怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第31話 乾杯

 自室に一人。殻島は目を細め、浮上ディスプレイ型PCの画面にある情報を読み取る。画面には、宇宙航行機の設計や事故防止システムについてなどの情報が細かい字で記されている。外惑星航行を行う航空会社が作成しているそれは、湖田の事故について調べ始めた頃から、繰り返し閲覧していた。

 殻島は普段かけていない眼鏡を外し、上を向く。

 

「あ゛~……」

 

 目のあたりを手の平で覆う。光を遮断すると、眼精疲労を実感した。

 

 湖田永晴が行方不明となった事故。その原因や湖田の安否、先日浦菱から語られた事故の裏にありそうな何か。追えども追えども、いずれの端っこにも手が届かない。

 

「わかったことといえば……事故を起こした機体のルートくらいか」

 

 以前、家南にそれまで出ていた墜落事故に関するニュースをまとめて送ってもらっている。それらを見直すと事故機が辿ったルートが明らかになっていた。

 

 まず、機は地球、日本海上に設けられた外惑星発着専用の空港『鏑島(かぶらじま)』を発った。ここで特筆すべきは、外惑星行きの機体は地球内での飛行機の行き来とシステムが大きく異なるという点である。

 

 地球を発つ外惑星行きの機体は、それぞれ「レラトーニ行き」や「モシリス行き」といったように分けられていない。「外惑星行き」という大まかな括りでまとめられる。いわば『母艦』なのだ。母艦は外惑星付近まで到着すると、そこにあるコロニー型の巨大宇宙船に一度停まる。人工衛星の規模をより大きく、一般人も立ち寄れる形にしたものであり、宇宙にある駅のような認識だ。外惑星に拠点を置く国ごとに様々な規模の宇宙船があるが、当然日本の航空会社――この場合、地球と外惑星間の移動を生業とする――は日本のブロックに着陸する。

 

 ここから乗り換えがあり、移動者・旅行者は母艦よりも小型の宇宙航行機に乗る。ここでようやく、惑星ごとに行き先が分かれるのだ。すなわち、八十川、安生、湖田はここで当初の目的地であった惑星「ワッカ」へと向かう便に乗ったというわけだ。

 このワッカ行きの機体が、件の墜落事故に遭っている。ワッカへ向かう途中に何か障害が生じ、途中のイメルに墜落したという。

 

「やっぱ、湖田の話は変だよな」

 

 1つの違和感を、殻島は感じていた。浦菱から聞いた、湖田の詳細不明な発言。

 

――飛行円盤、UFOを見たって。

 

 仮にこれが本当であり、浦菱がほのめかした『敵星人に攻撃されて墜落した』説も真実であるとすると、おかしな点がある。

 UFOはなぜ、わずか50名程度しか乗っていない宇宙航行機を攻撃したのか。

 

 地球人を攻撃する目的なら、より大勢が乗った母艦やターミナル的機能を持つコロニー型宇宙船そのものを攻撃すればいい。わざわざ小型の旅客機に的を絞った意図が読めない。

 

「地球人が目障りってんなら、『あさひ』を攻撃すれば大ダメージなのにな」

 

 日本のコロニー宇宙船、『あさひ95』は、S4の統括部、無数の宇宙航行機の管制のほか、他国に置いても中継や輸送の拠り所となっている外惑星人類の中枢拠点だ。そこを攻撃されれば日本はもちろん世界全体にも影響が及ぶ。敵性意思がある外星人が狙うならこちらだろう。無論、それを危惧して防衛設備もかなり強固ではあるが。 

 

 侵略攻撃がバレたくなかったのか。いや、だとしてもやはり旅客機を狙う意味はないだろう。湖田のような大学生が乗る便だ。さして高級でもないはず。外星人との共同事業に一役買うような要人が乗っているとも考えづらい。

 

「絶対湖田(アイツ)の見間違いだろ……。いや、そもそも八十川って人たちの記憶の中だからなんともいえないか」

 

 そもそも、ウルトラマンが地球を去って以来、「敵星人」に侵略行為をふっかけられるという事態がほとんどなくなっていた。日本のS4などをはじめ、地球全体で対外的な防衛力の強化が図られ、対抗するための科学力は強靱になっている。仮に地球に対し敵性意思を持つ星人がいたとしても、地球の科学力を脅威として認識してるためだろうか。あるいは、既にペダン星とメトロン星とは友好協約を結んでいるため、それも効いているのだろうか。

 

 だが、冷静に考えればそもそも「敵星人からの侵略行為を受けなくなった」という事態も異質なものだ。地球は宇宙人や、宇宙人が遣わした怪獣の脅威に晒されていた過去がある。レラトーニでゲスラと戦った時も考えたことだが、宇宙人は地球を狙う何らかの理由が昔はあったのだ。

 脳みそを絞って記憶を掘り起こす。たしか「ブラック星人」は地球人の奴隷化、「ヤプール人」は合成怪獣を利用した地球の征服であったような気がする。奴らは母星から遠く離れた地球にまでその手を伸ばそうとしていたのだ。

 

 しかし、今ではそうした動きはない。地球ではおろか、進出先の惑星でも宇宙人による侵攻というのはみられない。あるのは野生の怪獣の動きであり、それをS4はじめ各国の防衛機構で対処している。

 

「雪町さんが言ってた、宇宙人に対する警戒が強いのも理解できるな」

 

 ぱたりと止んだ地球外からの謀略。それが今に至るまで起こっていないということの、意味。

 殻島の、いや、殻島だけでなく研究者の諸説の1つではあるものの地位を確立している考え。

 

 ウルトラマンの威光。

 

 地球を救い多くの怪獣と星人を葬った彼らの活躍がいまも影響している。異星人はウルトラマンがまだ地球にいると思っている。それこそが、地球が攻撃を受けない理由であるというものだ。

 実際、人類が外惑星に進出した後も、1度だけウルトラマンの公式報告例がある。光の戦士はまだ、どこかで人類を見ているのかもしれない。

 

 その報告例、「惑星ピリカ」に姿を現したウルトラマンの名前は――

 

 

 

 

 

 

 ブー、ブー、とスマホが鳴動していた。画面には意外にも、篠山の名前が表示されている。

 

「殻島です」

 

「あ、出た出た。ごめんなぁ急に」

 

 いつものゆったりとした声が通る。

 

「来週なんだけどさ、仕事終わりにどっか空いてる日ある?」

 

 仕事や作戦補佐の研修などの予定を思い起こす。

 

「火曜と金曜は大丈夫ですね」

 

「お、よかった。せっかく殻島くん来てくれたさかい、部隊の面子で歓迎会みたいなことしたいって話出たんよ」

 

「えっ」

 

 思わず画面の方に首を回す。

 

「そんな、悪いですよ。俺全部の任務に補佐付いてるわけでもないのに」

 

「まあまあ。この前のアネモスの任務でも私ら世話んなってもうてるし、それのお疲れ様会も含めて」

 

「そ、そうですか?じゃあ」

 

 誘いを無下に断るのも付き合いとしてよくないだろう。言葉に甘え、相伴にあずかることにした。

 

「また日程わかったら連絡するから」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「あ、ちゃんと唯も来るから楽しみにしといてな〜」

 

 しばしフリーズ。

 え?と聞き返したが、通話は既に切れている。振り返ると、電話口の篠山は笑いを噛み殺していたようにも感じられた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、殻島歓迎、アンドこの前のアネモス討伐ミッション大変だったねお疲れ様会ということで、乾杯!」

 

 野笠の音頭でジョッキが打ち付けられた。殻島が住む市の中央駅から10分ほど歩いた場所にある中華料理店に、野笠部隊の3名と共に来ている。会の趣旨がどうにも締まらないのは、この際置いておこう。

 

「リクはちょっと忙しいみたいでな。今日は来られないそうだ」

 

「みたいですね。俺も連絡もらいました。楽しんできてねって」

 

 「そのかわり」と野笠の肩に手を置いたのは篠山だ。

 

「隊長の奢りだから思いっきり食って飲もや!」

 

「まじですか、いただきます!」

 

 困惑の表情を浮かべる野笠を放置し、3人が好きな物を頼む。ほどなくしてウェイトレスロボが品を運んできた。

 

 小籠包や麻婆豆腐などの定番に加え、ツインテールの餡かけ、コサメクジラの肝炒めなど外惑星ならではのものもある。

 

「今日の仕事ってどんなでした?」

 

 麻婆豆腐を取り分けてくれた篠山に聞いてみる。

 

「午前は採用に向けた会議とか編成確認とか、まあ色々。んで午後は清掃」

 

「清掃」とは怪獣の死体処理の隠語だ。

 S4の仕事は怪獣との戦い一辺倒ではない。総務、経理、採用人事などの内部事務が上げられるが、他に調査地で討伐された怪獣の死体を解体専用の小型メカと協働で片付ける作業にも、多くのS4隊員が割かれる。規定で定められた一定規格以上の死体――モシリスでは全長14.5メートル以上、あるいは体重1500トン以上――と作戦室で推定されれば、次の任務や生態系時のために清掃が必要になる。

 死体はその場で爆破してしまうこともあるが、倒された怪獣の素材は貴重な資源となるため、多くの場合はニーズに応じて解体や凍結等の作業を行う。

 

「隣の市が人手足りないってことで、ちょっと派遣されてきたよ」

 

 篠山が傾けたビールジョッキは早くも底を尽きそうだった。

 

「正直、巨大怪獣の処理って下手な任務より大変じゃないですか?」

 

「大変っちゃ大変だけど、まあ何とかなってるわよ。死体の解体は小型メカのレーザー使えば簡単すぐにできちゃうし、S4の武器使えば私たちでもなんとかなるしね。んで、バラした部位は転送させて終了」

 

 すらすらと説明したのは隣にいた浦菱だ。

 

「でも、血とか内臓とか出るだろ。それはどうしてんの」

 

「血は凝固剤を投与してる。怪獣の血流や代謝が止まってても馴染む優れものね。まあ完全には固まんないんだけど。内臓は凝固剤を入れた後に切り出して、匂いが出る前にさっさと転送しちゃう。転送先で即座に冷却が脱水処理がされる、って感じ」

 

「まあ、テンション上がる業務ではないわなぁ」

 

 そうぼやく篠山に浦菱も「ですね」と同意する。

 

「今日のだって、本来は隣の市が解体を受け持つやつだったのに……」

 

「なんならデカい死体も怪獣が食ってくれれば楽なんやけど」

 

「S4が管理してる怪獣って、数体ですけどいましたよね。たしか冷凍処置で生け捕りにして、その後解凍が成功して調教できた個体。その怪獣が食べてくれたりとか」

 

「それはまだ研究段階やなぁ。まあS4の管理下にある以上、排泄物の処理もしなきゃで結局仕事変わらんな。特錬1桁の誰かが熱心に研究してた気ぃするけど」

 

 随分と手慣れた感じだ。野笠部隊は清掃を任されることが多いのだろうか。

 

 と思っていたのだが、「清掃は結構久しぶりだったんだけどね」と彼女に付け加えられる。予想に反していたようだ。肝の炒め物を飲み込んだ野笠が「そもそも」と繋げる。

 

「俺らの部隊は他に比べて、討伐任務が推奨される時が多いよな」

 

「そうなんすか?」

 

 怪獣の討伐任務というのは、面倒臭さどうこうは別として清掃や資源調査よりも難易度が高い。「理由とかってあるんですか」と聞くと、野笠はテーブルから身を引いて困ったような顔をした。しかし、直後に微笑んだのを見ると、地雷を踏んだ質問だったとも思えない。

 

「まあ、優秀だからかなぁ」

 

 右にいる篠山がわざとらしく首を傾けた。

 

 自画自賛に思わず笑うと、浦菱が「言っとくけど」と箸を向ける。

 

「冗談で言ってるわけじゃないかんね」

 

「お、おう」

 

「野笠部隊にはきちんとした実績があるんだから」

 

「おう」

 

 すみませんでしたの意を込めて小籠包を皿に置いてやると、浦菱は即座に口に運んだ。そして、悶絶。蒸籠から出したてなのだからそりゃそうだろう。

 

「中でも唯は飛び抜けて優秀だもんね」

 

 破顔した篠山の言葉に「ほんあほおはいへう」と本人は返す。「そんなことないです」と謙虚にいきたいのだろうが、口内の熱で涙目になっている姿を見る限り、謙遜でもなんでもなく本当にそんなことなさそうだった。

 

「たしかに、浦菱の働きは目覚ましいな」

 

 野笠もフォローを込めて同意する。

 

「S4の武器の中でもボードは扱いがかなり難しい部類に入るんだが、浦菱ほど使いこなせているのは珍しい」

 

「助かってるわホンマ。戦闘力でいったら、部隊一かも」

 

 先輩2人が浦菱を讃える。が、褒める口調で語られる彼女の姿は、あふあふ言っている今の姿と著しく乖離しているため、情けなさが浮き彫りにされているようでもあった。

 

「……大丈夫か?」

 

 最初に置かれていたお冷やを含み、口元を抑えてこくこくと頷いている。そんな浦菱を見て篠山はまだにんまりとしていた。

 

「ホント、かわいいなぁ唯は。だからさ、殻島」

 

 目線が移る。隠す気もなさそうなのに手を口の横に当ててついたてにした。

 

「優良物件やで。逃がさん方が吉や」

 

「…………はい?」

 

 声を出したのは浦菱だ。殻島はこの前の通話からもしかしたら、と思っていたがやはりだ。

 

 篠山さん、俺達が付き合ってると思ってるな。

 

「……え、なによこの空気は」

 

 的外れを感じ取ったのか、篠山は2人の顔を見渡す。浦菱も「どういうこと?」と疑問符を浮かべている。

 

――俺が説明しなきゃいけないのか?「先輩は、俺ら2人が交際関係だと勘違いしてますよ」って?勘弁してくれ。

 

そのやるせなさを汲み取ってくれたのか、野笠がこちらに目配せする。

 

「篠山はな、前からお前ら2人が付き合ってるって思い違いをしていてな」

 

「はあ!?」

 

 言い終わらぬうちに浦菱が叫ぶ。

 

「何考えてるんですか朋音さん!そんなわけないじゃないですか!」

 

「ごめ~ん」

 

「冗談じゃないですよ!」

 

「ごめ~ん」

 

 謝罪専用の機械と成り果てた篠山。だが「そんなわけない」だの「冗談じゃない」だの真横で言われている手前、新たに謝罪すべきは浦菱だろう。

 

「あ~あ。せっかく唯が交際相手をゲットしたと思ったのになぁ。歳も近いやん」

 

「応援してくれるのはありがたいですけど、何でもかんでもそういう関係に当てはめないでください」

 

「でも2人最近仲良いのは事実やろ?」

 

「共通の知り合いがいたってだけです。その共通点がなければ殻島は印象にも残りません。こいつ影も幸も薄いので」

 

 たまらず「おい」と食ってかかる。

 

「なんで関係の否定がいつの間にか俺への罵倒に変わってんだよ。なんだ影も幸も薄いって」

 

「だまらっしゃい。ああでも、傍から見て私たちが恋仲に見えたってこと、あんたにとっては光栄なんじゃない?私は不本意だけど」

 

 たしかに浦菱は綺麗な方だと思うが、この刺々しい口調が圧倒的に足を引っ張っている。

 

「俺だって不本意だね。せっかく料理があるんだから、減らず口叩く暇があるなら食えばいいのによ。小籠包いかがですか?」

 

「ぶっ飛ばすわよ。どうせあんた彼女できたことないんでしょ。女性経験少なそうだし。よかったわねえ私とおしゃべりできて」

 

「あります~。彼女いたことあります~残念でした~」

 

「泣いてんの?」

 

「泣いてねえよ」

 

 醜すぎる言い争いに、ついに先輩2人が吹き出した。篠山など、腹を押さえて爆笑している。

 

「ちょっと、朋音さんが発端でこんな話になってるんですよ!?」

 

「ご、ごめんごめ、あははっ」

 

 決壊した2人が収まるのはだいぶ先に思える。手ぶらを埋めるために半分ほど残ったビールジョッキに手をかけた。隣を見ると、浦菱もハイボールを口に運ぼうとしているところで目が合った。そして手を止め、こちらにジョッキを突き出した。乾杯を促している。

 

愉快な先輩達だな、本当。

 

きっと彼女も思っているであろう感想を杯に乗せ、静かにかち合わせた。

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