怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第35話 イニシエのプライド

 ゴモラの咆吼に、洞内は打ち震えた。その爆音は、壁や地面が叫んでいるのかと思うほど反響し浦菱に襲いかかった。

 

 想定外だ。まさか、モシリスに生息する怪獣の中でも屈指の問題児、古代怪獣ゴモラと遭遇するとは。

 

『野笠さん!』

 

 反響を退けるのは、全員のインカムに入るリクの声。

 

『決断してください!撤退して他の部隊と合流するか、3人でゴモラを討伐するか――』

 

 言い終わらぬうちに、ゴモラが突っ込んでくる。すでにこちら側は敵と認識された。腕を左右に開いた突進。迫る巨体が視野を飲み込んでいく。

 

「っぶな……!」

 

 必死で回避する。ゴモラが通過した場所の向こうに、野笠と篠山もいた。なんとか全員無事だったか。

 

「リク、後者だ。俺達で討伐する」

 

 野笠の言葉は揺るぎない。

 

「会ったのは初めてだが……ゴモラはシミュレーションで何度も戦ってる。他の部隊を危険に曝すのも避けたいしな」

 

「何より、背を向けて撤退できるほどコイツは甘くなさそうやし」

 

 同調した篠山は、こちらを一瞥する。

 

「唯、行ける?」

 

「もちろんですッ!」

 

 ボードに足を乗せる。噴気口が鳴ると同時に、気持ちも昂ぶった。

 

『――任務内容変更!ターゲット、古代怪獣ゴモラ!目標討伐!』

 

 殻島の声がインカムを震わせた。

 

『ご武運を祈ります!』

 

 もはや激励なのかがなっているのかわからない。

 

 そんなに、焦るなよ。

 

 ボードは地面を滑り、瞬く間にゴモラへと接近した。まずは足だ。歩く機能を奪う。40メートルの体高では、急所となる腹部や頭部に攻撃するのは難しい。篠山のライフルも致命傷とはなりえないだろう。ならば体勢を崩す。

 右足の方に流れようとエッジを立てた瞬間、再びゴモラが突進してきた。

 

「く――」

 

 少し驚いたが、ボードの機動力なら余裕で躱せる。左に流れ回避。突進をやめて息をつくゴモラに攻撃を仕掛けよう。より確実な攻撃方法でやるべきだ。

 が、振り返り瞠目。後方に進んだはずのゴモラは、再びこっちに向かってきているのだ。

 

「二連続で突進!?」

 

 ゴモラの右側に抜ける。今度はギリギリだった。すばやく向きを変え、変則的な突進の所以に気づく。ゴモラは洞窟の端まで進んだ後、休むことなく片足を軸にして180度回転。再び突進を行ってきたのだ。

 

(シャトルランみたいな動き……でも普通、この巨体でやる?)

 

 ノンストップの連続突進。それを繰り返すほどのバイタリティとスタミナ。やはり侮れない。

 とはいえ流石に息が切れたか、3度目で一度停止する。

 

「今度は俺が行く!」

 

 野笠が一気に距離を詰め、疲弊するゴモラの足下に至る。

 

「うおぉお!!」

 

 ガツン、と横薙ぎのハンマーがゴモラの脛とおぼしき部分にめり込んだ。

 

『ガゴオォオ!』

 

 効いてる。この隙に畳みかけねば。

 

 浦菱もボードを繰り、瞬時に接近。股下は太い尻尾が邪魔で抜けられない。ならば左だ。エッジを立て、足の外側をかすめるように移動する。野笠が攻撃した方とは逆の足を、力強く切り裂いた。

 

 硬い。が、手応えはあった。

 

 横目で確認すると、やはりゴモラは悶えている。そして、両の足に怪我を負ったためか、そのまま前のめりに倒れ込んだ。大チャンスだ。

 

「篠山さん!」

 

「オッケー!」

 

 地面に倒れたゴモラの頭は、既に篠山のライフルの射線だ。構えたまま移動、頭のやや左側から狙い澄まし、通常のエネルギー弾よりも強力なチャージショットを放った。

 仰け反る篠山のライフルから飛び立った光刃がゴモラの頭部を直撃し、小規模な爆発が起こる。どんな怪獣でも頭は弱点だ。今のクリーンヒットで仕留められたかと期待するが、流石に甘かった。

 

『ギャオオオオオォオオォオッッ!』

 

 うつ伏せに倒れたゴモラはジタバタと身をよじり、憤慨の雄叫びを上げる。

 

「あぁ!ダメだったごめんッ」

 

 謝罪する篠山だが、狙いは悪くなかったように見えた。ゴモラは頭部の角が人間でいう眉のあたりにせり出し、頭蓋骨と相まって硬い兜を成している。今の射撃では上手く目に打ち込めそうだったが、角を動かしたことにより阻まれたか。

 

 だが、自分のボードも野笠のハンマーも上手く決まった。痛みと傷で当分は起ち上がれないだろう。既に野笠は空いた腹部に攻撃を仕掛けている。反対側からショックマインを仕掛けようと、浦菱が足に力を入れた瞬間だった。

 

 ずん、と地面が軽く揺れる。ゴモラが地面に手を突き、ゆっくりと体を持ち上げていた。

 

「……え?」

 

 浦菱は急停止し、ゴモラの近くにいた野笠も数歩退いた。ゴモラはそのまま起き上がり、浦菱が攻撃した左足をまず地面に突いた。ぶしゅうと傷口から血が吹くが動きは止まらない。

 

「バカな、まだ起ち上がれるわけが」

 

 野笠の動揺を叶えるように、今度は右足も突き完全に状態を起こした。

 

『ッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアッッッ!!』

 

 そして、再度咆吼。もはや暴風と呼ぶべきそれは、近くにいた浦菱と野笠を思い切り吹き飛ばした。

 

「二人ともッ!」

 

 篠山が駆け寄る。怪我はどこにもないが、返事はできなかった。

 

「一体なんなんだ、こいつは」

 

 野笠が膝立ちで吐き捨てた。目の前のゴモラの行動は、異常という他ない。

 

 しきりに地団駄を踏んだかと思えば、壁に拳を叩きつけ、尻尾を四方に打ち鳴らす。その動きの度細かな岩が砕け、天井からぽろぽろと落ちる。崩落の恐れすら出てきた。野笠の言うとおり、足を深く負傷してまだ立てるはずがないのだ。だが目の前の個体は違う。

 

 もっと言えば、本来ゴモラには恐竜戦車と敵対する性質はない。が、地形上当初のターゲットであったヤツを殺したのは目の前のゴモラだろう。なぜそんなことをした。

 

 理由は何となく推察できる。眼前の個体は、壁や地面に無意味な攻撃を振るう。それほど、闘争心のやり場がないのだ。内から湧き上がる闘争本能は、恐竜戦車の体を引き裂いてもなお止まることはない。足の痛みなどそっちのけで、ただ叫び、壊し、殺したい。

 生物の生理欲求を外れた異常個体。自分たちが相対しているのはそれだ。

 

「なんか、変じゃない?」

 

 篠山の震えた笑いが異変を知らせた。

 

 ゴモラは攻撃をやめたかと思うと、その場にうずくまる。立ったまま、しかし腹部を画すようにして前屈みになると、ぶるぶると震えだした。

 いや、これは痙攣か?

 

『3人とも逃げてください』

 

 リクが命じる。

 

『早く!』

 

 リクの言葉はもっともだ。だが、ゴモラから目を離せない。あり得ないことに、ゴモラの肉体は徐々にオレンジ色の光を帯び始めているのだ。

 

 今、自分はとんでもないものを目の当たりにしている。普通ではあり得ない、何か超常的な――。

 

 ゴモラが、腕を開いた。同時に、太陽がその場に現れたような熱と光が襲いかかる。

 

「ぐぅうッ……!」

 

 やがて止む。3人はおそるおそる顔を上げた。

 

「…………え?」

 

 皆が皆、目の前の光景を信じることができなかった。ゴモラの姿が、変わっている。

 

 まずは大きさ。体長は一回り大きく、腕も足もよりがっしりと膨らんだ。色は茶色から焦げ茶へと変化し、薄暗さを味方に付けている。腹部の突起はさらに前方に突き出し、棘が鱗状になった幾重にもひしめきあう。加えて腕や足にもそれまでなかった棘が伸び、全身が武器になったのだと知る。極めつけは、あの尻尾。あそこだけ1.5倍以上に伸びているように見える。異質な発達だ。表面も鱗が逆立ち、先端は細く収斂する。目は瞳孔を失って白濁し、口に生えそろう牙も特徴的な三日月角も先ほどより長くなった。

 

「冗談だろ」

 

「はは……マジでいるんだ。ほんま最悪」

 

 ゴモラの形が変わった。一瞬にして、より凶悪に。

 

 この変態を、浦菱は知っている。非常に低確率で起きる、ある種の進化。解明はされていないが、過酷な環境で天敵を退けるため、あるいは敵を蹂躙し縄張りの覇者となるため、怪獣が一身で異常な形態変化を遂げる場合がある。

 顔がこちらを向いた。白目なのに、視線が注がれていることがわかる。怒りの目、帝王の風格。

 

 EXゴモラは、自身の誕生を祝して眼前の獲物に襲いかかった。

 

 こちらに向かって突進してくる。工夫のない猪突猛進が、これ以上ないほど恐ろしい。右に避けると素早く反応、今度は肥大化した手を横薙ぎに振り、叩き飛ばそうとしてくる。爪が地面に触れ、深い跡を刻んだ。かと思えば、今度は反対側に避けた篠山を押しつぶすように倒れ込む。

 

「篠山さん!」

 

「だいじょぶ、避けた。ギリだけど」

 

 息を切らした返事がインカムに伝わる。EXゴモラはすぐに起き上がると、再び地面を殴り始めた。

 

 無軌道で予測不能。そのくせでかくて素早い。

 最悪だ。戦いにくい要素が揃っている。

 

『3人とも!』

 

 再びリクから通信が入った。

 

『洞窟から出ろ!サポートメカを要請した!』

 

「サポートメカ……!」

 

 強力な怪獣が出た時のみに発動される、切り札的バックアップだ。

 

『EX進化個体って本部に報告したら二つ返事で来てくれるってさ。ジェットビートルとマットアローそれぞれ一機ずつだ。洞窟内じゃ戦闘機は動けない。何とか外まで引きずり出してくれ!』

 

「了解ッ!」

 

 3人の声が揃う。EXゴモラをおびき寄せつつ、洞窟の外に出る。

 浦菱は野笠・篠山と合流し出口を目指す。が、一度目を付けた怪獣がそう簡単に逃げさせてくれるわけがない。振り向かなくても、地響きで接近しているのがわかる。

 

「ここは私が」

 

 浦菱は2人を先に行かせた。ボードは全ての武器の中で最も機動力に優れている。しんがりを務められるのは自分しかいない。

 

 踏み潰されない瀬戸際のラインまで後退。見上げればEXゴモラの顔が拝めるようなギリギリの地点で、ショックマインを発動する。

 

 地雷がボードの底部から取り外されたのを確認して、浦菱は前方にボードを操作した。EXゴモラがその地雷を踏み抜いた瞬間、足下を中心に爆発が巻き起こる。

 

 ショックマインは時限式の爆弾だが、大きな刺激を受ければその時点で爆発する仕組みだ。

 

「グオオオオォォオオオオオオオ!!」

 

 煙が腹部まで巻き上がっている。クリーンヒットだ。

 

(あッッぶな……!)

 

 あと何秒遅ければぺしゃんこだったろうか。寿命が縮んだが、その甲斐あってこちらを追う足は如実に遅くなった。

 

「浦菱、大丈夫か!」

 

「ええ、なんとか決まりました。まだ追ってくるでしょうが、距離は離したはず」

 

 必死の思いで洞窟から抜け出る。出口から距離を取って3人は散開。EXゴモラを待ち構える。

 

「思ったんやけどさ、あのデカくなったゴモラじゃ、この穴抜けられないんちゃう?」

 

 出口右手で構える篠山がインカムを通す。

 

 言われてみればそうかもしれない。穴の高さはおそらく、進化前のゴモラがかろうじて通れるかどうかという程だった。体格が増し、棘も生えたEXゴモラを外におびき出すのは、物理的に不可能だったのではないか。

 が、洞内から徐々に近づく音がある。地響きと、摩擦音だろうか。硬いもの同士が擦れ合う音が、着実と大きくなってくる。

 やがて、EXゴモラが出口から飛び出した。躯体が星空の下に現れるにつれて、大小細かな岩石の破片がはじけ飛ぶ。それらはおそらく、洞内で通ってきた道の外壁だ。たしかにEXゴモラがそこを通るには狭すぎた。だが。

 

「無理矢理こじ開けて這い出たってわけ……!?」

 

 その隘路を、EXゴモラは自身の体で強引に掘削して進んできたのだ。道が狭ければ広げる。刃向かう者があればどれだけ小さな命であろうと蹂躙する。進化を遂げた超生物のみに許される、孤高の行進。

 

 白い眼光が浦菱を射貫いた。

 

 次は、私たちか。顔を歪める浦菱だが、次の瞬間、EXゴモラの顔が爆撃によって遮られた。何か、ビームの様なものが顔に当たったのを見た。

 

「まさか――」

 

 空を見上げる。無数の星の輝きが散らばる空に、2つの影。見間違えない。あれはサポートメカ、ジェットビートルとマットアロー1号だ。

 

「随分早いわ。リクには頭上がらん」

 

「それだけ緊急事態ってことなんだろう。とにかく距離を取れ!巻き添えを食らうぞ!」

 

 野笠の命令で再度EXゴモラから離れる。なんとか戦闘機で倒せればいいが。

 

 ジェットビートルとマットアロー1号は、EXゴモラの上空を旋回。気を引き、しかし攻撃は届かない距離を、絶妙なコンビネーションで飛行する2機には驚嘆した。射撃も闇雲ではなく、防御が薄そうな首正面や足を狙っている。それでもかなり硬質だろうが、ダメージは通っているはずだ。

 

 拳を握る浦菱の前で、EXゴモラはやにわに姿勢を変えた。腰を落とし、体をねじる。

 

 防御の体勢か?いや、違う。

 

 その状態でピタリと止まったかと思うと、瞬時に体を反対側にねじった。その瞬間、EXゴモラの長く発達した尾がうねり、上空に向けて真っ直ぐに突き出された。貫いたのは、旋回していたジェトビートル。

 

「あッ――」

 

 18メートルを超えるS4随一の戦闘機は、機体の幅を超す直径の尻尾に穿たれ爆発した。尾は方向を変え、今度はマットアロー1号に襲いかかる。上に伸びた状態から振り下ろされる尻尾はさらに長さを増したように見え、先端部分でマットアローの翼を完璧に切り裂いた。紙飛行機ほどの安定性もなくなった機体は地に落ち、火柱となる。

 

「嘘……」

 

 倒せなかった。サポートメカをもってしても。

 何より尻尾が厄介すぎる。独立した生物なのかと思うほど自在に動くあの尾は、あまりに強力な武器だ。洞窟内では長さのあまり窮屈そうだったが、外に出たことでアドバンテージとなってしまった。

 逃げるか。いや、ダメだ。仮に逃げられたとして、EXゴモラの破壊衝動が居住地に向いたら。市外縁の砲撃でも防げるかわからない。少しでも自分たちで食い止めなければ。それは野笠も篠山も認識している。

 

「でも、どうすれば」

 

 EXゴモラはまた姿勢を変えた。体を丸め込み、手で何かを抱え込む仕草。すると、腹部のあたりにピンク色の怪しい光が凝集しているのが見える。

 

「来るッ――」

 

 EXゴモラは手を開き、腹を突き出す。その瞬間、怪光は腹部から連続で放たれた。狙いなどない、絨毯爆撃のような連射は、景色が霞むほどの土砂を立ち上らせた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「――お願いします!場所は示しますからこちらの部隊の応援に回ってください!」

 

 殻島はリクの指示で、近場の調査地に出撃している部隊のオペレーターに連絡していた。EXゴモラは、明らかに野笠部隊の手に余る。そう判断し、指示したリクもまた別の部隊に掛け合っている。なんとか同意を得たいが――。

 

『無理ですよ!』

 

 通話相手の中年女性とおぼしきオペレーターに突っぱねられた。

 

『こっちだってバリヤー怪獣ガギと交戦していて苦戦してるんです!』

 

「EX進化個体なんです!このままだと俺らの部隊の隊員が――」

 

『こっちだってギリギリで……悪いですけど余裕がありません!サポートメカを頼ってください』

 

「もう撃墜され……」

 

 反論の前に通話は切られた。とりつく島もなかったが、当然のことだろう。別の隊の援護に簡単に回れるほど、調査地任務は暇ではない。

 

「クッソ!」

 

 左に座るリクが声を荒げる。

 

「ダメでしたか?」

 

「ああ、採取任務の部隊に声を掛けたが……野笠部隊とは経験も力量も違いすぎる。経験の浅い部隊をわざわざEXゴモラに向かわせられない……!」

 

 加えて障りになっているのは、野笠部隊の強さだった。

 

――野笠部隊の皆はこの基地の中じゃかなり優秀な方だし。

 

 リクのその言葉に、自分も「力量に不安はない」と答えた。野笠部隊が経験・実績ともに優れているがゆえに、苦戦しているという状況がより重く受け止められる。

 野笠部隊で勝てない相手に、野笠部隊より練度が低い部隊を向かわせられない。向かわせたとして、戦力も士気も期待できない。しかし現状、その「野笠部隊より練度が低い隊員」の方が多いのだ。

 

(どうするッ……!?)

 

 訓練中・事務業務中の隊員に依頼するか。いや、編成に時間がかかる。現にサポートメカ出動案件になっている時点で依頼は行われているはずだが、まだ出撃に至っていないのだ。

 清掃――怪獣の遺体処理部隊は、間が悪く野笠部隊から近い位置にいない。

 

(どうすりゃいい……!?)

 

 先ほど、インカムから悲鳴が聞こえた。ほんの数日前、酒場で馬鹿話していた人の悲鳴を、なんで聞かなきゃいけない。

 

なんで離れた場所で聞いている。

 

なんで。

 

椅子を弾くように立ち上がった。

 

「おい」

 

 リクの声を背に受けつつ、作戦室の扉へ向かう。

 

「おい!」

 

 リクに肩を引かれた。

 

「何しようとしてんだ!」

 

「俺が出撃します」

 

 意志を率直にぶつけた。リクは口元を震わせている。

 

「何を……」

 

「それが確実でしょう」

 

「バカか!」

 

 肩を掴んだ手がそのまま、襟元を絞り上げる。

 

「この前のアネモスとは訳が違えぞ」

 

「わかってます。だからこそ向かわないと」

 

「お前が行くくらいなら俺が行くよ」

 

作戦室(ここ)に残った俺はどうすればいいんです?ペーペーの俺じゃ本部との連携がまともに取れません」

 

「死ぬ可能性が高い!行かせられるか!」

 

「危険は承知の上です。前も行ったでしょう!」

 

「承知の上ならなおのことダメなんだよ!」

 

 リクの口調は、人が変わったように荒くなっていた。

 

「俺は誰にも死んでほしくないんだよ。野笠も、篠山も、浦菱ちゃんも……君もだよ」

 

 胸ぐらを掴む手に一層力が込められる。

 

「そのためのオペレーターだ。そのための俺だ。野笠らには死んでほしくない。でも、みすみす新人を死地に向かわせる決断も絶対にしない!」

 

「それは俺だって同じだから出撃しようとしてるんでしょうが!俺だって……俺だってあの人達に死んでほしく――」

 

 言いかけて、言葉が詰まった。小さな違和感を覚えている。己の思いと言葉の間の差異。

 

 自分は。

 

「いえ」

 

 殻島は落ち着いて、しかし強い意志をもって声を張った。

 

()()()()()()()()あの人達を、絶対に」

 

 リクは目を細め、やがて項垂れた。

 

「5分だ……」

 

「え?」

 

 リクの手が、するりとシャツの襟から離れる。

 

「5分で到着しろ。皆を、助けてくれ」

 

「――了解」

 

 自動ドアを破る勢いで作戦室を出た。切り替わったスイッチが、殻島を突き動かしていた。

 

 

――――――――――

 

 

「篠山さん!」

 

 浦菱は呻く篠山のもとに駆け寄る。腹部からの怪光弾をもろに食らって苦しそうだが、なんとか意識はあった。

 

「あっはは……あかんな、この状況」

 

 身を起こした篠山の視線の先に、EXゴモラがいる。距離は遠く離れたが、注意はまだこちらに向いている。身を低くかがめた姿勢は、こちらにむく目線をより鋭く、剃刀のような形にしていた。

 

「2人とも!」

 

 野笠も合流する。回避で手一杯の状況に、肩で息をしていた。

 

 応援は見込めないのか。いや、リクは必死に手配してくれているはずだ。その応援が来るまでの時間すら、自分たちは稼げていないということだろう。サポートメカが撃墜されてからまだ数分しか戦っていない。その数分で、EX進化個体の力量をありありと見せつけられた。怪獣討伐にそれなりの熟練度と自負があった野笠部隊の面々すら、疲弊し心が折られかけていた。それほどまでに、強い。

 

 EXゴモラが尻尾を持ち上げる。剛健な尾は空中でぐにゃりと曲がり、先端が浦菱ら3人の方に向く。まるで狙い澄ました銃口のように。あの尾は伸縮性がある。離れていても、先端はここまで届くだろう。

 

「避けないと――」

 

 間に合うのか。ここで回避したとして、誰かが犠牲になるんじゃないか。そもそもあの攻撃は避けられるほど遅いのか。

 目の前の脅威に思考が輻輳し、溢れる。

 

 尻尾がわずかに後ろに引かれた。来る、と思った時には既に突き出されている。先端が、まっすぐにこちらに向かってくる。視力が追いつかないほどの速度で標的を貫く尻尾。銛、いや、打ち出されたスピアのような。

 

 その攻撃を、横から出てきた別の影が遮る。影は剣を持っていた。男だった。見たことのある背中だった。

 

 なんで。

 

 浦菱は思った。

 

 何であんたなんだ。何でここに来た。その自信は、どっから来るんだよ。

 

 浦菱は見た。現れた人影――殻島勇玖が、突っ込んでくる尻尾のわずかに左にブレードを滑らせ、受け流すのを。

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