怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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前回と同様、若干字数が少ないです。
よろしくお願いします。


第65話 誰がどうして

(ユイ)ちゃん、覚えてるかなぁ」

 

 佐納(サノウ)が口を開いた。どこか思い詰めた様子だ。

 

「特錬試験を受けられるって知った時のこと」

 

「そりゃ……うん。食堂で一緒に見た時よね」

 

「あの時、私否定したでしょ。特錬試験の範囲に入ってるなんてありえない、順位は低かったって」

 

「たしかに(カナデ)は否定はしてたけど、そんなことなかったじゃん。現に試験だって受けて」

 

「違う」

 

 佐納は顔の半分を手で覆った。瞳が潤んでいたが、泣いたら負けとばかりに堪えていた。

 

「絶対、ありえなかった。調査隊員としてのブランクが1年近くあって、そこから唯ちゃんと一緒に戦ったのもひと月くらい。決して低い順位じゃないだろうけど、それでも特錬の試験を受けられるレベルじゃなかった」

 

「何が言いたいの」

 

「あの後、防衛省の育成監査部にも確認取ったって話したよね。私は特錬試験を受ける資格がないと思う、何かの間違いじゃないかって。でも返答は、『厳正な順位認定の結果だ、試験は受けられる』の一点張りで。大丈夫なんだって思ったけど、でも、どこか腑に落ちないままで」

 

「それも前聞いたよ。だから、何が」

 

 浦菱(ウラビシ)も、恐ろしい予想がつき始めていた。恐ろしいから、何よりそんな筈がないと思いたいから、自分の口からは決して言うことができなかった。

 

「私は、(かつ)ぎ上げられた」

 

 言って、佐納は歯を食いしばった。浦菱の予想と、合致していた。

 

 おそらく、昨年8月のアペヌイ侵攻で出撃した者を厄介に思う人物がいるのだ。理由は推し量る術もないが、殻島穰(カラシマミノル)や佐納などの出撃隊員を始末したいか、S4の第一線から退かせたいのだろう。そのために、各々の状況に合った方法で、危険に晒そうとしている。アペヌイでの戦闘後から入院が決まっていた穰には、薬剤を語ったアレルギー物質を薬だと偽って摂取させた。そして数ヶ月前復帰した佐納には、戦闘能力に見合わない任務を受けさせた。特錬試験は、それにおあつらえ向きだったのだろう。事実、佐納は何とか生き延びたが満身創痍になっている。

 

「ごめん、唯ちゃん、私」

 

 佐納の目から涙がこぼれた。血を流しているように見えるほど苦しげな表情だった。

 

「私、試験を受ける資格なんてないのに、唯ちゃんの隣で、ずっと」

 

 佐納はおそらく、特錬試験を受けられる隊員ランクの条件を満たしていなかった。満たしていなかったが、『目的』のために順位を変動させられたのだ。

 

 つまり、佐納の順位は本来よりも高くつけられた、不正な順位だった。しかし浦菱は、佐納を責める気になれない。

 友達だから、仲間だから、客観的な立場で見られないという理由もある。だが責められない理由はそれだけではない。佐納も知らずのうちに巻き込まれた身なのだ。自分の順位を意図的に操作されたなんて、誰も思いつかない。それに、彼女は直々に確認を取り、受験資格に間違いないと言い渡されたのだ。何も考えていなかったわけではないだろう。佐納もそこまで己を責める必要はないと浦菱は思う。

 だが――。

 

「ごめん、ごめん……ゴウさんにも、他の受験した隊員にも申し訳が立たない。私は……」

 

 佐納は、自分が担ぎ上げられたことを悔やんでいるのではない。ただ、周囲の者に申し訳ないと思って泣いていた。自分だけズルのような形で試験に参加した、その謝罪を泣きながらに繰り返した。

 

 浦菱は、体に力が入っていくのがわかった。

 

 何者かによって神輿に乗せられ、不当に上げられた順位になった。ウルトラマンのような正義のヒーローに憧れ、確固たる強さを目指していた佐納にとって、その事実がどれだけ彼女を苦しめているか。どれだけ矜恃を踏みにじっているか。

 

 せっかく、自分の強さに気づけたというのに。せっかく、これからのことを考えていたというのに。

 

「誰が」

 

 浦菱は、握った布団のシーツを裂いていた。

 

「誰がこんなことを」

 

 誰が仕組んだことなのか、わからなくてよかったのかもしれない。個人名を知ったらきっと、そいつを殺すことを考えてしまう。

 

「この、アペヌイ出撃隊員を対象とした怪しい動きを察知し、私たちに伝えてくれた人物がいます。」

 

 クイロが説明を繋いだ。

 

「その人物が、先ほど私が口にした『彼ら』です。彼らは今年の初めにある事故に遭遇し、救助された。療養期間の入院生活で、アペヌイのS4隊員が多く入院中であることに気づいたようです」

 

「多分、浦菱と同じくらいの年じゃないか。名前は、八十川映斗(ヤソガワエイト)安生百合(アンジョウユリ)

 

 鹿津宮(カツミヤ)が続けた言葉に、一切の怒りも困惑も、思考すらも消えた。

 

「え?」

 

 八十川と、安生?なぜ二人の名前がここで出る。

 浦菱は二人をしっていた。彼らは湖田の友人であり、墜落した航行機にも同乗していた。救助された後はSNSで事故に関する投稿を行っており、そこで浦菱とコンタクトをとっている。アカウントが唐突に削除されるまでの短い期間だが、やりとりは何度かあった。

 

(八十川さんと安生さんも関わってる?どうして?いや、でも――)

 

 浦菱は時期を思い返し、たしかに納得できると思った。墜落事故があったのは今年の3月末。その後救助されたふたりの入院期間は、長く見積もっても半月からひと月だろう。クイロの発言から、その病院で、偶然アペヌイ侵攻の対応に当たったS4隊員と出会ったということになる。アペヌイの怪獣侵攻は昨年8月だ。そこで負傷した、あるいは疾患を抱えた者が、墜落事故被害者の入院期間まで快復せずにいるという状況。たしかに、当事者の八十川らは違和感を覚えるかもしれない。

 

「唯ちゃん……その二人ってさっき言ってた」

 

 佐納もまた驚いていた。ショックが、別種の驚きによって上書きされている。

 

「知ってるのか」

 

「……一応。SNSで少し話したことがあって」

 

「ふうーん」

 

 鹿津宮は深く聞いてこない。浦菱も自分から話すつもりはなかった。湖田に関する話は長い。それに、正体不明なこの男に湖田について語るのは抵抗があった。

 

「救助後に入ってた病院で、八十川と安生が違和感に気づいた。そこから同じような状況になってるS4隊員を何人か辿ったら、全員がアペヌイ侵攻で出撃してた人間だった。これはやべえ、って話にもなるわな」

 

「S4隊員の全員が全員、有害物質のマスクや薬を処方されそうになっていたわけではありません。個々の状況に応じて、危険性の形は様々でした」

 

「それでは、前原(マエハラ)さんについては何かわかっていますか」

 

 佐納が再び尋ねた。彼女の両手は毛布の上で強く握られ、無事をこいねがう。

 

「私と殻島隊長と、前原さん。3人の部隊だったんです。彼については」

 

「前原、えーと……下の名前は要平(ヨウヘイ)であってたか」

 

「その方です!」

 

「前原要平なら、今のところ安全は確保されてる。そいつから佐納の情報を聞き出したからな」

 

「そうだったんですか……よかった」

 

「この人も危険な目に遭ってたな。去年アペヌイで出撃した後は地球S4の怪災対策任務をやってたらしいが、今年になってからレラトーニに異動。しかもハードルの任務をだいぶ任されてたっぽいな。7月には一度入院したらしいし、会った時も疲れてる様子だった」

 

 状況としては佐納と似通っている。

 怪獣との直接戦闘があるからといって、S4隊員はそう簡単に外部の医療機関の世話になるものではない。ヒールキットをはじめとした薬液の効能は高いし、防護スーツもそう簡単に装着者への負担を許す造りではない。

 現状自分たちも入院中の身だが、特錬試験は特例だ。普段は傷などほとんど負わないか、負ってもS4基地管内のメディカルラボで事足りる。

 

「話が逸れたな。まあ俺達は色々やってんだよ。八十川と安生のふたりと接触して、かつてアペヌイに出撃した隊員のうち、不自然に危険な目に遭ってる奴らを助けてやろうって活動だ。今んとこは」

 

「いや、まだ肝心なとこ納得できない。八十川さん、安生さんと接触したのはどうして?なんでそのふたりに辿り着いたの」

 

「彼らと私たちを結びつけた存在が、また別にいるのです」

 

 クイロが、一層神妙な顔をした。

 

「杏次の姉、花梨(カリン)です。花梨は当時、運輸安全委員会の宇宙航行機調査官でした」

 

「まさか」

 

 浦菱は身を乗り出した。

 

「その、鹿津宮花梨さんは、八十川さんたちの聴取を担当した人ですか」

 

「……そこもご存じだったとは」

 

 無表情だったクイロが驚きを露わにする。

 

 八十川・安生のふたりは、墜落事故に関する取調官との会話で不可解に感じた点があったと話してくれた。「墜落後に湖田を含めた3人で録音した内容」と「取調官が知っている内容」に差異があったという点。その取調官こそ、目の前にいる鹿津宮の姉だという。

 

 繋がる。いままで散らばっていたピースが少しずつ符合し、一つの絵を形作っているような気がしていた。だが、その絵は何を示す?なぜ事故被害者と取調官の間に齟齬があったのか。なぜ佐納や殻島穰ら、アペヌイ大怪災の対応に当たったS4隊員に危害を加えるのか。不気味な影の存在が今まで以上に感じられた。

 

 興奮と困惑、怒り。複雑な感情に支配される浦菱は、鹿津宮の視線に気づいた。自分とは対照的に、退屈そうにこちらを眺めている。

 

「…………連れてきてよ」

 

「誰を」

 

「あなたのお姉さん、花梨さんを。直接話が聞きたい」

 

「それは無理だ」

 

「どうして」

 

「死んだ」

 

 耳を疑った。

 

「姉貴は殺された」

 

 飄々と、鹿津宮は語った。

 

「杏次」

 

 クイロは窘める口調だが、鹿津宮はそれにすらも気の抜けた視線で返す。

 

「姉貴はお亡くなりです。だから会うのは物理的に不可能。そこまで言わないと浦菱は納得しなそうだろ」

 

「待って、お姉さんが亡くなったってどういう……いや、今殺されたって」

 

「そう。まあ死んだって事だけわかってもらえりゃいい。とりあえず、佐納を連れて帰れりゃ――」

 

「駄目。聞かせて」

 

「……は?」

 

 鹿津宮は忌々しげに片目を細めた。浦菱も負けじとねめつける。

 

「わからないことが多すぎる。私はまだ、奏を連れていくなんて納得してない」

 

「忘れたのか。佐納は薬を(かた)った有害物質取り込まれそうになってんだ。俺達はその窮地から助けてやろうとしてんのに引き留めてどうする。意味がわかんねえ」

 

「意味がわかんねえのはこっちよ。あなたのお姉さんは私の知り合いと接触してる。でもお姉さんは殺された。その理由は何?これだけの話を私たちにしたって事は、あんたはそれ以上の情報を持ってんじゃないの?なら、洗いざらい教えなさいよ。この件は奏や殻島元隊長とも関係がある」

 

「私からも、お願いします」

 

 横の佐納から、声が上がった。

 

「鹿津宮さんたちにもわからないことがあるんだと思います。でも、わかることだけでいいから教えてくれませんか。私と唯ちゃん、お互いに知らなきゃいけない気がするんです」

 

 佐納を見る。そこに先ほどまでの悲壮な表情はなかった。

 

「聞かせろ教えろって、ねだる方は簡単だよな。話す義理もメリットもねえ。時間を割く必要性が感じられないな」

 

「いや、話すべきだ、杏次」

 

 助け船を出したのは意外にもクイロだった。鹿津宮は横を向き、盛大に口を曲げる。

 

「話すべきだろう。彼女たちから納得を得るのは最優先事項だ。場合によっては協力を仰ぐかもしれない。私たちは信頼を得る必要がある」

 

「じゃあお前が話せ」

 

「君と花梨の話だ」

 

 鹿津宮はため息と共に、顔が窺えないほど深く項垂れる。

 

「……まあ、()()()の意向に沿わないのは困るな。なんとか佐納を連れて行かねえと」

 

 ぼそりと呟いた後、座ったまま膝に肘を乗せた。

 

「眠てえ話になるぞ」

 

 上げた顔は、やはり無表情だった。

 

「俺と姉貴、そしてクイロは、今年3月末の外惑星行き航行機墜落事故について調べてた。事故原因については、8月時点でのバルタン星人の主張により、同惑星の『ダークバルタン』という種族が引き起こしたって説が有力だ。だが」

 

 鹿津宮と目が合った。暗く、捉えどころのない奇妙な印象を覚える瞳。

 

「俺たちは、この説に異を唱える」

 

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