怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第47話 生殺与奪

「今回君たちが担当する任務は少々特殊なものとなっている」

 

 在籍する基地の一室に集められた浦菱と佐納は、次の任務の説明を上官から受けている。作戦室よりも広い、諸々の目的に利用される集会部屋だ。彼女らの他にも3名で構成された部隊が4つ、12名が室内にいた。

 

「概要だけいってしまえば巨大怪獣の討伐任務だが、いつも行っているものとは異なり、『S4が管理している怪獣』の討伐だ」

 

 話を聞いていた隊員のほとんどが表情に困惑を浮かべる。浦菱と佐納も同様だ。

 

「S4が管理している怪獣というのは、たしか冷凍保存で捕獲された個体ですか?」

 

 端の隊員が尋ねると、上官は「そうだ」と首肯する。冷凍保存で捕らえられた個体。そういえば、篠山との話で少し話題に上がったのを思い出す。

 

 いまだ途上、それも初期段階ではあるが、S4は怪獣の捕獲および生きたままでの利用を試みる研究も行っている。

 手順としては、まず『転送キット』という数年前開発された最新兵器により、弱体化した怪獣を瞬時に凍結する。ちょうど遠隔式の爆弾のようなもので、地面に設置し、怪獣を巻き込むように起動すれば強烈な冷気が生じるのだ。

 その後慎重な手順を踏み、生きたまま解凍できれば、飼い慣らすフェーズに入る。沈静化から命令の把握、それに従って行動させられれば、この試みは成功といえる。

 が、いずれも困難であり、成功例は乏しいと聞く。

 

「特錬8位の武蔵川(ムサシガワ)隊員が研究と利用促進を試みていたが、管理個体のうち一体のネロンガが凶暴化の傾向にあるんだ。もともと捕獲した時点でやや老齢だったが、今以上の利用も調教も難しいという結論が開発戦略部で下されてな、君たち隊員側で処理をしてもらう」

 

 つまり、殺処分ということか。

 

「あの、どうしてモシリスで?」

 

 次に尋ねたのは隣にいた佐納だ。

 

「管理していたのはモシリス(このほし)じゃなかったと思うんですが……」

 

「もともとは、経過観察のために隣の星の『イメル』基地で管理されていた個体だ。今回は討伐後、素材を用いたいと研究部から要請がきている。モシリスは襲撃を経て、全体的な設備強化の流れがあるだろう。ネロンガの素材はおおかた、今後モシリス防衛にあたる隊員に提供されるかもな。……あとは武蔵川隊員の意向もあると聞いているが」

 

「研究されていた方ですよね」

 

「今回処分する個体は、もともとモシリスで捕獲した。眠らせるのもこの星にしてやりたいだそうだ。弔ってやりたいという心境だろう」

 

 上官の顔は苦々しさと呆れが広がっている。常日頃何十何百と殺してる怪獣に弔いという概念が生まれることにはこの場の誰もが違和感を感じているだろう。

 

「すみません、私からも」

 

 浦菱も手を上げた。

 

「僭越ながら、処分予定の怪獣一体を5部隊で討伐というのは戦力過多な気もするんですが、何か理由は」

 

「戦力過多っていうのもあながち間違いじゃない。何せ今回のネロンガは反休眠状態のまま討伐を行う。討伐方法もサポートメカの戦闘機で首元を狙い撃ちだ」

 

「え?それではなおのこと、私たちが出る幕は」

 

「いざという時の対処要員だ。ネロンガが興奮して暴れた場合の伝達・迎撃を担ってもらう。最近モシリスじゃ怪獣騒ぎに敏感だからな。迅速な対応のために動けそうな部隊を見繕った」

 

 なるほど。静かなまま怪獣としての生に引導を渡す。これはたしかに討伐というよりも処刑、弔いだ。

 

「そういうわけでの君たちだ。心してかかるように」

 

 了解の声が一糸乱れず揃った。

 

 

 

 

 

 S4管理怪獣の処理という特殊任務を与えられ、浦菱らは通常業務と並行しネロンガの生態や怪獣利用計画について事前講義を受けた。そして5日後、任務当日。

 武装した浦菱は第9調査地に転送され待機していた。左前方には、全長43メートルのネロンガがその体を横たえていた。死んではいない。目はゆっくりと瞬きを繰り返している。が、保存状態から解き放たれたばかりの巨体は、いまだほぼ休眠状態にあるといってよかった。

 

 あたりには同じ任務に当たるS4隊員が配置についている。そして、それを遠巻きに固まる人々の姿が見受けられた。

 全身を白い防護服で包み、二の腕には赤や緑の腕章が着けられている。腕章に目をやると、『大空放送』『京和テレビ』などがある。

 

 記者の面々だ。S4の特殊任務ということで外惑星支部の職員が駆り出されているのだろう。彼らの存在は事前の講義でも伝えられていた。通常怪獣対峙の現場に現れることのない一般人。隊員が多い理由は彼らの保護のためでもあるのだろう。

 

「S4が管理・研究してた怪獣をS4が殺処分……当のネロンガは結局大して運用できなかったらしいし、マスコミにはなんのための管理研究だったんだって叩かれるんだろうな」

 

 講義の合間、同じ任務を受け持つ男性隊員がこうぼやいていたが、浦菱はそうとも限らないのではないかと思っている。もともと怪獣の捕獲・管理には懐疑的な意見も多く、危険性とメリットの釣り合いがとれないのではないかという追及はされてきた。正直なところ、世間からのマイナス評価が多い取り組みだ。

 したがって、今回のように計画の将来的な効率を判断した上で、S4自ら渦中の怪獣を片付けられるという点、現状の研究に拘泥しない姿勢に焦点を当ててくれれば、S4叩き一辺倒にはならない、はず。

 

 むしろ、目に付くのは記者以外。記者団の横で同様の格好の集団だが、共通のアイテムなのか黒いザックを背負う者が数名いる。彼らは、このご時世に画用紙やプラカードを持って叫び立てていた。

 

「怪獣を殺すなァー!」

 

「使えるだけ使って殺すなんて、非道もいいところだー!」

 

 怪獣保護団体。

 具体的な団体名は知らないが、怪獣に対する攻撃の防止を呼びかけ、怪獣を駆除する防衛部隊やその方針を維持する政府に向けて反対運動を行う集団のことである。こうした怪獣保護・愛護し討伐に異を唱える者の思想は『グレビレズム』と総称される。

 

「……なんで記者だけじゃなくグレビレズムの連中までいんのよ」

 

 浦菱がぼやくと、同じ持ち場の佐納が「あ~……」と苦笑交じり反応を返した。先日の食堂での話は立ち消えになったが、別段関係が悪化したわけでもない。

 というよりも、関係を壊さないよう佐納がいつもの様子を作ってくれた節があり、それに寄りかかって浦菱も話ができていた。先日の会話はぶつ切りになったが、今思い返せばぶつ切りにした自分が明らかに悪い。佐納が口にしてもいないことを勝手に汲み取り、勝手に業腹した。佐納から見れば、情緒不安定にも見えただろう。

 浦菱の中でモシリスの被害に無頓着な世間への違和感はまだ続いている。しかし、それをほじくらない佐納のいつも通りの振る舞いに、助けられている面があった。

 

 佐納はグレビレズムの面々を眺め、装備していた大型の籠手(こて)――アームを背で隠す。

 

「なんか、デモの申請通っちゃったみたいで」

 

「……なんで警察署は通すかなぁ」

 

「お役所の側面があるからじゃないですかね。怪獣保護を声高に叫ぶのも権利と思想ですから、認めないとですし。ここは道交法もないですし。正直ここでやっても効果は薄いと思いますが、記者のカメラに写ることを意図してるのかもしれませんね。報道されれば、思想の喧伝になる」

 

 はっきり言って、グレビレズムの思想は極端だ。怪獣を殺さない、なんてことが外惑星に住んでいながら言えるのは、歯に衣着せねばおめでたいからだ。

 そんな連中のデモを、行政が通したいわけがない。通せばグレビレズムに対する批判と嘲笑が、許可を下した行政に向きかねないからだ。ゆえに、一般人のいない今回の殺処分はうってつけ。

 仕方がないとはいえ浅ましい思惑に、浦菱は苛立つ。騒がしい集団に視線だけを向けた。

 

「そもそもこの調査地までどうやって……テレポートは使えないですよね」

 

「記者さんたちはあそこに止まってるバスをチャーターしたらしいです。特別に許可がおりたらしくて。デモの人たちも一緒ですかね?あそこに止まってる一回り小さいバス」

 

「……はぁ」

 

 遠くでがなりたてる声が、やたらと癇にさわる。個人の思想。それをわかった上で彼らのことは好きになれない。

 

 怪獣を殺さないのであれば、それが一番理想だ。だが現実は、怪獣は国土に破壊をもたらし、外惑星生きる人類のの障害となる。そして外惑星の資源がなければ、外惑星・地球問わず人類全ての生活は途端に困難になる。だから、人類を守るという目的に立ち、危険な職務をS4が担っているのだ。

 

(私たちがいなければ、あんたらはこの場所にいることすらできないだろ)

 

 自分たちの安寧と豊かさを誰が支えているのか。それを理解せず理想だけを並び立てる声に耳を塞ぎたくなる。彼らのような人間もいるからこそ、自分は「人を守る人」を守りたいと思うようになったのかもしれない。

 

「最近海外では、暴力を行使して防衛部隊に抗議する人たちもいるって聞きますね。まるで軍隊みたいな武装で襲撃まがいのこともするって……集団の名前は何だったかな、たしか……『エリト』?『イレット』?」

 

「やめましょう、佐納さん。それよりあのネロンガ」

 

 浦菱は横たわる巨獣に向き直った。

 

「あれがS4で管理されてたんですよね」

 

「ええ。捕獲されたのは4年前、転送キットの機能の一つ、『フリーズロック』で凍結されたみたいです」

 

 かなり興味があるのか、佐納は怪獣や研究について時折語ってくれた。その情報は時に面白く、時にためになる。

 

「フリーズロックは捕獲と保管に用いられていて、ネロンガをはじめ管理中の怪獣は基本的には凍った状態です。保管状態は三面怪人ダダが用いていたミクロ照射器を応用した機巧で縮められて管理されていると」

 

「なんで凍らせた上にちっちゃくするんだろう」

 

「保管場所を取らないようにするためと、鎮静化のためですかね。前者はいわずもがなですが、後者も重要なんです」

 

 専門的知識も絡む内容だが、佐納は台本でも用意されていたかのようにすらすらと説明する。

 

「怪獣側の意識を保ったまま小型化することもできるんですが、光線や放電を当たり前のように行う個体もいます。放し飼いはできないので、当然専用のカプセルで閉じ込められちゃいます。すると、閉塞感からフラストレーションが溜まっちゃって、とても飼い慣らせません。命を奪わず、意識を失わせる。その目的を果たせるのが冷凍だったんじゃないですかね」

 

 睡眠薬ではだめなのかと思ったが、コストや怪獣の体質などで障りがあるのだろう。すなわち目の前のネロンガは、冷凍と解凍を繰り返された挙句、今日殺処分となるのだ。そもそも単にネロンガを排除するだけなら、縮小化して叩き潰せば事足りる。そうせずにサポートメカで討伐するのは、「S4は怪獣を殺す組織だ」ということを外部に示威せんがため。

 このネロンガはあまりにもいいように使われている。グレビレズムに同意するわけではないが、微かな同情心が湧いた。

 

「怪獣の調教は昔から試みられてきたんですがいかんせんこの『管理』段階が鬼門でして。二度目に地球に降り立ったウルトラマン、識別名『セブン』が用いていたカプセル怪獣のように友好な種なら実用可能性もグッと高まるんですが――」

 

「佐納さん?マニアモード入ってますよ」

 

「……はっ!」

 

 佐納は趣味について語り出すとブレーキを忘れることがままある。マニアモードと浦菱は呼んだ。当初はオタクモードにしようと思ったが、響きが辛辣なのでやめた。

 

「す、すみません。そろそろ時間ですね」

 

 そろそろ攻撃を担うサポートメカが見えてくる頃だ。浦菱・佐納を始めS4隊員はネロンガを囲うように間隔を開いた。等間隔ではなく、記者とデモ隊がいる方向に人数を多く配置してある。

 

 やがて市街地の方から一翼の機体が飛んできた。

 スーパースワロー。かつてタロウと呼ばれるウルトラマンがいた時代の防衛隊、ZATが使用していた戦闘機を再現したものだ。赤と白のシャープな機体、双翼に空いた穴が特徴的なメカニックは軽快かつスマートな印象を抱かせる。スワローは一度ネロンガの上を旋回し、遠くで宙返りを行って再度こちらに向かう。

 

――来る。

 

 機体下部に着けられた二対のミサイルが煙を噴いたかと思うと、瞬時に射殺され目で追えないほどの速度でネロンガへ向かう。狙うのはおそらく、首筋。ネロンガ特有の弱点ではないが、あの巨大なミサイルを受ければ頸骨が露出するほどの爆発になるはず。

 

 これで、終わり。

 

 赤いミサイルが、モシリスの熱気を裂いてネロンガに届く。頭から、うねる角をすれすれで越え、首に。

 

「ん?」

 

 爆発。黒煙が広がる。

 

「今……当たりましたか?」

 

 佐納の声がかろうじて聞こえた。浦菱も感じていた。誤差のように小さい異常。見間違いかも知れない。でも。

 

 着弾する寸前、ネロンガの角から青白い光が迸ったように見えたのだ。

 

 ネロンガの肩が揺れる。やがて腕が、足が動きを見せた。死亡による筋肉の痙攣などではない。死んでいない。

 巨体が、浦菱たちを前にゆっくりと立ち上がった。

 

〈ゲアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!〉

 

 腕を左右に振るって吼えた。先ほどまで体を横たえていたとは思えないほど肉体が活発的になっている。

 ネロンガは首を震わせたかと思うと、空を眺めるように頭を上げる。次の瞬間、角の間に生じた電雷が一筋のレーザー光を作り出した。そのまま、頭を振り下ろす。生じていた光線は、まるで刀のように地面の隊員を狙った。

 

 危ない、逃げてくれ――。

 

「栗山部隊の皆さん避けてッ!」

 

 思考とまったく同じ言葉は、隣の佐納から発せられていた。丁度光線が振り下ろされた場所に位置取っていた部隊が、左右にばらけたことでなんとか被害を免れる。佐納が瞬時に叫んだおかげだった。

 

「ひっ、あああああああ!!」

 

 叫び声が上がったのは記者陣、そしてデモ団からだ。統率なく、一目散にバスに駆けていく。避難行動自体は素早かったが、ばらばらに人混みがほどける様は収拾を困難にした。

 

「バスは緊急用に4台配備されています!落ち着いてください!」

 

「怪我された方いませんか!バスが遠い方は近くのS4隊員が保護します!」

 

 近い場所にいた隊員の誘導もスムーズにいかない。そして人の波が発する叫びに、ネロンガも反応していた。

 

「くそっ、こっち向け!」

 

 自分たちは一般人の人混みから遠い。ならば注意を引かなければ。

 そう考えた浦菱がライフルを放つ。被弾した頭部から出血するも、ネロンガは意に介していなかった。

 

「この個体、何か変ですよね」

 

 佐納がアームのを引きながらそう告げた。

 

「はい。活発すぎます。さっきまでとは、色も――」

 

 たしかにそうだ。通常ネロンガに見られる、背びれを中心とした黄色い模様が、今では焼け焦げたようにどす黒く変色している。そして体色全体も黒みを帯び、目は充血を通り越して赤一色となっていた。

 瞳が失せる。EXゴモラと同様の変化。

 

「オイ嘘だろ!変異種になりやがった!」

 

 その姿を正面から捉えていた遠くの隊員が叫んだ。

 

「変異種ってたしか……」

 

 こちらに気づいたネロンガは尾を振り回す。ごお、と風を切る音。瞬時に伏せて事なきを得たが、浦菱が知っているよりも数段速い。

 

「ネロンガはごくまれになるやつです」

 

 近接武器を使う佐納は肉薄しようとするが、苛烈な攻撃で攻めあぐねていた。

 

「ネロンガにとって電気は主食です。十分に確保できていないことによる飢えと闘争本能が掛け合わされた場合に確認されてます!」

 

「聞いたことはあったけどここまでの凶暴状態なんて。よりによって今……!?」

 

「透明化するのだけは避けないと――」

 

〈エ゙ェエ゙アアアアアアアアアアア!!〉

 

 再度頭部から直線のビームを照射。そのまま今度は頭を地面すれすれにまでかがめ、ゆっくりと横に向きを変えていく。

 

「ひッあああ!光線が!」

 

 グレビレズム団体の女が叫んだ。

 

(人間を……追い込んでる?)

 

 ビームは長大だ。視線の先まで青白い直線が伸びているのが見える。そのまま首の向きを変えていけば、時計の針が回るようにビームも移動し、人間は追いやられていく。

 

「往生際が悪い……!」

 

 浦菱はビームをひたすらに連射した。

 

「倒れろ!」

 

 血の赤が爆ぜる。効いてはいるはずなのだ。しかしすでに変貌を遂げている体、表皮が硬くなっているのか、あるいは脳内麻薬が分泌されているためか、ネロンガはまったく意に介さない。

 

「人が!」

 

 隊員の誰かが叫ぶ。反射的に振り向くと、電撃から逃げる人ごみから、黒いリュックサックを背負った一人が明らかに遅れている。転んだのだろうか。統率が取れていないところを見ると、デモ側の人間か。

 

「危ない!」

 

 ネロンガが放つ電撃は最大100万ボルトの電圧といわれる。電流の量も生半可ではない。人間が被れば瞬時に炭化。状況によっては、蒸発か。

 

「誰か――」

 

 誰か避難させて。言いかけた言葉に喉が痛くなる。その誰かとは自分たちのことじゃないのか。なんのためのS4だ。なんのための武器だ。

 S4のおかげでデモができている。先ほどは胸中でそう毒づいたのに、いざとなったら守れないのか。

 

「クッッソ……!」

 

 再度ライフルを構える。チャージショットを放てるか。それでネロンガを止められるか、わからないが、できることはやらなければ。

 

 照準を頭部に狙い澄ました時だった。

 

「いってきます」

 

 気の抜けるような声がした。佐納だった。

 

「……え?」

 

 応える前に、佐納の体は前方へと運ばれていく。彼女が装備していたアームのチャージパンチによるものだ。強烈な推進力に押されながらも彼女の構えは変わらない。そして推進が終わるほんの少し手前で華麗なストレートパンチを突き出した。

 

 あろうことか、ビームの余波が迸るネロンガの頭部に向かって。

 

「な――」

 

 バチッ!という音がした。同時にネロンガの叫び、そして佐納の打撃面を中心に青白い光が一瞬生じる。その場にいたほぼ全員の目を眩ませた。

 

〈ゲェゴオオオオオー!〉

 

 ネロンガは予想外の攻撃に顔面が横に逸れ、衝撃で放電も止めていた。

 

「佐納さんッ!」

 

 浦菱は駆けた。くらくらする視界で倒れた佐納を捉える。直撃はしていなかったように見えた。だが、あそこまでの至近距離では。

 

 駆け寄り、仰向けにする。

 

「佐納さん、聞こえますか!」

 

「う、う~ん……いたた」

 

 よかった、無事だ。存外怪我も多くない。だが繰り出した右腕のアームは激しい損傷が見られる。装備の下は大丈夫だろうか。

 

「に、逃げ遅れてた人は」

 

 佐納が弱々しく尋ねた。顔を上げ、いまだ光の余波が残る視力を酷使する。視線の先、逃げ遅れていたデモ員らしき人影が他の者と合流していた。

 

「ちゃんと避難できてますよ」

 

「よかった……。攻撃は、ちょっと大胆すぎましたね。浦菱さんびっくりしてる」

 

 大胆、というよりももっと適切な言葉があるだろうに。

 なんて。

 

「なんて……命知らずな」

 

「それ、よりも」

 

 佐納の震える唇は、しかし力を失っていない。

 

 浦菱はネロンガを睨んで立ち上がる。パンチはどうやらクリーンヒットだったようだ。口が裂け、頬の部分に格納されていた牙も折れているのが見える。

 だが、まだ生きている。ぎょろりと目が動き、角が帯電を始めた。

 

〈オオオオオオオオオオ!〉

 

「させない!」

 

 浦菱の放ったライフルがちょうど顔の傷のあたりに炸裂。叫びとともに顔面の崩壊が進んだ。

 

「足は任せろ!」

 

 ソードとブレードを手にした隊員がそれぞれ足下に駆け、すり抜けざまにかかとの上、人間で言えばアキレス腱が通る位置をザックリと切り裂いた。

 

〈ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!〉

 

 巨体がうつ伏せに倒れる。その時、腹部の位置にはすでに別の隊員がショックマインを設置しており、転倒に反応して起動。見えないが、ネロンガの腹部はすでにグチャグチャだ。

 もはや、吼えない。弱々しく呼吸するだけの口に浦菱は足を掛ける。痙攣する瞼の下、まだかろうじて生を繋いでいる目にライフルを向けた。

 

「……さよなら」

 

 渾身のチャージショットを放つ。ヘルムを覆う大量の血液。

 

 銃の反動がいつもより大きい気がした。

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