにフェロモンガスを警戒して距離を取る。

 

「大丈夫か、浦菱」

 

 後方の野笠が声を掛けた。

 

「はい、吸ってはいません」

 

「よかった。今度は俺が攻め――」

 

 ハンマーを横に掲げた野笠に、「やめとき」と制止が飛ぶ。篠山だ。

 

「野笠の重い武器じゃどう考えたってガス吸ってまうやろ。そんな打って出んでも、うちがちょっとずつ削ったるから」

 

「いえ」

 

 浦菱はクラブガンから目を離さずに言った。

 

「私がいきます。ショックマインで隙を作るので、おふたりで決めてください」

 

「あのガス吸ったら終わりやで」

 

「私が使ってるボードの機動力なら、息を止めれば切り抜けられます」

 

 すうっと、肺に空気をため込む。頬が膨れるまで充満させたところで、一気にボードのエネルギーを噴く。腰がやられそうな勢い。クラブガンが接近を認識してガスを吐き出した。予想通り。

 足下へ到達。アネモスに食いつかれないよう背面側に回った。ブレーキは一瞬。その一瞬のうちに時限地雷ショックマインを設置し。すぐに離脱。

 

(苦しい……!)

 

 鏡を見なくてもわかる。今般若の面みたいな顔してるだろう。紅潮してるけど。

 限界までボードを駆動させ、不快なガス靄をなんとか無呼吸で切り抜けた。

 

「ぶはぁっ!」

 

 息を吸って荒く吐き出したと同時に、後ろで爆発が起きた。ショックマインの起動により、クラブガンの左足とアネモスが炸裂する。さらに、強烈な爆風が立ちこめた黄土色のガスを吹き飛ばした。

 

「この機……!」

 

「逃さんで!」

 

 篠山がチャージショットで残った右足を弾き飛ばし、クラブガンが前のめりに倒れる。地面に伏した頭に、野笠のハンマーが降りかかった。

 

 

 

 

 

 

「唯、どしたん?なんか目ぇ怖いで」

 

「え、そ、そうでしたか?」

 

 篠山の発言で初めて気づく。

 

「何か気がかりがあるのか?今日の動きも悪くなかったが」

 

「あ、いえ野笠隊長。任務のことじゃないんです。完全に私情で」

 

 浦菱は言葉にしづらい不信感を覚えていた。それも、殻島勇玖に対して。

 

 彼が自分と同じく、湖田永晴の行方を気に掛けていることがわかってから1週間が経とうとしていた。墜落事故という痛ましい問題であるため、協力者を募ることも憚られ、なかなか同じ志の者に出会えなかった。そんな中で偶出会ったのが殻島だ。

 

 彼の思いを知ったときは、嬉しかった。湖田の身を案じているのは自分だけじゃない。憧れの人が、『行方不明』という生存か死亡かが宙ぶらりんな状態に置かれた。その不明瞭さに、生きていると信じ続けることで縋るしかなかったのは、自分だけじゃなかったのだと。

 

 だが今、当時の感激に翳りが刺している。殻島の湖田を探そうとする情熱が低く感じられるからだ。そう思った理由は、彼から連絡が来ないためである。

 

 先週はお互い死線を潜って疲れもあったのか、肩肘張ってしまう事故のことや湖田についてはさして話さなかった。近所のうどん屋で夕食がてら雑談で過ごしただけだ。ただ、これから湖田について知るには例の墜落事故を深く調べる必要がある。その考えは彼と一致していた。そのため別れ際に連絡先を交換し、情報共有しあうようを約束したのだ。が、以来向こうから連絡がない。殻島はこの1週間局の事務が忙しいらしく、今日までミッションの補佐にも入らななかったため接触が全くないのだ。

 

 忙しいのはわかる。話したいから基地まで来いとも、電話をかけろとも言わない。だが、向こうだって湖田の存在を知るために外惑星や事故のことについて調べる必要があるはずだ。そういう決意を持っているように、少なくともあの日は見えた。

 

――なら、なぜ私に質問も情報共有もないんだ。

 

 浦菱はS4に入ってまだ2年目だが、殻島よりは外惑星のことに精通している自信がある。惑星間の移動だって慣れたものだ。そういう情報を、あいつは知り合いに対して貪欲に求めるべきじゃないのか。自分だったらそうするのに。防衛局員とS4隊員とでは畑が違う。それだけで伝手が広がるのだから、隊員に質問することに価値はあるのに。

 

 俯き、拳を額に当てる。

 

「え、ほんまどうしたん唯」

 

 勢いがついて、弱く殴るような形になった。

 こんな理不尽な思考に陥っていることが嫌だった。冷静じゃない。

 

――そうだ。冷静じゃなかったんだ。

 

 自分にとって憧れの先輩を、同じように大切に思っている人物に会えた。そのことで舞い上がっている部分と、期待しすぎる気持ちがあったのかもしれない。

 

 とはいえ、殻島に頑張ってほしいという思いもあるのだ。彼が一人で書籍やネットを駆使して情報収集をしていることも考えられた。それでももやもやするのは、単に頼ってほしかったからか。彼を背負って運びたいんじゃなく、二人三脚がしたいのだろうか。

 

 気づけば作戦室の前。自動ドアが静かに開いた。

 

「お疲れ様です」

 

 リクと殻島が声をかける。浦菱は殻島を呼び、作戦室の外に呼び出した。

 

「ん?どした?」

 

 彼は呼び出される見当がついていないようだ。

 

「殻島、急で悪いけど、あんたが例の事故について知ってること、何でもいいから言ってみて」

 

 抜き打ちテストのような質問。だがこの回答で、殻島がどれだけ湖田について関心をもっているかわかる。

 

「え」

 

 唐突に問いかけられた殻島は、不意打ちを食らったような顔をしていた。が、意外にも「ああ、そのことな」とスマホを取り出した。

 

「まずな、俺がニュースとかで見た内容、それから大学の同期に記者やってるやつがいるから、そいつにも少し聞いてみたんだけど」

 

 指がスマホの向こう側で右に左に動く。わざわざまとめてくれているのか。

 

「まず事故原因。今有力なのはエンジントラブルらしいな。航行機に搭載されている、電磁場を生むためのレーザー照射機と推進ノズルが破損してたらしい。強度が足りてなくて、宇宙航行に耐えられずコントロールを失ったって」

 

 そこまで喋って、殻島は目を細める。

 

「ん~、正直原理とか技術とか詳しいことはわからん。でも、これは有力ってだけで他にもいくつか可能性はある。デブリとの接触とか。でも、事故からこれだけ時間が経って、いまだ原因が確定しないってのはかなりレアだよな。あ、あとお前はとっくに知ってるかもだけど、イメルについてもちょっとまとめて――」

 

「いや、いいよ」

 

 浦菱は首を振った。

 

「なんか……思ったよりちゃんと調べてくれてて、ちょい驚いた」

 

 先ほどまでの自分が情けなく、馬鹿らしく思えた。たった今、彼はきちんと行動で情熱を示してくれた。

 

「そんな、大して調べちゃいねえよ」

 

 心中で感嘆していたのに、当の本人は謙遜する。

 

「今のは全部、これまでのニュースとか記事を洗い直しただけだ。物理科学の内容なんて欠片も頭に入んねえし。何より、まだわからないことが多過ぎだ」

 

「……ねえ、殻島」

 

 殻島になら、()()()()()()()()()

 

「今日の夜も、時間あるかな」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「野笠、聞いてきて」

 

 篠山が口元に手でついたてを作り命じる。

 

「嫌だよ」

 

「ええから、唯に殻島と今どういう関係なのか聞いてや」

 

 篠山は二人が既に付き合っているのか気になっているらしい。先週も思ったが、絶対に彼女の勘違いだ。今話している二人は、どちらかというと仕事の打ち合わせに見える。

 

「あのなあ篠山。多分お前の予想とは違うと思うぞ」

 

「うーん、たしかに。まだ付き合ってるとは限らないわな。どうにかしてお互い距離を詰めたいけど、仲良くなったばかりでなかなか進展しない、てとこやろうか」

 

「いや、そもそも恋仲とかそういう感じじゃないと思う」

 

「そう、どっちも自分の感情が恋なのか、それとも単なる好意かわからない、一番おもろい時期の可能性も」

 

「そういうことじゃなくて」

 

「『恋』と『好意』って語感がむっちゃ似てるな。興奮する」

 

「今日ダメだなお前」

 

 その時、ふたりが出ていた二人が再度入室した。殻島がスマホから空中ディスプレイを映し、何やら浦菱と話している。こうしてみると、二人が打ち解けたのは、単に歳の近さが大きいのではないかと思った。

 

「っていうか篠山、お前自分で訊きゃいいだろう」

 

「いや、上司が部下の関係邪推して『付き合ってるの?』って訊くとかセクハラやん」

 

「じゃあ俺もセクハラになるだろ」

 

 その時、作戦室の画面を操作していたリクが顔をこちらに向けた。

 

「皆、そろそろフィードバック始めるよー」

 

 なるほど浦菱なら、たしかに自分をセクハラ呼ばわりすることに抵抗は覚えなそうだ。時間が来てくれて助かった。

 

 野笠はほっとして立ち上がった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 浦菱ら3名の帰還を見届けた殻島は、その後リクから30分弱行動補佐の振り返りを受け、終業となった。

 

 スマホを確認すると、浦菱から近場の居酒屋にいるとの連絡が入っている。急ぎ向かうと、奥のテーブルに座っているのを見つけた。

 

「悪い、遅れた」

 

 向かいに座ると、眺めていたスマホから目線を上げる。卓上にはお通しと飲み物。これはコーラだろうか。あえてアルコールを頼まなかったのは、話し合いに酔いを介入させたくなかったためか。

 つまり真面目な話。昼時も話した、事故に関することだろう。

 

「大丈夫」

 

 浦菱は姿勢を正し、こちらを向く。いつも通りの朴訥とした雰囲気だが、微かに寄せた眉間が険しさを放っていた。

 

「今日はどうした」

 

「あんたに言っておかなきゃならないことがある」

 

 自然と身構えてしまう。わざわざ呼んだということは、何か進展があったのか。唾を飲む。同じタイミングで、彼女の喉も動いていた。

 

「私は、湖田先輩を探す協力者の人と連絡を取ってたことがあるんだ」

 

 眉が持ち上がった。まじか、と声を上げると同時に言葉に疑問を感じ取る。

 

「取ってたことが、()()()()?」

 

 その語り口は、まるで今はもう連絡を絶っているという風に聞こえた。

 

「……うん、今はもう取り合っていない」

 

「なんで」

 

「危ないと思った」

 

 意味が理解できず、「え」という声がため息のように漏れる。

 

「まず説明するわね。私が連絡を取り合っていたのは八十川映斗(ヤソガワエイト)さんと、安生百合(アンジョウユリ)さん。この2人」

 

 聞いたことのない名前だ。

 

「知らないわよね。この2人は湖田先輩と同じ研究室に所属していた友人。そして事故当時、湖田先輩を含めた3人でワッカへ旅行に行く予定だった」

 

「え、じゃあ……!」

 

「そう。2人は墜落事故の生存者よ」

 

 思わぬ人物だった。死者と行方不明者の名前はニュース記事で公開されていたが、生存者に関しては一部のみしか出ていない。そのうち2名とコンタクトを取れていたと浦菱は言う。

 

「凄いな、事故を調べるならうってつけの人達じゃんか。どこで知り会えたの」

 

「……私は、SNSで彼らの存在を知った」

 

 八十川と安生、2人はToritterという大手SNSで墜落事故の早期原因究明を求めて活動していた。実際に、事故や事件で遺族が解決や裁判に向けた活動をSNSで行うのはよくある。

 

「残念ながら、2人の支持はあまり集まらなかった」

 

 理由としては、注目を集められなかったためではないかと彼女は言う。同時期、Toritter内で他数名の遺族が2人と同様の活動を行っていた。墜落で妻を亡くした男性、両親を亡くした高校生。彼らの発信に綴られた悲痛な思いは、多くのユーザーの心を掴んだ。彼らの存在こそが、事故の被害者であるという潮流を生んでしまった。単に『行方不明者』の『友達』であった生存者2名に、そこまでのセンセーショナルさはない。

 

 事故後も、あまり湖田に関するニュースが多くなかったことを殻島は思い出した。

 

「でも私は連絡を取った。湖田先輩のことが、知りたかったから」

 

 強い意思を言葉から感じる。

 

「電話とDMでしかやりとりはしなかったけど、2人ともいい人だった。事故当時の状況とか、湖田先輩と話したことなんかも色々聞かせてもらったし、ニュースより詳細な情報もあった」

 

「……なおさらなんで連絡をとらなくなったんだ?さっき言ってた『危ない』ってのは」

 

「2人のアカウントが削除されたの」

 

 削除、という単語が強烈に頭を揺らした。何か、非常事態を告げる足音のように感じる。

 

「……規約に違反したりとかは」

 

「なかった。仮にあったとしても、警告として凍結措置がされるはず。一発で削除……アカウントを完全に消されて復帰もできなくなるなんてこと、あり得ないのに」

 

「じゃあ、そこで連絡をやめた感じか」

 

「うん。電話番号も交換してたけど、どうにも不気味だから、お互いしばらく控えるようにした」

 

 なぜ削除などという事態になったのだろう。アカウントに対する措置・処分はToritter社が行っているだろう。ガイドラインを犯していないとすれば、誰かが削除依頼をしたということか。八十川・安生の活動をやめさせたくて、運営に報告。運営はそれに従い削除処分を下した。

 

 いや、それもおかしい。社の運営は基本名誉毀損やヘイトスピーチなど、明らかに目に余る行為を確認しなければ削除に動かないだろう。浦菱の言葉から、アカウントがそれらを行っていたとは考えられない。

 

「それだけじゃない。八十川さん達の話を聞くと、おかしな部分もあった」

 

 浦菱の声が思索を中断した。

 

「八十川さんも安生さんも、事故に関して事情聴取を受けたらしいの。機内の状況とか、墜落後はどうしていたか、とか。特に2人は行方不明者の湖田先輩と一緒にいたから、会話の内容とかも聞かれたって」

 

「たしかに、湖田先輩が最後に会話したのって、その人達だもんな」

 

 浦菱は頷くと、少し縮こまった。内緒話をするように声を潜めた。

 

「実際に機内で異変を感じた時のことに関して、湖田先輩は2人に対しこう言ったそうなの。『窓の外に飛行円盤、外星人のUFOが見えた気がした』って」

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