「数が少ない」「独立を企図する」といった、ダークバルタンに関する情報。それらに次ぐ2つ目の根拠が、めくった紙に記されている。
根拠2 死亡した乗客の一人、山村研司について
顔写真を確認したところ、元外務省国際協力局に籍を置いていた、西野淳弘と一致した。
「よく意味がわからねえ。どういうことだこれ」
「事故で死亡した者に
クイロは出していなかった紙の内1枚をカウンターに置く。そこには十数名の顔写真がずらりと並んでおり、下にはそれぞれ名前が記されている。
「全部ではないが、死亡した乗客の顔写真と名前のリストだ。運輸委員会が調査したものだろう」
「こんなの絶対に部外秘だろ。姉貴、なりふり構ってないな」
「それだけ重大な情報だと推測できるだろう。この山村研司という男に注目してくれ」
山村という男は、なんてことはない50代ほどの男だった。厚ぼったい瞼とぶすっとした口元。口ひげが似合っていない。
「で、こいつは山村って人間じゃなくて、外務省なんとか局の西野って奴だと」
鹿津宮はスマホで『西野淳弘』と検索する。省庁の重役であれば、名前と写真は出てくるはずだ。
思った通りだった。西野淳弘、外務省国際協力局外惑星情報事業部の部長。ほんの数枚だが、紙の人物と同じであろう男が載っていた。こちらでは眼鏡をかけており、ひげがない。
「たしかに、同一人物っぽいな。この西野って男がなぜか偽名を使って、容姿も変えて航行機に乗ってたと。それにこの検索結果、最新じゃねえな」
検索結果に表示されたのは、芳治16年のものが一番新しい。今から5年前だ。つまり、西野が外務省の役職に就いていたのは近く見積もっても5年前まで。
「この部分の資料については私が説明しよう」
クイロが紙を自分の方に向ける。
「花梨が西野の存在に気づいたのは、西野と共に働いていたからだ」
「運輸委員会じゃなくて前職……アシルの異星人管理の仕事か」
「ああ。ただ、業務内容は異なっていたようで、花梨と同じ部署、あるいは同じ組織で働いていただけのようだ。関係性としては顔見知り程度だろう」
「じゃあ、西野は何の仕事をしていたんだ」
「日本における、メトロン星人との外惑星交流を担当する部署にいた」
ざわ、と産毛が立つのがわかった。
「知っているかもしれないが、外惑星との交流に関する業務を担っているのは外務省ではない。内閣府の」
「外惑星開発……戦略本部、だったか?具体的に何やってるのかはよくわからねえが」
「ほとんどの国民がそういう認識だろう」
おそらく、花梨とは異なる部署だ。だが、外星人に関する重要な職務という点では一致する。花梨が退職したのは3年前だから、西野とは2年間同様の職種で重なる。
「西野は外務省から内閣府に出向。花梨が前職を辞す時まで、メトロン星人との星間交流を司る役職にいたらしい。仮に西野の職務が変わっていないとすれば、航行機に乗った理由は見えてくるだろう」
「……メトロン星人との対話?わざわざ出張ったってことはおそらく、地球外惑星で対面形式で行うような交渉?」
クイロは頷く。
「一般利用者と同じ便に登場したのは、海外諸国に日本の交流状況を察知されないため。お忍びでの派遣だったからかも。名前と容姿を変えているのもおそらくそれが理由だろう。要人専用の機は帰って目立つ。諸外国、あるいは『メトロン以外の星人』に、交流関係を悟られたくなかった」
「だが、どこかに悟られちまったって?」
「おそらく、シルバーバルタンには漏れたのだろう。またアシルで聞いた情報になるが、メトロン星人とバルタン星人は仲が良くない」
「敵対関係か?」
「敵、というほど明確な衝突関係はないが、明確なお互いの勢力は目の上のこぶなんだろう。そもそも、宇宙において仲のいい種族なんて方が珍しいというのもあるが」
クイロは少し呆れたように言い、手元のグラスをゆすいだ。
「バルタンはメトロンを脅威に思っており、メトロンが地球との結びつきを強めるのを避けたかった」
「だから、その外交官的な立場の西野を消したかった。そのために航行機ごと墜とすってのは……また極端な話だが」
鹿津宮はわずかに思案する。
たしかに、この「西野を狙った犯行」説ならば、シルバーバルタンが墜落事故直後に地球にコンタクトをとらなかった訳も理解できる。そもそも事故の時点ではダークバルタンの掃討などは視野になく、ただメトロンと地球の星間交流を妨害する目的しかなかったのだから。ダークに罪をなすりつけるという行動も取る必要はない。
「……航行機を落としたのは外星人じゃなくて人間って可能性もあるよな。外星人との交流で諸外国を出し抜こうとした日本が、どっかの国に狙われたってパターンじゃ」
「そうだとしたら、フライトレコーダーやレーダーログに記録が残っているはずだ。地球人の宇宙飛行戦闘機なら察知ができるだろう。だが外星人の技術は地球のレーダーをかいくぐる可能性が高い。特にバルタン星人の異名は『宇宙忍者』だ。飛行円盤をカモフラージュする技術があっても不思議じゃない」
現状、諸外国が事故に関与したという情報はまったく出ていない。それはすなわち、事故調査の過程で海外は墜落の要因に関わっていないと判断されたためだろう。
現在唱えられている事故の直接的な原因は、推進力を生むための「電磁ホール」の破損とされている。航行機内部のレーザー照射を制御し、推進力に変えるための装置だが、耐久力が足りずに航行途中で壊れてしまったと。だが外星人のUFOがこの電磁ノズルを正確に狙い、ビームを照射すれば、同じ状況が作り出せる。
「事故原因に関して、姉貴は何かまとめてないか」
「私もそれは期待したんだが……」
クイロはファイルから紙を取り出し、その中から一枚を新たに置く。
「電ノズルの破損箇所や耐久性について記した、一般的な可能性の説明しか載っていない」
「ここが肝心要だったんだがな」
肩すかしを食らった。
鹿津宮は電子タバコを取り出し、煙を吸い込む。
花梨が託した、宇宙航行機事故の張本人。それを暴くための材料として、事故原因は有用だ。しかし、一素人の知識や見解では非力すぎる。職場の知り合いなどから詳しい者は辿れそうだが、これまでの説をひっくり返すような主張は難しいのではないか。
「他には何かまとめてないか」
「あとは、生存者からの聴取か。花梨がこの事故に違和感を覚えたのは、この聴取がきっかけだと言っていた」
差し出された別の紙に目を落とす。
根拠3 生存者 八十川映斗・安生百合の話
そこから下を読むと、なぜこの2人がピックアップされているかわかった。
「湖田永晴失踪の謎にもっとも近い2人ってことか」
「花梨が引っかかったのは、彼らの発言についてだ。八十川と安生は事故の際、『湖田がUFOを見た』という旨の主張をした、と言っている」
「は?UFO?」
思わず声が裏返る。
「んなこと言ったら、まんま外星人の仕業じゃねえか」
「同様の供述をした乗客は一人もいない」
「なら湖田の見間違いだろ」
「注視すべきはこの供述内容よりも、情報の齟齬にある。湖田は、事故後に録音したメッセージの中でも、この『UFOが見えた』という発言をしている。このメッセージは重要な資料であるため、花梨が聴取をするよりも前に回収・共有がなされていた。だが不可解なことに……共有された情報では『UFOを見た』という趣旨の発言はなかったことにされていたんだ」
再び「は?」と漏らしてしまう。だが紙に書かれた内容は、たしかにクイロと同じようなことだった。メッセージをまとめた『共有資料』の方に湖田のUFOを見たという発言はなかったという。すなわち花梨は、八十川と安生の『聴取』で初めて「UFOを見た」という情報に触れている。違和感を覚えるのも納得だ。
「冷静に考えれば、花梨よりも先にメッセージの情報に触れた……役職の高い人間が内容を故意に消した可能性だな。だがそんなことをする理由はわからねえ。八十川の安生の発言が正しい根拠もない」
「この異変により、花梨は事故に違和感を抱き独自に調査を開始した。根拠1から3を逆に辿る順序で調べてきたんだ」
まず最初に、八十川と安生の聴取。ここで本来していた会話が共有されていないことを知る。
奇妙に思い操作を続けていくと、かつての職場で顔なじみである西野が偽名で死亡していることを察知。
そして、一月前に起きたモシリス侵攻。ここで『ダークバルタンが墜落事故を企てた』というシルバーバルタンの主張があり、国はこの主張を信用。今後ダークバルタン殲滅の計画が進められる。いよいよ自身の違和感を看過できないと感じた花梨は、旧知の仲であるクイロを頼り、アシルの情報筋から真実を求めるようになる。
「……逆から説明してくれよ」
「いや、根拠1が結構重要そうだったし、最初に言っといた方がいいかなって……」
ふたたび嘆息し文字を追っていくと、下に八十川と安生の連絡先が書かれていた。
「はい個人情報漏洩。最悪だな姉貴」
「やむを得なかったんだろう」
「やむを得ないで電話番号が流出してたまるかよ。でも……この二人を攻めればいけるかもな」
「攻める?」
クイロがグラスを拭く手を止めた。
「資料を見るに、姉貴は聴取以外でこの二人から情報を引き出せてない。聴取がこの二人から情報を聞き出す最後の場面だった。ならこの二人に接触するしかないだろ。姉貴ができなかったことをやらなきゃ勝てねぇ」
「本当に、何の勝負をしてるんだ君は」
「言ってろ」
八十川と安生については、ご丁寧にも職業まで記載してある。二人は通っていた城南大学の大学院に進学したそうだ。キャンパスの場所は都内。コンタクトを取ればすぐに会える。
「わからないことばかりでやっていられない気分だが、ひとまずの方向性は決まったな。今日はこれでおいとまさせてもらうわ」
鹿津宮は席を立つ。支払いを済ませたところで、「そういえば」と気になっていたことを思い出した。
「クイロ、お前さっき、俺以外の人間に遺言はないって言ってたが本当か?」
「その通りだが」
「親父やおふくろ、それに……姉貴の旦那と子どもにもメッセージみたいなもんはないのか」
花梨は6年前に結婚し、新姓は夫側の
「薄情なこったな。随分あっさり幕を引いて、じゃあバイバイか。思いやりもクソもない」
「……本当にそう思うか?」
クイロの口調は、非難ではない。むしろ諭すような優しい響きだ。
「君はどう思う。花梨は今言ったように薄情な……血の通わないような性格の姉だったか?」
無意識のうちに、お互い幼かった時の会話を想起する。
——杏次、また背ェ伸びた!?男の子ってすぐにおっきくなるから、もうすぐ私も越されちゃうのかな。
違う。姉の性根は腐ってない。頭の中ではそう答えたが、言葉にするのは癪だった。
「……そうだ。少し待ってくれ」
何かを思い出したらしいクイロは、またファイルの中をまさぐる。すぐに一番下に挟まれた紙を突き出した。
「読んでくれ」
「また事故に関する情報か?」
「いや、花梨が君に宛てた個人的なメッセージだ。しかし、家族に向けた間接的なメッセージが含まれているかもしれない。私はまだ目を通していないんだ」
鹿津宮は片目を細めた。正直気乗りはしなかったが、クイロは紙を突き出したまま頑として腕をどかさない。渋々手に取り、書かれた内容に目を落とす。
—————
杏次へ
大変なことに巻き込んでごめんね。あんたは最後まで拒否ると思ったけど、なんだかんだ請け負ってくれる気がしたからさ。
今この瞬間も、イライラしながら読んでる姿が目に浮かぶよ。
でも私は、あんたを買ってる。あんたならできると思ったから頼んだんだよ。
私はね、ダークバルタンが濡れ衣を着せられてると思ってる。おそらく、墜落事故にもモシリスの襲撃にも関与していない。
杏次には、彼らの疑惑を晴らしてほしい。この宇宙でいわれのない罪を着せられている種族がいることが、許せないから。私にはあまり時間がなさそうで、根拠まで辿り着けない。でもあんたが引き継いでくれれば、もしかしたらって。私は信じてるから。
ていっても、無理も無茶もしないでね。私が残した情報を辿ってみて、あーだめだわかんねーって感じだったら忘れてもらっていいから。あんたが危険な目に遭うのは嫌だから。
今、やべぇ仕事押し付けといて何言ってんだよ、って思ったでしょ。
絶対思ってる。伊達に29年姉貴やってないから。
ありがとうね。
じゃあ、クイロと仲良くして。
どこにも、いなくならないでね。
花梨
—————
バサ、とカウンターに紙を叩きつける。
「家族への言葉は特にねえな。定型文の励ましと面倒なテンション。いつもの姉貴だわ」
「そうか……ではきっと、家族に危険が及ぶのを避けたのだろう。極秘情報だからな」
「ものは言いよう」
鼻で笑って、鹿津宮は背を向けた。扉へ向かう。
「杏次、君もなんだかんだ言って、残された花梨の家族の事を思っているんだな」
クイロが安心したように言葉を投げてきた。どういうわけか、鹿津宮は苛立ちを覚えて足を止める。
「家族を思うとか思わないとか以前に、当たり前の事じゃねえの」
振り返り、目を細めてクイロを見た。
「姉貴が本当に死んだ場合、旦那と子どもは家族を失うんだ。そんな状況に追い込まれて、言葉一つ残さないって、人としてどうだろうな」
「だからそれは、情報のせいで家族に危険が及ばないように」
「危険が及ぶかも、なんて状況に追い込まれたことがそもそも間違いじゃねえの。前提として、一切の危険が及ばないような方法で調査をするべきなんだよ。家族にも、自分にもな」
なぜ苛立つ。なぜ言葉を止められない。
困惑しながらも、懸命に腹を立てないようにしていた。熱を帯びそうな口調を、意識して冷ます。
こんなこと、クイロに言っても仕方がないのに。
「なのに姉貴はわけわからん状況で命を狙われて、諦めた。ロクデナシの弟に引き継いだ挙句家族には何の説明もない。立場上絶対伝えなきゃならない事を欠いたそのメッセージに、価値なんてないだろ」
「そんな言い方は」
「家族への遺書ってそーゆーもんだしな。ダークバルタンが濡れ衣を着せられていることが許せないとか、姉貴以外からすりゃ『あっそ』でスルーするだろ。これは本当に姉貴がやるべきことだったのか?自分の旦那と、子供が、取り残される可能性を考慮してなお通すべきエゴだったのか?」
クイロは鼻白んだ様子だ。なんだが場が気まずくなったし、思ったよりもまくし立てていたことに気がついた。
「……いや、悪い。基本的に姉貴が嫌いなもんで、揚げ足取りたかっただけだよ。忘れてくれ」
言って、ドアハンドルに手を伸ばすと、「杏次」とクイロが名を呼んだ。
「聞いておきたいんだが、今日私が作った酒はどうだった?」
「……は?」
「美味かったか」
何だよこいつ、と正直思った。
「まぁ、そこそこ美味かったと思うよ。味の違いなんざ大してわからねぇ舌だけどな」
クイロは感想を受けると背筋を伸ばし、深く礼をした。
「またのご来店を、お待ちしております」
そんなにレビューが聞きたかったのか。下がったままの頭に困惑しながら、鹿津宮は店を出る。
表を歩くが、来た道を思いだせずケータイのマップを開いた。
何が何だかわからない。そうぼやきたくなるほどの話を聞いた日だった。姉は、鹿津宮花梨という女は一体何をしでかしたのか。なぜ命が危うくなっているのか。
ふと、額に汗が滲んでくるのに気づく。
そういえば、今日は暑かった。
67話・68話まとめ
芳治21年3月(殻島が大学卒業)
航行機墜落事故発生、運輸安全委員会の鹿津宮花梨は調査業務を開始
花梨「事故について調べます!生き残った人の聴取もします!墜落後の録音データの『資料A』ももらいました!」
八十川・安生「行方不明になった湖田は、録音の中でUFOを見たって言ってました」
花梨「資料Aにはそんなこと書いてなかったけど」
八十川・安生「え?」
花梨「え?」
↓
花梨(なんでもらった資料と生存者本人の話が違ってるんだろう……)
4月~7月
調査業務継続(殻島はレラトーニからモシリスへ、八十川・安生はSNSで事故を調べる活動を呼びかけるがほどなくして垢BAN)
花梨「あれ!?死亡者の中に、昔職場にいた西野さんがいる!しかも偽名だし変装してるっぽい?なんか怪しいなぁこの事故」
8月初旬
(EXゴモラ戦・バルタン星人戦)
モシリスの怪獣侵攻後、バルタンがテレビ中継。モシリス侵攻および3月の墜落事故は『ダークバルタン』という種族が企てたという声明を発表。
花梨「国はシルバーバルタンの要求を飲んだけど、本当のところはわからない。ダークバルタンの主張は今のところ聞けてないし、西野さんが死んでることも引っかかる。でも湖田さんの『UFO見た』発言もあるしなぁ……。よし!独自調査!」
↓
花梨「クイロ!あんたの伝手を頼って、アシルでダークバルタンの情報を集めてくれない?」
クイロ「アシルに入る時すごく世話になったから、お安いご用だよ。でもなんかこの事件怪しいから、ゴドラ星人の2人をボディーガードとして紹介しておくね」
花梨「ありがとう、頼んだ!」
8月中旬~9月
クイロ「集まった情報としては、ダークバルタン側にあんまり地球を遅う理由はなさそうだった。やっぱりきな臭いね」
花梨「ゴドラ星人死んだわ……」
クイロ「えぇ!?」
花梨「なんかやばそうだから、地球にいる弟にまとめの資料を渡して!」
9月下旬
クイロ「こんばんは。杏次さん」(67話)
捕捉
・「ダークバルタン」はウルトラマンマックスに登場する個体・種族とは別物です。名前だけ拝借しました。
・花梨がやってることは8月くらいから違法です。