怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第61話 彼方に向けて

(……キッツイ!)

 

 浦菱は折れかけた膝に無理矢理力を入れる。

 息が上がっていた。戦闘時における情報の処理量がいつもとは段違いだ。そもそもスピードが上がっているのだから当然か。

 

 肩にショックマインが炸裂したドラコは数歩後退した。

 

〈オオオオオオオオオオー!!〉

 

 が、単によろめいて退いたわけではない。ドラコにとって、新たな攻撃に転じるための間合いが生まれていた。

 

 ドラコは左右の腕から無数の刃を射出。すでに壁や地面に突き刺さっている別の刃とぶつかって反射しながら飛び交う。

 

 だが回避に徹していては駄目だ。距離を詰める。左右の耳が、行き交う刃の音を間近で拾った。空気が断ち切られるヒュウヒュウという音。

 

「ぐ……!」

 

 左方向から鋭利な衝撃。一発食らってしまった。そう知覚したとき、今度は右から別の刃が迫る。避けることは叶わず、衝撃が体を迎えた。

 

「がぁ……」

 

 痛い。MA(メテオールアーツ)といえど衝撃は殺しきれなかった。通常の隊服であれば被弾した部分が切断されてもおかしくない攻撃の重さ。凌げているだけ上出来とはいえ、歯を食いしばって堪えなければ叫び声を上げそうだ。

 

 倒れるな。浦菱は(まなじり)を決した。

 

 勝てるだろうか、という不安はなかった。勝てる、という確信もなかった。

 ただ、勝てという命令を自分に課すことができていた。それ以外はいらない。考えなくていい。ただ今この瞬間、科学の粋を集めた装備を背負う者として。孤独に戦った仲間に、人間としての強さを示す者として。

 

 勝利をもぎ取れ。この怪獣を、討て。

 

「うああああああああ!!」

 

 声帯まで怪獣のそれになったかのような荒々しい咆吼とともに、浦菱は攻撃を仕掛ける。何しろこちらには重力に囚われないのだ。通常であれば到達できない、巨大怪獣の首から頭部にかけてひとっ飛びで至ることができる。格段に致命傷を与えやすくなっていた。途中で何度か刃を受けるが、止まらない。

 

(『リンク』の制限時間内に、絶対倒す!)

 

 が、ドラコの眼前に飛び上がった時だった。このまま左右の目どちらかを斬りつけてやると思っていたところ、ドラコが一歩後退。かわりに、視界の両端から包み込むように翼が襲い来る。

 

「ぐッッが……!」

 

 翼の先端、硬質な骨格に体を挟み込まれた。風圧なら無効化できるが、物理衝撃は殺せない。人間が両手で蚊を潰すようなもの。浦菱は痛みのあまり攻撃に転じることができず、意識が明滅するまま地面に落下した。

 

「う……」

 

 ボードを履き直した浦菱は、肌で感じるほどの殺気に顔を上げる。ドラコの元から赤い目が、一層血の色に近づいていた。腕はすでにこちらに向けられ、刃を放つ準備は整っている。

 

 やられる。そう思った時、ドラコの顔に鈍色の塊がめり込む。

 

〈ギュギッ……!!〉

 

 巨体は衝撃を殺しきれず、大きく退いた。浦菱はさらに見上げ、ドラコを殴った正体に気づく。

 

 バルタン星人だ。どういうわけか、このエリアに到着した時点でドラコと揉み合っていた巨大な異星人が、自慢のハサミを突き出していたのだ。先ほどはドラコの攻撃に怯み、んでいたが、一時回復したのか。

 

 見れば見るほど――。

 

 浦菱の脳裏に以前の記憶が霞む。

 野笠と篠山を屠り、殻島と相対した人間大の異星人。地球全体に対する敵対意志があると結論づけられた異星人、ダークバルタン。

 そして今、浦菱を助けるようなタイミングでドラコに一撃食らわせた巨大バルタン。その薄黒い体色は、やはりダークバルタンに見える。どういうわけか、自分たちを助けるような行動を取っていた。

 

「一体、何なのよあんた」

 

 答えが返ってくるはずもない問いを投げかける。

 

 バルタンの突き出したハサミは、力なく垂れ下がった。片膝を地面につき息を切らした様子で頭をゆっくりと揺らしている。見れば、肩や足など、辛うじて致命傷を避けた場所にドラコの刃がいくつも突き刺さっていた。

 

 このバルタン星人も限界か。そう思いドラコに目を向ける。ドラコもまた、身体中傷だらけになり、深衣(しんい)のようだった皮膚は一部襤褸(ぼろ)を纏った様に近づいた。そして先ほどのハサミのパンチで顔面の甲殻にもひびが入っている。

 

(あと少しだ……!でも、私のリンクはあと何秒――)

 

 頭を回す浦菱は、ふとバルタン星人の体勢に目を向ける。右手のハサミは膝にあてがわれ、もう一方は。

 

 左手のハサミが、すぐ側に置かれていた。だらりと地面に投げ出され、真っ暗な内部が見えている。視線を上げると、バルタンの黄色い眼と視線が合った。

 浦菱は、バルタンからの協力申請なのだと解釈した。理由は不明。だが。

 

「やるしかない」

 

 浦菱はボードを手に持ち、バルタンの左手ハサミの()に入り込んだ。雨樋(あまどい)のような二叉の刃の間にある空間だ。暗いが、身を置くスペースがある。浦菱が入ったのを確認したのか、バルタンはゆっくりと立ち上がった。

 

 腕を水平に上げてもらえば据わりがいい。落ちる心配は無さそうだ。ハサミの隙間からドラコを窺う。距離は遠い。だがおそらく、バルタンの思惑通りなら――。

 

〈オオオオオォォォオオオオー!!〉

 

 ドラコが叫び、両腕を前に突き出す。手の部分の暗がりから、すでに数え切れないほど見た刃の光が覗いた。

 

 途端に、景色が一瞬でスクロールし、ハサミの中にいた浦菱は足を踏ん張った。

 

「うおぁ!?」

 

 再び、見える景色が移り変わる。それが往復運動であるとわからぬほど素早い動きなのは、バルタンが腕を投球のように振り抜いたためだ。ごお、と風の音を聞くと同時に、開いたハサミの口から浦菱は飛び出す。まさにボールを投じるのと同じ要領で、バルタンは()()()()()()

 

 奴が発射した2つの刃とすれ違った。速い。MAのおかげで風圧は感じないが、むしろそれゆえに体に絡みつく空気抵抗がない。地球人には縁のないスピードの世界に身一つで放り込まれたことはわかった。

 

 だが不思議と恐ろしくない。きっと、自分だけの戦いではないと信じられているからだろう。

 自分の肉体。アントラーの特殊能力と、それを発現可能にしたS4の技術。そして、成り行きではあるがバルタン星人の協力。全てだ。ここに全てが乗っている。全てが注ぎ込まれている。だから負けない。負ける恐怖も不安もないから、ドラコを討伐するという意志を極限まで研ぎ澄されている。

 

 ボードはすでに足に装備している。浦菱は空中で腰を引き、衝撃を吸収する体勢を取った。そのまま、まっすぐドラコの首元に突っ込んだ。正面のエッジが深く深く入り込み、骨の表面にまで至ったのかと思うほどだった。

 

〈ギキイイイイイイイイィィィィィ!!〉

 

「あああああああ!!」

 

 体の捻りとブーストをかけ、傷口をさらに押し広げるように首元から離脱。落下時の空気抵抗もやはり無効化し、脅威のスピードで浦菱は下る。

 

 見えた。ドラコの右脇腹から右足にかえて走る傷痕。

 

(あれって、この前戦った通常ドラコにつけた傷と同じ……?)

 

 であればこの個体は、逃げた通常ドラコが変異したものと考えられる。なぜこんな変異を遂げた?

 

 いや、とにかく。

 

(あそこにボードを叩き込めば、やれる!)

 

 ボードは足裏から両手に。体を反らせて振りかぶり、傷痕の開始点に向けひと思いに突き立てた。落下の勢いにより、浦菱の体、そして彼女が握るボードが塞がった傷を開いていく。おびただしい量の血が散った。

 

()ッッ」

 

 着地に両足が痺れる。だが上を見上げれば、首と、腹から足にかけての傷が血の雨を降らせていた。腹など、内臓が零れ出す勢いだ。

 

 もう一手。そう思い発奮した浦菱の体を違和感が襲う。

 

 ふっと、体の力が抜けた。何があった、と思った次の瞬間、ずしりと重みがのしかかる。水を吸った布が全身にまとわりついたような感覚に抗えず、膝と両手を地面に付いた。

 

――まさか。

 

 ようやく思考が追いつく。MAリンクの効果が、切れた。

 怪獣の能力再現のため、人間の身体には相応の負荷がかかる。いうなれば、人間の性能を怪獣に追いつかせる技術なのだから、使用者には極度の疲弊をもたらす。制限時間内は思う存分能力を行使できる反面、そのしわ寄せは使用後に遅い来るのだ。特に、時間一杯まで使い切った場合は。

 

「はあっ――」

 

 酸素が欲しいのに息が吸えない、息を吸うエネルギーすら体の奥底から絞り出す始末。先ほど感じたのは、物理的な重みではなく疲労感と倦怠感。そのふたつに押しつぶされそうだ。

 

 あと、少しなのに。首だけを動かしてバルタン星人を見た。

 バルタンは胸のあたりに手のハサミをやっている。そこには深々と、ドラコの刃が刺さっていた。

 

 先ほどすれ違った刃のうち、一つをもろに食らってしまったようだ。いや、食らうことを覚悟で自分を投げてくれたのか。

 バルタン星人にも、追撃する余力は残っていない。

 

「く、そ」

 

 ドラコが血を流しながら二歩三歩と後退。限界に見えるが、まだ立っている。ミリの体力の差で、負けるのか。ここまで来て、地球人は。

 

「メテオールアーツ『リンク』起動」

 

 前から声がした。顔を上げると背中が見える。

 

(カナデ)……?」

 

 そこにいたのは、負傷し休んでいたはずの佐納(サノウ)だった。見慣れた人影を包む装備が、徐々に重厚になっていく。シャープなシルエットだった赤い鎧は、間接部に切り立った棘が目立ち、厚みも増す。一番物々しいのは両腕だ。防具と言うよりも武器。巨大な砲口が左右の手にそれぞれ一つずつ装着された。背中から首にかけての防具には青い宝石のような光が湛えられ、赤一色の中に奇妙に浮かび上がる。

 

 破壊獣モンスアーガーのメテオールアーツだ。

 

「ごめんね、(ユイ)ちゃん。もっと早く助けられたらよかったんだけど」

 

 そうはかなげに呟く声はやはり佐納のもので、浦菱の胸に高揚と心配を同時にもたらす。

 

「私の装備は、使い所が難しくて。でも、今なら」

 

 佐納が両腕を突き出し、手の平を合わせている。すると、両腕の砲口にオレンジ色の光が蓄えられていった。背の青い器官も光を増し、エネルギーの充填を即座に進めていく。

 

 浦菱は佐納の腕に集まる光の正体を理解した。炎だ。熱というものをイメージして真っ先に思い浮かべるような、明るく激しい色の渦があの中で逆巻いている。

 

 彼女が装着するモンスアーガーのMAは、おそらくアントラーのように時間制限付きのものではない。一極集中型、文字通りの必殺技を放つ性能なのだろう。

 

「唯ちゃん」

 

 ごうごうと駆動音が響く中で、佐納の声が明瞭に聞こえた。

 

「弱くないって言ってくれて、ありがとう。私、唯ちゃんの気持ちに報いるよ。唯ちゃんがかけてくれた言葉に見合うように。地球人として、戦えるように」

 

 ドラコがこちらに刃を向けた。が、もう遅い。発射される前に、佐納の両腕から極大の光が飛び出し、ドラコに襲いかかった。

 

〈ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉

 

 MA(メテオールアーツ)リンク、塵滅遊星(メラニーフォール)

 佐納が放つのは、モンスアーガーの得意技である高熱の光弾。それが繋がって見えるほどの連射だ。体の前面至る所に炎の塊をぶつけられ、ドラコは苦痛の叫びを上げる。

 

「あああああああああ!!」

 

 佐納もまた、相当な反動を受けているようだった。踏みしめた右足の太ももからは、先ほど受けた傷が開き、血が地面に流れ出ている。それでも尚、攻撃をやめない。彼女自身の意志で、ひたすらにドラコを討伐しようとギリギリまで踏ん張っている。

 

 その背に、浦菱は手を伸ばした。疲労で震えて、感覚も薄い手の平を佐納の背に押し当てる。温かい。頼もしい。

 

 負けない。声に出しても聞こえなそうだから、ただ念じた。あなたは負けない。私がここにいるから。あなたの強さを誰より声高に叫べる私が、すぐ側にいるから。

 

〈オ……ギォ〉

 

 ドラコの命は風前の灯火。ただ、押し寄せる火球の圧を耐えようと身を固くしている。

 

 しぶとい、と思った時、さらに状況に動きがあった。ダメージを受けじっとしていた後方の巨大バルタンが立ち上がったのだ。バルタンは今にも倒れそうな具合で尚、右手のハサミをまっすぐドラコに向けている。その内部の空間に光が凝集し始めた。

 光が、白い煙や靄のようにハサミの中で漂ったかと思えば、次の瞬間発射される。花火のように噴煙が尾を引くその光弾はドラコに着弾。防御のために体の前で合わせたドラコの手が、後ろに弾かれた。

 

 空いた胴体に、ラストスパートとばかりに今まで以上の勢いの火球が打ち込まれていく。ドラコの体は炎に包まれ、煙に巻かれた。

 

 その煙が、晴れる。

 

 ドラコの体の前面は全て黒く焼け焦げ、集中的に被弾した箇所は抉れている。さらに首と腹部から右足にかけて歩行すら困難と思わせる切創、両の腕は皮膚がずたずたに裂けていた。巨体が、後ろに倒れる。

 

 浦菱はドライバーを操作し、作戦室との通話に切り替える。

 

「カグラ、さん。状況は」

 

『……E六(イーろく)エリアに出現した特殊進化巨大怪獣……佐納さんの言葉を借りれば、パワードドラコは現在、生命活動を完全に停止しました』

 

 薄ぼんやりとする意識が、理解を遅くさせる。カグラが安心させるためか、力強く『討伐完了です』と続けた。

 

『このエリアにもう、怪獣はいません』

 

「あ、バルタンは――」

 

 浦菱は視線を移した。がっくりと膝をつく巨大バルタン星人がそこにはいる。

 ゆっくりと、顔が上がった。黄色いぎょろりとした目がこちらを向く。

 一瞬だけ、目が合ったような気がした。しかし、踏みしめた足で跳躍したかと思えば、上に空いていた岩場の穴から抜け出てしまう。あっさりと、姿を消した。

 

『もう大丈夫ですよ。討伐、お疲れ様でした』

 

 言葉が、頭にすうっと馴染んでいった。浦菱は腕に力を込め、なんとか上体だけを起こす。正面で佐納がこちらを向いていた。

 

「唯……ちゃん」

 

「奏、やったね」

 

 笑いかけたつもりだったが、上手く表情を作れているかもわからない。ただ、安堵の息がこぼれた。

 佐納も目を瞑ってふっと息をつく。だが降りた瞼が上がることはなく、かわりに体がこちらに倒れ込んできた。

 

「奏……!」

 

 慌てて支え、ヘルメットを外す。彼女の口元に手を翳と、弱々しいが呼吸は安定している。気絶と言うよりも眠りに落ちた様子だ。

 

「疲れたよね。私も、疲れたよ」

 

 唯一の心配は失血だ。ヒールキットを使ったにもかかわらず、再度太ももから流れ出ていた。MAの負担による者だろう。

 

 何とか運んでエスケープ可能なエリアまで連れて行かなければ。そう思い、倒れ込みそうになる体に力を入れた時。奥の転移渦から人影が滑り出てきた。

 

「……はは。マジ、タイミング完璧」

 

 がっしりとした、男の姿がこちらに駆け寄ってくる。ゴウだった。彼ならば、人一人抱えることなどたやすいだろう。

 浦菱は片手を上げる。あと数歩の距離で、ゴウもこちらを認識しているだろう。

 

 それでも真っ直ぐ、高らかに握りこぶしを掲げた。ここにいる。無事でいる。たとえ地平線の彼方に誰かがいたとしても見えるほどに。

 

 残った力を込めて、拳を突き上げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「倒したァ!」

 

 無数のモニターが設置された部屋で、男がバチンと手を叩きガッツポーズを見せる。

 

 特錬隊員試験の後方支援を目的とされた室内では、カグラのようなオペレーターたちが食い入るように画面を見つめていた。各々が担当する部隊に音声で情報共有を行い、慎重かつ適切なバックアップを徹底している。

 部屋の中央には、全部隊の動きを総合的に感知する一際巨大な画面がある。今はその一角に、通常は映されることのないエリアの映像が収まっていた。

 

 スポーツチームの応援のような反応をした中年の男は、いまだ興奮冷めやらぬ様子。その後ろに、中谷(ナカタニ)は控えていた。中谷の役職は防衛省人事教育局に置かれている。より詳細には、人事計画部におけるS4分野の人材派遣や調整を担当していた。今回の試験の責任者の一人だ。

 

 中谷もまた目を細め、画面の中で拳を掲げる女性隊員の姿を見留める。浦菱唯というらしい。

 無事なようでほっとした。数に限りがある集会ドローンを向かわせた甲斐がある。

 

 息をついてから、ガッツポーズをした男を呆れたように見る。

 

寺塩(テラシオ)さん、あんた結局応援に出向きませんでしたね。あれほど受験隊員が危なくなったら言ってくれとお願いしたのに」

 

「いや、すんません。でもほら、倒せたじゃないですかパワードドラコ」

 

 寺塩と呼ばれた男は首をわずかに傾け、両手を合わせた。反省していない。冗談じゃないと強く出たいところだが、寺塩は中谷と変わらぬ50歳半ば。加えて体格もはるかに良く、全身に纏う筋肉だけが若いまま維持されている。突っかかる気にはなれなかった。

 

「結果論じゃ困るんですよ。もう少しで死ぬかもしれなかったでしょう」

 

「俺が行かずとも、ドローンには迎撃装置をがっつり積んでたでしょう。それに持論ですが、S4隊員の能力は死ぬかも知れない状況でこそ本質が測られるモンですよ」

 

「S4教務計画部の管理官が言うことじゃないですな」

 

「今日は特錬5位の隊員としてここにいますから」

 

 この寺塩正義(マサヨシ)という男、特別錬成隊員におけるランクは5。全隊員の中で上位5人の戦闘能力を持っている。その力を見込んで、今回の試験における非常事態時の出撃要因として派遣されてきた。

 

 が、最も危機的な場面であったパワードドラコとの戦いは、ずっとここで監視しているだけだった。

 

「勘弁してくださいよ」

 

 中谷は閉口した。

 

「一時はどうなることかと思いました。というか寺塩さん、待機室があったでしょう。万が一の時に、あなたにすぐ出撃してもらうための部屋だったんですよ。どうしてここにいるんですか」

 

「ここがいいんですよ」

 

 寺塩は噛み締めるように言った。

 

「後進が……若くて新しい才能が目標を目指す姿は輝いて見えるんですよ。人事関連やってる中谷さんにもわかるでしょう」

 

「それは、そうですけど」

 

「正直、この席を立とうと何度か思ったんですよ。でも、俺個人としてはやっぱり隊員たち本人で道を切り拓いていって欲しいもんで」

 

 こじつけだとは、思えなかった。寺塩は純粋に、受験者たちが誰にも頼らずに試験をやりぬくことを望んでいるのだろう。もっとも、その気持ち故に寺塩自身の職務を放棄されては堪ったものではないのだが。

 

「佐納と浦菱か」

 

 寺塩はパワードドラコを討伐した隊員2名の名を呟く。背もたれに体を預け、天井を見ていた。

 

「俺の『シュウキョウ』に入って欲しい人材だなぁ」

 

「スカウトはやめてくださいね」

 

「あれ。禁止でしたっけ」

 

「いや、セクハラやパワハラを訴えられたら困ります」

 

 ぶっ、と寺塩は吹き出すが、上を見えいたせいで喉に唾液が絡んだのか激しく咳き込む。肉体は衰えずとも、気管支は年相応らしい。




おそらく年内の投稿はこれで最後になります。
2024年の『怪獣バスターズ 星征大乱』をありがとうございました!
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