怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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記念すべき?50話です。いつもありがとうございます!


第50話 その名を冠する部隊

「うぅ~体中痛いし気持ち悪いし最悪」

 

 基地の廊下を、なかば佐納に寄りかかるようにして浦菱は歩いていた。クドン戦の怪我は大したことなく、治療も10分ほどで終わったのだが、無理なボード操作による気分の悪さが体から抜けていかない。

 

「まだちょっとぐるぐる回ってる感じする……」

 

「ボードって動きハードだもんね。使い慣れててもそうなっちゃうんだ」

 

「今日は……ちょっと張り切りすぎた。ボード使い始めて気持ち悪くなったことなんてなかったのに」

 

「最近頑張りすぎだよぉ。もっと自分の体大事にしないと」

 

 佐納はペースを合わせてゆっくり歩いてくれる。体を労ってくれるのはいつものことで、そうした気配りもまた、彼女に信頼を預ける要因だった。

 

 だが浦菱には、佐納の心配とは裏腹にもっと強くなりたいという思いもある。脳裏にちらつく、かつての仲間を屠ったバルタン星人。その調査討伐作戦に少しでも近づきたかったためだ。

 作戦に加わるには、特錬隊員になる必要がある。特錬を定義づけるのは、シンプルな「強さ」だ。ではS4における強さは何かと問われれば、強大な怪獣をいかに素早く、効率的に討伐できるかどうかという点。巨大怪獣すらも圧倒する、そんな隊員になりたかった。

 

 「もう、聞いてるの」と、佐納が支えた肩をゆっくり揺らした。

 

「聞いてるよ。でも……帯電状態のネロンガに突っ込んだ奏に言われたくないかなぁ」

 

「あ、またその話。やめてよ恥ずかしいなぁ」

 

「別に、恥ずかしがることじゃないけどね。……それより、そろそろ離しても大丈夫だけど」

 

「遠慮しないの。あ、食堂で晩ご飯食べていこうよ。このまま引っ張っていくから!」

 

「うぷ……今ご飯の話しないで……」

 

 佐納に運搬され、食堂に到着。そのまま注文し、食事の載ったプレートを持って卓についた。いまだ食欲が戻らない浦菱の前は、ざるそば(小)が置かれている。

 

「それにしても、今日は結構スムーズに討伐できたよね」

 

 対面で手を合わせる佐納は、期間限定火鍋定食(ごはん大盛り)を注文した。先ほどまでいたのは、日が出ているモシリスの砂漠。明らかな酷暑地帯で戦っていたにもかかわらず、強気のチョイスだ。

 

「もちろん功績が大きいのは唯ちゃんだけど」

 

「奏の攻撃のタイミングもよかったよ。オペレーターさんからのチーム評価も軒並みいいし、巨大怪獣相手にもかなりやれるようになった」

 

「なんかすごいことだよね。昔の人類じゃなかなか勝てなかった、ウルトラマンでさえ苦戦してた怪獣にも、勝てるようになった」

 

 佐納は箸を持っていない左手の平をまじまじと見つめる。

 

「私ね、ウルトラマンが好きなんだ」

 

 ぽつりと、なんの気なしの呟きのようだったが、佐納はどこか意を決しているように見えた。

 

「もう400年以上前……大昔だけどたしかに地球に来ていて、人類を救ってくれた。圧倒的な強さがある感じがして、私にはそれがとても魅力的だった」

 

「少し、わかるよ」

 

 かつて地球に降り立った、奇跡の巨人。人類が存続している未来を作ったといっても過言ではない、文字通りの救世主『ウルトラマン』

 彼らに憧れを抱くS4隊員は少なからずいる。かつて怪獣を討ち倒し、地球を救った。その働きを地球人自らが担おうとして生まれたのが地球防衛機構。日本のS4もその中のひとつだ。ウルトラマンと自身を重ねたいと思うのは自然な成り行きだろう。

 

 そういえば、と浦菱の中で符号が合う。佐納が近接武器に拘る理由も、ウルトラマンかもしれない。

 

 ウルトラマンが怪獣を倒す際、とどめは大抵必殺光線だったが、戦いの多くは肉弾戦で進行した。

 

 逆に言えば、接近して怪獣と戦えるのは怪獣と同等の体躯を誇るウルトラマンの特権だった。しかし、技術進歩により人間が扱う近接武器でも多くのダメージを与えられるよう改良が重ねられた現在、その特権は地球人にも降りてきたといっていい。かつての光の戦士に倣ってみようと、佐納は近接武器を手にしていたのだろうか。

 

「小さい頃はウルトラマンの活躍を綴ったドキュメンタリー番組を何度も見返して、その仮定で怪獣とか防衛組織のはたらきにも詳しくなっていって」

 

「そういえば、ネロンガの任務の時は怪獣の捕獲管理について教えてくれたね。あれも、根っこはウルトラマンへの興味なんだ」

 

「うん。S4に入ったきっかけもウルトラマン。光の戦士のように強い隊員になりたいですって言ったら、合格をもらえた。面接官には笑われちゃったけど」

 

 佐納がふふっと小さく笑う。それは自嘲的な笑みではなく、むしろ自信を感じさせた。

 

「でも最近、どんどん動きがよくなってきた気がする。まだ程遠いけど、ちょっとは憧れのウルトラ戦士に近づけたって。それが嬉しいんだ」

 

 浦菱は胸に熱が宿るのを感じた。強くなりたいと思っていたのは自分だけではない。佐納も同じだ。遠い目標、憧憬に向かって一歩ずつ進んでいきたいと思っている。その姿勢が軌を一にしたから、彼女とのコンビネーションがうまいこと成立してきたのかもしれない。

 

「私も」

 

 ぽつりと溢した声は少々小さく、佐納は目だけをこちらに向けた。

 

「私もだよ、奏。最近、前よりも強くなった気がするし、それが嬉しい。それで……あんたも同じだったんだ、と思って。なんかこう、ほっとするっていうか」

 

 「嬉しい」と直接言えず、その縁をなぞるような表現になった。顔が少し熱い。佐納も喜びと照れが一緒くたになった絶妙な表情でいる。

 

 「へへ」「ふふ」と笑い合ったとき、左腕のMITTドライバーから通知音が鳴った。新たなメールだ。

 ディスプレイを浮かべて確認すると、差出人は「人事教育局 育成監査部」とあった。

 

 どきりとする。育成監査部とは、S4隊員における個々人のミッション遂行データを管理し、隊員ランクの調整を行う部門だ。

 まさか。いや早まるな。だがこの時期に個人宛のメールということは――。

 

 浦菱はメールの欄に触れ、内容を開いた。記載されていた内容は、かいつまんで2つ。

 ・浦菱唯が次期特錬隊員候補順位に入ったこと

 ・候補順位内の希望者に短期選抜試験を行い、合格すれば正式に特錬隊員として承認されること

 これらが堅苦しい文章で記されている。

 

 すなわち、特錬隊員になるための試験を「受ける資格」が与えられたのだ。

 

「やった……」

 

 食堂であることを忘れ席を立った。

 

「ど、どうしたの?」

 

「やったよ奏!私、特錬隊員になれるかもしれない!」

 

「ええ!?ほんと!?」

 

「本当!ほらこのメール見て」

 

 佐納へ画面を反転させたとき、浦菱は「あっ」と声を上げた。今まで何度も見ていた受験に関する情報が、脳裏を掠めていく。

 

 選抜試験は当然候補順位内の者のみしか受けられない。確定はしないが、おそらく「特錬隊員を下回ってはいるが高い順位の者」だろう。目星をつければ301~600位ほどの範囲か。長期間通しての能力を見るため、「何月何日に600位以上にいた者」といった決め方ではない。「一定の期間で範囲内の順位を維持した者」かつ「任務への積極性がみられ、能力に期待できる者」が受験資格を与えられるはずだ。

 

 すなわち、その範囲内に佐納が入っていない場合。

 彼女とはここでお別れだ。

 

 選抜試験の内容は、たしか一箇所に集まって特別な講義及び任務を受ける集合型。そして期間はまるまるひと月ほど取る合宿形式だ。

 その間、佐納が誰とも部隊を組まないとは考えにくい。おそらく、S4と防衛局の編成で別の部隊に組み込まれる。

 

「唯ちゃんすごい!流石だね!」

 

 佐納の明るい声が耳を通り抜けていく。

 仲良くなれたのに。これからもっと彼女を知っていこうと思ったのに。

 

(いや)

 

 待て。佐納は自分のメールを確認したか?もしかしたら、届いているかも。

 

「……奏も見てみてよ、メール」

 

「へ?どうして?」

 

「あんたにも通知来てるかもよ」

 

「いや、それはないよぉ。だって私唯ちゃんに比べて全然……あれ?」

 

 佐納の体が固まる。浦菱は彼女の席まで回り、ドライバーから浮かび上がる画面を凝視した。

 

「これって……」

 

 佐納のアドレス宛に来た最新メールが表示されている。それは浦菱のものと、全く同じ。

 佐納奏も、受験候補順位に入っている。

 

「やっっった!!」

 

 人目も憚らず大声を上げ、ガッツポーズまでしてしまった。

 正直、厳しいと思っていた。佐納の調査隊員としてのキャリアには空白があり、順位は当初から大きく下がっていたはずだ。だが、追い上げたというだ。自分と共に切り抜けた戦場の一つ一つが積み重なり、一つの結果として表われた。

 

「奏もだよ、特錬試験!」

 

「え?……え?」

 

「あんたも順位入ってるの。特錬になれるかもしれないのよ!」

 

 佐納は喜びよりも困惑の方が先んじていた。

 

「いや、え?嘘」

 

「嘘じゃない」

 

「ええっ、嘘嘘!ありえないよ!だって私、唯ちゃんより全然順位低かったし」

 

「最近一生懸命任務やってきたから評価されたんだよ!」

 

「で、でもこれ、もしかして間違いじゃ」

 

「間違いなもんか」

 

 メールの文面は、たしかに彼女の名だった。

 

「あんたは強い。それが認められたってこと。なら謙遜しすぎないの」

 

「じゃ、じゃあ」

 

 佐納の視線はメールと浦菱の顔を行ったり来たりしていたが、ぴたりと浦菱の方を見つめて止まった。

 

「また一緒に戦えるね」

 

 破顔した佐納に、優しく頷き返した。やった。先ほど口に出した言葉をもう一度噛み締める。一緒に戦ってきて、よかった。

 無論、試験内容は難しいものとなるだろう。それでも、立ち向かう意志は固く強く、胸の中にあった。きっと、奏にも。

 

 やる気と同時に、体の奥底から溢れてくる何か。

 

「……やっぱお腹空いてるわ」

 

 体が、食べ物を欲している。

 

「追加で何か頼んでくるよ」

 

「具合は?」

 

「もう治った」

 

 浦菱は注文カウンターに向かい、天ざるそば(並)を頼んだ。先ほどの小盛りざるそばと合わせるとそこそこの量になったが、するすると胃に収まっていく。が、天ぷらは半分ほど佐納に食われた。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、浦菱の佐納それぞれにメールが届いた。試験の大まかな概要が載っている。

 

 

———

 

第68回特別錬成隊員選抜試験について

 

期日:2448年10月20日から11月22日までの期間

受験対象人数:147名

 

・2448年1月4日から9月30日の期間において、S4隊員任務遂行適性順位301~500位間を40日以上維持した者、あるいは501位~600位を50日以上維持した者。

・過去1年の調査討伐成績が所定の基準を超えた者。

 

上記2点を満たした隊員が受験対象人数に数えられている。このうち受験を希望する者を、第68回特別錬成隊員選抜試験受験者として登録する。

 

集合:中枢宇宙ターミナル「あさひ95」S4通用路入口。その後移動。

内容:①筆記試験(講義、成果提出および最終テスト合格)

   ②実技試験(期間内における特別任務の遂行程度を試験官が観察・判定)

 

上記の①が合格ラインに達した者のうち、②の獲得評点から今後1年間の推定討伐遂行数値を算出。現在の特別錬成隊員と比較し、上回った受験者を入れ替える形で合格とする。※

 

 

※昨年までは来期からの任命だが、本年度は対ダークバルタン作戦の進行を鑑み試験後順次任命とする。

 

———

 ふたりは、迷わず「受験希望」と回答し、来たる試験に備えた。

 

 

 

————————

 

 

 

芳治(ほうじ)2121年10月4日 地球 日本 東京

 

 内閣府庁舎。国内行政の執務と情報が集約される建物は、かつての怪獣災害を免れていた。すなわち、20世紀末、地球侵略を怪獣や異星人が試みた時代。ウルトラマンがいた時代。

 東京は怪獣の出現頻度が高かった土地であるが、知と権力の結晶体たる建物は大きな傷を()けていたという。数世紀を経て何度も改修を経てはいるものの、その建築物は怒濤の時代と共にあった。巨大な侵略から、外惑星への進出へと移り変わるこの国を動くことなく、山のように見つめてきたといえる。肩書き以上に、その歴史と風格は重々しく人々の目に映った。

 

 厳正さを象徴するような巨大な直方体。その内部には一般の国民には知り得ぬ部屋が存在する。外惑星における中枢拠点、宇宙コロニーの「あさひ95」と同時期に作られており、「あさひ」製造という巨大プロジェクトを隠れ蓑に、(ひそ)やかに設けられた場所だと推測される。

 庁舎に蓋をされた地下の一室。通常のエレベーターや階段は通っておらず、一部の権限を有する者のみに通用が許される。地中の静けさと暗がりに囲われたその部屋を『職場』と呼ぶことができるのは、内閣官房のとある組織だった。

 

早田(ハヤタ)さん」

 

 中年の女が、その室内で画面を眺める男に声をかけた。

 

「何をご覧になっているんですか?」

 

「あ、青船(アオフネ)さん、お疲れ様です。メールの文面をね」

 

「メール」

 

「ええ。まあ、一般隊員には送信する前に削除した、秘匿情報の部分ですが」

 

 早田と呼ばれた男は振り返る。青船よりも十数歳若い、30代半ばという年齢は、『職場』にいる者の中ではかなり若い。

 早田は親しみを込めた笑みを作り、「そういえば」と青船に話を振る。

 

「外星人との交流って、今どんな感じです?」

 

「バルタン星人の方は、悪くない落としどころになったと思いますよ。後はネズミを片付ければ」

 

「メトロン星の方はどうですかね。西野(ニシノ)担当官が死んじゃっててんやわんやでしょう」

 

「そちらが問題ですねぇ。幸い今は落ち着いているんですが。惑星アシルに住んでいるいくつかの異星人と、上手いとこコンタクトを取りたくて」

 

「その辺は戦略本部と協議して、ですかね」

 

「ですね」

 

 結局、進捗はなしか。

 早田は落胆するが、顔には出さないよう努める。

 

「あ、気がかりな点がもう一つ」

 

 青船はぴっと人差し指を立てた。

 

「怪獣墓場。あそこ、今年の特錬隊員の試験場でしょう。参加してる外星人は皆、結構あの小惑星に敏感なんですよ」

 

「だからこそ地球も狙ってるんですよ。でも、外星人が介入してこないとも限らないか。非常時を見越して、試験には特錬トップ層を一人つけましょう」

 

 強く否定せず、緩衝してから提案。「ああ、それなら」と青船も納得した。彼女をなるべく刺激したくはない。

 その後は適度な世間話に花を咲かせた。最後に、青船が持ってきた飲み物をありがたく受け取り、背中を見送る。

 

「ふー……」

 

 静かな部屋で一人、息を吐く。地下にある点を除いて何の変哲もない部屋。円形に机、その外側に椅子が置かれており、会議室の形を成す。

 早田は、手元のコンピュータを中央の巨大投影ディスプレイに転送した。中空に四角い画面が浮かび上がり、先ほど見ていたメールの画面がシアターさながらのサイズにまで拡大される。

 

 大した文字数ではない。内容も、いたって普遍的なものに見える。だがその意味を、真相を知った者がいたとすれば、一人も残さず戦慄し、愕然とするだろう。

 そんな重要な情報を、ほぼ全ての人間が知ることなく死んでいく。理解できるのは、自分を含め日本に何人いるだろう。世界で何万人だ?

 

 早田は笑う。知らない。誰も知らない。地球が今どんな状況にあるのか。黒い箱の中に、何が入っているのか。

 

 美術品を眺めるような目つきで、もう一度、メールの文面を見直した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

以下は隊員周知時には削除予定

 

 

試験場所:怪獣墓場

 

期間中の現地宿舎および基地の安全確認完了済み

 

本試験はシルバーバルタンとの協力作戦が関わるものである他、資源獲得の必要性が迫られる。

 何より、「期限」が迫っていることを鑑み、より強力な部隊の育成及び潤沢な資源の必要性に駆られている現状を認識されたし。種々の考慮事項を念頭に置き、管理責任者への厳格な指揮・判断を願う。

 

 

 

かつての「怪獣バスターズ」と同等の戦力をもつ隊員・部隊の出現を期待する。

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