怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

37 / 101
ご覧いただきありがとうございます。

全話からの設定であるメテオールアーツ、およびコンボ・リンクについて、原作のゲームとは大きく異なる内容であったため今回の話で注意事項として書かせていただきます。特に大きく異なるのがリンクであり、原作ではいわゆる一揃いの怪獣防具を装備した際に得られる攻撃力・防御力上昇、状態異常無効など、いわゆる「スキル」的なものでした。

一方星征大乱におけるリンクは前話のとおり「特殊能力発動」的なものとなっています。

原作の内容とズレるなんてあまりに今更すぎる注意喚起ではありますが、ゲームとしての思い出が強い作品なので念のため。

よければ37話もよろしくお願いします。


第37話 地表に立つ

 篠山は常に他メンバーを視界に収めながら戦う。野笠、浦菱、殻島。戦場を駆ける3人の前には、常に半透明のバリアがくっ付いて回る。

 

(よし、全員守れてる)

 

 EXゴモラの体には傷が増え始めている。疲労のためか、異常な早さ治癒機能も接触当初と比べれば目に見えて遅い。

 

 潮目が変わり始めていた。

 

「勝てる!」

 

 優勢を人間側に引き込んだ要因。それは間違いなく、篠山のメテオールアーツの使い方だった。

 

 攻撃を受ければ受けるほど、自身や見方の周りに防御バリアを張ることができる。篠山はこの特性を瞬時に理解する。

 篠山は囮になりながらほどよく攻撃を受ける。そのダメージの蓄積をバリアに変換、地震とメンバーに展開していた。メンバーはバリアのおかげでほとんどダメージを受けることなく攻撃ができるようになった。もはや篠山しか視界に入っていないEXゴモラならば隙も多い。

 

 鬱陶しさが限界に達したか、EXゴモラは体を丸め込み、再び怪光弾を周囲に放つ。体の向きを変えながら全方向に光をまき散らした。人間にとって、最初は被弾を恐れ、距離をとる選択肢しか無かった。が、今は違う。

 

 野笠、浦菱、殻島は光弾をいとわず標的に突っ込んでいく。篠山から託されたバリアは被弾の恐怖を取り払い、特攻じみた突撃を可能にした。立つ上がる砂煙を破って、まずは殻島が尾の根元を斬りつける。気をとられた隙に野笠がハンマーで、浦菱がボードで左右の足を攻撃した。

 

「唯、野笠、どう!?」

 

 篠山は手応えを訊く。今の攻撃で体勢を崩してくれればよいが。

 

「くッ……まだ倒れません!すみませ――」

 

「大丈夫!」

 

 謝ろうとする浦菱を励ます。

 

「またバリア張ったるから!怖がらず行き!」

 

「でも」

 

「安心しな。時間はまだ余ってんで」

 

「そうじゃなくて……!」

 

 心配そうな顔の浦菱の前に、再びバリアが現れる。

 

 篠山は先ほどの怪光弾を避けていない。2発ほど食らったが、その分のダメージでまたバリアを生成できた。

 

(今バリアが失せとるのは……殻島やな)

 

 篠山は一直線に駆け出す。バリアを渡すために、もう一発ほど食らっておいた方がいいだろう。今度は足を止め、EXゴモラの目の前で垂直に跳躍する。今の装備なら、EXゴモラの顔にまで届きそうだ。

 

 目の前に忌まわしい小人が跳んできたら、当然EXゴモラは上からはたき落とす。叩かれた衝撃と地面にめり込んだ衝撃が、ほとんど時間差なく襲い来た。

 

「ぐッ……あ」

 

「篠山さん!」

 

 叫び声が耳に届いた。誰が発したのかはもはやわからない。

 

 手を翳し、殻島にバリアを供給する。ほぼ同時に、今度は足で蹴飛ばされた。

 

(私が囮になっても、他の3人のバリアはガンガン削られる。それだけ強いっちゅうことか)

 

 笑う膝でなんとか立ち上がる。

 

(自分のために使うバリアは……なさそうやな)

 

 篠山は既に自身の防御を捨てていた。ただ仲間に防壁を与えるために、みずからはEXゴモラの怒濤の攻撃を受け続ける。

 

 キングザウルス三世のメテオールアーツを使う以上、装着者には過酷な義務が生じる。少なくとも「仲間を死なせない」ということに重きを置いた場合、発動者は攻撃を食らいながらも倒れてはならないという点だ。

 発動者はバリアを蓄え、同部隊のメンバーに供給する「盾のサーバー」となる。気を失ってもいけない。逃げてもいけない。仲間を優先するなら防御してもいけない。

 ただ一人いけない尽くしの立場に置かれながら、最後まで戦場にかじりつく必要があるのだ。敵が地に伏すその瞬間まで。

 

 上から尻尾が振ってくる。篠山は意図的にその場に留まった。

 体が押し伸ばされるのではと思うほどの圧が全身を襲う。

 

(ああ、ほんま、なんなんや)

 

 バリアを生じさせていなくても怪獣の装備であるため防御力は非常に高い。だが、所詮は人間が身につけている装備だ。20倍以上の全長の怪獣に殴られ、蹴られ、光線を浴びて、装着者が無傷なはずがない。

 

(ほんま、この装備はなんて――)

 

 意識が途切れ途切れになる。目の奥で絶えず火花が散り、眼前のEXゴモラが二重に見える。

 

 痛い。苦しい。そして。

 

(なんて、うってつけの性能なんやろう!!)

 

 嬉しかった。この痛みは、皆を守れている証拠だ。この装備のおかげで、自分以外は安全に戦うことができている。

 

 篠山にとって己の身はどうでもよかった。ただ、大切な仲間への危険が少しでも軽減されるように。それだけを願っていた。キングザウルス三世の装備は、その願いを苦痛と引き換えにどこまでも先鋭化させる。だがその残酷な特性すら、篠山は幸運だと思っていた。

 

 灰色がかった視界でEXゴモラを捉える。凹凸の激しい背中がこちらを向いていた。

 まさか、自身以外に注意が向いているか。いや、違う。

 

 右から迫り来る、長大な尻尾。

 

――ああよかった。ちゃんと私を攻撃している。

 

 あれを食らえば、相当のインパクトなはずだ。より強力なバリアを生むことができる。食らっても大丈夫なのか。意識を保てるか。死にはしないか。

 

 馬鹿げた自問自答だと篠山は思った。意地でも生きるんだ。皆を生かすために。

 

 腕でクロスを作り、衝撃に備えたその時。3つの影が現れたかと思うと、尻尾の前で止まる。

 篠山は絶句した。野笠、殻島、そして浦菱が各々のバリアで尾の一撃を防ぎ、篠山が食らうはずだった攻撃を押しとどめていた。

 

「皆、なんで――」

 

「篠山ァ!」

 

 野笠が尾をその場に押しとどめながら叫んだ。

 

「決めろ!!」

 

 刹那で、3人の狙いを理解する。

 

 腰に提げていたライフルを握る。EXゴモラには牽制にしかならないと使っていなかった得物。引き金に力を込め、チャージしたまま駆ける。EXゴモラの顔がしたから覗ける位置に到り、下から頭部に照準を合わせた。ライフルのバイザーが甲高い音を立てる。もはや狙う必要はない。ロックオンできた。

 

 野笠らの狙い。おそらくは、()()()()()。篠山が優先して他メンバーにバリアを与えたおかげで、篠山以外の防御が強化された。そのため今度は、他の3人が盾となることができるようになったのだ。

 

 EXゴモラは完全に篠山に引きつけられていた。篠山も強烈な反撃はしなかったため、ただのしぶとい人間という認識を植え付けている。

 

 それは人間によって作られた認識。EXゴモラが見ていた戦いの世界。それを、根底から。

 

「ひっくり返したるからなァ!!」

 

 S4のライフルが放つ最大威力のチャージショット。それは弾倉がフル充填の状態のみ可能で、全てのエネルギーを使い果たす。

 

「喰らえ!!」

 

 人類の強さとは、怪獣に傷を付ける武器を開発する科学力か。巨体を斬り伏せる強力か。それだけではないだろう。貫く盾と防ぐ矛を瞬時に入れ替える機転。

 

 その鮮やかな変わり身を、裸の王は予測できない。

 

 銃口で光が爆ぜ、膨れ上がったエネルギーの玉が5つに分裂した。フルチャージショットの威力は一発では収まらない。しかし散弾のように放射状に飛ぶのではなく、事前にロックオンした5箇所に着弾するようになっている。もっとも篠山は、全てを頭部に定めた。

 

 飛び出した光の弾はミサイルのような軌道を描き、立て続けにEXゴモラの顔へ向かう。最初の2発をEXゴモラは厚い手で受け止めたが、その代償に右手の小指から中指ははじけ飛んだ。残りの3発は頭部、それも右目の部分に集中して炸裂した。

 

 真っ黒い爆煙。それを叫び声が吹き飛ばす。EXゴモラは、けたたましく鳴いた。

 

――みんなは。

 

 篠山は尻尾の方に視線を移す。攻撃は中断されたのか、3人は無事だった。

 

 ただ苦痛の絶叫が響く。両手で頭部を覆い、弱々しく足踏みを2歩3歩。ぐらりと傾く、その巨体は。

 

 倒れない。

 

「ウッ……ソやん」

 

 後ずさり、血を流し、もはや限界に見える。しかし、EXゴモラが2本の大足で立ち続けているのであれば、それが結果だ。

 倒せなかった。

 

「く……」

 

 篠山が地面に膝をつく。足が重い。腕も、頭も武器だけは取り落とさぬように力を込めるが、震えている。

 

「はあ、はあ、は――」

 

 メテオールアーツの時間切れ。

 

 通常の戦闘をはるかに超える思考と活動を強いるS4の秘中の秘は、使用後に極度の疲労を感じる隊員がほとんどだった。

 

 首だけを上に傾ける。篠山を睥睨するのは、片割れを失った眼光。目線はそのまま、尻尾を高く掲げ、こちらにむけて突き出された。

 瞳を閉じる、という反応すらできない。

 

 死んだ、と思った瞬間襟首を掴まれそのまま後ろに引っ張られる。

 

「う……!?」

 

 尾が地面に突き刺さり地震を起こす中、「しっかりしろ!」という声が視界に色を取り戻させた。

 

「野、笠?」

 

「生きてるか、生きてるな。次で決めるぞ!」

 

「次って……」

 

「若い2人に託す。悪いが年長者は囮だ。いいな」

 

 首が楽になる。野笠の奥を見やると、殻島と浦菱が駆けていくのが見える。

 

 野笠は託す、と言った。ならば2人は逃げているのではない。とどめを刺すための配置につくはずだ。彼らに、繋いでやらねば。

 

「……先輩ってのは荷ィ重いわ」

 

 膝に手をついて立ち上がった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「浦菱」

 

 殻島は浦菱の上から手を差し伸べた。彼女は今、截然とした岩壁をよじ登っており、あと2度ほど手をかければ頂上に辿り着く。

 浦菱が握り返す。ぐいと引き寄せると荒い息をつきながら頂上の平らな岩に足がついた。

 

「ありがと」

 

「おう」

 

 ここはEXゴモラ、いや、ゴモラが潜伏していた岩山だ。2人はここをよじ登り、なんとか上まで辿り着いた。

 

 先ほどの野笠の指示は「あの岩山に登ってとどめを刺せ」というものだった。篠山が危機的状況に陥っていた手前、それ以上の作戦は仰げていない。

 

「休んでる、場合じゃない」

 

 浦菱は息を整え、野笠と篠山の様子窺うため掛けの反対まで駆けた。これまでの戦い、自身の武器であるボードを背負って登ったためか、足取りには繕いきれない疲労が見て取れた。S4のグローブは登攀(とうはん)を視野に入れており、アイゼンのような爪を出し入れできるが、決して楽なルートではなかった。

 

「どうだ?」

 

 殻島も早足で向かうが、見えないうちに「まずい!」と浦菱が叫んだ。

 

 頂上の縁に足をかける。高さで言えば、EXゴモラは10メートルほど下か。すでにこちらに近づいている。野笠と篠山が引き寄せてくれたのだろう。

 その肝心のふたりだが、足下でギリギリの回避に徹している。特に篠山。

 

「もう限界だ……!」

 

 メテオールアーツを使ったからだろう。足取りすらおぼつかない。それでも懸命にライフルを構え、残弾を使い果たす勢いで牽制を続ける。野笠も注意が分散されるようにハンマーを振るい続ける。しかし、やはり2人では完全に対処しきれないのか、手負いのEXゴモラになかなか攻撃が当たらない。

 

 2人が死ぬのは時間の問題。それを殻島と浦菱は同時に察した。

 

「……俺が決める」

 

 ブレードを抜く。浦菱の顔が瞬時に向いた。

 

「決めるってどうやって!?」

 

「篠山さんがEXゴモラの片目を奪ってくれた。ヤツの目の所には硬い角がくっついてて邪魔だったが、今ならブレードでも攻撃が通る」

 

 顔の上半分を守る兜のようだった角は、篠山のチャージショットで右目側が大きく破損している。

 

「あそこにこれを突き立ててやるよ」

 

「そんな作戦とも呼べない策で……外したら!?刺さっても殺せなかったら!?」

 

「そのためのお前だ」

 

 視線を逸らさず返す。

 

 浦菱ならやってくれる。一人では満たせない部分補って満点を叩き出す。その確信が、殻島にはあった。

 殻島は背後10歩ほどに陣取り、腰を落とす。助走の姿勢だ。

 

「殻島!」

 

「……絶対無駄にしねえ。みんなの戦いは、絶対」

 

 駆け出し、歩幅を調整。頂上の縁わずか手前で踏み切り、走り幅跳びのように宙に身を投げ出す。距離は短かったが、跳べた。

 

 上からの強襲者に、EXゴモラは気づいただろう。こちらに目を向けた。白濁した左眼、そして、崩れた右眼。いや、眼球はすでにない。血塗れの中、頭蓋の内部を晒してしまいそうなほどの歪な穴があるだけだ。

 

「おおおォ!」

 

 その穴が狙いだ。大丈夫、真っ直ぐ向かっている。EXゴモラも反応できていない。血の塊に体がぶつかると同時に、ブレードを握った右手を突き出した。ストレートパンチとほぼ同じ、真っ直ぐ力を伝えた剣は、本来右目が収まる場所、その奥に突き立つ。ずぶ、と深いところまで入った感覚があった。

 

――ギャアアアアアアアアオオオオオオオオアアアアアオオアアッッッ!

 

「あああああああアアアアア!!」

 

 爆音は耳を通り越して、脳まで直接痛めつける。すぐ下で吼えているのだから当然だ。EXゴモラの絶叫をかき消すように殻島も叫び、凹凸のある眼窩底と鼻のあたりで踏ん張って立つ。

 

 右手で刀身元を握り、左手で柄頭を押さえつける。刺した部分から徐々に押し込むつもりだ。

 

「うううううあああぁあぁああッッ!!」

 

 このまま脳まで到達させれば死ぬ。巨大で凶悪な鼓動を止めるまで、もう1メートルもない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

 腕の腱が切れるそうなほど、柄頭が手の平に食い込み貫くのではないかと案ずるほど、全身全霊をもって刃を押し込んでいく。EXゴモラの咆吼は「やめろ」と言っているようだった。

 

 効いている。あと少し、あと少しなんだ。

 

 ぐら、と足場が揺れた。視界の斜め下から、EXゴモラの手が向かってくる。突き刺してきた憎き人間を取り払おうとしている。

 

「く――」

 

 すぐにEXゴモラの鼻面から跳ぶ。ブレードは刺さったまま。

 まだ討伐まで至っていない。まだEXゴモラは生きている。

 まだ。いや、もう終わらせてくれる。

 

 空振りした腕の向こうから飛翔する影。ボードを携えた両足を曲げ、体を縮めた姿がいまだ暗い空を通っていく。

 

「浦菱ィ!!」

 

 落ちながら、殻島は呼んだ。

 

「叩きこめ!!」

 

 遠くなる彼女が、ボードの底を突き立った剣の柄頭に触れさせる。

 

「ショックマイン、起動!」

 

 ほぼ同時に、ボード底部で爆ぜる光。時限式爆弾のショックマインをブレードに当たるようオンにしたのだ。

 

 再度、爆煙が頭部を覆う。

 

「やべえ」

 

 地面が近づいている。殻島は体の向きを替えなんとか着地した。S4スーツでも衝撃を殺しきれず、足にびりりと痛みが走る。

 その横に浦菱も着地する。立ち上る砂煙の中でゆっくりと立ち上がった。

 

 背後にはEXゴモラ。その影は立ったまま。しかし、2人は背後に一瞥もくれない。

 

「やるじゃん」

 

 殻島が笑いかけた。

 

「頼って正解だ」

 

「頼ったっていうか丸投げじゃないの」

 

 EXゴモラの影がぐにゃりと揺れる。煩わしかった咆吼はもうない。

 

「いや、俺ちゃんと剣刺したんだけど」

 

「とどめは私。異議ある?」

 

「……ございません」

 

 殻島は見た。ショックマインの爆破。その勢いによって突き立っていたブレードがさらに押し込まれるのを。浦菱が最後の一太刀を叩き込んだ瞬間を。

 

 影は低くなっていく。巨体が傾いていく。

 

「まあ、あんたにしてはよくやったわよ。結果オーライ」

 

「結果オーライか」

 

 EXゴモラが倒れ、大地を揺らす。

 

「いいね、そりゃどうも」

 

 殻島と浦菱は、揃って薄く笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。