怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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全話の誤字脱字ちょっと修正しました。
今回いつもよりやや長いです。お願い致します。


第58話 キルゾーン

 佐納(サノウ)が応援として辿り着いたE六(イーろく)エリアは、怪獣墓場の中でも見慣れぬ場所だった。転移した先で指示を受け、洞窟のような岩場の隙間に入って更に進む。少し駆けた先で、開けた岩場に出た。

 

 青黒い岩がエリアを囲うようにせり上がっている。岩壁は見上げるほど高い天井を形成していたが、完全に覆われているわけでもなく、天窓のように一部空いた空間からは星空とオーロラが見えていた。その光景も、常に夜のような景色の怪獣墓場では物珍しくない。

 

 大規模なコンサートホールを思わせる空間には、報告通りたしかに小型怪獣が多かった。が、異常発生というほどでもなかった。もとよりエリアで討伐にあたっていた瀬戸部隊の2名と、他にもう一人の応援。顔見知り程度でしかない間柄の連携でも、15分あれば掃討できた。

 

「助かりました。もし可能であればこの後も行動を共にしてくれませんか。今日だけで構わないので」

 

 そう頼まれた時、なぜ「自分の部隊に帰るから」とすぐに断れなかったのだろう。

 

(……(ユイ)ちゃん)

 

 この前からずっと、ぎくしゃくしたままだ。

 無理もない。同じ部隊の仲間が、痛みで己の過ちを雪ごうとする人間だったのだ。自傷行為だと思われても仕方がない。

 

 いや、隔絶の理由はもっと深いところにある気がする。

 

――死んだ人のためじゃなきゃ、戦えないの!?

 

 なぜあんなことを言ってしまったのだろう。「亡くなった人の分まで」という浦菱(ウラビシ)の言葉に、異論はたしかにあった。自分は死者の魂を背負えるほど偉くない。無念の内に死んだ人の存在を力に替え、胸を張って戦うほど傲慢になれない。

 だが、浦菱を否定する理由にはどう考えてもならなかったはずだ。戦う理由も意欲も人それぞれでいい。その部分に寛容であるのはS4として、人として最低限の礼儀だろう。

 

 その礼を、私は欠いた。

 

「検討していただけませんか」

 

 食い下がる別部隊の瀬戸という男に、「仲間と確認を取ります」と背を向けた。

 ゴウと浦菱は「戻ってこい」と言ってくれるだろうか。もうお払い箱なんじゃないか。その不安から、MITTドライバーの通話ボタンを押せずにいる時だった。

 ズン、と一度地面が浮き沈みした。目眩がする。

 

 今までは星明かりがあった。天井の岩の穴から振る光で、周囲を見渡すことができるくらいに。その明るさが翳っている。

 覆われたわけではない。ただ、全体に一瞬でおぼろがかったのだ。この、レースカーテンのような、昆虫の(はね)を思わせる透けた遮光。

 

 見たことがある。見た。数日前。

 

――ドラコの翼?

 

 振り返れば、視界を大きく占める巨大な影。たしかにドラコだ。だが、先日相対したものとは何かが違う。

 

 大小の甲殻が密に組み合わさる体表は薄く赤みがかっている。表皮は余乗する部分が多く、袈裟や中国衣装の深衣(しんい)を彷彿とさせる。背面から伸びる翼はより面積が広くなっており、やはりこちらも血が滲んだように赤い。頭部はさらに奇妙に変わっていた。目は赤一色になり、口は上顎と下顎ではなく、上と左右の3方向に開くようになって前方に飛び出した。同じ方向に頭頂の角も曲線を描いて伸びる。

 ドラコのようでいて、普通のドラコではない。

 

「なん、だ……?こいつ」

 

 より近い場所にいた瀬戸が疑問を口にする。

 

「討伐、しないとだよな」

 

 彼が武器を掲げた瞬間、ドラコ、と呼ぶべきか、怪獣の翼が左右に大きく開いた。翼膜を束ねる骨格がほぼ水平に展開し、ひとたび佐納たちに向けて翼をはためかせた。

 その一振りで、台風のような圧が襲い来る。一瞬で体が宙に浮き、大きく後方まで吹き飛ばされた。

 

「が……!」

 

 岩壁に背中から激突。衝撃のあまり息が吸えなくなり、地面に手をついた。

 

 なんて、威力。

 

 目の前のドラコは明らかに以前と異なってる。姿から性能まで、進化版といっていい。

 

 EXドラコ?いや、おそらく違う。ドラコの進化個体はこれまで確認されていない。怪獣墓場においても、これだけ多種多様な怪獣がひしめいているのに、EX怪獣は一度も見なかった。

 

「畜生!」

 

 同じように吹き飛ばされた瀬戸が起き上がり、左手を顔の前に翳した。

 

「メテオールアーツリンク!きど――」

 

 その時、ドラコの右腕先端、袖のようになった表皮がきらりと煌めいた。

 その小さな光が、飛んでくる。佐納が光の正体を理解したのは、岩壁に突き刺さってからだった。

 巨大で黒い刃が突き立っている。ククリナイフのような緩いくの字の刃は、人間の身長を優に越す。ドラコはこれを飛ばしたのだ。

 

「あっ……ああああああああああああ!!」

 

 瀬戸田の絶叫が耳をつんざく。刃から視線を移すと、瀬戸田の肩口から息を飲むほどの量の血が吹き出ているのが見えた。

 

――まずい、大怪我を。

 

 切断には至っていないが相当大きな傷に見える。瀬戸の装備は先ほどと様変わりしていた。怪獣の素材を用いた強化装備、MA(メテオールアーツ)『リンク』の起動は間に合っていたのだ。間に合って尚出血するほどの大怪我。

 つまり、リンクを用いたところで対応できない。

 

 今度はドラコの左腕先端が煌めく。

 

 また来る。そう思った時、なぜか左腕の付け根が痛んだ。瀬戸田が受けた傷が共鳴しているような。

 実際そんははずはない。でも、他人の痛みは自分の痛みなのだ。あの日、アペヌイで多くの人が死んだ怪獣侵攻の日。自分の無力を思い知った時から、自分だけ助かるという選択肢は捨てた。

 

 そう決めた。なら動け。助けろ。 ちゃんと背負え。自分自身で決めた戦い方だろ。

 

 走った。反射して迫る刃が見える。間に合え。

 前傾姿勢で駆け、そのまま瀬戸田の体を押す。もはやタックルに近い勢いで、無理矢理避けさせた。

 刃はビュウ、と刹那の轟音をたてて頭の上で通過する。倒れ込んだ瀬戸田に新たな怪我がないことに安堵し、その後に自分の体もきちんと繋がっていると気づいて、重ねてほっとする。

 

「……このドラコの正体」

 

 以前戦った個体の特徴を引き継ぎながらも大きく変容した姿。衣服を思わせる皮と赤い目、刃を投擲する攻撃。

 いうなれば、強化版(パワード)。パワードドラコだろう。

 

「……瀬戸さん、このエリアから離脱すること最優先にして、その後応援を呼んでください」

 

「でも……佐納隊員は」

 

「私がドラコの注意を引いて、他のエリアに飛んでいかないようここにとどめておきます。応援が来たら、私も離脱しますから」

 

 瀬戸にそう伝えパワードドラコから距離を詰める。生憎、別エリアへ退避するための転移渦はドラコを挟んで向こう。他の隊員も突如襲来した巨体に圧倒され、動けないでいる。どうにか隙をつかなければ。

 『リンク』を発動するか?いや、自分の装備は使い所を誤れば余計窮地に追い込まれる。

 

 佐納は勢いを緩めない。瀬戸田をはじめ、他の隊員を転移渦から逃がしたい。そのためには無理矢理にでも自分に注意を引かせるしかなかった。

 

「はあああああああ!!」

 

 あえて大声を出すと、ドラコの首が僅かに傾く。赤一色に染まったあの目が、一切のブレなく動きを捉えているのだろうと佐納は思った。パワードドラコの挙動は、以前戦った通常ドラコよりも悠然としている。息を飲むほどの巨影に不釣り合いな静謐さが伴い、今まで戦ってきた怪獣よりも温厚な印象すらあった。

 しかし攻撃を理解し、さらにパワードゴモラという正体を看破した佐納は認識を180度改めた。予備動作なく飛来する巨大な刃、暴風を起こす翼。予測不可能な速度で静から動に転じるその姿勢は、気を抜くことを一切許さない。一瞬動作が遅れただけで一気に遅れをとるかもしれない。老獪な暗殺者と対峙しているようだった。

 

 ガツン、ガツンとついさっきまでいた場所に刃が打ち込まれる。S4の防具は優秀であるため、怪獣の攻撃でも一度食らって死亡や重傷ということは考えられない。だが、今回は、もしかしたら――。

 

「ッあああああ!」

 

 脳裏によぎった結末を咆吼でかき消し、ドラコの足にアームのチャージパンチを打ち込んだ。

 

(硬……!)

 

 殴ったこちらの肩が外れそうな反動。甲殻にひびは入ったが、これをあと何発打ち込めば倒せるのか。

 

『ギュオォ!』

 

 ドラコは一度顎を擦り合わせ、ばさりと翼を広げた。また飛ばされるかと思ったが、今度は前ではなく地面に向けて翼をはためかせた。

 

「うッ……!?」

 

 上から下に落ちる、極度の風圧。佐納はがくりと膝を折り、体が地べたに押しつけられた。重力が反転したかと思うほど力が強い。抗えない。

 

 首だけをなんとか上に向けると、腕の隙間から刃が除く。総毛立ち、死ぬ気で体を起こして回避。

 

「はっ……はっ……は」

 

 先ほどまで倒れていた場所に突き刺さる長大なナイフ。生きているのは、半分奇跡だった。

 

 一旦引いてエリアを見渡す。瀬戸以外の隊員はすでに脱出したようだ。一人、手負いの瀬戸は壁伝いに歩き転移渦を目指す。もう少しで辿り着きそうだ。注意はこちらに引けているため、問題はない。

 

 佐納は再度ドラコの腕に着目し、刃に備える。煌めきが、見えた。

 

 当然、まっすぐこちらを狙ってくると思っていた。しかし、ドラコは何を思ったか左腕を少し高く掲げ、刃を射出。

 

「刃を……天井に突き刺した?」

 

 見上げ、佐納は困惑した。それには留まらない。ドラコはその後も絶え間なく刃を生成しては投擲。当初こそ警戒したもののの、そのどれもがやけくそになったようにばらばらの箇所に打ち込まれる。佐納にも瀬戸田にもあたらない。

 

「一体……何のために」

 

 周囲の風景が様変わりする。地面や岩壁、天井から黒い刃がまばらに伸びている。まるで、ドラコが自らのフィールドを整えたような。

 ふたたび、腕からちらりと刃が覗く。またこのエリアに突き刺すのかと思ったが、今度は溜めが長い。何かを狙っている。

 

 身構える佐納。しかし、刃は佐納とも瀬戸ともまったく別の方向に飛んだ。

 

「…………え?」

 

 それは驚くべき軌道を描いた。新たに飛ばした刃は、まず壁に付き立っていた刃に当たった。すると驚くべき事に飛ばした刃の方が弾かれ、全く予期せぬ方向に飛ぶ。天井の方に向かうと、そこでまたあらかじめ突き立った刃とかち合い、弾かれる。2度の反射を経た先にいるのは。

 

「瀬戸さんッ!!」 

 

 よろけながら進む瀬戸が、声に反応して身を伏せる。刃は瀬戸ではなく壁に突き刺さったが、伏せていなければ彼の体はばらばらになっていた。

 

(なんて、技を)

 

 閉鎖空間で銃器を発砲すると、弾が壁や床に当たって跳ね返る現象「跳弾」がまま起こる。ドラコは、これを意図的に起こした。それも跳ね返りを生じさせるために、あらかじめ地面や壁、天井に得物を打ち込み、正確に当てることで狙い通りの反射を起こす。

 こんな技、地球にいた個体はしなかった。こんな技は反則モノ、入神の域だ。ドラコの腕のナイフは弾丸やボールとは比較にならないほど形が歪だ。にもかかわらず、狙い通りに跳弾ならぬ「跳刃(ちょうじん)」を起こすということは、やけくそに見えた先ほどの投擲もすべて計算ずく。攻撃に有利な土壌を整え、こちらに悟らせない無軌道の刃を飛ばしてくる。

 

 勝てるのか?こんな化け物に。

 

「ッッ瀬戸さん!早く転移渦まで!」

 

 佐納はドラコに接近するが、跳ね返る刃に行く手を阻まれた。

 

「く!」

 

 ドラコの甲殻に足をかけて巨体を駆け上がり、足の付け根のあたりにアームを叩き込む。

 

〈ギギッイィ……!〉

 

 足の時よりもダメージの感覚があり、ドラコの体もぐらりと揺れた。

 

(今攻撃した場所……この前の通常ドラコに唯ちゃんが傷をつけたところ?ならこのパワードドラコは、前戦った奴と同じ個体?)

 

 一瞬考えた隙をドラコは見逃さなかった。翼を前方に折り込み、先端で佐納を殴りつけた。翼の骨格は地面につきそうなほど長い。その先端部分に生じる運動は、並の巨大怪獣によるパンチやキックとは桁違いの威力だった。

 

「ぐッッ……あ」

 

 地面に叩きつけられて止まるまで、何度肉体が弾んだかわからない。身体中、痛くない箇所の方が少なかった。

 

 懸命に首だけを上げる。たたずむドラコの向こう、瀬戸の姿は失せている。どうにか、逃げられたようだ。

 ぼろぼろの体で立ち上がる。頭はまだ回る。体は、鞭打って動かせばいい。

 

(さっき、足の付け根の所はちゃんと攻撃が入った感触だった) 

 

 見れば、そのあたりは若干甲殻の密度が疎になっている。狙うならあそこだ。

 

 無意識に討伐方法を組み立てている自分に気がついた。こんな絶望的な状況で、自分一人で討伐などできやしない。逃亡だって、囮になる隊員がいなければ不可能だろう。なのに、なぜ。

 

「…………ああ」

 

 まだ追っているのだ。光の戦士を。ウルトラマンを。

 

 幼いとき、佐納はその姿に魅せられてしまった。それはS4に入隊した動機であり、無力感の源でもある。

 それでも、いや、それだからこそ追ってしまうのだ。ウルトラマン。身が灼かれるほど強く、眩しい輝きを放つ私の憧れ。焦がれてなお、近づきたいのだ。なりたいのだ。弱さに囚われた人間の枠を抜け出し、光の巨人へと。

 

 再度接近。ドラコは佐納に対し、再び地面に向けて翼を仰ぐ。沈み込む風圧を、佐納は前方にアームバスター――内部のエネルギーを放出する中近距離技――を放つ反動で回避。再度チャージを駆使して、足下からドラコの背後に回り込む。幅広い体躯が災いして、ドラコの死角は広い。

 

(まずは、足!)

 

 転ばせる。気合いのまま、拳を振り上げた時。

 刃が天井に向けて飛ばされた。刃は、上に突き刺さしてある刃に弾かれ、地面で、左右の岩壁で無数に弾む。それが、いくつも。

「え——」

 

 軌道が読めない。一つを注視していたら、別の刃に気が回らない。

 

 鼓動が早まる佐納をあざ笑うように、刃の数は増す。横から、上から、背後から、刃が行き交う音が迫る。だが耳と目を駆使しても、一切捉えられない。人間の反射神経では、せいぜい影を追うことができるに留まる。

 いったん距離を取る。あるいはその思考すら計算のうちだったか。

 

「う゛……!!」

 

 地面を蹴った右足の太ももに熱。噴き上がる血が自分の体から出ていると自覚した佐納は、その場にうずくまった。

 

「ぐッッあ……!」

 

 刃が右足を掠めたのだ。出血を目にしたせいで、痛覚から逃れられない。立つことはできそうだが、歩こうものならさらに傷が開き、血が噴くだろう。

 

 ずりずりと尻餅をついたまま後退る。不意に、上からの視線を感じ見上げる。ドラコの赤い視線が佐納にまっすぐ注がれていた。

 息が止まる。無意識に行っていた呼吸が、意識しても上手くできなかった。

 

 この怪獣は、何通りの方法で自分を殺せるのだろう。破壊という事柄にどこまで長けているのだろう。

 私は手も足も出ないのに。

 

 ドラコの両手に煌めきが忍ぶ。終わったと、覚悟したときだった。

 ドラコの背後、空に繋がる天井の大穴から、影が滑り降りた。巨大な黒色だった。おそらく、ドラコと同等の体躯の――。

 

 ずん、という地響きにドラコが反応し、身を翻す。向こう側に降り立ったその正体に、佐納はただただ瞠目し、恐怖すら忘れた。

 そこにいたのは、二本足で立つ人型の巨影。シャープな足に、装甲とも筋肉ともつかぬ意匠の胴体。両手の先端はあまりに特徴的。その種族を象徴する、樋のような形状のハサミ。兜を思わせる頭部の二本角と、爛々と光る黄色い眼。体色がうっすら黒がかって見えるのは、薄暗いため、だろうか?

 

「バルタン、星人……?」

 

 そこにいた巨人は、紛れもなくバルタン星人だった。バルタンは直立の状態から突如、乱暴に左のハサミを振るう。重さゆえか、パンチと言うよりもラリアットに近い攻撃。だが、傍目に見てもわかるその重量感が、ドラコの頭に直撃していた。

 

「ギュグオ!」

 

 揺らいだドラコの上半身を、今度は右のハサミが迎える。左右に頭をシェイクされ、ドラコも敵意を認識したのかまっすぐバルタン星人に突っ込んだ。

 

「なん……で?」

 

 佐納の中で驚きが困惑へと変わる。バルタン星人が、ドラコを攻撃した。その状況は明らかだった。

 遅い歩みで退きながら、佐納は記憶を辿った。バルタン星人がS4と共同作戦に取りかかったのは記憶に新しい。であれば、あのバルタン星人は救援ということか?危殆に瀕したS4隊員である佐納を確認し、死なせまいと怪獣墓場に降り立った応援と捉えていいのか。

 

――いや、でも、あのバルタン星人。

 

 佐納は目を凝らす。バルタンの体色は、洞穴内の薄明かりに落ちる影とまるで一体であるかのように暗い。うっすらとした黒色を纏う、バルタン星人の姿。直近のモシリス侵攻に姿を現した情報と重なる。

 

 大きさこそ異なるものの、今目の前で戦っているのは。

 『ダークバルタン』ではないか?

 見れば見るほどそう思われる。地球との共同作戦を希望したのは「シルバーバルタン」。シルバーはダークバルタンという種族について、モシリスで隊員2名を殺害し、3月の墜落事故にも関係していると主張した。明確に、人類の敵だ。その敵とされる種族の個体が、まるで佐納を救うようにドラコを襲撃した。

 

 当惑する佐納の前で、ドラコとバルタンの重厚な肉弾戦が繰り広げられていた。バルタンは分身や光線は用いていない。代わりに、宇宙忍者の名に違わぬ軽快な足運びを交えながら、適確にドラコに打撃を与えている。一方のドラコも特徴である強化外骨格の強みを前面に発揮し、軽い打撃ではびくともしていない。そして腕から飛ばす刃で、バルタンの腕や足など装甲の薄い箇所に傷を付けている。互いに抜き差しならない状況と言えた。

 

 佐納は足を引きずって壁際まで撤退した。繰り広げられる戦いを見上げ、目を細める。

 

 やっぱり、私は何もできない。

 

 蚊帳(かや)の外という表現があまりに適切だった。自分がやったことといえば、他の隊員を逃がすための囮役。与えたダメージなど、ドラコからすれば虫に刺されたようなものだろう。今戦っているバルタンが人類の敵か味方かなどはどうでもよかった。ただ自分は、このバルタンが及ぼすほどの影響を、変化を起こすことはできない。その事実が胸に重く沈み込んだ。

 

 ただ唯一、足に感じる痛みが冷静を保たせていた。痛い。熱をもっている。この苦痛を、他の人に味わわせたくはないのだ。だからこのエリアに残り、ドラコを引きつけた。

 

 もっと、前線で戦わないと。誰も怪我をしないように。痛いなどと言っている場合ではない。アペヌイで助けられなかった人は、もっと痛い思いをしたはずだ。それを思えば。

 

「…………うっ」

 

 血が出そうな程食いしばった歯から、呻きが漏れた。辛い。紛らわせることが、できない。

 

――でも、死んじゃダメだよ。だれも望まない。

 

 以前、浦菱に向けられたその言葉が、痛みを鋭敏にしていた。

 

――私は、(カナデ)に生きていてほしいの。

 

 力が抜け、地面に腰を下ろした。だめだ。そんな優しい言葉を向けられる資格は――。

 

 キン、キン、と金属質が打ち合う音。ドラコの跳刃だ。刃はやはり無数の軌道を描き、バルタンを翻弄する。ある刃は足を裂き、別の刃は首元を狙った。佐納の近くにもいくつかが飛んでくるが、それを回避しようとすら思えなかった。

 生きていたところで、できることはない。自分はウルトラマンなどなれるわけがない。S4としてすら未熟者で、半人前で、それなのに。

 

 顔を上げると、バルタンとドラコが相対する奥に転移渦が見えた。そこから飛び出した人影。見慣れた背格好。安堵を覚えてしまうのがなさけない。人影は飛び交う刃をボードで回避。ちゃんと軌道を見ないと、当たってしまう。死んでしまう。なのに彼女の眼は、佐納に向けられていた。

 

 私は、ただウルトラマンを追いかけていただけ。傲慢なほどの理想と、戯れていただけのちっぽけな人間。なのに。なのに。

 なんであなたなの。どうして来てくれるの。その優しさは、どこから来るの。

 

「奏エエエエーッ!!」

 

 ねえ、唯ちゃん。




2024年12月3日は怪獣バスターズ(無印版)発売から15周年だそうです。
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